がっこうぐらし with ローンワンダラー   作:ナツイロ

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書いては消し書いては消しを繰り返して早一ヶ月と三週間、ゆっくりしすぎて申し訳ないです。
このイベントは長くなりそうなので、前後編に分けます。


第21話 学園祭と生存者捜索ヘリ 前編

 

「りーさん、聞こえますかー?」

『聞こえるわ、そっちの準備は大丈夫かしら?」

 

 学園祭の当日、それぞれが自分の持ち場についた学園生活部。

 由紀と胡桃の二人は、放送室の前の廊下で最後の確認を行っていた。

 放送室の機材とリンクしているヘッドセットを頭に装着している由紀は、耳元から聞こえてくる悠里の言葉に満足そうに頷きながら、開始の合図を待っている。

 

「ゆき、もう良いかー?」

「あ、くるみちゃん。ちょっと待って」

 

 撮影機材として地下倉庫から見つけ出していたポラロイドカメラを、胡桃は廊下に膝をつきながら構えて、由紀の合図を待つ。

 

「りーさん、いつでもいいよ!」

『それじゃ、いくわよ。3、2、1……はい!』

「こんにちはっ! こちらGSH、学園・生活部・放送局、丈槍由紀です」

 

 挨拶の言葉を皮切りに、電源の入っていないマイクを片手に持ち、ラジオ放送を開始した。

 胡桃の構えるポラロイドカメラのファインダー越しにも、やたら大きな身振り手振りで学園生活部の説明を始める由紀の姿がある。

 

(放っといたら、いつまでも話してそうだな……)

 

 楽しそうに学園生活部と学園祭の準備について語る由紀を見て、胡桃はそのような感想を抱く。

 楽しいのは構わないが、ここで話すだけが学園祭ではないのだ。

 早いところ次に向かわないと、後ろの予定がつかえてくる。

 もう一度ポラロイドカメラのファインダーを覗いた胡桃は、由紀の独り語りを制するように名前を呼ぶ。

 

「ゆきー、こっちこっち」

「あ、はーい」

 

 ポラロイドカメラを構えた胡桃の姿を目にした由紀は、彼女の意図に察しがついたらしく、指を立てながらマイクを手に持ち、本人は可愛らしいと思っているポーズを取る。

 その少しばかり滑稽さを醸し出す由紀の姿に、胡桃の口角が持ち上がるが自分の仕事を果たそうと、ファインダーに由紀の上半身を捉えシャッターボタンを押した。

 シャッターの作動音を響かせ、ジジジと写真が排出されていく。

 

「キレイに撮れた?」

「もうちょっと待てよ、すぐに分かる」

 

 胡桃は白いままの写真を指で挟み、由紀と二人して色が変わっていく様子を見守った。

 白い紙片がじんわりと色彩に彩られ、奇妙なポーズを取る由紀が現れる。

 

「わぁ、可愛く撮れた!」

「フィルムはまだまだあるから、そろそろ次に行こうぜ。りーさんも、待ちくたびれそうだしさ」

「うん! それじゃ、次いってみよー」

 

 写真をポケットにしまい込むと、由紀は胡桃を連れ立って悠里が待機している放送室へと向かっていくのだった。

 

 

 

「学園生活部は学園に泊まる代わりに、様々な部活や委員会のお仕事を手伝っています。例えばここ、放送室!」

 

 放送室の扉の前で一旦立ち止まると、由紀はカメラ目線を意識しつつマイク片手に紹介を始め、扉を開ける。

 

「失礼しまーす。放送部の皆さんは、いつも放課後にナイスな音楽を流したり、連続ドラマにも挑戦しています」

 

 ぐるりと室内を見回しながら、由紀には見えている幻覚の放送部員を紹介していく。

 胡桃の視界には、パイプ椅子に座り機材の前にいる悠里しか見えないが、今更指摘するようなこともない。

 由紀の部員紹介が一段落したところで、由紀と同じヘッドセットを装着した悠里に話題が移る。

 

「――今日は、その放送部の設備をお借りして放送してます。りーさん、こんにちはー」

「こんにちは」

「あ、りーさんというのは私達の部長です。電波の調子はどうですかー?」

「順調かな?」

「よかったー、それじゃまた後で!」

 

 問題なしと返事が来たところで、由紀はうんうんと頷いて次の活動紹介場所へと向かった。

 

 

 

「さて! 次は図書館です。学園生活部は、図書委員会のお手伝いもしてるんですよー」

 

 校舎二階に降りてきた二人は、薄暗い図書室へとやってきた。

 基本的に校舎内は節電のために、三階以外は必要がない限り照明のスイッチを入れないようにしている。

 それに、光の刺激にゾンビが引き寄せられないようにするため、全てのカーテンを閉めていた。

 亜森と直樹が学校にやってきてバリケードを築いた後でも、その習慣は変わらない。

 

「ここが人気スポットの漫画コーナーで、新刊は……まだ入ってないですね。次は――」

 

 入ってすぐの漫画コーナーを皮切りに、歴史や文学など図書館には欠かせない分野を取り敢えずといった表情で説明していく。

 しかし由紀には興味が湧くようなものは無いらしく、適当に流し廊下に出る。

 

「勉強の本ばっかりですね。次、行きましょう」

「おいおい、そんなんでいいのかよ」

 

 そんな由紀の様子に呆れつつも、胡桃はポラロイドカメラ片手に後ろに続いた。

 

 

 

「さぁここが! 学園生活部の部室です」

 

 幾つか校舎内を回った後、由紀と胡桃の二人は学園生活部の主な活動場所である部室兼生徒会室へと辿り着く。

 由紀の威勢の良い声と共に、部室の扉が開かれた。

 

「皆さん、こんにち……は?」

 

 足を踏み入れた二人は、声を失った。

 部室内は由紀と美紀が準備していたポスターや、悠里が調理した手作りクッキーが模擬店の商品としてテーブルに準備されている。

 その横には、何やら大きめのタオルに隠された細長い代物も。

 テーブルには店員役なのだろう美紀が一人、気まずそうな顔をしてパイプ椅子に座っている。

 では何が問題なのかというと、その美紀の横で佇んでいる不審な格好をした亜森のせいだった。

 

 上から、金属製を思わせる黒塗りのヘルメットに特徴的な装飾のフェイスカバー、肩には刺々しい突起を連ねた肩当て、ノースリーブの革ジャン、シャツは身につけていないらしく胸部から腹部にかけて七つの傷跡が油性ペンで持って北斗七星を形作っている。

 着古されたジーンズの上からは、くたびれた様子の革製の脛当てが装着されていた。

 腰のベルトにはホルスターが装着されており、銃身とストックを切り詰めたダブルバレルショットガンが誇らしげに収まっている。

 

 いち早くフリーズ状態から復帰した胡桃は、事情を知ってそうな美紀に視線を送るが、美紀からは首を振られ頼りにならない。

 隣りにいる由紀に目をやっても同じように否定され、胡桃は仕方あるまいとため息をつき、おずおずと問題の亜森に対して質問を放った。

 

「……あー、アモ。それ、何なの?」

 

 腕組みをして得意気に佇んでいた亜森は、待っていましたとばかりに口を開く。

 その隣では、興味を失ったらしい由紀が美紀の側に寄っていき、マイク片手に何やら会話している。

 胡桃としてもそちらに加わりたかったが、亜森を放っておくのも可哀想だと、彼の言葉に耳を傾けた。

 

「学園祭と聞いて」

「うん、それで?」

「俺も何か、やってみたいなと思った次第」

「その結果がこれなわけ?」

「ジャ○様のコスプレ、格好いいだろう」

 

 胡桃の質問にふふんと鼻を鳴らし、自慢げに語り始めた。

 

「は? ○ャギ様?」

「世紀末救世主伝説、知らないか? 少し前の漫画なんだけど」

「いや、有名だから知ってるけどさ……。主人公じゃダメだったの?」

「このヘルメットが好きなんだ」

 

 左様ですかと、その熱く語る亜森の姿に若干引き気味の胡桃であったが、楽しんでいる所に水を差すこともないと思い、ポラロイドカメラを構えてみせる。

 

「おっと、格好良く頼む」

 

 ホルスターからショットガンを引き抜いた亜森は、銃身に収まっていたショットシェルを取り除きポケットに仕舞うと、まるで棍棒でも扱うように銃を両手で保持してみせた。

 恐らく亜森なりの格好いいポーズなのだろうと、胡桃はその様子に苦笑しつつ彼の姿をレンズに収めていく。

 

「素材がイマイチじゃなー」

「そこは腕でカバーしてくれ」

「無茶を言うなよ……、はいチーズ」

 

 フラッシュが亜森を照らすと、ジィーとフィルムが吐き出される。

 胡桃はそれを取り出して、どんな具合か気になり覗き込む亜森へと差し出した。

 

「ほら、少し待てば……。出てきた」

「おぉー、これは貰っても?」

「ゆきが、卒アル作るんだーって言ってたからどうだろ」

「そういうことなら仕方ないな」

 

 後で渡しておいてくれと、胡桃にフィルムを手渡した。

 受け取ったフィルムを制服のポケットに仕舞い込みつつ、胡桃は中庭で制作していた炭焼き窯の進捗状況について話を振ってみた。

 制作を開始して一週間程経ち、当初の予定ではそろそろ完成の時期に近いはずで、胡桃としてもどうせならと炭焼き作業に参加するつもりであったのだ。

 日々、農作業や校内の見回り、トレーニング、校外探索etc……。

 どれも今の生活を続けていく上で必要な事柄であるが、そろそろそのルーチンワーク化しつつある日常に変化が欲しいのも、嘘偽りのない本音なのだ。

 

「本当は今日にも試しにやってみようと思ってたんだけど、学園祭だしな。明日でもいいさ」

「じゃあ、明日の朝食の後?」

「あぁ、薪だって運び出さなきゃならないし。冷却時間を考えると、明日と明後日ぐらいはかかるかも」

「良いんじゃないの? まずは一回成功させなきゃ」

 

 それもそうだなと亜森は相槌を打ちながら、テーブルの上に置かれタオルに隠された何かについて聞いてみる。

 美紀が座る側にはクッキーが置かれていることを考えると、こちらの何かは亜森が持ち出してきたものだろう。

 何なのそれと指差す胡桃に、亜森もよくぞ聞いてくれましたという表情で答えていく。

 

「ついに完成したんだ、アレが」

 

 アレと言いながらタオルの端をつまみ上げ、その何かを露わにする。

 現れたのは亜森が以前から空き時間を利用して制作していた、パチンコ玉等の鋼球を空気圧で撃ち出すエアライフルだった。

 胡桃が興じていたFPSゲームに登場するハンドメイドのエアライフルを参考にしたそれは、空気を圧縮する手動ポンプを銃身下に配置しエアタンクをストックに固定した姿は、まさにテレビ画面で見たエアライフルに瓜二つ。

 細々とした部品や給弾機構、圧力計など。

 配置こそ同じではないが、全体的なデザインはオリジナルのそれを踏襲している。

 

「おぉー、これって……完成したんだ」

「うん。五十メートル以内なら、威力を落とさずに標的に当てられるようにするのは苦労したよ」

 

 やはりホームセンターに遠征したのは正解だったなと、製作中の試行錯誤を思い返しながら満足そうに頷いている。

 

「これ、触っても?」

「もちろんだ、試しに使ってみようぜ。弾は既に用意してあるから、後は空気を貯めるだけだ」

 

 亜森がエアライフルを手に取ると、窓際に近寄り窓を開けた。

 隣に立つ胡桃に、使い方を説明しながら手渡す。

 

「マガジンはこれな、細長いヤツ」

「まんまゲームのと一緒じゃん」

「一つのマガジンで十発、空気が満タンの時はマガジン二つまで連続して撃てるぞ」

「でもっ、空気っ……入れるのっ。結構っ……力がっ」

「そこは我慢してくれ」

 

 胡桃は両腕に力を込めながら、手動ポンプを何度も押し込み空気をタンクへと送り込む。

 

「ここの圧力計の、赤いところまで続けてくれ。緑は射撃出来るけど、まだまだ大丈夫。白い部分は、撃っても威力が期待できないラインな」

「了っ……解ぃ」

 

 圧力計の針が白から緑、赤へと振れていったところで、胡桃はようやく力を抜いた。

 その後、マガジンの着脱や安全装置の掛け方を教わった胡桃は、窓の外に見える雑木林に視線を向け、適当な木の幹に狙いを定めてみる。

 

「そんなに倍率が高くないんだな、このスコープ」

 

 覗き込むスコープ越しの目標を見て、胡桃は二倍から三倍程度に拡大された木の幹にそのような感想を持つ。

 拡大されるまでは分からなかったが、目標の木は先日、薪を確保するために枝を落とした木のようで、手が届く程度の高さに切り落とされた枝の節が見えていた。

 

「遠くまでハッキリ見えても、どうせ弾がブレていって当たらないしな。そのスコープで狙えない距離の目標は、まず当たらないと思ってくれ」

「ふうん……、撃ってみていい?」

「いつでもどうぞ」

 

 用意していたらしい双眼鏡を覗き込んだ亜森は、目標がどれかを聞いた後、胡桃の準備が整うのを静かに待った。

 一呼吸おいた胡桃。

 ゆらゆらと揺れる十字のレクティルを目標に合わせ、呼吸を止める。

 ややくぐもった気体の抜ける音が聞こえ、飛び出した鋼球は狙いを定めた目標の僅かに下に逸れた。

 着弾点の幹表面が小さく爆ぜ、下に隠れていた明るい色彩が現れる。

 どうやら鋼球がめり込んでしまったようで、パチンコ玉サイズの穴が双眼鏡越しの亜森の目にも映っていた。

 

「お見事、ど真ん中じゃないか?」

「いや、ちょっと下に逸れちゃった」

 

 安全装置を掛け、構えた姿勢を解く胡桃は、若干悔しさを滲ませながらひとりごちる。

 

「ここが校舎の三階だからかな?」

「それもあるかもしれないが……、スコープを調整してみよう」

 

 二人してあれやこれやと意見を交わしながら、エアライフルを弄り回していたその時だった。

 

『ゆきちゃんっ、大変っ!』

「えっ、何? りーさん?」

『えっとその――。亜森さんに代わって!」

 

 ただならぬ様子の声色に困惑を覚えながらも、由紀は悠里の言葉に従い、亜森にヘッドセットを手渡した。

 由紀の様子に不穏な空気を感じ取ったのか、側にいた胡桃と美紀も疑問を抱きつつも成り行きを見守っている。

 

「丈槍どうした、何かあったのか?」

「りーさんが、亜森さんに代わってって。すごく慌ててた」

 

 受け取ったヘッドセットを装着しながら、亜森はマイクに向かって呼びかけた。

 

「若狭、亜森だ。何があった?」

『あのっ、ラジオからノイズが出ててっ。チャンネルを変えていたら、声が聞こえてきたんです!』

 

(ノイズに声、だって? それはつまり……、近くに高出力の電波を発信させている者がいる!?)

 

「丈槍や俺達の声じゃないんだな?」

『確かに違う人の声でしたっ。"生存者を捜索中"って言ってますっ!!』

「分かった、そこにいてくれ。直ぐにそっちに行く」

『急いでくださいっ』

 

 ヘッドセットを外した亜森は、困惑顔の由紀にそれを返しながら、説明している時間が惜しいと強い口調で指示を出していく。

 

「丈槍、直ぐに若狭の所に行ってくれ。大至急だ」

「ら、らじゃー!」

 

 あまり見せない真面目な顔をした亜森の様子に、由紀は疑問を返すことなく悠里のいる放送室へと向かっていった。

 

「直樹。何か白い旗になりそうな物を見つけて、君も放送室に」

「分かりました……、旗は見たこと無いのでタオルとかで良いですか?」

「十分だ、よろしく頼む」

 

 美紀は了解したと大きく頷き、シャワー室へと駆け出していく。

 その姿を見送った胡桃は、取り敢えず自分の指示は何か聞こうと亜森に顔を向ける。

 

「それで、あたしは?」

「恵飛須沢は俺と来てくれ……、銃が必要になるかもしれん」

「何だってっ!? 一体なにが……」

 

 ツカツカと廊下を早足で進む亜森の横につきながら、胡桃は詳しいことを把握していないにしても何か重大なことが起きつつあると感じていた。

 

「若狭が言うには、ラジオにノイズが走って声が聞こえたんだそうだ。生存者を探しているらしい」

 

 亜森は自身の寝室兼作業部屋としている教室に入ると、いつも校外探索で使用している装備を身に着け始め、胡桃にも装備するように促す。

 

「アモは、その誰かさんがあたし達を助けに来たんじゃないって思ってる?」

「分からない。ただ、こんな世の中で見知らぬ他人がお上品だとは期待してないな」

 

 言葉こそ疑問形であるが、胡桃は殆ど確信をもって亜森に尋ねる。

 亜森は断言こそしなかったものの、ほぼ間違いなく問題が起きると考えているようだった。

 

「アモ……、助けだったら受け入れる。だよな?」

「あぁ、もちろんだ」

 

 一際大きい.50口径ライフルにマガジンを差し込み、スリングを肩にかけた。

 電波を発信しながら近付いているのなら、徒歩での接近は考えにくく、何らかの移動車両に乗っている可能性が高い。

 外の惨状を考慮すれば、装甲車の類いとて十分にあり得るだろう。

 拳銃弾を使用するパイプライフルや10mmピストルでは、威力の点で効果が無い恐れもある。

 もちろん、杞憂に終わることに越したことは無いのだが。

 亜森は胡桃の問いに肯定の言葉を返しながら、最悪の一歩手前ぐらいはあるかもなと、悲観的な考えが頭を巡っていた。

 

「準備はいいか?」

「シャベルも銃もある、問題ないよ」

 

 胡桃の返事に了解したと頷いて、亜森と胡桃の二人は皆のいる放送室へと向かった。

 

 

 

 放送室の扉を開けると、機材の前でヘッドセットに耳を傾けている悠里と、その脇で心配そうな様子で見守っている由紀と美紀の姿があった。

 二人が入ってきた姿に気が付いた美紀は、手に持っていた白いタオルをそれぞれに手渡す。

 

「小さいかもですけど、人数分ありましたので」

「助かるよ。あとは屋上で目立つように振り回そう」

「あぁ、なるほど。手を降ってるだけじゃ、あいつらと見間違えられるかもしれませんしね」

「俺が悪意ある隣人なら、疑わしきは撃つしな」

 

 それは極端すぎませんかねと、美紀は思わないでもなかったが、一番場馴れした亜森が言うのだからその可能性は低くないのだろう。

 フル装備の亜森と胡桃の姿を見る限り、対策は講じているのだろうが、出来れば穏便に事が進むことを祈っていた。

 

「りーさん、様子はどう? 応答はあった?」

 

 亜森と美紀の側を離れた胡桃は、機材の前でパイプ椅子に座っている悠里の隣に寄り、声の主の様子を尋ねた。

 肩に添えられた胡桃の手に気が付いた悠里は、その言葉に首を振って否定する。

 

「だめね、返事は無いわ。同じセリフの繰り返しで、ノイズ混じりだし……」

「こっちのラジオが、向こうに聞こえていないのかな?」

 

 胡桃は一先ず思い付いた応答がない原因を挙げてみたが、これといった確信もなかった。

 悠里も顎に手を当て考え込んでいるものの、突然の事態でもあり、やや混乱している頭では理由など思い浮かばない。

 

「若狭、今も応答は無しか?」

 

 最終確認をするかのように、亜森の言葉が続く。

 悠里は後ろにいる亜森の方へ顔を向けるが、その表情は芳しくなく静かに首を振るだけだった。

 その様子で察しがついた亜森は、皆の顔を見渡すと屋上へ行こうと促した。

 何はともあれ、相手を確認しないことには始まらない。

 

「若狭、ヘッドセット同士で、やり取りは出来るんだったな?」

「えぇ、はい。今もゆきちゃんのと繋がってます」

 

 ヘッドセットの機能について改めて確認した亜森は、二人にそれを身につけたままでいるように頼んだ。

 

「必要になるか分からないけど、校内であればかろうじて連絡が取り合えるはずだ。離れ離れになった時にはな」

「そういうことがあるかもしれない、ということですか?」

「可能性はある」

 

 亜森の意見に不安を感じる悠里であったが、否定されること無く返される。

 不安は払拭されないが、仕方ない。

 対策が取れるだけラッキーと考えるしかなかった悠里は、おずおずといった様子でコクリと頷き、ヘッドセットを首に掛ける。

 隣に寄っていた由紀も、悠里と同じように頭に装着していたヘッドセットを首に掛けた。

 

「よし、それじゃ屋上行こうぜ。声の正体を確かめないとな!」

 

 準備が整った様子を見ていた胡桃の、どんよりとした不安をかき消すような明るい声が放送室に響く。

 胡桃のさっさと行こうという目配せを受けた亜森は、そうだなと返事を返す。

 他の皆にも了解の返事を受けたところで、亜森を先頭に屋上に続く階段を目指すのだった。

 

 

 

 屋上の扉を開けた時には、既に問題の声の正体はすぐそこまで迫っていた。

 

 ヘリだ。

 

 

 





・学園祭
研究発表会的なアレと、学校の案内レポート。
ヘッドセットはどういう理屈で放送機材とつながっているのだろう。
コミックでポラロイドカメラを取り出したダンボール箱に、トランシーバー的な物が見えたのでそれのオプションパーツだったりするのかだろうか。
それとも学校のラジオ機材と繋がっている特注のヘッドセットか?
ありそうなのはテレビ局が使っているような音声マイクのシステム。値段高そう。
考えても収集がつかないので、ここでは亜森がなんやかんやして、上手いことラジオ機材と繋げたことに……。

・ジャ○様コスチュームとメトロなアレ
空いた時間を利用して作り上げたコスプレ衣装。
Fallout4では誰でも○ャギ様になれますっ!
さぁ皆、MODを入れてサードレールに行こう!(ダイマ
メトロなアレ、いわゆる鋼球を圧縮空気で撃ち出すエアライフル、ぶっちゃけティハール。
ようやく完成したらしく、少し自慢げなのがムカつくとは、胡桃の談。
ちなみに作者が好きなメトロの武器は、フルカスタムしたオートマチックピストルのローライフ、エアライフルのティハール、ブルボンのAKとVSV、オートマチックショットガンのサイガ。

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