がっこうぐらし with ローンワンダラー   作:ナツイロ

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※誤字報告ありがとうございました。修正適応済み。0714


第2話 男の昔語りほど、うんざりするものはそうそうない

「さて、飲み物はセルフサービスだ。好きなものを取っていってくれ」

 

 スタンドに辿り着いたのは、夕方に差し掛かる頃。

 事務所兼休憩所の扉を開け、こじ開けて置いた自販機を手で示しながら、男は事務机に備え付けられているパイプ椅子に腰を沈めた。

 

 学園生活部の三人は、それぞれ目当ての飲み物を手に取り休憩室のソファーに並んで座った。

 

「いちご牛乳なかったねー、残念」

「あっても飲むんじゃないぞ、流石にもう腐ってるだろうし」

「そうよ、ゆきちゃん。缶ジュースで我慢してね」

「はーい」

 

 カシュッとプルタブを開け、三人は喉を潤した。

 男も用意して置いた缶コーヒーを開けて一口飲む。

 落ち着いたところで、男は三人に話を切り出した。

 

「それで君たちは、あー……この手紙の人物で間違いないんだな?」

 

 改めて手紙を取り出し、ソファーの三人に対して確認する。

 

「ああ、その通りだよ。あたし等が学校から風船と鳩で飛ばしたんだ」

 

 シャベルを手にした胡桃が、ジュースを傾けながら答えた。

 手紙はどうやら複数飛ばしたらしい。

 

「鳩? そっちは見てないな」

「アルノー鳩錦二世だよ!」

 

 由紀は久々のジュースに満足しているのか、笑顔で答えた。

 

「名前をつけたのか」

「今どこにいるのかなー」

「やっぱりアメリカまで行ったんじゃないか?」

「ええ、そうかもしれないわね」

 

 話が長くなりそうな気配を感じた男はそこまでと手を叩き、本題に入ろうと提案した。

 

「お楽しみのところ悪いが、話を進めてもいいか。お互いの、……その、なんだ、疑問点を解消するために」

「あ、ああ。いいぜ」

 

 男に返事をしようとした胡桃の袖を、隣に座っていた悠里が引っ張って会話を止める。

 

「ねぇ、くるみ。ちょっと」

「ちょっとタイム」

 

そう言って2人はぼそぼそと相談し始め、終わったところで胡桃が一人ソファーから腰を上げた。

 

「ちょっと、2人で話せないか? その、外で」

 

 胡桃は男にそう提案して扉を開き、一歩外に出て男を待つ。

 男は座ったままの2人に視線をやるが、由紀はジュースを飲んでいて、悠里は男を真っ直ぐ見据えたままコクリと頷く。

 

「……わかった。2人はくつろいでいてくれ」

 

 パイプ椅子から立ち上がり、先に出た胡桃の後に続く。

 胡桃は、少し離れた車を停めている給油スペースに立ち止まり、男を待っていた。

 

「それで話っていうのは? 愛の告白ならいつでも受け付けているが」

「あ、あ、愛って、んなわけねーだろっ?」

「冗談だよ、悪かった。久しぶりの人間との会話だったからはしゃいだだけさ、このとおり謝る」

 

 両手をあげ降参のポーズをする男に、プリプリと怒りながら強引に話を進める胡桃。

 

「話ってのは、ゆきのことなんだ」

 

 車に背中を預け、少し深刻そうな雰囲気で話し出す。

 

「髪が長い方?」

「帽子被ってる方」

「帽子かぶってる方ね」

 

 帽子の娘がゆきというのか。覚えておこう。男は話を先を促す様に、胡桃に対面したまま視線を向ける。

 

「あいつは、ゆきは今でも世界はいつもどおりに動いていて、何も起こっていないと思ってるんだ」

「それは、……頭でも打って幻覚を見ているとかそういう事か?(さすがに薬をキメてるようには見えなかったが)」

 

 怪我をしている様には見えなかったし、薬物中毒者特有の雰囲気も無かった。

 疑問に思っている男に対して、胡桃はそうじゃないんだと首を横に振る。

 

「いや、怪我とかじゃ無いんだ。最初の頃はあんなんじゃなかった。泣いたりして落ち込んでたりはしてたけど、ちゃんと現実に向き合ってた」

 

 嫌な事を思い出すかのように、眉を顰める。

 それを見た男は何となくだが、察しがついた。

 

「……何かが起きたんだな、それで君のいうところの――」

「ああ、何も起きてない頃の幻覚を見てる。それにめぐねえの、めぐねえっていうのは愛称で呼んでるだけで、ほんとは佐倉慈先生っていうんだけど。その先生の幻覚も見てるんだ」

 

 そういえばと、男は手紙には4人の人間が描かれていたことを思い出した。

 ここにいない4人目の人物は、一人だけセーラー服ではなく私服で描かれていた。

 

「その先生というのはもしかして、この手紙に描いてあるここにいない四人目の人物か?」

「……そうだよ、その人だ。ある時、あたし等を助けるためにあいつらの犠牲になって……」

 

 顔を俯かせたままの胡桃、後悔を感じさせる声色だった。

 

「……そうか、出来れば生きて会いたかった」

「めぐねえも初めて会う生存者のあんたに会いたかったはずさ」

 

 顔を上げた胡桃は、もう過ぎた事だというように答える。

 

「それで、話ってのはこれで終わりか?」

 

 終わりなら中に戻ろう、そう言おうとした男に胡桃は待ったをかけた。

 

「いや、もう一つある。これは話というより頼みって言った方がいいんだけど」

「何だ、キャップを寄こせとでも?」

 

 冗談めかして男は、ウェイストランドの通貨であるキャップを話の種として振ったが、胡桃には当然ながら通じなかった。

 

「キャップ? 何のことだ? そうじゃなくて、ゆきと話している時はアイツの話に合わせて欲しいんだ」

「幻覚に付き合えってことか?」

「そうだよ、おかしなことを言ってる自覚はある。でも、あたしとりーさんはアイツのそんなところに助けられてもいるんだ」

 

 実際に助けられたのであろう、実感のこもった言い方だった。

 

「……」

「今回の遠足だってゆきの発案なんだ。多分あたしとりーさんが残り少ない食料の事を話しているのを聞いてたんだと思う、それで遠足っていう口実を作ったんだ」

「それじゃあ幻覚をみてるっていった君の話と矛盾しないか? 何も起きていない世界に生きているならそんな提案しないと思うが」

 

 それに、遠足とは片手にも満たない少数の生徒が、無免許で車を運転して行うものだっただろうか?

 引っ掛かりを覚えた男は、胡桃に問い返す。

 

「あたしだって変に思ったさ。でも現実に食料は減って来てるし、いずれ学校の外に食料集めに行かなきゃならなかったんだ。結局、遅いか早いかの問題ならってゆきの提案に乗る事にした」

「……ゆきって子に自覚はなくても、現実に対処しようとする意識があるんだろうな。もし幻覚が全てになっていたら、高校生の君たちが車を運転して尚且つ誰にも咎められない状況に違和感を覚えたはずだ。何で大人は誰も止めようとしないんだってな」

 

 男の考えに、胡桃はハッとした様子で目を見開いた。

 

「確かにそうだ。今まで思い至らなかったけど、ゆきは"運転できるの?"って聞きはしても、"運転していいの?"っては聞いたりしなかった。幻覚で見えてるめぐねえからも"運転やめて"とはゆきの口から言われてない」

「幻覚と現実の整合性を取るために、そういう違和感を無視するようにしてるんだろう。生きるために、そして仲間の君達を助けるために」

「……そうかな、そうだといいな」

 

 はにかむ様に答える胡桃に、男は肯きながら返事を返す。

 

「きっとそうだ」

 

 

 胡桃の話が一段落ついた所で、男は尋ねた。

 

「これであの子の話は全部か?」

「知って置いて欲しい事は、大体な。次はあんたのことだ」

 

 (俺の事?)

 

 それなら他の2人も一緒がいいのでは、と男は疑問を口にする。

 

「他の2人は除け者でいいのか?」

「ああ、りーさんにはあたしから。ゆきには、りーさんと相談してから話す事にする」

 

 ふう、と一息つき改めて胡桃は男に向き合った。

 

「あたしから見てあんたは凄くおかしいんだ、というよりこの場合は場違いって感じだ」

「……」

 

 男は、じっと胡桃の話を聞いている。そして視線で話の先を促した。

 

「自衛隊や警察でも無いのに銃を持ってるし、こういう状況に手慣れてるって風だし、ミニッツメンとか意味のわからないこと言ってるし。どう見ても日本人にしか見えないのに、あんたが持ってる物も行動も情報も、そのどれもが日本人にそぐわない。そんなやつがあたし等の前に現れて、やけに友好的に接してくる。ワケがわからねぇしすごく不気味で怖い」

 

「あんたは何なんだ、一体何が目的で近づいてきた? 身体が目当てだってんなら、最後まで抵抗してやるからな! いくら銃で脅したって屈するもんか!」

 

 喋りながら興奮したのかそれとも恐怖に負けないためか、胡桃は男との間に持っていたシャベルを掲げ、脅しには負けないとばかりに捲し立てる。

 男は腕を組んだまま、静かに胡桃の話を聞いていた。

 胡桃が言いたいことを言い終わって、暫く会話がなかったが、男は組んでいた腕を解き話し始めた。

 

「取り敢えず、君が何に対して疑問を、そして不安を抱いているかは理解した」

 

 胡桃を刺激しない様に、静かにそう告げる。

 

「2人で話そうと言ったのもこのためなんだろう? 他の2人を守ろうとしたんだな、どうやら君はそういう役回りにいるようだ」

 

 (そういえば、先ほど住宅街で接触した時も彼女は他の2人の前に出ていたな)

 

 それを思い出した男は、そうなんだろと胡桃に尋ねた。

 

「う、ううるさいっ! それで目的は何なんだよ?」

 

 自分が言った事に気恥ずかしいやら怖いやらで、シャベルを構える姿は震えているように見える。

 

「……そうだな、目的としてあげるなら一つだけ。俺以外の生存者に会いたかったから、だな。他のことは正直な話考えてなかったよ、もちろん身体が目当てってわけじゃない。そこの所は信用してくれとしか言えない」

「ほんとだなっ! もし嘘だったらただじゃおかねぇからな!」

 

 気迫を込めて男に改めて念を押す。

 

「ああ勿論だ、自分で性欲のコントロールは出来てる。俺の持ち物を確かめてみるか? いくつかそれ用の雑誌が……」

 

 荷物をいれたバックを取りに戻ろうか、と冗談めかして言ったが、胡桃は焦った様にそれを止めた。

 

「いいっ!見せなくていい! デリカシーってやつが無いのかよあんたにはっ? 女子高生に見せるやつがあるかっ」

「そっち方面の話を振ったのはそっちだろうに」

「もうその話はいいからっ、話がすすまねぇだろ!」

 

 

 

「わかったわかった。それで俺が何でこんな、日本人にはミスマッチな状態なのかって話だったな」

 

 降参だ、と軽く両手を上げ男は本題に入った。

 

「ああ、それだよ。全部話せとは言わない。でも嘘は吐かないでくれ」

 

 シャベルを降ろした胡桃は、真剣な表情で男に問う。

 

「話したくない事もあるが、嘘は吐かないと約束する。ただ少し長くなるぞ、それにかなり突拍子もない内容を話すことになる」

「おいおい、それは突然ゾンビパニックものの映画みたいな現実になる以上のことか?」

 

 (今度は私が茶化す番か?)

 

 胡桃は大げさに両肩を上げるような仕草をして、男の反応を待った。しかし、期待していた反応はなく、男は真面目な顔をして答える。

 

「ジャンルでいうなら、ポストアポカリプス物だな」

「ポスト……なに?」

 

 女子高生にはピンとこない単語に、胡桃は男に聞き返す。

 

「核戦争による文明崩壊後のサバイバル物語」

「はあ? 異世界に跳んだとでも言うつもりか?」

 

 (こいつ頭沸いてんのか)

 

 そう顔に出る胡桃に、男のため息混じりの言葉が飛ぶ。

 

「だから突拍子もないって言ったろ。最初から順番に話すから、途中で話の腰を折らないでくれよ」

 

 まぁ座ってくれ、そう言って男はその場に胡座をかき、胡桃にも楽にするように促した。

 

 

 

「数年前、俺は日本で大学生をやっていたんだ。そしてこれが当時の俺の免許証、大分顔つきが変わってしまったけど面影はあるだろう?」

 

 男はジャケットの内ポケットから、くたびれた二つ折りの財布を取り出し、中からあちこち擦り切れた免許証を出して胡桃に手渡した。

 そこには、少し若い大学デビューにでも挑戦したのか、若干垢抜けた顔をした男の顔写真と名前、住所等が記されていた。

 

「亜森太郎○○県××市……、あんた亜森太郎っていうんだ。そういえば名前聞いてないな」

「ああ、仲間内では"アモ"もしくは"アーモリー"って呼ばれてた。意味は日本語でいうところの弾薬や兵器工廠なんだが、亜森と音が似てるだろ」

 

 胡桃から免許証を返してもらいながら、語り出す。

 

「正確な日時は覚えていないが、ある時何の前触れも無く神隠しにあったんだ。気がついた時には、核戦争で文明が崩壊して約210年ほど経た、かつてアメリカのボストンと呼ばれていたコモンウェルス・ウェイストランド――住民は単にコモンウェルス、日本語で連邦と呼んでいた土地にある、戦前の核シェルター入り口に倒れていたんだ」

 

 亜森は記憶を手繰り寄せながら、ポツポツと話を続けた。

 

「そこで俺を助けてくれた恩人と出会ったんだが、彼は凄く驚いたらしかったよ。俺が倒れていた場所が、ちょうどシェルターと地上を繋ぐエレベーターの床だったもんだから、外に出ようとしたら変に身綺麗なアジア系がエレベーターに共に気を失った状態で現れるんだ。持っていた拳銃で頭を撃ってしまうか、警棒で殴り飛ばすか暫く考え込んだって言ってたな」

 

 その時の様子を思い出したのか、亜森は口角を少し上げた。

 

「それで、まあなんやかんやあって彼に助けられた俺は、他に行く所もなければ頼れる人もいなかったものだから、彼について廻って彼の目的の助けに成ろうとした」

 

 風に舞ってきたのか、足元に落ちていた落ち葉を手慰みにして、亜森は過去の失敗の記憶を話す。

 

「認識が甘すぎたんだよな。武器の扱いもろくに知らなければ、大して体を鍛えた事もない一般ピープルな日本人が、ウェイストランドの厳しい環境で他人の役に立つはずもなかったんだ。結局、彼の善意に甘えてただけだったんだなあ。

 俺自身が使い物になるまで、彼は根気良く世話してくれた。寝床や食料、武器の扱い方、交渉のやり方まで、あらゆる生きる術を教えてくれた」

 

 一度言葉を切った亜森は、深く息を吸い込み真一文字に結んだ口を重く開いた。

 

「結局、彼についていけるようになった時には、彼はミニッツメンで将軍と呼ばれる存在になっていたけれど」

「……そのミニッツメンていうのは何なんだ? 何度かあんた自身のことを語るとき出てきたけど」

 

 胡桃からすれば当然の疑問に、亜森は顎に手をやり答える。

 

「ミニッツメンというのは、すごく簡単に説明すると"自警団"と"民兵"が合わさったような組織のことを言うんだが。連邦には警察なんてものは存在しなくてね、自分たちの身は自分たちで守るのが当たり前な土地なんだ。

 基本的に連邦の善良な住民の味方なんだが、彼がミニッツメンに参加した時にミニッツメンを名乗り活動していたのは一人だけという有様だった」

 

 まぁ仕方のない事ではあったんだがな、そうこぼす亜森に胡桃は静かに続きを待った。

 

「以前は結構大きな組織で住民にも頼りにされていたんだが、ある事件によって信用を失ってしまった。俺が恩人である彼について回るようになった頃は、少しづつ持ち直している段階だった。

 いろんな活動をしたよ。レイダー……所謂無法者集団のことなんだが、レイダーに住民が誘拐されたら助けに行ったし、スーパーミュータントという緑色をした筋骨隆々の巨漢を倒しにも行った。ガンナーと名乗る傭兵集団とはいつも撃ち合いに発展したし、フェラルグールという正気を失った人間の成れの果ての掃討を頼まれたこともあった」

 

 そういえばと、顔を胡桃に向け、ジェスチャーを交えながら思い出を語った。

 

「ある時は、核戦争前の遊園地を拠点としたレイダーを掃討したこともあったし、カルト集団をその教義に殉じさせたこともあったんだぜ? あれは特に大仕事だった。

 

 

 将軍になった彼には、ミニッツメンの活動とは別の目的があって、常にミニッツメンでいることは出来なくてね。そんな時は俺が、将軍の代わりにミニッツメンとして活動するようにしてた」

 

 その目的が何なのかまでは、胡桃に説明は無かった。

 

「将軍にとって、そっちの目的のほうがミニッツメンより大事だったんだ。でも、ミニッツメンの役職も放り出せなかった。だから、将軍の代わりに俺が動くことで恩人から受けた恩を返せると思ったんだ。同等の仕事を果たせたとは思えなかったけど、少しは役に立てたんじゃないかな」

 

 手慰みにしていた落ち葉を弾き、腕を組んだまま視線を上に向けた。

 亜森はほんの数秒で視線を戻し、続きを話す。

 

「そんなことを続けている内に、彼には仲間が出来ていった。やたらと風船ガムをくれる記者に、シンスと呼ばれていた人造人間の探偵、200年以上稼働し続けていた生化学と医療の分野に精通したロボット、闘技場でくすぶっていた薬物中毒の女性闘士、元ガンナーの傭兵、探偵の依頼で同行したある島で遭遇した老年の狩人、殺されたキャラバンの復讐に邁進するロボット、他にも大なり小なり色々と彼に協力的な人物。ほんとに様々な人々に信頼されていた」

 

 亜森は、特に印象に残っている仲間たちを指折り数えていったが、途中で諦めたようだった。胡桃は、亜森の表情が柔らかくなっていくように感じた。

 

「……あんたもその中の一人なんだろ? "アモ"」

 

 胡桃は、一先ず細かい疑問を脇においておく事にした様だった。

 嘗ての呼び名で呼ばれた事で、仲間たちとの情景を思い出したのか亜森は少し顔を綻ばせる。

 

「……そう呼ばれるのは久しぶりだよ。

 

 

 ……ま、色々やってる内に神隠しにあって既に数年が経過していた。そのころには将軍の個人的な"目的"というのにも終りが見え始めてたんだ。本人が望んだ終着点では決してなかったけれど、将軍なりに心の整理はついてたんだろうと思う。

 時を同じくして、俺自身も自分の限界が来てると感じてた。肉体的、物質的な意味での限界じゃなくて精神的な意味での限界だ。

 結局のところ、日本人には過酷過ぎたんだよ。ウェイストランドは」

 

 深く息を吐き出し、黙り込む。視線は宙空を睨んだまま、暫くして絞り出す様に話を続けた。

 

「だから……、最後の最後に、核融合炉の爆破と共に連邦と、そしてクソったれな現実とさよならするつもりだった」

「ちょっと待てよ、そしたら何か? アモは一度死んでるってのか?」

 

 そんな馬鹿な話があるかってんだ、胡桃の顔にはそう書いてあるようだった。

 

「俺もそう思っていたんだがなぁ、何の因果か、こうやって元の日本に舞い戻ってしまったわけだ。最期の瞬間のまま、な」

「それで、銃やら何やらを持ってるってワケ? あんたよりガキだからって馬鹿にしてんのかっ!?」

 

 嘘はつくなと言ったはずだと、胡桃はまくし立てたが、亜森はあまり気にしていないように答えた。

 

「だから最初に言っただろう、"かなり突拍子もない内容を話すことになる"ってよ」

「……それを信じろって?」

 

 問い詰める事を止めた胡桃は、改めて亜森の目を睨みつける。

 視線をただ受け止めた亜森は、淡々と言葉にして返した。

 

「全部が全部信じてくれとは言わないさ。ただ俺が真剣にやってきたことを、仲間たちとやってきたことを否定されるのは、面白くはないってだけだ」

「……、わかったよ。あんたがアメリカでドンパチして帰ってきたってことは信じる」

「それで、十分だ」

 

 自分の中で亜森の話と折合いをつけたのか、よしと一つ頷いた胡桃は徐に立ち上がり、スカートについたホコリをはたき落とす。

 そして悠里と由紀がいる休憩室を顎でしゃくり、亜森にもう戻ろうと告げた。

 

「じゃあさっさと戻ろうぜ。二人が退屈してるかも知んないだろ」

 

 それに倣うように亜森も立ち上がり、胡桃の後に続く。

 

「ああ、二人に対する説明は君に任せる。全部話してもいいし、濁して伝えてもいい」

「全部は言えないよ、あたしだって信じきれてないのに」

 

 亜森の言に呆れた様子の胡桃は、後ろにいる亜森に振り向き答えた。

 

「それでいいさ、信用と信頼には時間と行動が必要だから」

「少なくともあたしからは悪人には見えないし、ま、あの2人も大丈夫だって」

 

 何とかなるだろ、そう最初の頃より綻んだ顔を見せる胡桃に、亜森は少しは信用されたかなと思い言葉を呟いた。

 

「そうであることを願ってるよ」

 




彼・恩人・将軍いずれもFallout4における、多くのプレイヤーの化身たるVault居住者のこと。
この物語では、ミニッツメンルートでメインクエストを終えたネイト(男性主人公)を採用している。
本文で言及しているように、オリキャラの亜森はそのネイトに金魚のフンの如く付き従った設定。
DLCを全てクリアしているプレイヤーには察しがついているだろうが、ネイトは監督官として敏腕を振るい、ロボット軍団を破壊して周り、キャプテンズダンスを終えアトム信者達を光に還らせ、ヌカワールドで皆殺しルートを選んだ、剛の者。
つまり、ネイトはプレイヤーが育て上げたステータスの持ち主で、それらが描写されるまではシュレディンガーの設定としている。
それについて回った亜森も、それ相応に成長したという本編では描写があまりない設定を持つ。
なお、亜森はどうやってもlady killerのPerkは取得できなかった模様。


・恵飛須沢胡桃
がっこうぐらし!におけるイケメンヒーロー枠。
突然現れた、年上でガタイのいい銃を所持した不審な男にシャベル一本で立ち向かえる気概を持つ、くそ度胸の持ち主。
"将来の夢はお嫁さん"と答える乙女でもある。ただしシャベルを持っている。
制服にチョーカーをあわせるセンスの持ち主であるが、ガーターベルトを常用している後輩の女子高生がいることを考えれば、大した事はなかった。

・若狭悠里
セクシー癒し系お姉さん担当の女子高生。
家計簿をつけており、来週のことまでなら見通せる頭脳の持ち主。でも来月のことは勘弁な!

・丈槍由紀
天然ゆるオーラ担当の女子高生。
帽子の角がどうなっているかは、誰も触れない禁忌でもある。
思いつきで仲間たちを楽しませようとするガヤ勢属性の持ち主だが、その思いつきが突破口と成ることも?

・佐倉慈
めぐねえと生徒たちに慕われる、若さが武器の国語教師で学園生活部顧問。
現在は学校地下の、秘密倉庫の警備員にジョブチェンジ中。

・直樹美紀
ガーターベルト系女子高生というパワーワードの体現者。
それで文学少女というのは、ちょっと属性盛り過ぎじゃないだろうか。
君の出番はもうちょっと先なんじゃ。

・太郎丸
作者の参考資料が主にコミックスなために、出番がボッシュートされたマスコット犬。
回想シーンに出番があればいいなと、作者は思っている。

・手紙
RPGでいう貴重品枠。
コミックスでは佐倉慈を除いた3人、アニメでは5人で描かれていたが、この物語では直樹美紀を除いた4人が描かれていた設定。
今後の出番は恐らく無い。

次話について
予定は未定である。

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