魔法使いと黒猫のウィズ Abyss code 深淵の記憶   作:烏零

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「――――ッ!」

 

布団から飛び起きる私、大量の汗が布団を濡らし、動悸が止まらない。何か、とても、とても嫌な夢を見た気がする――――思い出そうとすると、頭が痛む。だけど、とてもよくないものだということはわかる。そしてそれが、近い将来起きるだろうということも確信していた。

 

「ミーちゃん?まだ起きているの?」

「お母さん……」

「どうしたの?すごい汗よ。うなされてたのね……明日は早いわ。早く寝なさい」

「ま……待って!」

 

扉をしめ去ろうとするお母さんの後ろ姿、先ほど見た夢のせいか、お母さんがとても遠くにいるように感じた。手を伸ばし、その背の白衣を掴む。何処へも行かないように。

 

「ミーちゃん……?」

「嫌だ……私、お母さんと離れたくない」

 

こんなわがままを言うのは、初めてのことだった。けれど、これが最後の出会いにならないように、これが最後の別れにならないようにと、強くお母さんを抱きしめる。

 

「……ミーちゃん。お願い。こっちは危険なの」

「危険じゃない場所なんてもうないよ。……私は、それでもお母さんといたい。お願い」

 

頬を涙がつたう。さっき見た夢のことは全て鮮明に思い出せる。お母さんは、ひどく戸惑っていた。

 

「……いいんじゃないか。博士」

 

後ろに、ラルフさんが立っている。ラルフさんは、お母さんに近づき告げる。

 

「この戦いはもうだめだ。俺たちに勝ち目はない。……あなたとミルドレッドさんは逃げるべきだ」

「あなたたちはどうするの?」

「最後まで、あがいて見せる。俺たちに失うものは何もない。けど、あなたには娘さんがいるだろう」

「そんな……」

 

そこで、お母さんの言葉は止まる。私の顔を見たからだ。私がどんな顔をしていたのだろう。ただ、私は、怖かった。このままだと、全てを失いそうだったから。……今自分が見ているのも、夢なのだろうか。

 

「わかったわ。けれど私達だけじゃない。あなたたちも逃げるのよ。ここが神に侵されていようとも、まだ神に侵されていない地域があるかもしれない。全員でそこを探して、逃げましょう」

「博士……」

「もちろん固まっては逃げられないわね。いくつかのグループに分かれましょう……ラルフさん。ついてきてくれる?」

「!……ああ!もちろん!」

 

そう言うと、お母さんは私を見て笑う。その笑顔がとても長い間見ていなかったかのように感じ、私はまた泣いてしまった。次の日、お母さんとラルフさんはこれからについてレジスタンスのみんなと話しあった。多くは賛同してくれたものの、神に対して強い憎しみを抱いていた人々は反発、レイスタンスから去っていった。……多くの劣等種が狩られたというニュースを見たのは、私達が平和に暮らせる土地を探してさまよい始めたころだった。だけど、私達にそのことを気にしている余裕はなかった。予想しているよりも、外界は厳しかったからだ。世界は神に支配され、神話手術の適性がない人間の行く場所はどこにもない。

 

「……まさか、ここまでとはな」

「ごめんなさい。私のせいで……」

「いいや、博士のせいじゃないさ。……誰のせいでもない」

 

追いかけられたのは、神族だけじゃない。適性のある人間にも追い回され、迫害された。彼らは、夢で見たように、楽しそうに私達を撃ってきた。

――――私達に最初から逃げる場所なんてなかった。そう思えてしまう。体が、恐怖で震える。

すると、お母さんが近くに寄ってきた。そのまま、私を包み込むように抱く。

 

「……寒い思いばかりさせてごめんなさい。でも、すぐに私たちの居場所が見つかるから」

 

大丈夫、と答えようとした。だけど、口から出てきたのは言葉じゃなかった。お母さんが、慌て始める。私は、痛み始めた心臓と、口から溢れる血を必死に抑えた。そこから何が起きたのかは覚えていない。気が付くと、どこかの家の中にいた。懐かしいスープの匂いがする。

 

「やっと起きたのね……はい。あなたの大好物よ」

「あり……がとう……おかあさん……」

 

そこで、理解した。おそらく、もう私は長くない。お母さんもラルフさんも必死に隠そうとしているのだろうけどそれが伝わってしまった。私は、少しだけ震えているお母さんの手から、スープを受け取り、少しずつ味わうように飲んだ。全てのみ終えた時、私は、お母さんの方を向き、心からの笑顔で答える。

 

「ありがとう。お母さん。……わたしは、お母さんの娘で良かった。幸せだった、よ……」

 

そのまま眠くなった私は、倒れるように眠りについた。……もともと長くはないとわかっていたから、こうしてお母さんのそばで眠れるのはそれだけでうれしかった。

沈みゆく意識の奥で、いつか夢に出た自分がいた。母を殺し、自分も殺される、いや、母に殺されている?どれが正しい結末でどれが正しい未来だったのか、私にはわからない。でも、今の私は……

 

幸せだった。と胸を張って言える。

 

さようなら。お母さん。

 

今度は、神も人もない、自由な世界で、健康な体で、あなたに逢いたい。

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