学園生活部の面々の前ではええカッコシイでキリッ、としていることの多いアモですが、一人になれば年齢相応の面が現れるということが描けたので、これはこれで良かったです。
学校を出発して暫く、亜森はトラックを運転しながら今日向かう予定のホームセンターについて考えていた。
(生存者がいたら、少し厄介ではあるんだよな。学校にいる彼女達のように、ある程度前情報があるわけじゃないし。もしかしたら、レイダーみたいになってるかも……。ま、その時は挨拶(鉛玉)するだけなんだけど)
時折道路に現れるゾンビを、徐行運転よりのスピードで押しのけ、路上で放置されている車両を避けていく。
既に一二度、放置されたパトカーを見つけては注意深く観察しているが、総じて血飛沫で化粧されている。
出動したは良いものの、銃を使わない日本の警察官だったのが仇になったのだろう。
大した抵抗もなく仲間入りしてしまったと考えるのは、難しくなかった。
位置は覚えたので、帰りにでもパトカーを物色してみるのも良いかもしれない。
連邦でも居住地間のパトロールついでに、スカベンジングしていたのだ。
やることに違いはなかった。
法定速度よりもゆっくりと車を走らせる亜森は、周囲の様子を横目で観察していく。
(何処もかしこも、酷い状況だ。始末されたようなゾンビが見当たらないことを考えると、この周囲にはもう生存者は期待出来ないかもしれない……。日本の何処かにいたとしても、俺達が接触を取れるほどの距離にいるかも分からん)
亜森は悲観的な考えを巡らせながらも、一つだけ良いことがあると気が付いた。
(少なくとも、敵対的な人間もいないってことは嬉しいことだよな。高慢な態度が鼻につくB.O.Sも、傭兵気取りのガンナーも、テックレイダーなラスト・デビルも、スーパーミュータントや人造人間、ロボット軍団や変異した動物達だっていない。もちろん、連邦のゴミ、レイダーもだ。出来るなら、将軍達も来てくれたら最高なんだが……それは高望みが過ぎるか)
ダイヤモンドシティでトラビスが流していた曲を口ずさみながら、少し機嫌が良くなった亜森は、国道に差し掛かったところで大きく右折した。
ここからは、一直線のはずだ。ダッシュボードに置いていた地図を確認しながら、美紀の言っていた目印となるレンタルビデオショップを目指す。
それが見えたら、目的地のホームセンターも直ぐに発見できるだろう。
「さぁて、焦らず慎重に行きますか」
アクセルをゆっくりと踏み込み、トラックを走らせる。目的地はもうすぐだ。
予想では、昼過ぎに到着できればいいと考えていたが、意外に早くレンタルビデオショップを発見することが出来ていた。
道路を挟んで反対側の道を少し進んだところには、目的地であるホームセンターも見えている。
道路脇に静かにトラックを停車させ、亜森は周囲を注意深く偵察している。
走ってきたトラックに反応した数体のゾンビが、レンタルビデオショップの駐車場からジリジリと近寄って来たが、亜森の手に収まっているコンバットライフルによって、頭を吹き飛ばされていた。
他の銃の例に漏れず、サプレッサーを銃口に取り付けてあるが、大きな違いはリコンセンサー搭載型のスコープにある。
スコープに映し出された対象にマーカーを表示させる事ができ、例え対象が物陰に隠れてもそのマーカーで追跡が可能なのだ。
現在も、亜森はトラックの屋根に登り、駐車場のゾンビをスコープで観察しながらマーキングを続けている。
(高威力や貫通力を期待するなら、レバーアクションライフルを使うんだが、速射性ならコンバットライフルだよな。しかも、.45口径弾。弾はいくらでもあるし、10mmや.38口径弾のように近距離でなくとも一発での処理が期待できる。有名な.45口径ピストルが無いことだけが残念だけど)
マーキングしたゾンビ達を虱潰しに処理していきながら、亜森は一先ずレンタルビデオショップの安全を確保していった。
今日の探索の簡易前哨基地となるだろう。
トラックを店舗入口に後付けに駐車させた亜森は、レンタルビデオショップ内を物色していた。
ここまで来たのだから、学園生活部のメンバーにも何か暇を潰せるような映像作品を土産に、と考えたのだ。
レジにあるレンタル用のバッグを大量に手に取り、レンタルDVDを適当に突っ込んでいってはPip-Boyに収納していく。
邦画、洋画、アニメ、ドラマ問わず目につく物、興味が惹かれたものを次々と。
この店舗ではDVDプレーヤー一式も販売していたようで、そちらも調達していく。
もちろん、映像展示用の液晶テレビも。
「あ、これはまだ日本にいた頃発売されてなかった国民的ゲームの最新作!? うわ、中古で定価の半額以下じゃん。そんなに長いこと連邦にいたのかぁ……。ゲームもついでだし、貰っていくか生存者との取引に使えるかもしれないし仕方ないよねあー辛いなーPip-Boyの容量圧迫して辛いけど仕方ないなー手が勝手にー」
誰に言い訳しているのか、本人も分かっていないが、緩む顔は隠せていない。
こちらも手当たり次第、回収したようだ。ホクホク顔が憎たらしい。
「さてと、寄り道はこの辺にして。そろそろ本番に行きますか!」
キリッとした顔で気合を入れているが、手に下げたレジ袋の中にある各種ゲーム機本体が、全てを台無しにしている。
レンタルビデオショップと同じ様に、ホームセンターの駐車場を掃討しようとしたが、亜森の視界に写っているだけで既に数十体のゾンビが彷徨いている。
隠れているモノも加えれば、百や二百は下らない可能性があるだろう。
周囲の道路上のゾンビを合わせれば、更に膨れ上がる。
ただ掃討するだけでは、店舗内に入った後予期せぬ事態が起こりかねない。
どうしようか亜森が考え込んでいると、ホームセンターの更に五十メートルほど先に行った所に交差点が見えた。
三車線の交差点で、ちょうど中央付近に信号機が吊り下げられている。
(あれは使えそうだ。交差点で開けているし、ちょうどいいな)
亜森はPip-Boyからモールで手に入れていたラジカセを取り出し、準備を始めた。
もう一度、レンタルビデオショップに入った亜森は、ちょうど良い長さの延長コードを見つけ、ラジカセの持ち手に括り付ける。
(あとはどうやって信号機に吊り下げるか……。トラックの屋根なら簡単に出来そうだけど、そんな状態で大音量は流せないし。重しを付けて放り投げるには、コードは短い。……仕方ない、電柱を伝うか。将軍仕込みのスニーキング技術を、披露出来るチャンスだ。……誰も見てくれはしないけど。いや、気付かれない方がこの場合正しいか?)
亜森はトラックをそのままに、腰を落として静かに移動を始めた。
ほんの数メートル先のゾンビにも気付かれないスニーキング技術は、全て将軍から教授されたモノだ。
これで何度もレイダーやガンナーを、暗闇の中ステルスキルしてきた。
今は日が出ているが、ゾンビ相手なら充分だろう。
交差点の信号機を支えている電柱をよじ登り、信号機まで慎重に移動する。
準備していたラジカセを吊り下げようとした所で、亜森は何かを閃き、新たにPip-Boyから取り出したある物を周囲にばら撒き始める。
(へへ、こういうのは久し振りだからな。少しばかり、派手に行くとしよう)
それはスイッチをいれていない地雷と、安全ピンを抜いていないグレネードだった。
しかも、装薬量マシマシの対デスクローやパワーアーマー、セントリーボット用に用いてきたタイプの物だ。
安全装置が掛かっているとはいえ、銃撃や爆発エネルギーを受ければ当然点火する。
そんな代物を、亜森は交差点内に上手くばらける様に投げていく。
(さて、あとはこいつの電源を入れて、ここ等のゾンビを集めるだけだ)
ラジカセにCDをセットし、リピート再生スイッチを押す。徐々にボリュームを上げて行き、ゾンビの動きを観察する。
最大まで上げる事で、ホームセンターの店舗内からもチラホラとゾンビが現れ始めた。
これは効果が期待出来そうだ。
ホームセンターから出てきたゾンビ数体に、リコンセンサーでマーキングをすると、亜森はラジカセを信号機に吊るし下げ、先程と同様にスニーキングしながらトラックへ戻って行った。
戻って来た所でちょうどお昼時になり、亜森はトラックの屋根で胡桃と悠里によって準備された包みを広げ、食事を始めた。
中身は少し不恰好なおにぎりと、付け合わせの沢庵だ。
沢庵をぽりぽりと囓りながら、おにぎりを頬張る亜森。
おにぎりと沢庵の塩気が良い塩梅のようで、満足げである。
(見える光景が、ゾンビひしめくライブ会場擬きなのは戴けないが。まぁ、贅沢は言えないな)
指についた米粒を口に運びながら、ゾンビ集団が順調に形成されていくのを眺める。
先程マーキングしたゾンビも、集団に入っていく様子が見えた。
(うん、順調だな)
水筒で水分補給をして、準備完了だ。
もう一度、リコンセンサー付きスコープで入り口付近を偵察するが、たった今一体抜け出て来ただけで、後に続く気配は見られない。
残りは、相当奥まった場所に居るのだろう。
亜森はそう結論付け、ゾンビ集団を刺激しないようトラックを慎重に移動させていく。
ホームセンター入り口に後ろ付で駐車し、銃を10mmピストルに切り替えて注意深く周囲を偵察する。
遠くにあるゾンビ集団もこちらに気づいた様子は無く、未だ交差点で押し合い圧し合いをやって居るようだ。
破壊された自動ドアをくぐり抜け、亜森はホームセンター内に入っていく。
至る所に惨劇の跡が見受けられるが、生存者がいたような痕跡は見つからない。
そもそも、バリケードの類も無いのだ。
商品が棚から崩れているのは散見されるが、略奪の後というには物が減っていない。
ここは、本当に手付かずだったのだろう。
亜森は安堵と残念な気持ちを同時に覚えながら、店舗内を回り始めた。
結局、店舗内を全て見回っても消費したマガジンは二つにも満たず、殆どのゾンビが外に釣り出されたことが分かった。
(この作戦は今後も使えるな、あとでメモしておこう)
これでようやく、安全に資材回収が行える。
亜森は満足そうに頷くと、目的の建築資材が集まっている区画で、必要な物をPip-Boyを利用してトラックへと運び出して行った。
必要そうな資材や部品、そして興味が惹かれた様々な商品や工具類をトラックに詰め込み、亜森は最後にもう一度店内を探索していた。
農業用品の区画に差し掛かり、シャベルや鍬等の商品を目にした亜森は、"これは土産にちょうどいいな"と、Pip-Boyに放り込んでいく。
他にも野菜の種やジャガイモの種芋、栽培を助ける肥料まで、あらゆる物を詰め込んでいると、突然身体が重くなった様な感覚を覚え、Pip-Boyの画面にも警告が出ていた。
どうやら、安全ラインを少し超えてしまったようだ。
亜森は探索を"今日の所はこれまで"と切り上げ、トラックへと戻って行く。
肥料やシャベルなどの比較的嵩張るものを、積み込んだ資材の隙間に押し込み、何とか警告を消した亜森は最後の仕上げを行う為、トラックを今一度レンタルビデオショップへと向かわせた。
停車したトラックの屋根へと登った亜森は、普段は使わないとっておきの武器をPip-Boyから取り出した。
誘導機能付きミサイルランチャー、4発連続発射可能で例に洩れず装薬量を限界ギリギリまで増やしている代物だ。
他の銃弾と比較すれば弾数が圧倒的に少ないのだが、使用頻度そのものが殆ど無いので、残弾を気にする必要も無い。
亜森はランチャーを肩に担ぎ、照準サイトをゾンビ集団の中央寄り少し手前に合わせ、誘導装置を作動させる。
カコンと、小気味良いロック音を響かせ、準備完了を教えてくれた。
(こういう時は、何と言うべきかな。ファイヤーインザホール? いや、ここはアレだな)
「ロックンロール!」
ヒャッハーと声を上げながら、トリガーを引き推進剤に点火。
白い筋を引きながら、所定の目標にミサイルは突き進む。
ゾンビ集団に突入したミサイルは、信管を起動させ爆発、そのエネルギーを受け取った地雷やグレネードも次々と連鎖的に誘爆していく。
その威力は、離れた位置にいる亜森に衝撃を感じさせるぐらいには大きく、ゾンビ集団で立っている者は見当たらない。
千切れ飛んだ信号機が、遠くで何処かの屋根へと落ちる音も聞こえて来る。
その結果に満足したのか、一通り"ホゥッ!"だの"フゥッ!"だの"またしてもミニッツメンの勝利だ!"だのと雄叫びを上げ、亜森はトラックに乗り込み上機嫌に学校への道を辿るのだった。
・徐行運転
スピードを出して弾き飛ばそうとしても、車体にダメージを受けるばっかりで、良いこと無し。
寧ろ故障の原因になりかねない。
大質量の塊がゆっくり押してやるだけで、所詮人間大ではその力に抗えないのです。
・レンタルビデオショップ
アモがかつて日本にいた頃を思い出してしまう、誘惑の場所。
かつてはインドア趣味だったようです。
まぁ、ゲームが嫌いな男子はそうそういないということで。
・安心と信頼と伝統の爆発オチ
Demolition ExpertとHeavy GunnerのPerkのお陰でゾンビがやばい。
火力主義者に爆発物をもたせるとこうなるという、悪い例の見本。
なお連邦では将軍も一緒になって、はしゃいでいた模様。