本日は部活の自主練日。
うちでは1週間に1度は自主練日を設けている。
そんな俺も軽く泳ぎ、今は運動後のストレッチの真っ最中だ。
今日は、Aqoursに取って大事な日だ。
どうやら理事長がAqoursの活動を認めるには、ライブをして浦女の体育館を満員にするのが条件のようで、今日がそのライブの日だ。
そういえば理事長って誰だろう。
ストレッチも終わり、更衣室に向かう途中。
「あ、黒澤先輩」
「げ…黒澤…」
「おお蛍に……誰だっけ?モブ?」
「峯岸 珊瑚ミネギシ サンゴです!」
そうそう!珊瑚だ!珍しい名前の奴だ。
とりあえず俺は珊瑚の額を鷲掴みし力を込める。
「それで?…げっとはなんだ?」
「痛痛痛痛ッ!!すみません!すみません!」
「たく…そんなに俺が嫌いか?」
「大っ嫌いですよ!!」
こいつは思ったことを正直に答えてしまう性格で、よく敵を作るらしい。
しかし、気持ちを隠さずに答える奴は嫌いじゃない。
イジリがいがあるし。
「それで?今日は早いなお前ら」
「今日は浦女でスクールアイドルのライブがあるみたいなので、行ってみようと思っています」
「…俺は興味ないけどこいつに誘われました」
蛍はどうやらスクールアイドルオタクのようで、よく更衣室で熱く語る姿をよく見ている。
そしてそんな蛍の話を聞いたりしているのが、珊瑚だったりする。
「じゃあっちで会うかもな」
「黒澤先輩もスクールアイドル好きなんですか!?」
「違う違う、Aqoursは俺の友達がやっていて誘われたんだ」
「マジで!?」
ん?
俺と蛍の会話に急に入ってきた珊瑚。
すると蛍がニヤリと笑いながら口を開いた。
「こいつ興味ないっていいながら、Aqoursのチラシ貰って来ていましたよ?」
「お前!それは言わない約束だろ!!」
「へ~~」
「ニヤニヤするな!!」
何だかかなり仲良しの様子の2人だ。
更にこいつらは現在の1年の中では、トップを争うほどの実力もある。
俺の同期の数人もこいつらに抜かれている。
「柳石!俺は先に行ってるぞ!!」
少し不貞腐れながらその場を後にした。
蛍も一礼して珊瑚についていく、そんな姿を見て頬が緩む。
さてと、さっさと着替えて浦女に行くとしよう。
俺は軽くシャワーで汗を流し、着替えて浦女の体育館へ向かう。
途中差し入れで飲み物も買っていく事にしよう。
曜から体育館のとある部屋にいると連絡があり、その部屋に向かう。
Aqoursと書かれた紙が扉に張られている部屋を見つけた。
「お~い、入るぞ?」
ドアノブに手をかけ、扉を開くと。
「わぁ!ルーくん!?」
「え!?瑠璃くん!?」
「黒澤くん!?」
下着姿のAqoursの3人が目の前に広がっていた。
おっと…着替え中でしたか…。
女子の下着姿を不注意とはいえ見てしまった俺は、この後に何が起こるか瞬時に把握。
「「「ッ!?き」」」
「ちょっと待った!!!」
叫びそうなところを止める。
言い訳を考える為に、全力で脳を回転させ答えを見つける。
「確かに見た俺も悪い!…しかし!ドアに着替え中という貼り紙を貼り付けて置くべきじゃないか?3人とも……だが見たのは変わりない……という事で!!」
ネクタイを緩めワイシャツを脱ぎ、水泳部の過酷なトレーニングで鍛え抜かれた上半身をさらけ出す。
ついでにチャームポイントは…上腕三頭筋だ。
「俺も脱ぐからおあいこでどうだろうか!?」
「「「出てって!!!」」」
3人に怒鳴られ出ていきました。
なにが、俺も脱ぐからおおあいこでどうだろうか?…だ。
思ってもいないことを口走ってしまった。
その後3人が着替え終わるのを待ち、全力で土下座した。
「ほんっっっとぉぉぉに、すみませんでした!!」
「はははは…」
「……」
曜は苦笑いしながら頬を書いているが、桜内に関しては軽蔑する目で俺を見ている。
しかし高海は違った。
「ほら、私たちも紙貼ってなかったしね!ね!曜ちゃん!」
「そ…そうだね!ほら梨子ちゃんも」
「…ノックはしてほしかった…」
本当にその通りです!!何故俺はノックしなかったのかが、わからない。
次から気を付けよう。
「すみませんでした」
「……次から気を付けて」
「ありがとうございます!」
何とか許しをいただき、顔を上げる。
今度はみんなしっかりと衣装を着ていた。
「3人とも似合ってるよ」
「でしょ~?曜ちゃんが作ったんだ!」
昔から裁縫が得意だった事は、俺も知っているけど、衣装まで作るとは凄すぎる。
「やるじゃん」
「それほどでも~~」
えへへっと笑みを浮かべ、ほんのり頬を赤くする曜。
すると高海が口を開いた。
「それで?ルーくんは何しに来たの?」
「そうそう…これ差し入れ」
「みかんジュースだ!」
小さめのパックに入っているジュースを渡して話を進める。
「緊張はしているかなって思って見に来た」
「そっか!ありがと!」
そう言うと高海は鼻歌を歌いながらライブの準備を始めている。
意外とこういう事には強いようだ。
しかし、それと打って変わり桜内は緊張している様子だ。
「桜内は緊張中…だよな」
「発表会とは違う空気だし、緊張するわよ」
発表会?あ~ピアノか、まぁ同じ音楽関係でも種類は違うし、そんなものなのだろう。
そんな中で俺はある事を思い出し話す。
「失敗するって思うから緊張するんだよ」
「え?」
「俺も最初の水泳の大会は緊張したけど、いまは緊張しないんだよ。なんでだと思う?」
「…慣れたからじゃないの?」
確かにそれもあるだろうけど、俺が言いたいのはそうじゃない。
「俺は失敗しないし、いつも通りにやるって心掛けているからだ」
「いつも通り?」
「桜内だってたくさん練習しただろ?だから大丈夫だ」
俺は親指を立て笑顔で話した。
すると桜内は深呼吸し、こちらに目を合わせた。
「ありがと、少し安心したわ」
「それは良かった!衣装も似合って可愛いし、自信持て」
「……黒澤くんって自覚ないの?」
「え?何が?」
「はぁ…ありがと!練習通りに頑張るわ」
自覚?…ああ可愛いってのか、あんまり意識しなかった。
意識なく言うのも気を付けた方がいいのだろうか?っと考えていると。
桜内は緊張が少し解けた様子だ。
ついでに曜の様子は……何かすげぇこっち見ている。
「何だよ?」
「別に~、私には一言ないの?」
一言?曜には必要ないだろう……と思ったが曜にはアレだろう。
俺は右手の拳を前に出した。
「頑張れ!会場で見てるからな」
「!!…うん!任せて!」
そう言うと曜は、自分の拳を俺に合わせて元気よく頷く。
この一連の行動は、曜のルーティンのようなものだ。
飛び込みの大会の時や、水泳の大会なんかでやっていることだ。
曜は満足したのか、ステージを見に行こうとしていた桜内と高海についていく。
あ、そうだ。
「衣装似合ってて可愛いぞ!」
「わざわざ言わなくていいよ!ありがと!」
曜をおちょくって見たが、成功のようだ。
その証拠に曜の耳が、少し赤くなっているのが見えた。
3人がステージの確認をしに行ったのを見送り、俺は3人のライブが見やすい場所へと向かった。