黒澤家の長男です。   作:カイザウルス

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第21話

“静岡県高等学校総合体育大会水泳競技”

静岡県の水泳部が一堂に集まり、全国の切符を手に入るための大会だ。

俺はその中の100m自由型、200m自由型、メドレーリレーに出る。

この大会の緊張感は少し癖になる。

 

「瑠璃」

「ん?剛先輩…お疲れ様です」

「さっきの予選見た感じ、まだ固いようだが大丈夫か?」

 

先ほどの予選。

俺は1位通過で無事に決勝戦に駒を進めた。

後は決勝戦で勝ち上がれば、全国出場だ。

 

「久々の空気に緊張しましたが、もう慣れました

「さすがだな」

 

剛先輩は、フッと笑いながらゴーグルをつける。

そういえばバタフライの決勝戦組のアップ時間か…。

 

「頑張ってください」

「おう」

 

剛先輩はそう言い残し、アップ用のプールに向かった。

その背中か威圧感を感じ、背中が今までの以上に大きく見えた。

3年生最後の大会だ…メドレーリレーは絶対に全国に行こうと改めて覚悟を決めた。

その後、アップも一通り終わらせ時間がかなり余っている。

自動販売機で飲み物を買い一呼吸おく。

 

「だ~れだ?」

 

目の前が真っ暗になった。

正しく言うと、視界を手のひらで隠された。

 

「…鞠莉姉?」

「シャイニ~☆」

 

鞠莉姉は、ガバっと俺の首に腕を回し後ろから抱き着いてきた。

後頭部が豊満な胸に埋まるが気にしないで堪能しようじゃないか…。

 

「鞠莉さん!瑠璃を動揺させないでください!」

「?そこに瑠璃がいたら抱き着くのは当たり前でしょ??」

「そんなことありません!」

「ははは、瑠璃も大変だね」

 

俺に抱き着く鞠莉姉、それを叱るダイヤ、慣れたように俺に話しかける果南姉。

あの時の3人がいる風景に俺はつい笑みが零れる。

 

「練習は?」

「今日は鞠莉さんがどうしても瑠璃の大会に行きたいと言ったので、午前中だけですわ」

「なるほど、ありがと鞠莉姉」

「ノンプロブレム!問題ないわ!」

 

鞠莉姉はニコニコしながら、俺の隣に座り腕に抱き着いてくる。

あの騒動から鞠莉姉は、俺との距離感がめちゃくちゃ近い。

簡単に抱き着いてくるし、勘違いするような発言等々、鞠莉姉いわく海外じゃ普通とのこと。

 

「ちょっと鞠莉姉?あんまり近いと」

「…ダメ?」

「ッッッ!?」

 

ムニュっと鞠莉姉の胸の感触が伝わってきた。

これ絶対にわざとだろ!?ダメではないが、流石に刺激が強すぎる。

 

「すけべ」

「これ俺悪くないよね!?」

 

ダイヤから発言に、俺は勢い良く反論した。

鞠莉姉は楽しんだようで、謝りながら腕から離れた。

そんな中で果南姉は何だかソワソワしているが………あ、そういうことか。

 

「剛先輩ならいまアップ中だから、観客席から見えるよ?」

「えぇ!?な、何で剛が出てくるの!?」

 

珍しく慌てる果南姉。

俺はそんな姿を見ながらニヤリと笑う。

 

「剛先輩に果南姉がくるって言ったら、嬉しそうにしてたよ」

「え?…しょ、しょうがないな~…行ってあげるか~!後でね瑠璃」

 

そういうと果南姉は観客席に向かった。

俺は手を振り、にこやかに送るとダイヤが口を開いた。

 

「いいんですの?」

「何が?」

「果南さんのことが好きなのでは?」

「そうよ瑠璃!あんなに惚れていたじゃない!!」

 

ダイヤにバレていたのは驚いたが、もう昔の話だ。

それに…あの感情は“好き”ではなく“好き”だと思う。

そう考えるとまだ俺は“好き”の感情がわからないでいる。

 

「さぁ?何のことかな~」

 

すると鞠莉姉が俺の様子を見て

 

「それなら今はフリーってこと?」

「フリー?ああ、好きな人はいないけど…なんで?」

「ううん!瑠璃も大人になったのね!あ、ちょったバスルームに行ってくるわね!」

 

そう言うと鞠莉姉は鼻歌を歌い、スキップしながらその場をさった。

 

「トイレに行くのがあんなに楽しいのか?」

「はぁ…貴方って人は…」

 

ため息を吐き、何故か眉間にしわを寄せ俺を睨むダイヤ。

え?俺なんかしたか?するとダイヤが口を開いた。

 

「ま、いいですわ。私も観客席に向いますわ、ルビィたちが心配ですし」

「おう、来てくれてありがと」

 

そう言うとダイヤは俺の胸に拳を当てる。

真っ直ぐ俺を見ながら

 

「黒澤家の為じゃなくて…自分の為に頑張りなさい。応援していますわ」

「!!…ありがと姉ちゃん」

 

俺は胸を張り堂々と答えた。

すると

 

『フリー100mの選手は準備をお願いします』

 

放送が流れた。

プールを使っていい時間だ。

 

「そんじゃ行ってくる」

 

飲み物を飲み干してゴミへ。

ダイヤに背中を向けた俺は、準備運動に向かった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

『バタフライ100m優勝は、水沼 剛くんです』

 

放送で瑠璃くんの先輩である水沼先輩が呼ばれ、無事にインターハイ出場の切符を手に入れた。

隣を見ると果南ちゃんが涙目で口を抑えている。

水沼先輩は、普段表情を崩さないが、今日は嬉しそうにしているのが私でもわかった。

 

「曜ちゃん!」

「ん?なに千歌ちゃん」

「次はルーくんの種目だよね」

 

次の種目が瑠璃くんの専門種目だ。

 

「たぶんもう直ぐで出てくると思うよ」

 

すると会場が一気に盛り上がった。

プールサイドを見ると、決勝戦に参加する選手が歩きレーンの前に並んだ。

瑠璃くん3レーン目だ。

スタート台をタオルで拭いた後に、ジャージを脱ぎ始めた。

 

「く…黒澤くんってかなり鍛えているのね」

「ワーオ!瑠璃ったらあんなにたくましくなったのね!」

 

梨子ちゃんと鞠莉ちゃんが瑠璃くんの上裸に反応する。

確かに瑠璃くんの体は水泳選手として理想的な体をしている。

だけど簡単には手に入らない、あの体を手に入れるには並々ならぬ努力が必要だ。

私が瑠璃くんを見ていたら、視線があった。

すると瑠璃くんは私に親指を立てる。

お返しに親指を立てると

 

「あ!いいな!私も!!」

 

隣にいた千歌ちゃんが続いて、瑠璃くんにサムズアップするが。

瑠璃くんは手で払うジェスチャーをしてゴーグルを付け始めた。

 

「むっ~~!何さ!ルーくん何か知らない!」

「はははははっ」

 

多分、瑠璃くんは千歌ちゃんをいじったつもりなのだろう。

その証拠に凄く楽しそうに笑っている。

ゴーグルをつけて後頭部にゴム紐を後ろに引っ張り離す。

バチン!っと音がなると同時に

 

「はいった」

 

先ほどまでの笑顔が消えてプールを見つめている。

瑠璃くんの集中状態。

あの一連の動きはどうやら瑠璃くんのルーティンのようで、完全に使い分けている。

スタート台に立ち、腰を曲げ合図を待つ。

それと同時に会場が一気に静かになる。

 

『用意…』

 

会場全体が静寂を包む。

そして、ピッ!と機械音で笛の音がなると同時に、スタート台に乗っていた選手たちが一斉に飛び込んだ。

 

「瑠璃くん凄い!」

「いや!少し遅れた!」

 

集中しすぎて回りの音が聞こえなくなるのは、瑠璃くんの悪い癖だ。

案の定頭を上げた時点では、4位にいる。

けど…ここからが瑠璃くんの真骨頂。

 

「瑠璃の泳ぎを久々にみましたが…相変わらず綺麗なフォームで速いですわね」

 

ダイヤさんが小さく呟いた。

瑠璃くんの泳ぎ方は、教科書に載せたいほどに綺麗なフォームにストロークが速いことが特徴だ。

そんな瑠璃くんは、前の人を次々と抜いていく。

50mの折り返し地点で一気に残り2人を抜いていき、1位に上り出た。

 

「いけぇぇぇぇ!!ルーく~~ん!!」

「お兄ちゃんファイト~~!!」

 

Aqoursのみんなが瑠璃くんを応援する。

そして、瑠璃くんは壁に手を着きタイムを見る。

 

「51秒91……全国出場だ!!」

 

瑠璃くんは水面を叩きガッツポーズをして、全国出場の喜びに浸っている。

私は席を立ち瑠璃くんの所に向かった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「全国か…」

 

自動販売機前のベンチで少し休んでいた。

200mの決勝まで時間がある。

 

「ふぅ…」

 

何だか実感がなく、意外と虚しいものなのだと。

けどこれで憧れた舞台で泳げる…そう思うと、心が奮い立つ。

そんな時だった。

 

「えい!」

「痛ッ!?…曜か」

 

後頭部に衝撃が走ったので振り向くとそこには、ニヤニヤと笑っている曜がいた。

 

「なんだよ?」

「スタート遅れたでしょ?」

「うるせぇ」

 

実際スタートが遅れたのは、事実のため何も言えない。

すると曜は続けざまに手を振り下ろしてくる。

 

「瑠璃君の悪い癖だよ!集中!しすぎると!周りが!見えなく!なる!」

「痛い痛い痛い痛い痛い!!叩きすぎだよ!!」

 

曜は、リズミカルに頭にチョップしてきた。

容赦なく叩いてくるため結構痛い。

すると曜は、俺の横に座りニッコリと笑いながら。

 

「すごかったね!〝50秒の壁〟切りそうだったじゃん!」

 

高校競泳の100m自由形には、〝50秒の壁〟がある。

プロスポーツ選手になるには最低限の50秒台を切らなければならない。

今回のタイムは、51秒91。

 

「けど、50秒切らないと全国に通じないよ……もっと速くならないと」

「それでもだよ!着実に速くなるのが一番だよ」

 

曜は俺のスイムをよく褒めてくれる。

なぜそこまで褒めるのかと聞いたら、どうやら俺のフォームが綺麗だからと話してくれたのを今でも覚えている。

ニコニコと笑いながら曜に釣られ自然と笑顔が出る。

 

「とりあえず次の目標は全国突破!一先ず頑張るよ」

「その域だ!頑張ろう!!」

 

曜とこのように話して過ごすのはなんだか久しぶりな気がする。

そういえば

 

「明日の花火大会、Aqours出るんだろ?楽しみにしてる」

「鞠莉ちゃんに果南ちゃん、そしてダイヤさんが入部してくれたから、あの時よりレベルアップは確実にしてるよ」

 

あの時、きっと最初のステージのことを言っているのだろう。

俺自身、あの時以来Aqoursのステージを見ていない。

スカイランタンの時は、撮影係だったしな。

 

「んじゃ、俺もAqoursに負けないように明日のメドレーと200m優勝してくるか」

「いったね~~!!それじゃ、優勝できなっかったらハンバーグ食べさせてね」

「んじゃ、優勝したら何かに付き合ってもらおうかな」

 

時間を忘れそうになりながら、お互い話、笑い、軽口を叩きながらふざけあう。

曜と過ごすこの時間は心地がいい。

さてと、時間を確認し俺は立ち上がる。

 

「そろそろ応援席向かうよ。他のメンバーも始まるだろうし」

「もうそんな時間か…ねぇ瑠璃くん」

「ん?」

 

少し頬赤らめている曜が、モジモジしている。

 

「明日の花火大会さ、ステージ終わりに一緒に屋台回らない?」

「お、いいね。千歌とか桜内も誘ってみんなで回るか」

 

元々、俺の中ではそのつもりだった。

久々の屋台に少しテンションが上がる。

しかし、曜は深呼吸をし、言葉を続けた。

 

「2人でとかどうかな?」

「2人…俺と曜でか?」

「うん…ダメ??」

 

顔がリンゴのように赤くなっている曜。

2人で回るなんていつぶりだろうか、小学生のころは、よく一緒に花火大会に行っていた。

今はお互い成長しているため、2人で歩くのは少し照れくさい。

現状、曜につられて俺も顔が赤いのを感じる。

 

「まぁなんだ…いいよ。久々に回ろう」

「ホント!?やった!楽しみにしてる!!」

 

嬉しそうに笑う曜。

そんな姿を見て、俺も少し笑う。

その後曜は、赤らめた頬を手でパタパタと仰ぎながら、落ち着いたら席に向かうと言い残しその場を去った。

俺は再度ソファーに座り、先ほどの曜の言葉を思い出した。

 

「2人で…か、まぁ曜のことだ。他意はないだろう」

 

結論を決め観客席に向かった。

その後、大会はどうなったのかというと、

浦の星男子学院は、去年に引き続き賞を総嘗めにした。

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