ライブの見やすい場所は直ぐに見つかった。
というのも、人があまりいない。
ちらほらと集まりだしているものの、満員までは程遠い。
俺は全体が見える位置として、一番後ろの壁に寄りかかってライブの開始を待った。
「あ!お兄さんずら!」
「ん?」
声のした方に目を向けると、ルビィに丸がこっちを見ていた。
「ルビィと丸か、知ってたのか?」
「う…うん。駅でチラシ配りして貰ったんだ」
ルビィは俺の質問に答えるように、チラシを見せてきた。
チラシには今日の日付とライブの案内が書かれている。
「スクールアイドルが好きなら見るべきだな、丸もスクールアイドル好きなのか?」
「ん~丸はあまり興味ないずら。けど、ルビィちゃんが笑顔だと嬉しくなるずら」
まぁAqoursのライブはルビィが行きたいって言ったから、付き合ってきたのだろう。
友達思いの丸が、ルビィの友達で良かった。
「そうか、これからもルビィをよろしく頼む」
「任せてほしいずら!」
「俺のことはいいから、2人は前で見ておいで」
そう言うと2人は頷き、ステージ前に走っていった。
そんな2人の後ろ姿を見て微笑ましく思う。
「相変わらず年下に甘いですのね」
「うおっ!?ビックリした、ダイヤか」
急に現れたダイヤに驚く、いきなり話しかけるなよ。
あと一言言わせてほしい。
「年下に甘いんじゃなくて、妹とその友達に優しいって言って欲しいな」
「その妹好きは何とかなりませんの?」
「お前にだけは言われたくない」
妹に気をかけるのは兄として当然だ。
するとダイヤは、はいっと関係者と書かれた腕章を渡してきた。
「あの子たちの関係者なのでしょ?正式に許可が下りた状態で会った方がいいと思いますわ」
「なるほど…ありがと」
「いえ」
するとダイヤがその場を去ろうと動き出した。
あのAqoursのライブだ、思うことがあるはずだ。
そして俺は気づいたら口を開いていた。
「見て行かないのか?せっかくのライブだよ?」
沈黙が俺とダイヤの間に流れた時、ダイヤの答えが返ってきた。
「まだ……やる事がありますから」
様々な意味が込められているのか、その言葉に重みを感じた。
やることは?って聞くべきなのだろうが、そんなことも聞けなかった。
ダイヤはその場を後にした。
するとステージの幕が上がる。
最初は笑顔だったが、体育館の観客の人数を見たことで少しずつ曇っていく。
「さぁ…どう立ち上がる」
アイドルとはお客様を笑顔にする仕事だ。
それはスクールアイドルも間違いはずだ。
今の彼女たちは笑顔ではない、彼女たちが笑顔じゃなければ観客も笑顔にはなれない。
すると高海は覚悟を決めた様子で前に出る。
「私たちはスクールアイドル!せーの、」
「「「Aqoursです!!!」」」
高海の声に曜に桜内も反応した。
音ノ木坂から転校し、音楽を心の底から恋をしている桜内。
「私たちはその輝きと!」
俺の幼馴染で内浦の海や船に恋をしている曜。
「あきらめない気持ちと!」
そしてセンターにいるみかんが大好きで、何よりスクールアイドルに恋をしている高海。
「信じる力に憧れスクールアイドルを始めました!目標は、スクールアイドル〝μ's〟です!!聴いてください!」
照明が一気に消えた。
立ち上がり何とかなったが、体育館を満員に出来なかった事には、変わりがない。
Aqoursに取って最初で最後のステージになるのだろう。
そしてステージが一気に明るくなり、Aqoursのステージが始まる。
何だったかな曲名は確か……。
~ダイスキだったらダイジョウブ!~
曲が始まり3人はどんどん観客を、歌や踊りで魅了していく。
そんな3人を心から凄いと思った。
観客も少ない中で徐々にボルテージが上がっていくのがわかる。
最初の不安そうな顔色もしていない3人は、楽しそうに踊っている。
「あいつら、すげぇな」
そしてサビの部分に入ろうとした瞬間だった。
雷の大きな音と同時に、照明で明るかったステージが暗くなる。
同時に、音楽も消えた。
最悪のタイミングでの停電。
観客もザワザワと同様し始める。
「……無理だったか」
観客は満員じゃない、ステージは暗くなる。
Aqoursはやっぱりあの憧れた3人ではないとダメだったのだろう…。
俺は内心諦め、電気が戻るのを待った。
すると次の瞬間。
暗いステージから弱弱しい高海の声が聞こえる。
それに続き、曜と桜内も歌いだす。
3人はまだ諦めていない…考えろ俺、3人の為にも…Aqoursの為にも何ができる。
諦めていた自分に苛立ちを覚え俺は体育館を出た。
俺の通っている浦男は、授業の関係上で姉妹校の浦女の体育館を借りる時がある。
そのため体育館の倉庫の居場所も知っているし、何があるかも覚えている。
雨で濡れる制服も気にせず猛スピードで倉庫に向かう。
「ん?ダイヤ!?」
「!瑠璃!?どうして…」
倉庫に姉であるダイヤがいた。
そしてその足元には発電機が2つ、考えている事は一緒のようだ。
「これ発電機だよな?」
「な…何のことでしょうか?」
口元のほくろを書きながら、視線を外すダイヤ。
何か隠したい時に出るクセだ。
近くの台車に発電機を置いて、
「これどこ持って行けばいい!?」
「こ…こっちですわ!?」
ダイヤに案内され、ついていく。
案内された場所は電気機器が置いてある場所だ。
発電機を下ろし、繋げて稼働させる。
「結局…ダイヤも後輩に甘いじゃん」
「ふふ…何のことでしょうか?」
ここに来てまだしらばっくれるダイヤ。
体育館の電気が走り、照明にスピーカーも元に戻っただろう。
その証拠に、ここから少し離れている体育館から音が薄っすらと聞こえる。
「はぁ…疲れた。制服もびしょびしょじゃん」
「少し休んでいてください。わたくしは体育館の様子を見てきますわ」
「ああ、お願い」
ダイヤはその場を後にし、体育館へ。
すると携帯に一件のメッセージが来た。
確認をするとルビィから、その内容を見て笑顔になった。
『お兄ちゃん!体育館が満員だよ!!』
更に満員だとわかる写真まで付けてくれている。
「そっか良かった。ん?はは!雨も止んだ」
外を見ると、先ほどまで降っていたのが信じられないぐらいの爽快な青空が広がっていた。
まるでAqoursの晴れ舞台に満足しているようだ。
「あ…見られなかったなAqoursのライブ」
少し残念だが、仕方がない。
次に期待しようじゃないか。
「ライブ祝いに何か奢るとするか!」
俺は立ち上がり、彼女たちの元へ向かった。