がっこうぐらし with ローンワンダラー   作:ナツイロ

15 / 32
第13話 校外活動と胡桃の決意、長期繰り返しクエストの開始

 胡桃は、必死に走っていた。

 

「だからっ、あの車はやめとこうぜって言ったんだっ!」

 

 リュックサックとシャベルを片手に、学校から少し離れた道路を駆け抜けている。

 胡桃の数メートル前には、銃を持った亜森が先導しながら、出会い頭に現れるゾンビを始末しては、直ぐ脇をすり抜けていた。

 その間にもチラチラと、胡桃が遅れていないか確認するために、首だけで振り返り追いかけてくる者がいないかも同時に観察する。

 今のところ、追従している胡桃以外には、今しがた頭を吹き飛ばしたゾンビが倒れているだけで、目立つものは無かった。

 

「イケルと思ったんだよっ、ちょっとばかり詰めが甘かったけどっ」

「盗難防止アラームのシールがっ、ついてるって言ったじゃん! あたしっ!」

「その時は、運転席の窓ガラスっ、もうかち割ってたっ」

「だあーもうっ! 早くコンビニまで走れー!」

「そう大声出すなよっ、アラームに向かってるの以外が寄ってくるだろっ」

「うっ」

「そこの角を曲がった所だっ、すぐ後ろにいろよ」

「わかった、前は頼んだっ」

「おう」

 

 お互いに声を掛け合い、安全を確認しながらコンビニへと向かっていった。

 

 二人が校外にいるのは、バリケードの制作を始める前に、学校のソーラーパネルとは別の電源を用意しようと決めていた件で、その材料集めが理由だった。

 目的こそ、亜森がレンタルビデオショップから回収してきた、DVDやテレビゲームと言った娯楽の為であったが、新たな電気系統を増やすことは他のメンバーにも歓迎された。

 これまでは、曇りや雨の日が続けば、調理器具やシャワーの使用にも支障をきたすことがあり、そのような時に調理器具だけでも使用できるならば、かなりの生活環境を改善することが期待できる。

 温かい食事が取れる。人間の三大欲求の一つを満足させれば、それだけで、かなりの不満は解消できるのだ。

 

 亜森が世間話を兼ねて聞いた話によると、そのような時は三食乾パンが続いたときもあったらしい。

 亜森自身は、自前の簡易バッテリーから電源を取り、ホットプレート等の加熱調理器具を使用出来るのだが、彼女達にはそれらに相当する物が無かったようだ。

 七輪やストーブ・コンロのような、火を利用した器具があればまた違ったのだろうが、学校施設にそのようなものを期待できようはずもなく。

 始めの頃こそ、アルコールランプを使っていたが、それもアルコール燃料がなくなってしまえば、元の木阿弥だった。

 それ以来、悠里のバッテリー充電量を気にかける生活が始まったということだった。

 

 コンビニへと無事にたどり着いた二人は、付近の住宅から失敬しておいた脚立を利用して、コンビニの屋根へと避難した。

 屋根は凸凹とした形状で、満足に休める場所とは到底言えなかったが、ちょうどいい場所にある昇り降りが比較的楽な建物は、コンビニぐらいしか無かったのだ。

 このコンビニは、以前にホームセンターの位置を調べるために探索したコンビニで、予め位置を知っていて周囲の地理もある程度把握しているため、今回の物資回収の基点として定めていた。

 ここを中心にして、住宅の屋根に設置されていたソーラーパネルを取り外したり、放置車両からバッテリーを拝借していたのだが、運悪く盗難防止アラームが稼働し続けている車に当たり、コンビニまで撤退したというわけだ。

 

「だからさー、最初に言ったじゃん。ドアが開きっぱなしのか、事故車両から貰っていこうって」

「事故車両のは、バッテリーが物理的に壊れてる可能性が高いんだよ。車が無事なら、中身だって無事だろう? ちょっとでも状態が良いのを持っていきたいの、分かる?」

「『分かる?』、じゃねーから。現にミスって持ってこれてないじゃん」

「それは……まぁ、すまん」

「……いや、あたしも言い過ぎた。集めてるのだって、あたしがゲームしたいって急かしたからだし」

「いやいや、ゲームは俺が先にするから。大作RPGやり込むまで、俺の番だから」

「はぁっ? FPSやレーシングゲームの方が面白いし」

「いやいや」

「いやいやいや」

 ………

 ……

 …

「……もう止めない? ゲームは一日一時間で……」

「……まぁ、そうだな」

 

 不毛な争いを終えた二人は、疎らな雲が漂う晴天の空を見上げて、話題を変えた。

 

「それで、何個集まったんだっけ? 車用バッテリー」

「あー、十個数えた辺りから確認してなかったけど……ひふみの、二十個ちょうどだな」

「それだけあれば、充分な気がするけど。車二十台分のバッテリーだろ?」

 

 テレビとゲーム機ぐらいなら、余裕な気がする。

 胡桃の感覚では、数個のバッテリーでも動くのではと思っていた。

 

「かなり長期間放置されてるからなぁ、どれがまともに充電できるか分からないし……」

「はぁ、そっちの問題があったか……。新品なんて、この辺にある気がしないし、仕方ないけども」

「農機具用のバッテリーだったら、ホームセンターにあったんだけど。あの時は、限界まで持ち出したから、バッテリー関係には手を出してないんだよ。また、行ってみるのもいいかもしれない」

 

 確か補充液なんかもあったようなと、亜森はホームセンター内の様子を思い出しながら、独りごちる。

 その様子を見ていた胡桃は、以前から考えていたあることを、亜森に告げた。

 

「……アモ、それにあたしも付いて行くの無理かな? 邪魔にならないようにするからさ、今日みたいに」

「……。それぞれが出来ることをやってるんだから、無理する必要はないんだぞ? ましてや、学校から離れたところじゃ直ぐに逃げ込める場所だって、そう簡単に見つからない」

「だって……。今のままじゃ、アモにおんぶに抱っこの状態じゃんか。あたし達」

「俺は別に、今の状態を不満に思っちゃいない」

「そうだとしてもっ! あたしは、このままアモに甘えたままが良いなんて思えない。アモがそう思ってても、いつかそれが当たり前になっちまう。そうなってからじゃ遅いんだよ、今の内に変わらなきゃいつか破綻する。アモ、あたしは対等でありたいんだ。仲間になりたいんだよ、ナイトに守ってもらうお姫様じゃなくな」

 

 胡桃は真剣な眼差しで、亜森に胸の内を語った。

 まっすぐと視線を逸らさない胡桃の表情は、その真剣さを表すように真面目だった。

 

 亜森は胡桃の様子を見ていて、かつての自分を見ているかの様な印象を受けた。

 サンクチュアリヒルズで縮こまって庇護されている自分に耐えられなくなり、将軍に戦い方を教授してくれと頼み込んだ、あの頃の自分だ。

 将軍も、今の亜森の様に、一度は断っていた。

 

 連邦は、君が思っているより危険だ。

 今みたいに、居住地で頑張ってくれたら良い。

 俺は、アモがサンクチュアリにいる事を不満に思ったりしていない。

 

 正に今しがた、胡桃に対して告げた断り文句と瓜二つ。

 胡桃の姿に、かつてのヒョロガリだった亜森の幻影が重なって見える。

 見栄えこそ胡桃に軍配が上がるが、そのうちに秘める想いは変わらないように感じた。

 亜森は重い口を開き、胡桃に言った。

 

「……条件がある」

「分かった、それで?」

「継続して身体を鍛えること、それと武器の扱い方を覚えてもらう」

「武器って、今のシャベルじゃダメ?」

 

 胡桃は紐で括り付けたシャベルを手に持ち、聞き返す。

 ダメだというわけじゃないんだがなと、亜森は前置きして、理由を説明し始めた。

 

「それだと、体力がいくらあっても足りなくなるからな。覚えて欲しいのは、刃物と銃の扱い方だよ。特に、自分が怪我をしないようにするために」

「……うん、分かった」

「俺と同じように成れとは言わないけど、外で活動するのに十分な体力と身体能力は身につけて欲しい。俺のためじゃない、恵飛須沢、君自身と君の帰りを待つ仲間たちのためだ」

「分かってる、生きて帰らなきゃ意味がない。そうだろ?」

「その通り」

 

 亜森から了承が得られた胡桃は、胸を撫で下ろした。

 胡桃の中では、提案が通るかは五分五分だったのだ。

 これまでの亜森の行動や言動からして、保護下にある人間を殊更危険から遠ざけようとする節があったので、今回の提案は却下されることも覚悟していた。

 

「でも、良かったよ。ダメって言われなくって」

「俺にだって、似たような経験はある……。自分が負担になってるかもって思うと、何ていうか追い詰められていく感覚が生まれるんだよ。何故か」

「あたしも、似たようなもん。アモが現れるまでは、あたしが皆を守ろうと……守るってのはおかしいな。皆それぞれ自分が出来ることをしていたんだから、あたしも、あたしが出来ることをしていただけ。それがぽっかりと無くなったような気がしたから、ちょっと居心地が悪かったのかも」

「うん、役割を取られたような気分になったんだろ?」

「べ、別にアモが悪いってわけじゃないんだけど……。偶に、アモの立ち位置にあたしがいたんだよなって、思うことはあったよ。……ホント、悪く取らないでくれよ」

 

 胡桃は亜森の表情をチラチラと伺いながら、話した。

 亜森もそれに気付いているようで、誤解はしていないと、胡桃を安心させるように語った。

 

「分かってる、俺にだってそういう部分はあるんだ。そう自分を、悪く捉えるな。人間なら誰にだって、持ち合わせてる感情だ。仲間の誰かに打ち明けたりして、上手いこと折り合いをつけるしかないよ」

「出来なかったら?」

「いずれ爆発する、どんな形なのかはそれこそ、人によるよ」

「……それは、嫌かな。そんなんで、仲間を傷つけたりしたくない」

「ああ、もちろんだ」

「アモにも、そういう時はある?」

 

 胡桃に問われた過去の経験を思い出し、亜森は苦い記憶を手繰り寄せる。

 自身の失敗の経験で、あまり吹聴したくない類の話であったが、胡桃が相手ならまぁいいかと口を開く。

 

「あった、よ……。その時は、自分の味方だと思える人が、片手にも満たない人数しかいなくて。コミュニティに入ってきた新しい人間が、やたらと周囲にイライラと不満を撒き散らす人でね。それにうんざりしてたんだけど、愚痴をこぼせるような相手は近くにいないしで、ある時我慢の限界に達して、銃口を相手の口に押し込んでやったことがあった。流石に、周囲の人達に取り押さえられたけど……」

「うわぁ……過激だな。それで、どうなったの?」

「結局、お咎めは無かった。周りの人達もどちらに問題があるのか、きちんと理解していたんだ。まぁ、小言はいくつか貰ったけど。その後は、問題が起きないようになるべく顔を突き合わせないようにしていたし、あちらも人前では口をつぐむことが多くなった。……ゼロにはならなかったけど、格段に減ったよ」

「へぇ、それは衝突して良かったってこと?」

「いいや、衝突する前に、俺は誰かに話をしてガス抜きや対処法を考えるべきだったし、あちらは不満の捌け口を他人に向けるべきじゃなかった。そうしてれば、あんなことしなくて済んだんだ」

「それで、さっきあたしに『誰かに話を打ち明けろ』って言ったんだな?」

「そうだ、色んな失敗をしてきたから。そうならないためにどうすることが大事かは、分かってるつもりだ。だからこそ、普段から話し合いの場を作ったりしてるだろ?」

 

 話し合いの場と言われ、胡桃は既に何度か行われた意見交換会のような会議を思い浮かべる。

 今後の計画を話し合うこともあるし、ただの雑談で終わることもあれば、由紀を交えてボードゲームやトランプで興じることもある会議だった。

 

「あぁ、あの会議のこと? あれってそういう意味があったんだ……、ただの今後の方針計画を話し合う集まりだとばっかり……」

「それが主題なのは、確かだよ。ただ他の、効果の見えにくい目的もあるってだけ。行き着くところは、いかにコミュニケーションを取るかだから。知らない相手には不満を覚えても、よく知っている相手なら理解を示せるからな」

「ふうん、難しいこと考えてんだな。アモって」

「……そういうことが必要だった時期が、あったってだけさ。特別凄いことを、やってるわけじゃないよ」

「そんなことない、アモがいて良かったと思ってるよ。あたしも、皆もそう思ってる」

 

 照れる様子で視線を外す亜森に、胡桃は率直な想いを伝える。

 初めて出会った当初こそ、疑念と不安で一杯だったが、現在ではそれも払拭され、信頼できる相手として認識していた。

 今更仲違いして、亜森が去ってしまう事態は避けたいというのが、胡桃の本音でもある。

 

「ん、ありがとう」

「いいって、こういう事が大事なんだろ?」

「はは、早速実践ってわけだ。うん、そうだな、大事だよ」

「それじゃあ、ハイ」

 

 胡桃はそう言って、自身の右手を差し出した。

 亜森と握手をするつもりらしい。

 

「これは?」

「ほら、握手だよ。改めてよろしくってことで」

「あぁ、よろしく恵飛須沢。頼りにしてるぞ?」

「もちろん、よろしくアモ。こっちこそ頼りにしてる」

 

 互いの右手を握りしめ、言葉を交わす二人。

 ニカッと笑う胡桃に、少しだけ口角を挙げる亜森。

 表情にこそ温度差は見られるものの、お互いに信頼関係が存在していることを確認でき、喜んでいた。

 

 

 

 それから二人は雑談混じりに、今後のかなり長期間に渡る計画について話し合った。

 計画とは、現在行っている新たな電源設備の設置の後に行う予定で、バリケード設置後の会議で提案された。

 内容は、越冬の準備と農地の拡大についてだ。

 

 現在の屋上ソーラーパネルの発電量では、到底冬の期間中の暖房には足りやしない。

 そこで、学校の周囲にある雑木林から薪として落ちた枝を集めたらどうだろうかと、美紀から提案され、皆の賛同も得られた。

 暖房用以外にも、調理用の熱源としても利用出来るように、粘土やモルタル、耐火レンガ等を用いてコンロやストーブなどの制作も意見として挙げられ、採用されている。

 本格的な冬を前に動かねば、凍えて過ごすことになりかねない。

 皆、それなりの危機感を感じたようで、積極的な意見交換がなされた。

 

 農地については、屋上の菜園が現在唯一の食料生産の要であるのだが、現状においても収穫量に余裕があるわけではなかった。

 農業の指揮は悠里が主に行っていたのだが、連邦で農作業経験のある亜森や同じ巡ヶ丘学院高校の生徒である美紀がメンバーに加入したことで、これを遊ばせる手はないと、新たな農地の拡大を模索していたのだ。

 それに、現在確保している食料とて、消費していく一方ではいずれ袋小路に追い詰められてしまう。

 今年は持つだろう、来年は切り詰めれば何とか。

 しかし、それ以降は?

 野菜だけでは、カロリーが足りず。米だけでは、栄養が足りず。

 結局、何もかもが足りない、それが現状なのだ。

 

 現在、案として検討されているのが、屋上の空きスペースに大きなプランター型の農地を設置すること。

 そして、学校敷地内にあるテニスコート二面分のスペースの地面を掘り返し、土を入れ替えることで、これまでと比較して大規模な農地として確保することだった。

 巨大プランターの制作は、工具や資材が手に入ったことで比較的簡単に完成できるだろう。

 完成してしまえば、利用法はこれまでと特段の変化はない。

 ただ黙々と、作業に従事すればいいだけだ。

 問題は、テニスコートを農地に作り変える作業だ。

 まず、農地として利用するために、今ある地面をある程度の深さまで掘り起こし、別の所に移動させ、新たな農業に適した土を他所から運搬しなければならない。

 更には、ゾンビの侵入を阻止するために、周囲を強固な柵で囲うことも必要だろう。

 重機があれば短期間に作業終了できそうだが、それではゾンビをおびき寄せるだけであり、ゾンビの血液混じりの土で育った農作物を食べる気にもなれない。

 突き詰めれば、大半の作業を人力で行う必要が出てきたのだ。

 それも、かなりの長期間に渡って。

 しかし、やらねばならない。どうせやるなら、楽しくやろう。

 皆で協力すれば、きっと辛いことだって乗り越えられる。

 取り敢えず、そう自分達を騙すことにして、計画の詳細を煮詰めることで意見は一致した。

 そして現在に至る。

 

「農地拡大の計画はさておき、薪を集めるのは楽しそうだよな。なんかアウトドアっぽいし」

 

 胡桃は持ってきていた水筒からお茶を飲みながら、今後の活動について語る。

 飲み干したコップに新たにお茶を注いで、亜森に手渡した。

 

「お、ありがとう。最初の内は楽しくても、数回もやればただの作業になるからなぁ……。薪として使うなら、乾燥だって必要になるし」

「ふうん、すぐには使えないってことか。……そう言えばさ、かなり前にテレビ番組でやってたのを見たんだけど。あたし達で炭を作るのも良いんじゃないか? 登り窯、的な」

 

 それはレベルが高すぎだろうと、一瞬否定しそうになったが、炭と聞いて亜森はピンとくるものがあったようだ。

 腕を組んで、想像してみる。

 

「炭って木炭か? ……そうだなぁ、暖房用に火鉢のような物を作るとしたら、木炭の方がいいかもしれない」

 

 それに金属を加工するときにも、かなりの高温を得るには木炭は必要不可欠だ。

 連邦でも、作業台にはふいご付の加熱炉があったし、それ用に木材を集めて木炭を作ることも暫しあった。

 始めこそ試行錯誤の連続であったが、周囲の協力もあってか、そこそこの質の木炭が収量良く得られたのだ。

 連邦の、数少ない楽しい思い出の一つでもある。

 

「でしょ? それに調理用に使うときだって、余計な煙が少ないだろうしさ。バーベキューとか、七輪みたいな感じで」

「室内用の暖房に使うなら、排煙機能はもちろんつける予定だけど……。でもいいな、バーベキュー。肉こそ無いけど」

「言うなよ、肉食いたくなってきたじゃないか」

「鶏とか、番でその辺歩いてないかね?」

 

 ふいっと視線を道路にやるが、動いているものは盗難防止アラームに誘われたのか、遠くにいるゾンビが一体だけ。

 虚しく風が吹き抜けて、顔を撫でる。

 

「あー、卵焼きとか唐揚げ食べたい」

「贅沢言うな。でも、俺も食いたい……。今度から、鶏とか探してみるかな。農家さんの家だったら、一軒ぐらい鶏飼ってたりしてそうだけど」

 

 問題は生き残りがいるかどうかだがと、亜森は考え込むが、今のところ鳥類にゾンビ化の様子は見られないし、可能性としては他の家畜よりも断然高いと思われた。

 農家で米や麦等の種籾を探索するついでに、鶏も探してみることにしよう。

 亜森は、今後の物資回収項目に新たに付け加えることにした。

 

「それいいね、あたしも行くから絶対。そして、たくさん増やして豊かな食生活にっ」

「おい、よだれ」

「おっと、失礼」

 

 胡桃は恥ずかしそうに、口元を手の甲で拭う。

 その様子を見てか、亜森の口から笑い声が洩れる。

 胡桃は不服そうに唇を尖らせ、文句をつけた。

 

「何も笑うこと無いだろっ……」

「ふふ、いやいや。そうじゃなくてな、何ていうか楽しいなって」

「楽しい? 何が?」

「こういう、他愛もない世間話みたいな会話がだよ。どこもかしこもゾンビが歩き回ってるっていうのに、俺達ときたらメシの話ばかり。そのギャップが面白くて」

「ふーん。まぁ、あ、あたしとの会話が楽しいっていうのは、結構ポイント高いけどね」

「へぇ、何点ぐらい?」

 

 ニヤニヤと聞き返してくる亜森に、正直に答えるのも癪になった胡桃は、辛口で採点する。

 

「六十点ぐらいかな」

「及第点はもらえたらしい」

「今後も精進するように」

「はいはい」

 

 神妙な顔をして結果を告げるが、直ぐに表情が崩れ、どちらともなく笑みを浮かべる。

 笑い声が空に消えていき、いつの間にか周囲は茜色に染まり始めていた。

 

「そろそろ学校に戻ろうか、流石に良い時間だしな」

「分かった。結局、あれからずっと話してたし、あんまり収穫は無かったね」

「そんなことはないさ。既に最低限必要な物は揃ったんだし、学校に戻って食事を終わらせたら、一度組み立ててみよう」

「マジでっ! じゃあさ、今日から出来るってこと?」

 

 期待感からか、胡桃の表情は輝いて見えるが、亜森は首を振り、それは難しいと答える。

 

「それは期待するな。あくまで仮組みだから、電気が上手いこと通電することを優先しなきゃ。満充電したり、インバーターで交流電流に変換して、テレビつけたりするのはもう少し先だな」

「はぁ、期待してたのに……。仕方ないか、一足とびには行かないよな。こういうことは」

「まぁまぁ、もう少しの辛抱だよ。それに、ゲームやるより作ってる間の方が楽しいかもしれないだろう?」

「それは一理あるけどさぁ、娯楽に飢えてるからね、今のあたし達は。動くようになったら、テレビのある部屋に入り浸るかも」

「日中は他の作業があるから、夜だろうな、集まるとしたら」

「深夜までDVD上映会とかやりたいなぁ」

「それも、もう暫くおあずけだ。我慢してくれ」

「分かってるよ」

 

 

 

 ひとしきり会話を続けた後、二人は揃って学校への帰路についた。

 たどり着いた頃には、他のメンバーも部室へと集まっており、夕飯までの僅かな時間を雑誌を見たり世間話をしたりしながら、思い思いに過ごしている。

 

「ただいまー」

「今、戻った。一旦、荷物置いてくる」

 

 取り敢えず、帰還したことだけ告げて、亜森は回収物資を自身の部屋としている教室へと運んだ。

 胡桃はそのまま部室に残ったようで、他のメンバーに今日の成果を伝えていた。

 

「あー、結構時間かかっちゃった。いきなり、車のアラームが鳴り響いた時はビビったよ」

「それで、何時間か前、遠くの方で騒がしかったのね? 一瞬、何事かと思ったわ。直ぐに胡桃達が向かった方角って、気が付いたけど」

「もう、くるみちゃん? 危ないことはメッ、だよ?」

 

 由紀が勿体ぶった仕草で、軽率な行動を咎めた。

 悠里や美紀も同じ意見なのか、静かに頷いている。

 

「あたしが鳴らしたんじゃないやい。あれはアモが――」

「まぁまぁ、無事に戻ってこれたんだから、良いじゃないですか。それで、何か成果はありましたか?」

「あ、あぁ。車のバッテリーは全部で二十個かな? それに、住宅の屋根についてたソーラーパネル一式。電気コードはもうあるから良いとして、充電制御用のコントロール装置。あとは、アモがホームセンターで見つけてた『いんばーたー?』とかいうヤツ」

 

 美紀に取り直され、本日の成果を聞かれた胡桃は、一つ一つ思い出しながら指折り数える。

 部品の幾つかは、既に亜森が集めているので、それは勘定に入れないようだ。

 

「直流の電気を、家庭用電化製品に使えるように交流に変換する装置ですね。『これであなたも太陽光発電!』というハウツー本に載っていた部品は、大体揃ったことになります」

「その本、ほんとに大丈夫? あたし、心配になってきたぜ」

 

 胡桃は、美紀が以前言っていた本のことを思い出した。

 モノクロの写真が多く、女子高生には少しばかり面白さが伝わらないタイプの本で、胡桃自身はパラパラとめくっただけで、内容の把握は読書家の美紀に任せていたのだ。

 

「少なくとも、嘘は書いてないんじゃないですか? 電気代がどうとかは、今の私達には必要ありませんし」

「そうだな、発電できて充電して、ゲームが動けばいいんだよな!」

「あら、ゲーム機以外にも使わなきゃ。殆ど使わないけど、スマホの充電だって出来るようになれば、少しは余裕が出来るでしょう?」

「分かってるよ、りーさん。それにDVDだって見れるようになるからな、今から上映会が楽しみだよ」

 

 分かってないじゃないと、悠里は呆れているが、悠里自身も楽しみにしていることは間違いないので、これ以上の小言は止めたようだ。

 話が途切れたところで、物資を置いてきた亜森が戻り、一同は重い腰を上げ食事の準備に取り掛かる。

 それでも、食事の後のことを考えているのか、いつもよりか楽しい雰囲気の中、調理を終え食事を楽しんだ。

 

 食事の後、全員でハウツー本を片手に作業することになり、一応の形に出来上がった時には、すでに深夜を超えていた。

 それでも、わずかにバッテリーに残っていた電気から、インバーターを通して職員室から失敬しておいたデスクライトが点灯した時には、小さいながらも全員で歓声をあげ、ハイタッチを交わしあったのだ。

 結局この日は、興奮が冷めやらぬ中、全員でこの点灯しているデスクライトを囲み、尽きない会話を楽しみながら就寝した。

 

 

 

 




・アラーム付きの車とバッテリー
最近の販売車は、大抵付いていると勝手に想像。
しかし、何ヶ月放置でバッテリーが死ぬかは、想像付かないので、生きているかどうか可能性は五分五分ということにしている。
といっても、結局はバッテリーも化学反応を繰り返しているだけなので、不活性になっている電極の皮膜を剥がしたり、電解液を調整してやれば復活する気がしないでもない。
安全性は保証できないが、ゾンビパラダイスよりも危険ということは無いだろう。

・胡桃スカベンジャーになる
イケメンムーブに定評のある胡桃さん。
これはいつか、ララ・クロフトばりのアクションをする日も近いか?
弓とピッケル、作らなきゃ。

・長期計画
何はともあれ、食料が無ければ生きていけないので、ようやく食料生産計画に本格的に着手。
テニスコート云々は、アニメの学校の遠景からみて、ちょうど良かったので。
薪云々は、もろに作者の趣味が反映されてます。
皆、DA○Hとか好きでしょう?
作者は大好きですけど、何か。
ようつべの原始的な技術でものづくりしているチャンネルとか、無心になれます。

・鶏
家畜として生き残っている可能性が高いのは、鶏ってイメージ。
鶏舎で飼われているようなタイプじゃなくて、農家さんの敷地内で放し飼いっぽい方。
原作の彼女達は、レトルトや缶詰め以外で動物性蛋白質はどうやって摂取しているのだろうか。
していなかったからこその、ステーキ肉の大興奮に繋がったとも言えるかもしれない。
ステーキプレートまであったのは、外資系だからか?

・車用バッテリーとソーラー発電
材料は全て、ア○ゾンで揃います。
やっぱすげーわアマ○ン、転生チートであそこを求める気持ち分かる。
個人で発電システムを実際に作ったからと言って、発電効率が良いとか、電気代が安くなるとは言いません。
言いませんが、やってて楽しいのは間違い無さそう。
作者のいつかやってみたいことの一つでもあります。
パソコンは無理でも、スマホやタブレット、無線ラン親機ならいけそうじゃないですか?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。