がっこうぐらし with ローンワンダラー   作:ナツイロ

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遅くなりました、こちらが後編になります。


第25話 これで君もガンランナー! サブマシンガン改造 後編

 

「いい感じに、炭が赤くなってきたな」

「そろそろ入れても良いんじゃない?」

 

 七輪と耐火煉瓦を組み合わせた加熱炉をチラリと覗き込みながら、亜森と胡桃はアルミ片を投入するタイミングを伺っていた。

 遠征と学園生活部の看板の木型を作り終えた次の日、皆は揃って屋上の作業スペースへと集まっている。

 亜森はというと、大きな布製の前掛けや耐熱グローブなど、いかにもこれから高温の作業に従事せんといった服装で、それは隣で言葉を交わしている胡桃も似たような出で立ちであった。

 

「見てるだけでも暑いー」

「ホントねぇ……」

「持ってきたお茶、足りますかね」

 

 学園生活部の看板を担当する悠里達も、その場に集ってはいるのだが、話し合いの末彼女らの出番は最後の番。

 それまではこうして、胡桃達の作業を離れた位置で眺めて声援を送るぐらいしかない。

 昨日に引き続き、天気にも恵まれたせいで雲ひとつ無い晴天でもある。

 テントの日陰で団扇を扇ぐのも、致し方ない事情である。

 

「どうしたんだ、皆? 元気ないぞ、昨日は俺より早く寝ただろ?」

「だってぇ、アモさん。こんなに天気が良くて、暑い上にそれやってたら……ねぇ?」

「んー、楽しいんだけどな」

 

 この健康優良不良青年め、そう言いたげなジト目を向ける彼女達を尻目に、亜森は早々と加熱炉の元に戻った。

 加熱炉の傍らでは、胡桃がるつぼとなる元は消火器だった鋼製の容器に、昨日遠征で集めたアルミを入れていた。

 元々は自動車のアルミ製タイヤホイールで、始める前に亜森が工具で拳大程度のアルミ片に切断し、用意していたものだった。

 他にも、校内や近所の自動販売機に併設されたゴミ箱よりアルミ缶を回収してもいるのだが、それの投入は最後の方に回すらしい。

 

「アモ、こっちのアルミ缶は使わねーの? せっかく集めたのにさ」

「あぁ、それね。表面に色々印刷とかしてるだろ? その辺も原因だろうけど、結構不純物が出るんだよ。だから、初めの内はなるだけ綺麗な材料を使いたくてな」

「ふうん、そういうもんか」

「ま、色々試してみようぜ。時間はあるんだから」

 

 鋼製のるつぼにアルミ片を詰めた所で、先端でるつぼを引き上げられるように加工した金属パイプを使用し、赤熱する加熱炉内に静置した。

 側で待機していた胡桃が保温用の蓋をすると、蓋の中央に開いた丸い穴より薄く煙が吹き出てくるが、それも暫く経つとただの熱気へと変わる。

 

「ドライヤー、ちゃんと動いてる?」

「あぁ、ガンガン空気を送ってる。いい調子だ」

 

 加熱炉の下部に刺さる金属パイプの先には、送風にスイッチが入ったヘアドライヤーが固定されており、会話の間もその役割を淡々とこなしていた。

 

「胡桃、休憩ならしてきていいぞ。ある程度の量が溶けるまで、時間があるし」

「いや、まだ始まったばかりだし、別にいいよ。それよりさ、あの鋳型ってヤツ? たくさんあるけど、そんなに要るの?」

 

 鋳型と言葉にして、胡桃はそれらが用意してある方を指さした。

 本日の目的でもある亜森が用意した鋳型は、全部で六つほど準備されており、それぞれ間を空けて等間隔に置かれている。

 

「何か、微妙に色が違うし……。砂っぽいのと、白の……石膏みたいなヤツ」

「おぉ、正解。砂と石膏の鋳型を用意したんだ」

 

 亜森が言うには、これまで似たような鋳物を制作した経験はあるとのこと。

 しかし、経験があるといっても一発で成功した例はなく、いずれも複数回の試行錯誤の末、ようやくまともな物が制作できた。

 その経験から、亜森は予め複数の鋳型を用意しておき、ある程度の失敗を前提に今回のパーツ製造計画を立てたようだ。

 もう少し自分の経験とやらを信用しても良いのに。

 胡桃はそう思わないでもなかったが、まぁ経験者がそう語るのだ。

 ここは素直に頷いておこう。

 

「何で違う種類のを作ったの?」

 

 砂なら砂の鋳型、石膏なら石膏の鋳型、どちらか一種類で良いじゃないか。

 言外にそう伝えた胡桃に、亜森は戸惑うこと無く答えた。

 

「やってみたかったので」

「……は?」

「やってみたかったので」

「いや、聞こえてたから。何で二回言ったし」

 

 呆れる胡桃に構わず、どこか得意げな面持ちで製作中の苦労を語りだした。

 聞いてもいないのにと胡桃は溜め息を漏らすが、他に聞いてあげる人間もいないのを考えると、スルーするのも可哀想かもしれない。

 

「それでだな、四角い木枠の中にパーツの模型として作った木型を──」

「はいはい、全部聞いてあげるから。ゆっくり話せって」

「お、そうか? それじゃあ最初から──」

「続きからで」

「……続きからな」

 

 アチラコチラに脱線しながら亜森が話したことには、用意した鋳型は全部で三種類。

 石膏を使った物が一種類、砂を使ったものが二種類、それぞれに予備を用意したことで全部で六つ用意したらしい。

 石膏は特に作業工程が多かったらしく、もう二度とやりたくないと腕組みをしながら頷いている様子が、胡桃には印象的だった。

 

「砂の方は、どっちかというと簡単だった?」

「あぁ、こっちは何度か経験があるからな。それに、木型とは別に発泡スチロールを原型に用いた物を用意したし」

「発泡スチロール? それで、砂の鋳型は二種類ってわけね」

「そうなんだよ。木型だと原型を上下半分に割って、更にそれぞれ上型と下型の鋳型を用意しなきゃならなくて」

 

 饒舌に成りがちな亜森の話を簡潔にまとめるなら、発泡スチロールの原型を砂に埋め込み、その周囲を砂で突き固める。

 発泡スチロールなら溶融状態のアルミを流し込んだ時点で燃えて無くなり、その隙間にアルミが入り込む。

 その性質を利用して、鋳型制作の工程短縮を目論んだ。

 溶融アルミを注いだ後は、冷えて固まるまで待ち成功を祈りながら取り出すだけなのだと語る。

 

「ふうん。良く分からないけど、鋳型にアルミを流し込めばいいんだよな?」

「ま、まぁ、その認識は間違ってない」

 

 色々違うんだけどなぁと、理解されにくいポイントの説明はそこそこに、亜森は加熱炉の様子を眺める。

 蓋の丸い覗き穴とアルミ片投入口を兼ねる、丸い穴から中を覗く。

 鋼のるつぼの中に詰め込んでいたアルミ片が熱で溶け、その嵩を減らし、半分程度の高さに沈んでいた。

 湯の表面には、鋳型に注いで使うには適さない不純物が浮かんでいる。

 

「胡桃、見えるか? 溶けてきてるぞ」

「見えてるよ、浮かんでるゴツゴツしたヤツはどうすんの?」

「そいつは取り除く必要がある……これを使ってな」

 

 亜森が意味深な笑みを浮かべて取り出したのは、キッチンの引き出しに一つは入っていそうな『お玉』、ステンレス製である。

 胡桃には些か場違いな代物のように思われたが、当の亜森本人はこれが如何に便利な道具であるか、語りたそうな雰囲気すらあった。

 話しだすと長いんだよな。

 内心のため息を努めて漏らさず、胡桃は亜森の手に握られたお玉について、要点のみを尋ねた。

 

「それですくい取るのは分かったけどさ、何で穴が開いてるんだ?」

「取り除くのは、なるべく不純物だけにしたいからな。開いた穴から液体のアルミが抜けていくようにしたんだよ」

 

 完璧にって訳にはいかないがと言葉を続けながら、亜森は実際にやって見せる。

 蓋を取り外し、赤熱した加熱炉内部を露出させると、るつぼの内部にお玉を入れた。

 アルミの液面に浮かぶ、見た目は鈍銀色の軽石にも似た不純物の集合体を寄せ集め、あたかも水を切るような動作でるつぼから取り出していく。

 集めた不純物は足元のレンガに集め置いていくが、温度にして六百度を悠に超えるため、直接触れたレンガの部分は焼け焦げ小さく白煙を出した。

 何度か同じ動作を繰り返すと、るつぼ内部には綺麗な金属光沢を見せる液面が現れる。

 

「うわぁ、きれい……。だけど暑いね、流石に」

「そればっかりは仕方ないな、この作業に熱は付き物だから」

「ちょっとお茶取ってきていい?」

「いいぞ、俺のも頼めるか?」

「りょーかい」

 

 新たなアルミ片を投入していく亜森に背を向けて、胡桃は他の三人が待つテント内へと近付いて行った。

 テントで待つ三人はというと、待ちくたびれたのか由紀が持ち込んだらしいトランプに興じていた。

 

「なにしてんの? ババ抜き?」

「違うよ-、ジジ抜き」

 

 胡桃の問い掛けに美紀から一枚引いた由紀が答えるが、中々札が揃わないのかアチャーと残念そうに額に手を当てる。

 

「りーさん、お茶くれる? 大きいボトルので」

「ちょっと待ってね……はい、どうぞ」

「ありがと」

 

 一抜けしていた悠里が、クーラーボックスよりお茶を入れたペットボトルを取り出し、胡桃に差し出す。

 キャップを捻り、胡桃は一口含み喉を鳴らして飲み込むと、続けざまにもう一度ペットボトルを傾けていった。

 

「胡桃は休憩かしら?」

「ん、これ取りに来ただけ」

「そう、……あっちは上手くいってるの?」

 

 悠里がすっと視線を向けて、加熱炉の方を示す。

 

「今のところは、問題ないと思う。アルミも順調に溶けてきたし」

「なら、良かったわ」

 

 喉の渇きを癒した胡桃は、悠里の問い掛けに答えると彼女の隣に腰を下ろし、ふぅと一息ついた。

 

「テントの下でも暑いな、職員室あたりから扇風機でも持ってくるべきだったか」

「そんな暑い中、亜森さんは一人残ってるけど?」

「分かってるよ、りーさん。すぐに戻るって」

「りーさんの言う通りですよ、くるみ先輩? 亜森さんはくるみ先輩のために、暑い思いをしてるんですから」

 

 ジジ抜きが終わったのか、美紀が二人の話に入ってきた。

 由紀は結局最後まで手持ちの札が捨てられなかったらしく、一人で残ったトランプを揃えている。

 

「何だ、みき。そっちは終わったのか?」

「えぇ、ゆき先輩がブービーでした」

 

 胡桃としても美紀の言うことなど百も承知なのだが、それはそれとして今日の暑さは堪えるというものだ。

 

「まぁ、何ていうの? みきが言ってるのも、分かってるんだけどさ……」

「だけど?」

 

 言葉の続きを出し渋る胡桃を促すように、悠里が相槌を入れる。

 言い辛い内容なのだろう、胡桃は口元をもごもごさせた後、観念したように重い口を開いた

 

「いやね? アモが今やってることって、あたしが使う銃を軽くするためじゃん?」

「まぁ、そうね。そう聞いてるわ」

「あたしもさ、最近は訓練とか筋トレとかの成果が出てきてるし、銃の扱いにもそれなりに慣れてきたからさ」

「えぇ、初めの頃よりはかなり様になってるように見えますよ。素人目の私からでも」

「だから……、今更になって『もう大丈夫になったからやめようぜ?』なんて言えないなぁ、なんて」

 

 アハハとぎこちない笑みを浮かべる胡桃を前に、悠里と美紀の二人も何とも言えないような目線を向ける。

 

「……それ、本人に言っちゃ駄目よ」

「分かってるよ、言うわけないでしょ」

「ま、まぁ良いじゃないですか。くるみ先輩にとっては、悪いことじゃないんですし」

「そ、そうだよな」

 

 美紀の取って付けたようなフォローに同調しつつ、胡桃は後ろめたい気持ちを打ち払うように大きく頷いた。

 そうなのだ、プラスになりこそすれマイナスにはならない。

 そういう事にしておこうじゃないか。

 

「じゃ、あたしそろそろ戻るわ。皆はもう少し時間潰してて」

 

 お茶のボトルを片手に立ち上がった胡桃は、二人にそう告げた。

 

「そろそろですかね、溶けたアルミを型に流し込むの」

「そうだと思う。学園生活部の看板は最後にやるって言ってたから、皆の出番はもう少し先だけど」

「それまでは、もう一ゲームぐらいやってようかしらね」

「うん、準備が出来たら呼ぶよ」

 

 それじゃ後でと胡桃は言い残し、亜森の元へと歩んでいった。

 残された方の三人はというと、由紀がよく切ったカードを配り、再びゲームを開始する。

 

「私達の出番はもう少し先みたいだねー」

「えぇ、そうみたいね」

「はい。でもまぁ、亜森さんがやってるんですし、そんなに失敗は無いんじゃないですか?」

 

 楽観的な空気の中、亜森が加熱炉から取り出したるつぼを傾け、一度目の鋳込みを行う姿を横目に眺めながら、一人目がカードを引いた。

 

 

 

「……上手くやれた、つもりだったんだけどなぁ」

「し、仕方ないって。こういうこともあるよ!」

 

 鋳込み作業が終わった翌日。

 六つの鋳型と学園生活部の看板の鋳込みを終え、一晩置いて十分な冷却時間を取り、鋳型を壊して中身を取り出した亜森は、その成果に項垂れていた。

 成功品は二つだけ、それも木型と砂を使ったスタンダードなやり方で行ったものだけで、新しいやり方で臨んだ鋳型については、見るも無残な姿で作業場に転がっている。

 ガスが抜けきらず、いくつもの気泡が散在し前衛芸術になっているもの。

 石膏を用いた鋳型に至っては、鋳込み中にヒビが入ったようで、半分ほどのアルミが鋳型の外に流れ出た始末。

 ちなみに、学園生活部の看板は非の打ち所の無い仕上がりで、少し表面を磨いて塗装してやれば、十分実用性に足る出来栄えであった。

 

「やっぱり、慣れないことはするんじゃないな……」

「いや、でもほら。二つは成功してるじゃん? それに、失敗込みでやったんだから、上手くいった方だって。成功率三割三分! 野球の打率なら、十分な成績。契約更新が楽しみだねーこりゃ。なー、アモ?」

「……慰めはよしてくれ。それにスワッターには、どうも興味が持てなくて」

「すわったー? 何の話?」

「あぁ、いや。なんでもない」

 

 胡桃が優しく背中を叩いて慰めてみるものの、亜森にはどうやら響いていない様子。

 一度大きくため息を吐き出した亜森は、気持ちを切り替えようと成功品の二つを手に取り、じっくりと眺めた。

 小さなハンマーを片手に、取り出したばかりのアルミパーツのいたるところを小さく叩いていく。

 

「中に空洞はなさそうだ」

「ならオッケー?」

「あぁ。あとは寸法をきっちり測りながら削ったり穴を開けたりすれば、完成だよ」

 

 パーツの表面に残った細かい砂を、フゥッと吐息で吹き飛ばす。

 梨地にざらついたアルミパーツが、鈍い光を反射していた。

 

 

 

「オーライ、オーライ──はいっ、ストップ!」

『ストップ、りょーかい! いやぁ、みーくん。便利だね、これ』

「便利なのは知ってますよ。それじゃ、野菜の株、カゴから降ろしますんで少し休憩してて下さい」

『はいはーい、丈槍由紀、了解しました』

 

 屋上から電動ウインチで降ろされるカゴを見上げ、無線機を片手に持った美紀と胡桃は中庭に、そして由紀と悠里は屋上で操作盤の前にいた。

 アルミパーツの鋳込みから数日が過ぎ、亜森がそちらの加工作業に掛かりきりになっていた。

 その間、学園生活部は手持ち無沙汰になっていたかというと、むしろ忙しい日々を送っている。

 聖イシドロス大学への偵察が、計画段階で長期間を要するだろうと結論付けられたために、主に屋上菜園の管理を任されていた悠里より提案があったのだ。

 

 それは、長期間菜園の管理を放棄せざるを得ない状況になることを見越して、予め地面を掘り返し土を入れ替えておいた、元テニスコートだった農地に植え替えよう、というものだった。

 常に人の手が入る事を前提としていた屋上菜園と違い、ある程度放置状態でも生育可能と踏んだためだ。

 もちろん、その考えに確信があった訳ではないのだが、ほんの僅かなスペースの土に植えたまま放置するのと露地栽培のように植え替えるのでは、後者の方にまだ希望があるように、悠里には思えた。

 偵察中に収穫時期が重なったり、期間が伸びたりした場合でも、最悪種子の採取は可能だろう。

 この提案は亜森を含めた学園生活部全員の賛同を得られ、こうして実行に移されている。

 

「くるみ先輩、降ろすの手伝って下さいよ。あいつらだって敷地内にはいないんですから、見張りは必要ないでしょう?」

「分かってるけどさ、万が一ってのはあるだろ?」

「その万が一も、このあいだ燃え尽きちゃったじゃないですか」

「それもそうか……。で、カゴはあといくつあるんだ?」

 

 紐でくくったシャベルを背中に背負い、エアライフルを両手で抱えた胡桃が、美紀の言葉に降参すると自らも野菜の株をカゴから取り出し始めた。

 一旦屋上から降ろされた野菜の株は、薪拾いにも利用しているリヤカーに載せるだけ載せられた後、元テニスコートの畑へと運ばれ、植え替えられる。

 ここまで来ると、屋上で積み込みと電動ウインチを操作していた悠里達も胡桃達に合流し、一緒に作業することになる。

 

「細かいところは私がやるから、皆は種類ごとに分けて土に植えていってね」

 

 悠里から簡単な指示を出されると、それぞれ道具を持って畑の畝の間を移動していく。

 由紀は園芸用スコップを持って小さな穴を掘り、その隣では美紀が根っこに土がついたままの野菜の株を収めていった。

 悠里はというと、トマトの株用にポールを立てて茎に麻ひもを括り付ける作業に没頭していた。

 

(まぁ収穫可能なトマトは全部採っちゃったから、あとは種用になっちゃうかしら)

 

 来年以降の栽培計画を思い描きながら、ポールを立て続ける。

 亜森がホームセンターより持ち帰った物資の中には、もちろん野菜等の種子も含まれているが、自分達の手で増やしていけるのなら、それに越したことはなかった。

 胡桃はそんな悠里の隣で、トマト用の小さなビニールハウスセットを相手に格闘を続けていた。

 説明書を読み解いてもいまいち要領を得ず、取り敢えずパイプを組みた立ててビニールを被せればいいのだろうと、適当にパーツを組み上げていく。

 

「くるみ、分からないところがあったら聞いてね?」

「だいじょーぶだいじょーぶ……多分」

 

 自信なさそうな声色にふふふっと笑みを浮かべ、悠里は作業を続けた。

 しばらくすると、自身の担当を終えた悠里が胡桃を手伝いはじめる。

 あれやこれやと会話しながら作業していると、次第に話題は数日前から続く亜森のアルミ加工の話に移っていった。

 

「あれ、どうなったの? もう完成したのかしら」

「出てくる時少し覗いてみたけど、何か色々やってたよ。もう二・三日はかかるんじゃない? 確かじゃないけどさ」

 

 鋳込みに成功したアルミの塊を万力に固定し、様々な工具を駆使して形を整えていく後ろ姿を思い出す胡桃。

 何をやっているのか詳細は聞いているのだが、胡桃としてはチンプンカンプンであり、取り敢えず亜森が上手いことやるのだろうと踏んでいた。

 

「せっかくトランシーバーがあるんだし、聞いてみたらいいじゃない」

「あんまり邪魔するのもなー」

 

 戻ってから詳しく聞くよと返事をして、胡桃は再び手元に集中する。

 それから、時間にして二時間ほど植え替え作業を続けた四人は、心地よい疲労感とともに校舎内へと帰還した。

 

 

 

 夕食後、就寝までの自由な時間帯。

 胡桃は、作業のため部屋に引きこもっていた亜森より連絡を受け、彼の部屋の扉の前にいた。

 

「アモー、入るぞー」

 

 扉を小さくノックして、いつもの調子で入った胡桃を待ち構えていたのは、やや目元の隈が目立つ亜森。

 この数日、夜間も睡眠時間を削ってパーツの調整を続けていたためか、テンションも気持ち高めである。

 

「ついに、完成したぞ」

「あー……お疲れ、ちょっと休憩したら?」

「それはコイツを紹介してからにするよ」

 

 そういって、亜森は綺麗に片付けた作業台の上に鎮座する、完成品を披露した。

 それは、元となった.45口径サブマシンガンの面影を残しつつも、近代的なアレンジが施されていた。

 銃身にはオリジナルの部品を残し、ハンドガードにはフォアグリップとフラッシュライトを新たに装着、そして空冷用なのだろうジャケットが銃身の上側を覆っていた。

 肩に当てるストック部分は、その素材から手を加えられており、ある程度の長さ調整の可能なスライド機構を取り入れ、本来の曲銃床から直銃床へと変更されている。

 グリップ部分は胡桃の手の大きさに合わせたのだろう、わずかに細く削られ滑り止めのためか小さく溝も掘られている。

 レシーバーに至っては、オリジナルよりも気持ち厚みが増し、肥大化しているようにも見える。

 しかしながら照準用の部品はオリジナルのまま残され、胡桃がパイプライフルでも使用していた低倍率スコープを装備。

 近代銃のレールシステムを意識したのだろう、それらの装備脱着を容易にする工夫が随所に見られた。

 弾倉にいたっては、大容量のドラムマガジンと共に箱型弾倉も作業台には用意されていた。

 弾倉装填部分を見てみれば、どちらも使用可能なように溝が切ってある。

 胡桃が箱型弾倉を手にとってみれば、ドラムマガジンに較べて重さは半分、もしくはそれ以下のように感じた。

 一度に持てる弾数が減るかもしれないが、こちらの方が銃の取り回しは容易そうだ。

 

「おぉ、本当に出来たんだ」

「なんだ、信じてなかったのか?」

「そうじゃないけどさ。銃は基本的に、工業製品ってイメージだったから」

「ハンドメイドは想像しづらい?」

「まぁ、そんな感じ」

 

 パイプライフルをずっと使っておいて何だけど、と言葉を続け、胡桃は改めてその銃を手に取ってみた。

 

「うーん、太くなったけどちょっとは軽くなったかな」

「それが目的だったしな」

「グリップもちょうどいい感じ」

 

 前後のグリップをグッと握り込んでは緩め、左右を入れ替えて再度構える。

 肩に当たる銃床部分を前後に調整し、構えやすい長さを探る胡桃。

 直接反動が伝わる部分には硬質ゴムを配置しているようで、木製だったオリジナルと比べて反動を吸収してくれそうだ。

 

「実は、その中に反動を軽減するためのギミックが仕込まれてだな──」

「それ、長い?」

「ちょっと長い」

「さわりだけで」

 

 出鼻をくじかれた亜森は残念そうにしながらも、要望通り短めの説明を披露した。

 

「簡単に言ってしまえば、コンバットライフルのストックを流用したって話」

「あぁ……、もっと重い方の.45口径ライフル?」

「そう、それ。セミオートならそんなに反動がキツイことも無い気がしたから、必要ないかなと思ったけど」

「けど?」

「やり始めたら楽しくなってな」

 

 へっへっへと笑みを浮かべ、亜森は恥ずかしそうに頭を掻く。

 あらかたの説明を終えたところで、亜森はソファへと腰掛け胡桃も隣に並ぶように腰を降ろした。

 

「それで、どうすんの?」

「どうって、何が?」

「新しい銃は目処がついたから、次は何すんのってこと」

「あぁ、そういうことか」

 

 もたれ掛かるように身体を寄せ、胡桃は今後の予定を尋ねてみた。

 順調に準備を進めているつもりだが、慎重が過ぎるということはないはずだ。

 学園生活部を交えての話し合いも、既に幾度となく重ねている。

 それでも何か足りない気がするのは、聖イシドロス大学への偵察にどうしても不安を覚えるためである。

 亜森と二人で、ちょっと物資を探しに行く遠征とは、根本的に話が違う。

 胡桃は不安を隠すように、亜森の手に自身のそれを重ねて握り込む。

 

「胡桃には、新しい銃に慣れてもらうとして。俺は車の準備をするよ」

「あたしが練習するってのは分かるけど、車?」

「佐倉先生のは全員では乗れないし、遠征に使ってるトラックじゃ快適とはいかないから。皆で乗れて、物資も積み込めるぐらいの車を見つけてこないと」

 

 めぐねえの車は四人乗り、トラックに至っては二人だけ。

 荷台に乗り込めば解決しなくもないが、まともな座席すらないのでは移動するだけで体力を使い果たしてしまいかねない。

 車中泊等も考慮するならば、車内の空間に余裕を持つ必要がある。

 高校の部活動が遠征などに使用するようなマイクロバスがあればそれを使えたのだが、先日のヘリ火災で駐車場の自動車は軒並み廃車になってしまった。

 たとえマイクロバスが巡ヶ丘学院高校で使用されていたとしても、既に使い物にならない状態にあるだろう。

 

「残ってた自動車は、きれいサッパリ燃えちゃったしなぁ」

「あぁ、残ってるのは佐倉先生のと遠征に使ってる2トントラック。後は、畑用の土を運んだ軽トラぐらいだ」

「そのへんの事は、アモに任せるよ。好きなやつ選べばいいし」

「国道沿いのディーラーかレンタカーの店を探せば、一台くらい良さそうなのがあるだろうし。明日にでも行ってくるよ」

「もちろん、あたしも行くからね。銃の練習も兼ねて」

 

 そう語る胡桃の言葉に、亜森は彼女の肩を抱き寄せることで答えた。

 

「あぁ、車を見つけたら運転して帰らないといけないしな」

「……最近ハンドル握ってないから、ぶつけそう」

「そっちの練習も必要だな」

 

 就寝時間まで、二人はソファで身を寄せたまま明日以降の予定を取り留めもなく話し合う。

 それは戻ってこない胡桃を呼びに来た悠里達が訪れるまで続き、二人の様子に溜め息をついてもう遅いからと咎められることで終りを迎えた。




・アルミの鋳込み、成功と失敗
失敗前提で行っても、いざ失敗すると凹むという実験あるある。
石膏の鋳型は事前に加熱が必要だった気がするので、まぁDIYでは失敗しやすそうではあります。
参考になりそうな動画は、Youtubeで「Aluminum sand cast」等で検索すると色々出てきます。

・屋上菜園から野菜の移動
テニスコートを耕作していたので、せっかくだからと露地栽培に移行。
それでも、使用した面積はテニスコート一面分にも満たない気がします。

・.45口径サブマシンガン(アルミ軽量化、近代化改造)
ようやく完成した胡桃さん専用サブマシンガン、いわゆるユニーク武器。
連邦ではドラムマガジン(50or100発)一択であったが、ここでは20~30発箱型弾倉(ボックスマガジン)も使用できるとした。
カッコいいからね、仕方ないね。
レジェンダリーが付くと凶悪な性能になるが、ここは連邦ではないのでノーマルな威力のまま。
メカニズムの勉強に、作者はSteamでWorld of Guns(フリープレイ)をインストールしましたが、トンプソンに至るまでの必要な経験値が多すぎてたどり着けてません。
南部十四年式でさえ、部品が複雑過ぎてビビる。

・偵察に使う車
イメージとしてはトヨタハイエースバンや日産キャラバン系の自動車。
大きめの救急車やマイクロバスでも可。
五人が余裕を持って座れて、荷物もそこそこ積むことを考慮すると、このぐらいは欲しい。
しかし直ぐにキャンピングカーに取って代わられる模様。
トイレ付きには勝てなかったよ……。

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