浦の星男子学院 水泳部は全国常連の県内でも強豪校にあたる。
そんな水泳部は毎年30人以上の1年生が入部するが、その中で3年生まで続けているのは僅か数人。
その理由は厳しい練習メニューや部内の上下関係が悪いなのではない。
みな口をそろえて≪化物たちには勝てない≫と。
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1日の学校生活が終わり、これから水泳部で入部式だ。
一先ず水着に着替え、プールに向かうと
「「「「「こんちわぁぁぁぁ!!!」」」」」
総勢30人位から一斉に挨拶される。
こいつら教育するの?めんどくさ…中には一癖二癖ありそうな奴が数人いるな。
とりあえず挨拶だけでも。
「初めまして、1年の教育係になった黒澤 瑠璃です。あと30分位で練習始まるからそれまでに各々準備体操するなり、談笑するなりで過ごして下さい」
「「「「「はい!!!」」」」」
元気があって何よりだ。
さてと、俺もボチボチ準備体操しようと思った瞬間。
「る~り~♪」
「うわぁ!銀次先輩!?」
後ろから急に水泳部の副主将の銀次ギンジ先輩に抱き着かれた。
背泳ぎでは全国常連の選手だが、一度だけ個人メドレーでも全国出場の経験がある。
何でもそつなくこなせるが、俺はこの人が本気を出した所は見たことがない。
それとこの人の抱きつき癖は少し怖い。
「相変わらず真面目ちゃんだね~」
「何すか!?離してください!」
「はいはい」
すると銀次先輩は少し考えるそぶりを見せ、口を開いた。
「肩回りの筋肉がつき始めているね、バランス良く鍛えないとダメだよ?」
「う…うっす」
そう言うと自分の準備体操を始め、その場からいなくなる。
銀次先輩はスポーツ一家の家庭で父親がスポーツトレーナーのようだ。
そのおかげなのか、体を触れると触った相手の状態がわかるらしい。
俺も偶にアドバイスをもらう為に、話すが抱き着くのは本当にやめてもらいたいものだ。
そんなこんなで、準備体操をして部活を始めようとした時だった。
「すみません!遅くなりました!」
入口から1人の男が入ってきた。
ネクタイの色から新入生だろう。
「これから始める所だ、早く着替えて整列しろ」
「はい!すみません!!」
そう言うと直ぐに新入生の更衣室に向かわせた。
直ぐに来るだろう。
「右からの順番に、出身と名前と得意分野をそれぞれ言ってくれ」
「「「「「はい!!」」」」」
果たして今年の1年は何人残るかな?
それぞれの自己紹介を済ませて最後に、遅れてきた新入生の番まで回る。
「じゃ最後」
「は…はい!柳石 蛍ヤナイシ ホタルです!えっと…得意分野は平泳ぎです!よろしくお願いします!!」
柳石とは珍しい名前だ、覚えやすい。
とりあえず全員の紹介が終わったので一言。
「改めてよろしくな。とりあえず最初だし」
「あの」
新入生の1人が手を挙げる。
何か質問だろうか?名前がわからん。
「どした?何か質問か?」
「えっと…先輩って中3の最後の大会で一回戦負けでしたよね?」
中3最後?ああ…あの時か。
それが何だろうか。
「俺あの時となりのレーンにいたんですよね~」
「うん、それで?」
「わからないかな~…俺より遅い人に教わりたくないんですよ?他の人に代わってもらえないですか?」
なるほどね~…なるほどなるほど。
こいつは俺に挑発しているんだな?えっと名前は…覚えてないからモブでいいや。
モブはニヤニヤしながら馬鹿にしたように見てくる。
チラっと剛先輩の方を見ると、親指を立て了承をえた。
「まぁ…元々やるつもりだったし?いいんだけど、気に入らないなら泳ぐか?俺が負けたら俺が卒業するまで奴隷になってやるよ」
「…へ~自信満々ですね?」
「はっ!別に自信満々じゃねぇよ……雑魚がいきがるなよ、高校デビューか?」
「ッ!!」
「おい新入生!」
俺は水泳キャップを被り、ゴーグルを装着しスタート台に上り宣言した。
「このモブが話したように、俺に勝てる自身がある奴だけスタート台に乗れ…相手してやるよ」
そう言うと何人かの新入生がスタート台に並ぶ。
え?こんなに舐められてるの俺…まぁいいや。
俺はスタート台に乗らなかった新入生の1人にスタートの合図をお願いした。
「種目はフリー100mでいいよな?」
「…ああ」
モブが返事をすると同時に、スタート台に並ぶ新入生たちも頷く。
しかし、等々敬語が抜けたぞこいつ。
まぁいいや、集中集中…。
一呼吸おいてから後頭部にあるゴーグルの紐を後ろに引っ張り手を離す。
パチンッ!!と音を立て後頭部に軽い衝撃が入ってからスタート台に立つ。
俺の集中する為のスイッチだ。
「用意……ドン!!」
その瞬間、俺は飛んだ。
手先から足先まで綺麗に着水し…一気に加速する。
周りの一年からの圧は感じる…絶対に抜く!追い付く!等々の感情は感じるがまだ甘い。
折り返し地点の50mの壁を蹴る。
その際にモブと目が合う…その顔は悔しさがにじみ出ていた。
ここで手を抜いて≪いい思い出≫を残してあげるのが普通だろうが、ここは浦男水泳部だ。
そんな甘い考えがあるならこの先、続けるのは無理だろう。
手を抜かず、100mの壁を触る。
「ふぅ…さてと」
俺はプールから先に出た。
そして次々と100mの壁を触り先にプールから出た俺を見る。
「確かに俺はあの時一回戦負けしたが、ここに来てからは逃げ出したくて血反吐を吐く程の努力もした」
スタート台の足を乗せ、プールから出ない新入生達を見下ろす。
「…俺を舐めるんじゃねぇよ?」
プールにいる新入生達だけでなく、プールサイドにいる新入生達までもが怯えた様子だ。
あれ?流石にやりすぎたか?何かフォローを入れようとした瞬間。
「ここでは常に部内で競争がある」
剛先輩が俺と新入生の間に入る。
「瑠璃に負けたお前らは負けたままでいいのか?男なら這い上がってこい。ここにいる新入生は考えてほしい…今から1分だけ時間をやる。這い上がる覚悟がない者は、着替えて出て行って貰おう」
すると新入生の何人かが続々と水泳部を後にしていく。
そして残ったのは10人ほど新入生…蛍にモブもいる。
すると剛先輩が少し笑みを浮かべて笑う。
「ようこそ水泳部へ…君たちの覚悟はしかと受け取った。さぁ、練習を始めよう」
「「「「「はい!!!!」」」」」
新入生達は先ほどの面構えとは、打って変わり面構えが違う。
さて俺も練習に参加するとしよう。