黒澤家の長男です。   作:カイザウルス

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第13話

千歌の家に行ってから、数週間が経った。

その間に何と、ルビィと丸がスクールアイドル部に入部したようだ。

あの気弱なルビィがしっかりと自分の意志で入部を決めた時は、成長を感じて嬉しさのあまりに涙が止まらなかった。

そして何時も通りに部活が終わり、更衣室で着替えていると、スクールアイドルが好きな蛍からある動画を見せられた。

どうやらAqoursの新しい動画のようだ。

 

「ヨハネ様のリトルデーモン4号。く…黒澤 ルビィです。一番小さい悪魔…可愛がってね!!」

 

ゴスロリ姿の妹が、変なポーズを取っていた。

可愛い…じゃなくて!?

 

「滅茶苦茶かわいくないですか!!!」

 

蛍は目をキラキラさせながら聞いてきた。

 

「ふ…妹だからな」

「シスコンかよ気持ち悪い」

「………」

 

俺と蛍の話に後ろを通りすぎ際に、珊瑚が毒を吐いて言った。

しかし俺は逃がさない。

肩を掴み首に腕を回した。

 

「誰が変態シスコン野郎だ!モブが~~~!!!」

「そこまで言ってねぇよ!!あと珊瑚だ!!」

 

珊瑚が暴れるがしっかりと拘束している為、外せないでいる。

 

「さぁ珊瑚くん……何か言うことは~?」

「…すみませんでした」

「不服そうにしているんじゃね~~!!」

「ぎゃぁぁぁ!!すみませんでしたぁぁぁ!!」

 

今日も浦の星男子学院水泳部は平和です。

その後、珊瑚を一通りにしばき終わり、俺はある人を自転車に乗って待っていた。

 

「すまん瑠璃、待たせたな」

「珍しいですね。剛先輩が俺と帰るだなんて」

 

水泳部主将の剛先輩。

珍しく帰り誘われ一緒に帰ることになった。

 

「まぁ、と言ってもすぐ近くの船着き場までだからな」

「そういえば剛先輩って淡島に住んでいるんですよね」

「ああ」

 

淡島出身者は船で帰るのが一般的だ。

幼い頃、淡島には何度も行ったことがあるし、もしかした何処かですれ違っていると思う。

 

「それで早速なのだが」

「ん?何でしょうか?」

 

急に真剣な雰囲気が流れた。

何か部活関連で大事な話だろうか?俺は真剣に話を聞こうとその場に立ち止まる。

 

「瑠璃…お前…」

「ッ!?…はい」

「…………腹が減らないか?」

「…………はい?」

 

なんて言ったこの人?こんな真剣な状態で腹が減っただと…?

いや、何時もの剛先輩らしいか。

とりあえず剛先輩に連れられ、近くのコンビニで中華まんをおごってもらった。

近くのベンチに腰掛け、中華まんをいただく。

 

「それで?いい加減、話してくださいよ」

「お?……そうだな」

 

剛先輩は半分あった中華まんを一口で口に入れて飲み込んだ。

 

「もうすぐ東京遠征だろ?」

「そうですね。もうそんな時期なんですね」

 

夏に入るこの時期に、毎年水泳部は東京の大きなスポーツ施設を借りて練習する。

他校の水泳部も来たり、大会さながらの練習をしたりと、2泊3日でかなりきつい日程になる。

 

「そこで。メドレーリレーもやるのだが…瑠璃」

「は…はい」

「メドレーリレーのメンバーになってくれないか?」

 

メドレーリレー。

水泳競技でも、花形を飾る競技の一つ。

浦男水泳部のリレーのメンバー決めは、主将の役目で選ばれたメンバーそのまま、夏の大会で泳ぐことも決定している。

 

「俺でいいんですか?」

「ああ、俺が最高だと思ったメンバーで泳ぎたいんだ」

 

普段、無表情の剛先輩は眩しい笑顔をこちらに向けた。

剛先輩は不思議な人だ。

普段何考えているかわからないし、天然で偶にわけわからないことも言う。

けど…水泳に対する熱い思いは浦男で一番だ。

だから俺はこの人を尊敬している。

この人の作ったリレーメンバーなら参加してみたい。

だからこそ、俺の答えは決まっている。

 

「それなら、よろしくお願いします!」

「おう!…ただな」

「ん?何でしょうか?」

 

また急に真剣な顔で唸る剛先輩。

すると一枚の紙を取り出し、俺に見してきた。

そこにはメドレーのメンバー表だった。

最初に泳ぐ、背泳ぎは銀次先輩・平泳ぎ2は空欄・バタフライ3は剛先輩・フリーは俺の名前が書かれている。

 

「なるほど…平泳ぎですか」

「ああ…候補2人はいるのだが、どちらも1年だ」

「1年!?マジっすか!?」

 

驚いた。

1年からまさか選抜されるとは…まぁ浦男のリレーは速い人じゃなくて、主将が泳ぎたい人だからな。

そしてその2人とは、

 

「珊瑚に蛍だ」

 

………確かに難しい、2人ともタイプが違いすぎる。

蛍の専門は、平泳ぎだ。

普通に行けば専門の蛍を選ぶが、珊瑚も負けてない。

そんな珊瑚の専門は、俺と同じフリーと個人メドレーだ。

つまり全部の種目が得意なのだ。

平泳ぎもそつなくこなすだろう。

 

「珊瑚の荒々しく一気に伸びるブレは俺好みだ。しかし、蛍の基本に忠実で後ろから来るプレッシャーも1年とは思えない」

「……わかります。滅茶苦茶わかります」

 

剛先輩のそれぞれ2人への感想は、同意できる。

しかし、メドレーは1人しか選べない。

 

「瑠璃、お前ならどっちを選ぶ」

「…俺ですか」

 

俺なら、どちらを選ぶか。

荒々しく派手な珊瑚か、忠実で静かな蛍。

今いるメドレーメンバーに合う選手は、1人しかいない。

そしてもう1人は未来の為に切り捨てる。

 

「俺はーーがいいです。もう1人は俺が来年チームを作る時に選びます」

「―――!?…ははははは!そうかそうか!うん、そうしよう」

 

結構真剣に答えたのだが、まさかあの剛先輩に笑われるとは…。

おかしなこと行ったのか?剛先輩は空欄の部分に俺が言った名前を書いた。

 

「発表は、近いうちに言うから内密にな」

「了解です。そう言えば他の種目もその時ですか?」

「ああ、まぁお前は安定だろ。自由形の100mと200mじゃないか?」

「剛先輩はバッタの100mと200mですかね」

 

そんな会話を続けているうちに、日差しは徐々に沈んで行っていった。

剛先輩はベンチから腰を上げ、時間を確認する。

そして俺の顔を見て口を開いた。

 

「目指すは全国優勝だ。俺の我儘に付き合ってくれ」

「!?…はい!」

 

主将…剛先輩からの我儘を叶える為、全国優勝の為。

より一層俺は自分に気合いを入れた。

次の日、いつも通りに朝起きてランニングの準備をしたら、ルビィがゴスロリ姿の小悪魔になっていたのは、また別のお話。

 

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