水は生き物だ
飛び込めば牙をむき襲い掛かかってくる。
だがしかし、拒まずに受け入れれば、水は美しい生き物となる。
スクールのコーチに教えてもらったこの言葉の意味は、俺はまだ知らない。
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「ただいま~」
中学の部活が終わり無事に帰宅。
曜とも帰りに少し話したけど、遅い時間ではない。
「おかえり!お兄ちゃん!」
バタバタっと玄関まで迎えに来てくれたルビィ。
ルビィの頭に手を置き撫でる。
「ただいまルビィ」
「~♪」
頭を撫で終わるとそのままルビィは、腕に抱き着きながら台所に向かう。
台所には母さんが料理をしていた。
匂いからするに、魚の煮付けだろうか?
「母さんただいま」
「おかえりなさい。あら?も~ルビィったらお兄ちゃんが大好きなのね」
母さんは、俺の腕に抱き着いているルビィを見て笑顔になる。
そして何故か満足そうな顔をしているルビィ。
「父さんは?」
「お父さんはまだ仕事で帰ってきてないわ。先にいただいちゃいましょう!」
そっか…最近父さんの帰りが遅い。
久々に話がしたかったけど仕方がない。
「あら、瑠璃おかえりなさい」
「あ、姉ちゃんただいま」
後ろから姉ちゃんが話しかけてきた。
「姉ちゃん、勉強でわからない所があるから教えて欲しいんだけどいい?」
「ええ!構いませんわ!お夕飯食べてからにしましょう。ルビィ?夕飯の準備をしましょ!」
「は~い!」
そう言うと姉ちゃんはルビィを連れて夕飯の準備へ。
俺も着替えてから夕飯の準備を手伝う。
やっぱり今日は、煮魚だった。
その後、夕飯を食べて姉ちゃんの部屋に行き勉強を教えてもらった。
「ありがと姉ちゃん。何とかなりそうだ」
「いつでも頼って下さい。何たってお姉ちゃんですから」
胸を張りフンっと息を吐き、何故か誇らしげだ。
個人的にはいい加減、姉弟離れした方がいいと思うけど…。
俺はノートを片付け部屋を出ようとしたら。
「る…瑠璃」
「ん?なに?」
姉ちゃんに呼ばれて振り向くと顔をほんのり赤くしている姉ちゃんの姿。
何だろう?とりあえず片付ける手を止めて話を聞く。
「実は…わたくし、スクールアイドルを始めようと思っていますの」
スクールアイドル…姉ちゃんとルビィが好きなものだったはず。
そのスクールアイドルになるのはすごいことだと、余り詳しくない俺でも分かる。
「スゲェじゃん!ライブとかあるの!?」
「い…いえ、まずはグループ名を決めなければ……そこで明日、鞠莉さんのところにいこうと思っていますの…瑠璃はどうしますか?」
「行く!鞠莉姉の所行く!」
鞠莉姉は俺の親友だ。
最近、部活で会えてなかったし久々に会いたい。
「あと、果南さんも来ますわ」
「果南姉も来るの!?」
「ん?何か問題でも?…少し顔も赤いですが?」
「ううん!全然!何でもないよ!!」
あ…危ない。
姉ちゃんに果南姉の事が好きなのがバレる所だった。
この事を知っているのは鞠莉姉だけだ。
久々に会う2人……楽しみだ。
その日の夜は明日の為に直ぐに寝た。
そして次の日、姉ちゃんと船に乗り淡島のホテルオハラの鞠莉姉の部屋へ向かった。
「鞠莉姉と果南姉もスクールアイドルやるの!?」
「そうなのよね、スクールアイドルには余り興味はないのだけれど…」
鞠莉姉は少し恥ずかしそうに答えた。
ついでに果南姉と姉ちゃんは後ろでチーム名を決めようと色々アイディアを出しあっている。
そっか…2人もスクールアイドルか…。
鞠莉姉は紅茶を飲みながら2人の様子を見ている。
「けど、鞠莉姉も美人だし!直ぐに人気になるんじゃない?」
「ッ!?」
鞠莉姉は、ビクッと体を震わせたこちらをジッと見てきた。
え?なんかした??
「はぁ…瑠璃?そういう事は私じゃなくて果南に言わないとダメよ?好きなんでしょ?」
「う…うん。ごめん」
何か注意された…本当のことなのにな…。
すると今度は机をたたく音が、振り向くと姉ちゃんと果南姉が、チーム名で白熱していた。
「やはりここは、浦の星少女隊がいいですわ!」
「違うよ!スピカの方がいいよ!!」
予想よりもかなり白熱してる。
「止めなくていいの?」
鞠莉姉から出された紅茶を飲みながら、鞠莉姉に聞く。
するとニコニコと笑みを浮かべながら答えた。
「いいんじゃない?私は楽しいわよ!」
そう答える姿は、本当に楽しそうだ。
ん~…チーム名か……内浦に関係するのがいいとなれば……。
「みかんガールズとかは?」
「「「それは絶対にない」」」
3人からまさかの拒否。
いいと思ったんだけどな…。
すると鞠莉姉は近くの紙に英語を書き始め見せて来た。
紙にはAqoursと書いてある。
「Aqoursなんてどうかしら?水を意味するaquaと、私たちのものって意味のoursを組み合わせてAqours!」
鞠莉姉が淡々と説明。
何だか異様にしっくり来た。
そして、姉ちゃんと果南姉は目を合わせて
「Aqours……響きがいいですわね!」
「うん!私の考えたスリーマーメイドよりいいかも!」
どうやら気に入ったようで、次の段階の話に移行した。
その後話し合った結果、果南姉が作詞兼リーダー、鞠莉姉が作曲、姉ちゃんが衣装作成と役割を分担した。
俺はというと、3人からお願いされAqoursサポートをする事になった。
こうして、姉ちゃん・鞠莉姉・果南姉の3人でスクールアイドルAqoursは始動した。
その後、結成から半年もたたずAqoursは地元でも有名になり、“東京スクールアイドルワールド”のイベントに招待される事になった。
「3人とも忘れ物はない?」
俺は3人を見送りに来た。
俺の問いに鞠莉姉がピースしながら答える。
「ノープロブレム!問題ないわ!」
「それならよかった、今回は水泳の大会が近いから調整で行けないけど……応援してるから思い切って楽しんでね!」
「ええ!頑張るわ!」
鞠莉姉の気合いは十分に伝わった。
それに比べ…姉ちゃん…。
「人を3回書いて飲む…人を3回書いて飲む」
「緊張しすぎじゃない?」
「東京ですよ!?緊張しますわー!」
ダメだ、姉ちゃんが壊れた。
とりあえず肩を叩き落ち着かせる。
「いつも通りにいけば大丈夫!姉ちゃんならできる!」
「…ホント?」
「ホントホント」
少し涙目にこちらを見てきた姉ちゃんを何とか励ます。
すると落ち着いたのか、姉ちゃんは深呼吸をして覚悟を決めた様子で。
「ありがと瑠璃、行ってきますわ!」
「うん!いってらっしゃい!」
姉ちゃんはそのまま改札口へ。
すると果南姉がジッとこちらを見てる。
「な…なに?果南姉」
「私には何かないのかな~って」
「え~…果南姉は緊張とかしないでしょ?」
果南姉は今までのステージも何だかんだそつなくこなしていた。
緊張している様子はないと思えたが、果南姉は頬を掻きながら
「ははは、私だって緊張はするよ?あんまり表には出してないだけで」
その言葉に少し衝撃を受けた。
勝手に果南姉は大人だと思ってたけど、同じ子供何だ。
俺は果南姉の目を真っ直ぐ見た。
「頑張れ果南姉!応援してる」
「…うん!ありがと!瑠璃も部活頑張って!」
果南姉は俺の頭を軽く撫で鞠莉姉達のもとへ。
電車は出発し、見えなくなるまで俺は手を振り続けた。
―――そしてこれが最後に4人で笑った日でもあった。
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