魔法使いと黒猫のウィズ Abyss code 深淵の記憶   作:烏零

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「私は――――」

 

抗神話薬を手に取る。それを、怪物に向けて構えた。

 

「お母さんの、娘だ!」

 

決意を叫び、英雄との同化を始める。私の悲痛な決意を、怪物は聞いていない。

私と同化した英雄は、怪物と化した親を殺した人だ。今なら、それが分かる。そして、また親を殺さなくてはいけなくなった悲痛も、私の体を通じて伝わる。

 

「だから、今度はお母さんを救おう。力を、貸して――――!」

 

自我が飲まれる。だけど、それは心地いい、包み込まれるような感覚。私の中の英雄が、手を貸せ寝てきたような気がした。

 

「私は、大丈夫」

 

恐れはない。お母さんの胸に、飛び込んでいく。

 

「だから、お母さん、戻ってきて――――!」

 

注射器を二本構える。それを、同時に怪物へと打ち込んだ。

 

神様に効かなかったから、なんだという。

それが因果なら、曲げてしまえばいい。

英雄なら――――自分の大切な人くらい、、救って見せろ!

 

怪物の動きが止まる。そして、ボロボロと体を崩し始めた。体を覆う青い核は崩れ、残ったのは、ただの人の体。

……あんな怪物へと変異したせいか、すこし顔が変わってしまっている。髪も青くなってしまった。でも、わかる。この人は……お母さんだ。

 

「ん……」

 

お母さんが目を覚ます。私のやることは、決まっていた。

 

「……ミーちゃん?そうか、私……」

 

頭を押えて、自分の現状を知るお母さん。そして、空の注射器を見て、驚く。

 

「……抗神話薬が、効いた……!?ミーちゃん、あなたも早く打ちなさい!そしてまた、一緒に……」

「……それは、できません」

 

その誘いは、何よりも強い誘惑だった。でも、お母さんを元の姿に戻せたのは英雄の力があったから。また新しい薬を作っても効くかどうかはわからない。それに、後始末をしなければならない。神殿に向けて、多くの人がやってくる。

 

「あなたは、逃げて、生きてください。それが、私の、私の核となった少女の思いです」

「……そんな、そんなことって……」

「大好きです。……母様」

「あ……あ、あああ……」

 

泣き崩れ、去っていくお母さん。私は、英雄に完全に同化したふりをしていた。そうすることで、私は完全に同化し消えたと思わせるために。人々が、私の前に現れる。

 

「あ……あなたが、あの怪物を殺したのですか?」

「……ええ」

 

沸き立つ民衆。神々が死に、突然現れた英雄がそれを殺したのだから当然だろう。しかし、それを快く思わないものもいる。

 

「でもよ、こいつ現れたのタイミングが良すぎないか?もう少し早く来てくれれば神様は助かったんだ!神様がいなくて、俺たちはどうしたらいいんだよ!」

 

誰かが叫ぶ、その言葉で、どよめきが広がる。

 

「そうだ。神様は全員死んだんだ。神話手術を作り出した博士もいない。俺たちはどうしたら……」

「みんな、待ってくれ。こいつ、あの博士に似てねえか?」

 

全員が、一斉に私を見る。押しつぶされそうだが、耐えるしかない。

 

「……ええ。私が神を作り、私が全員殺しました」

 

静まり返る広場。そして始まったのは、私への非難。

 

「ふざけるな!お前が神話手術を作ったんだろう!」

「お前の娘は劣等種だったな!お前は娘のために神を滅亡させたのか!」

 

誰もが私のことを罵倒し、苛立ちをぶつけてくる。……医師が飛んできた。額に当たり、痛みと共に血を流す。

 

「神は消えました。これからは、あなた方が自分の力で生きなければなりません。私の力も、そこまでは及ばない」

「うるさい!俺たちの神様を殺しやがって!」

「そうだ!元はと言えばお前が神を作ったからこうなったんだ!」

「私は、抵抗も何もしません。罪は、受け入れます」

 

私は、捕らえられた。

怪物を殺した英雄は、人により捕らえられ処刑される。

それを再現するには、この方法しか思いつかなかった。体が成長し、お母さんに身長が近づいたのも幸いだろう。

すぐに処刑……というよりは、私刑に近いだろうか。神が死に、その混乱で政府が機能していない以上、この破壊された神殿ですぐに処刑されることとなる。方法は、昔の英雄にありがちな火あぶり。

体を全身拘束され動けなくされ、火が放たれる。民衆は、酷く興奮していた。ラルフさんはこんな人々を救う価値があるのかと思っていたが、私は今でもそうは思わない。人々は、これからまた新しい道を歩んでいくはずだ。

火が足元まで登ってくる。……完全に英雄と同化していれば、痛みも恐怖も感じなかったのだろうか。

遠くを見ると、民衆から離れた場所にお母さんが見える。私がこうしてリスリーとして処刑される以上、お母さんが政府や人々に追われることは無いだろう。それは、安心できる。

火が体を包み込む。熱い、熱い、痛い。逃げられない。

こうして全てを終わらせたと思っても、どうしても悔いは残る。それを、私にはどうしようもなかったことだと無理やり納得させるしかない。そもそも私は、病で長くは生きられなかった。こうして親を救えただけで案族過ぎる結果だ。そうして、私は目を閉じ、全てを受け入れる。

 

 

 

 

 

……でも

 

やっぱり、私は

 

――――まだ、死にたく、ない

 

 

 

 

 

その後、世界は変わった。今や神話手術や因果の研究はタブーとなっていた。リスリーの功績も、一部は闇へと葬られた。

英雄は、死した後で名誉が回復することとなる。だが、彼女がリスリーであるということは、隠されることとなった。

全てが終わった荒れた世界では、一人の無名の科学者が、復興のために全力を尽くし、様々な機器や技術を開発して、すぐに世界は元の様相を取り戻す。違うのは、神という支配層がいなくなったこと。いまでも軋轢はあるが、それでも前よりは確実によくなっている。

復興に尽力した無名の科学者は、イェルセルと名乗っていた。

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