魔法使いと黒猫のウィズ Abyss code 深淵の記憶   作:烏零

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私が神話手術を受け、怪物との戦闘に向け訓練をしている間も、怪物は神を喰らっていた。神を倒す手段が無い現状でその神より強い種が現れた。つまり、人類にとってはなにもできない、災厄そのものがそこにあった。

あれが誰で、何を思って手術を受けたかは知らない。でも、神を殺していくその様は、神を許さないという意思より、何かに対する懺悔の様にも映った。ならば、誰かが裁かなくてはならない。

神族の抵抗もむなしく、最後に残った神々の住まう神殿は怪物に壊された。……そこには、生き残った神族が全員集まっていたという。その中には、子供もいたらしい。

やはり、あれは倒さなくてはならない。

もう、私の訓練は終わっていた。体も病に侵されていた時とは段違いに軽く。心なしか体も成長したよう思える。それだけ、英雄と私の体が同化しているということなのだろうか。ラルフさんが、最後に声をかけてくる。しかし、その内容は、全てを見捨て、今から二人で遠くへ逃げよう。というものだった。

……私の受けた手術は、怪物を殺すためだけの力を持つ英雄。英雄は、最後に救った人々によって殺される。そして、人の世は人によって再興していくというものだ。

神により虐殺が起きた中、劣等種と蔑み、多くの人を殺したのは人だ。そんな人に救う価値はあるのか、と問う。私は、これを英雄とより同化させるための質問だととらえていた。この場に立つ英雄が言いそうな言葉を探し、すらすらと答えていく。ラルフさんはうなだれるが、ここで励ますのも英雄としての使命だろう。……アジトを出る前、抗神話薬を受け取り、出ていくまで、ラルフさんはずっと泣いていた。

 

 

 

 

 

「……お母さんのスープ、最後に飲みたかったな」

 

潰れた神殿の前、なぜか急に懐かしくなり、お母さんのスープのことを思い出す。お母さんと離れてから、自分でつくってもどうしてもその味にならなかったのを覚えている。……いや、覚えていちゃだめだ。英雄と同化する、いや、英雄そのものになるためには、私の記憶など必要ない。目を閉じ、集中する。その間、お母さんのスープのことだけは、忘れたくないな。と思ってしまっていた。……怪物が、近づいている。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

神を、全滅させた。

私が、作り出したようなものではあった。そのことの懺悔という気持ちも、あったのかもしれない。

しかし、それに勝る恨み、怒りがあった。――を傷つける者は許さない。

それは、怪物との同化を早めた。神を殺したい――と怪物、そのおかげ、というべきか――は恐ろしいまでの力を手に入れた。

あとは、――が――を倒してくれるのを待つだけだ。

……あれ、

――って、誰?

思い出せない。頭が痛い。血が見たい。ヒトはどこだ。殺したい。喰らいたい。壊したい。

 

「ッア、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

嫌だ。嫌だ。嫌ダ。イやだ。いヤダ。イヤダイヤダイヤダイヤダ―――――――――

誰か、助けて。殺したくない。食べたくない。守りたい。

頭痛は収まらない。自我が、薄れる。

誰かが歩いてきた。誰だ。

いや――――この匂い、この雰囲気、間違いない。神がそこにいる。

そのとき感じたのは、喜び。しかし、それは――――

食べてもいいモノが現れたという、歪んだ喜びだった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「はあああああっ!」

「アアアアアアア!」

 

英雄と怪物の争いは、熾烈を極めていた。怪物が叫べば大地が揺れ、英雄が杖を振り下ろせば天が割れる。怪物の叫びは、英雄には理解できない言葉の羅列だった。英雄は、怪物の攻撃一つ一つ冷静に対処し、少しずつダメージを与えていく。この怪物に疲労などという概念があるのかは知らないが、それでもやる価値はある。

 

「アア、ア、アアアアアアアアアアーーーーーーー!!!!」

 

不意を突く咆哮。反射的に耳をふさいだところに、怪物の強力な一撃。

 

「か、はっ……」

 

体が浮く。そこへ、畳みかける衝撃。痛みはあまりない、が、体が動かない。怪物が近づいてくる。殺される。と、必死にもがこうとする。

しかし、怪物の動きが止まった。英雄のことをじっと見つめる。その顔から表情はわからない。

 

「ミ、ミ、ミミミミ……」

「……え?」

 

その言葉と、匂ってきた懐かしい香り。嘘だ、そんな……

困惑したところへ、暴れだす怪物。頭を地面に打ち付けて、何かを押えているかのように思える。そこに巻き込まれ、再び吹き飛ばされる。しかし、これで体制を整える距離が出来た。再び、英雄の力を私はぶつけていく。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あのかお、どこかでみタ

どこだったか、おもイだせない

イまは、そんなこトはいい

めのまえのニクをくらえ

それが――のやくメ

……違う、違う、違う違う違う違う違う違う違う違う違う。

お願い、目の前の英雄。

どうか、――を殺して、止めて。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

怪物の攻撃はより激しくなっていく。私は目の前の怪物がお母さんだと確信を持っていた。そのことに動揺が隠せず、英雄との同化が薄れてしまう。このままでは、お母さんを救うどころか、怪物として倒すこともできない。

怪物の猛攻に押され、武器を落とす、そのまま、鋭い突きが腹部を襲う。……痛みが、全身を走る。

武器を拾おうとしたとき、二本の注射器を落とす。ラルフさんからもらった、抗神話薬だ。

そうか、これは、そういうことだったのかと納得する。しかし、お母さんを救って自分も人に戻るということは、英雄としての責務を捨てるということ。もう、英雄としての力は使えなくなるだろう。

お母さんとの日々を思い出してしまう。……もはや、英雄としての力を行使することは難しいほどに。

もう、決断しなければならない。怪物を見つめ、決意を叫んだ。

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