東京遠征は無事に終わりを迎えた。
そして現在帰りのバスの中だ。
隣では遠征で疲れた珊瑚がぐっすり寝ている。
今回の遠征はかなり良かった方だ、特にメドレーだ。
蛍の成長スピードが予想よりも速かった。
この調子でいけば、メドレーで全国も夢じゃない。
しかし……それとは裏腹に……。
俺は携帯でスクールアイドルのイベントを調べて順位を確認した。
「最下位か…」
あの時といっしょだ、あのキラキラ輝いていた3人の時と…。
俺は拳を握り、いまのAqoursが解散しないことをただ願うことしか出来なかった。
その後、無事に学校に着いた。
軽くミーティング後をし解散、その足で駅に向かいAqoursの帰りを待つ。
しかし…会って何を話す?あの時、何もできなかった俺がいったい何ができる?頭の中に流れた2年前の不甲斐ない自分の姿に、嫌悪感を抱いた。
「瑠璃?」
「ん?…ダイヤ。ただいま」
「ええ、おかえりなさい」
俺の名前を呼ぶ声に気付き振り返ると、そこにはダイヤがいた。
きっとルビィを迎えに来たんだろう。
すると俺のとなりのベンチに座り、Aqoursの帰りを待つ。
「なんて話しかけますの?」
「……わかんない」
「はぁ…普通考えとくんじゃなくて?」
「うっせ…ダイヤはなんて話しかけるんだよ?」
俺に聞くということは、自分はもう決まっているのだろう。
そう思い興味本意で聞くと、ダイヤは少し考え口を開いた。
「おかえり…と言おうと思っていますわ」
「……そっか」
すると階段からAqoursの面々が出てきた。
その表情はとても暗い。
ダイヤはAqoursの面々に近づき、
「おかえりなさい」
ただ一言。
するとルビィは目に涙をためダイヤに抱きつきながら泣き出した。
…悔しい思いをしたんだ…今日ぐらい存分に泣いた方がいい。
俺はルビィの頭を撫ですぐに幼馴染である曜の前に立った。
「……瑠璃くん」
曜…お前まで泣きそうな顔をするなよ…。
俺は曜が被っている帽子を深くかぶせて、頭に手を優しく置き。
「帰るぞ」
「うん……ッ……うん」
そうとう悔しかったのだろう。
曜は瞳から大粒の涙をこぼした。
涙をみんなに見せないように、目元を隠している。
「曜ちゃん…」
曜の後ろから千歌の声が聞こえた。
「悪いな千歌、曜は俺が送ってくから」
「あ、うん…お願いします」
俺の知っている、明るく元気な千歌とは別人のように弱々しい。
その顔わ見てあの時の姉ちゃんを思い出した。
「なぁ千歌」
「ん?なに?ルーくん?」
「…やめるのか?」
「…え?」
しまった。
あの時の後悔を思い出してつい聞いてしまった。
続けるか続けないかは彼女たちの自由だ。
「すまん。忘れてくれ」
俺は曜を連れてその場を去った。
走らせてから、曜は一言も話さなかった。
俺も夜風にあたりながら自転車を走らせている。
「瑠璃くん」
「ん~?」
「喉乾いた」
泣いて喉が渇いたのだろうか?この先に自動販売機があったはずだ。
「はいよ」
自動販売機の横に自転車を止めて、ジュースを買う。
ベンチに座り買ったジュースを曜に渡した。
「ほらよ」
「ん、ありがと」
「…少し落ち着いたか?」
「……」
返事がない。
自分の飲み物を開けて飲む、夜の海を見ながら曜が落ち着くまで待つ。
風が吹き、水面に細かい波が立つ度に潮の香りが鼻腔をくすぐる。
この塩のにおいは何だか落ち着くような気がする。
すると、
「私さ、今回のイベント…自信あったんだ」
「…おう」
曜が口を開いた。
「ダンスも…歌も…ミスなくて……今までで1番の出来だった」
「おう」
「だけどさ…順位は最下位…更には0人だよ?」
0人。
会場の誰ひとりAqoursの踊れに心を震わせた人がいないということだろう。
曜は内浦の暗い海を見ているが、その瞳は涙をためている。
自然に曜の頭をそっと触れた。
「俺はさ、お前らの踊りや歌を見たわけじゃない。けど涙をためるぐらい悔しっかたんだな」
「…うん」
「お前らは頑張ったよ。だから我慢すんなよ」
触れた曜の頭を撫でた。
すると曜は瞳から、大きな涙が絶えずあふれ出した。
「うん…ッ!……うんッ!」
曜は俺の撫でている手をどかし抱き着く。
いきなりの事に少し驚き困惑したが、親友の涙を見て少し落ち着いた。
「よしよし…頑張ったな」
「うっ…ううッ…!!」
こんなに泣いてる曜は初めてだ。
子供のように泣き出した曜を、俺は優しく腕を回して抱きしめた。
そしてその後、何とか泣き止んだ曜だったが、恥ずかしかったのか今は両手で顔を隠してる。
「今頃かよ」
「うるさい!こっち見ないでよ!」
「痛ッ!?」
肩をグーで殴ったぞこいつ!?俺は元気を取り戻した曜を見て一安心した。
他のAqoursのメンバーが気になるが、そっちはダイヤが何とかしているだろう。
すると曜は赤い顔でこちらをジーっと見ていた。
「何だ?恥ずかしいのは収まったか??」
「……瑠璃くんってさ、何でそんなに私たちを気にかけてくれるの?」
私たちとはAqoursのことだろう。
気にかけているか…。
「違うよ曜」
「ん?」
「気にかけてるんじゃないよ。これは―――贖罪だよ」
「贖罪?」
俺があの時のしっかりと動いてれば、姉ちゃんの涙の理由を聞ければ、果南姉にもっと気にかけていれば、鞠莉姉を信じなければ…。
あの時の事は後悔がどんどん蘇ってくる。
だからこそ今回のAqoursを気にかけていたところもある。
「…少し昔話してもいいか?」
「うん。聞かせて」
曜は真剣な目でこちらをジッと見た。
「あれは……2年前の話だ」
昔の記憶を、糸を手繰るように思い出し曜に話した。