Fate/knight of sacrifice 作:カメリア
※この物語では、ダヴィンチちゃんが召喚成功例第四号となっております。
※独自展開、独自解釈等がこの物語において沢山あります。
夢をみていた。
それが夢と形容されるのは少し違うような気がするけれど、私はあえてそれを夢と呼んでいた。
いつからその夢をみていたのかはわからないけれど、私という自我が
はじまりはいつも一緒だった。
気がつけば深く暗い闇の中に私はひとりで立っている。右も左も分からないその場所には、時間の経過と共に必ず何処からか一筋の光が射し込むのだ。だから、私はその光へと歩み寄る。
瞬間、目を開けていられないほどの風が吹き荒れた。甘い花の匂いのする風が鼻をくすぐる。瞼をゆっくりと開けると、優しい太陽の光と色取り取りの色彩……花が目に入った。
私の周囲は美しい花が咲き乱れる花畑となっており、花畑の周りには背の高い木々がこの場所を守るかのように生えていた。
「……また、きたんだね」
僅かな驚愕と呆れと確かで本心から喜びを含んだその言葉は、やけにその空間に響く。緩みきっているその顔で言われても歓迎されているとしか思えないのは私だけなのだろうか?
どうやらこの空間の主は幾度もの私の来訪を驚き、喜んでくれているらしい。私だって人間で人間らしい感情を持っている。だから、自分の来訪を喜ばれるのは悪い気がしない。
「マーリン、今日は昨日やった魔術の応用の続きを教えて欲しい。お願い出来ますか?」
態々塔から出て私の来訪を待ってくれた師匠に首を傾げて尋ねると、勿論だともと微笑む。
◆ ◆ ◆
気がついたら赤子として生を受けていた。死んだ記憶は無いけれど、これはつまり死んだという事なのだろう…意識とか自我とかそうゆうものがはっきりした時に思ったことがそれだった。
名前はもう既に思い出せないけれど、この身体では無いひとりの人間として生きていた記憶は有る。殆どが曖昧だけど、私は前世という名の記憶を持っている……それは確かだった。
死んでしまったのならしょうがない、と諦めをつけさせてこの人生を楽しもうと思っていた矢先。私は自身がとある実験の為に作られたデザイナーベビーという存在だという事を偶然にも知ってしまった。
無菌室で過ごす日々。親の愛情どころか、好意を向けられる事など無い実験体として生きる日々。
正直、疲れていた。
新しく生を受けた私の世界は闇と無で出来ていた。上を見あげても横を見ても下を見ても有るのは少しだけ明るい白の天井と壁と床。目を閉じれば永遠のように思えてしまう闇。
部屋に置いてあるものは、机と椅子とベッドと数冊だけ分厚い本が収納されている小さな本棚。
大切なことだとか、思い出だとか、もうとっくに思い出せない。
外の景色とか、人の温もりとか、歌とか…知識としての記憶は残っているけれど、実際それらがどんなものなのかなんてただでさえ曖昧な記憶だったのに、それすら思い出したくても思い出せないくらいに私の記憶は欠落していた。
……この時既に、私の記憶の中で微笑む色彩はとうに失われていた。
実験中の記憶は何故だか全く覚えていない。後から知った事だけど、実験の度に私の記憶は少し消去されていたらしい。……別に、忌々しい記憶は残っていても無意味だ。だから消されていたとしても、そんなこと
でも、一度だけ。記憶を消すのに失敗したのか解らないけれど、一度だけ私は実験の事を覚えている。
◆ ◆ ◆
英霊憑依。魔術回路の活性化。魔力。カルデア。デミ・サーヴァント。
『彼以上に非人道的な人を久し振りに見た気がします。正直許し難い』
『───せめて貴女に、私のすべてを───』
◇ ◇ ◇
視界は奪われていたけれど、聴覚は正常に機能していたはずだ。頭は朦朧としているが、感覚は嫌に鋭い。全身麻酔のような何かをかけられたにも関わらず、身体中から滲み出るような違和感。不快感。激痛。
美しい少女のような女性の声が頭の中に響く。聞いたことがあるようで思い出せない声。
どうして怒っているの。どうして泣いているの。どうして、どうして私は───。
そこで意識がプツリと途切れた。
目が覚めるとそこは与えられている私の部屋で、一瞬身体に違和感を感じたけれどそれを気にするよりも大切な事に気がついた。
"
今更になって気がついた。ここは、私の記憶にある"Fate/Grand Order"。通称FGOという世界であるということに。
……それは曖昧な記憶でも、何故か鮮明に覚えていた記憶のひとつ。
だったら納得がいく。
私の状況も。この実験も。何もかも。
でも、私がFGOのヒロインたる少女…マシュ・キリエライトで無い事だけは確かだった。あの日から普段は"召喚成功例第三号"と呼ばれているが、記憶が正しければマシュは召喚成功例第二号だった筈だから……。
◆ ◆ ◆
「どうしたんだい? もしかして疲れてしまったのかな?」
今となっては数年前の、過去の記憶を思い出していた為、彼から見たらぼーっとしているように見えたのだろう。
指導の腕を止めたマーリンは私の顔を覗き込んで楽しそうに笑っている。
「いや、疲れてはいません。ただ……貴方は私と
「ああ、勿論だとも。君と彼女はとても似ているからね」
少し腕を止めて、彼に尋ねる。「でも教えてはくれない、のですね」と続けると、少し申し訳無さそうに「それはいずれフィーネ自身で知る事だからね」と前と同じ答えを言う。この質問をしたのはこれで二度目だ。だから、なんとなく彼の答えもわかっていた。その上でなんとなく尋ねてみただけだ。
「……おや、残念だけどそろそろ目覚める時間らしい。続きは明日にしよう」
「ありがとう、マーリン」
私の目に手を当て、瞼を閉じるように少し下に動かす。それと同時に、夢の中であるにも関わらず眠気が襲ってくる。ふっ、と前のめりに傾く身体が受け止められる感覚を最後に、私の意識は現実へと浮上した。