黒澤家の長男です。   作:カイザウルス

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第22話

大会2日目。

浦男は賞を総なめにし、強豪校としてその名をさらに知らしめた。

俺はというと、メドレーリレーと自由形100mで全国出場を決めた。

200mも優勝したが、今回は100mとメドレーに集中したいから辞退した。準優勝は水泳部の先輩だし、悔いはない。

 

そんな風に思い返しながら――俺はいま、全力疾走で祭り会場へ向かっている。

記者の質問が長すぎるんだ!浦男のこと、自分のこと、全国への意気込み……いちいち語らせるな!

 

そんな文句を心の中で叫びながら、ようやく会場に到着。

ステージと観客の数をざっと確認し、会場スタッフさんに声をかけて、Appuruの待機室へと案内してもらった。

俺は過去から学ぶ男だ。

一度、ノックせずに控室へ突入して盛大に怒られた前科がある。今回はしっかり、ノックする。

 

コンコンッ。

 

「瑠璃だけど、いま入って大丈夫か?」

「ん?ルーくん?ちょっとま――」

「瑠璃!今開けるわね!」

「お兄さんずら!丸も挨拶するずら!」

「え、ちょっと待っ――」

 

ガチャァン!

勢いよく扉が開く。

その奥には、まだ着替え中のAqoursメンバーが……!

鞠莉姉、花丸、千歌は衣装がはだけており、曜・桜内・果南姉・津島は下着姿。

ダイヤとルビィも同様だが、あの二人は見慣れてるけど……問題ないとは言えないな。

とはいえ、この状況――明らかにマズい。

 

「「「「「「ッ!?きゃ」」」」」」

 

「ちょっと待った!!!」

 

全力で叫びを封じ、頭をフル回転。

言い訳を、早急に考えろ俺!

 

「今回はちゃんとノックした!だから、勢いよく開けた鞠莉姉と花丸が悪いと思います!が、眼福だったのは否定しません!」

 

そして俺は、ジャージのファスナーを勢いよく下ろす。

筋肉痛が出る前の一番張ってるタイミング。

今日のチャームポイントは胸筋。

 

「俺も脱ぐから、おあいこってことでどうだ!?」

 

「「「「「「早く出て行って!!!!!」」」」」」

 

「ですよねーっ!」

 

俺は即座に扉を閉め、外のソファに腰を下ろす。

……結局、同じ展開じゃないか。反省してるようなしてないような。

ていうか、Aqoursって発育いい人多くない……?そんなことを思っていたら、扉がバンッと開いた。

そこには、怒れる鬼のような顔の姉――ダイヤがいた。

 

「瑠璃?扉を開けるときは、まずノックを――」

「ノックはした。さっきも言ったけど、鞠莉姉と花丸が勢いよく開けてきたせいで、中が見えてしまったんだ」

「えっ?」

 

ダイヤは後ろを振り向き、気まずそうな鞠莉姉と花丸…とはいえ、それだけで完全に信じてくれるわけがない。

そこで俺は、奥の手を出す。

 

「なぁ、姉ちゃん」

「ん?何?」

「俺が、悪いのか?」

「ぐっ……そ、そうですわね」

「姉ちゃん?」

「ぐ……鞠莉さん!花丸さん!話が違うではありませんか!?」

「うわ〜瑠璃くん、それはズルいわ〜」

「お兄ちゃん……」

 

よし、俺の勝ち。

ダイヤは、俺とルビィにはとことん甘い。

“姉ちゃん”呼びと上目遣いは、最強の切り札だ。

曜とルビィが何か呟いていたが、聞こえなかったことにする。

それよりも、目の前の衣装が目を引いた。

 

「みんな、衣装似合ってるな。和服アレンジか? めちゃくちゃ好きだぞ、こういうの」

 

Aqoursの今回の衣装は、和服モチーフ。

各メンバーの個性を活かした装飾も細かく施されていて、クオリティが高い。

 

「がんばったな、曜」

「今回は、ダイヤさんとルビィちゃんにも手伝ってもらったの!」

「ほう……腕は落ちてないみたいだな」

「誰に言ってますの?これくらい当然ですわ!」

「お姉ちゃん、すごく楽しそうに作ってたよ!」

 

3人のやり取りを見ていると、自然と顔が緩む。

曜は俺の幼馴染だし、姉妹でこうして仲良くしているのを見るのも嬉しい。

他のメンバーにも軽く挨拶をして、その場を後にする。

目指すのは、ステージ正面のベストポジション。Aqoursのパフォーマンスを、しっかり見届けるために。

そして、その場所に着いた時――すでに先客がいた。

 

「ん?ういもいてあおあ?」

「……え?なんて?」

 

リスのように頬をふくらませ、大量の屋台フードを抱えている剛先輩。

焼きそば、たこ焼き、唐揚げ、焼きとうもろこし……どこかの部活打ち上げかと思うほどのラインナップだ。

黙々と食べ続けていた先輩が、ふいにステージの方を見て呟いた。

 

「果南が久々に歌うからな……それを見に来たんだ」

 

そういえばこの人、果南姉と仲が良かったんだよな。

 

「……果南ね。いや、果南さんがスクールアイドルやってたって、知ってたんですね」

「ん?ああ、もちろん。話してたからな」

 

口に食べ物を放り込みながら、さらりと答える先輩。

意外なほどあっさりしていて、驚いてしまう。

すると、ステージがライトアップされ、会場に歓声が広がった。

ステージ脇から、Aqoursのメンバー9人が現れる。

 

「…やっぱり衣装いいな」

 

つい本音が漏れる。

衣装の可愛さもさることながら、彼女たちが堂々とそこに立っている、その姿がまぶしかった。

――最初に歌い出したのは、果南姉。続いて千歌、曜。

ダイヤ、ルビィ、花丸。そして鞠莉姉、桜内、津島と続いていく。

その歌詞を聞いて、俺ははっとした。

 

「この歌詞……ホワイトボードに書いてあった……」

 

Aqoursが解散したあの日の後、部室を掃除した時のことを思い出す。

確かにホワイトボードに、薄く書かれた歌詞の断片が残っていた。

まさか……あれがまだ生きていたなんて。

曲はサビへと入り、会場のボルテージも一気に上がっていく。

タイミングを合わせたかのように、空に花火が打ち上がる。

ドン、と大きな音が夜空に響いた。

 

「すげぇ……」

 

思わずつぶやいた声が、自分でも驚くほど素直だった。

隣の剛先輩も、いつの間にか手を止めてステージに見入っている。

俺も、Aqoursの歌と踊りに完全に心を奪われていた。

あの3年生たちにブランクなんて感じさせない。1年生たちはまだ初々しいけれど、それが逆に魅力的だ。

そして2年生たちは、あの体育館で見た時よりも格段に完成度が上がっている。

 

「瑠璃?……泣いてるのか?」

 

「えっ?」

 

剛先輩の言葉に頬へ手をやると、指先に冷たい感触があった。

……泣いてる。気づかないうちに、涙がこぼれていた。

 

「す、すみません!なんか……高ぶっちゃって……!」

 

3年生の3人が、あの時と同じ笑顔で歌っている。

憧れの3人が、ステージで輝いている――その姿に胸がいっぱいになって、気づけば涙が止まらなくなっていた。

ーー何だが最近は、涙脆い気がする。

というか、まさか剛先輩の前で泣くとは……恥ずかしい。

 

「果南から色々聞いてる。……泣いたっていいんだ。その分、強くなるのが男だ」

 

見上げると、剛先輩はやわらかく笑っていた。

ああ……やっぱりこの人は、強い。

男として敵わないと思った。

 

「剛先輩は強いっすね」

「メシ食ってるからな」

「ぷはっ!メシで強くなりもんなんですか?」

「…たこ焼き食うか?強くなるぞ」

「ありがとうございます!いただきます」

 

たこ焼きを頬張りながら、ふと思った。

――この人を、絶対に優勝させよう。

憧れと、尊敬と、ほんの少しの悔しさを胸に抱きながら。

この背中を押して、引っ張って、支えてみせる。

そうして、俺自身もこの人の隣に立てるように。

 

 

Aqoursのステージは大好評で幕を閉じた。

そして俺は曜との集合場所である、ステージ裏の関係者出入口付近で待っている。

たぶん着替えに手間取っているのだろう…。

スマホを見ながらしばらく待っていると――

 

「ごめ〜ん!待った〜!?」

 

声がして振り返ると、そこには朝顔柄の青と白の浴衣を着た曜がいた。

 

「……おま、それ……?」

 

「えへへ、どうかな? ダイヤさんに着付けてもらったんだ。に、似合うかな?」

 

突然の“和装モード”に、頭が真っ白になる。

 

「に、似合うんじゃないか……?」

 

「そっか、えへへ……ありがと」

 

なんだこの気持ちは。曜が……あの渡辺曜が……めちゃくちゃ可愛く見える。

――はっ、そういえば。

『浴衣の女の子は100倍可愛く見える』って、クラスの誰かが言ってたっけ……。

な、なるほどな……浴衣の力……すげぇぇぇぇぇ!!!!

 

「る、瑠璃くん?」

「な、なんだ!べ、別に普段よりめちゃくちゃ可愛くなってドギマギしてるわけじゃないからな!?勘違いするなよ!?」

「えっ?」

「あっ……」

 

うっかり……口を滑らした。

 

「へ〜? ドギマギしてるんだ〜?」

 

曜が悪い顔で俺の顔をのぞき込んでくる。

あの顔にちょっとイラッとした俺は、反射的に曜の頭にチョップを落とした。

 

「いたっ! ひど〜い!」

「さっさと行くぞ、まったく……」

 

背を向けて歩き出す俺に、曜はあわてて追いかけてくる。

 

「ごめんって、瑠璃く〜ん!」

 

この夏、まだまだ騒がしくなりそうだ。

ーーそんな予感がした。




次回、曜ちゃん回です!
ブラックコーヒー忘れずに!

小話もございます!
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