捻くれ提督と困った艦娘ちゃん達   作:となりでとろろ

2 / 2
良い先生は大抵、怖い。

―――気まずい。

 

執務を始めて早一時間が経過している。

それだというのに、私と本日の秘書官である加賀の間に会話はない。

仕事中に私語をし過ぎるのは如何なものかとも思うが、全くないのもそれはそれで問題ではなかろうか。

仕事とは、もっとコミュニケーションをとりながらするものではなかろうか。

まぁ、今まで私が皆と話してこなかったのがそもそも悪いのだが。

 

というか、加賀さん超怖い。無表情で淡々と仕事をしている。怖い。ロボットみたいである。怖い。なんかやったら怒られそうなのも怖い。ため息と共にゴミを見る目で「こんなこともできないんですか?」と言われそうで怖い。

そんなことを言われたら、その夜、私の私室でブラブラ揺れるストラップが一つ完成することになる。

 

というか、この鎮守府怖い人多すぎでは無かろうか。その中でも、加賀さんはベスト3には入っているが。ちなみに後二人は、山城さんと長門さんである。戦艦勢と空母勢は軒並み怖い。

 

いや、今いない人達はどうでもいい。問題は、今、部屋を同じくしている加賀さんだ。

どうしたら良い。

 

普段ならそこまで気にすることもないが、何故かはわからないが今日の加賀さんは、不機嫌なように見える。

何故、そう見えるかって?

周りの空気が張りつめているからだ。助けてくれ。

息をしたら殺されそうなぐらいな緊張感が漂っている。

何故だ。何かしたのだろうか。どうしたらいいのか。

誰か!誰か助けてください!!

 

「提督」

「はいっ!!」

 

そんなことを考えていると、加賀さんから呼ばれた。

反射的に、この鎮守府に着任してから一度も出したことない大声を出して返事をしてしまった。

返事は大事だと、訓練生時代に嫌と言うほどに教官から叩き込まれ、というか、教官の指導が厳しすぎて実際に嫌と言ったのだが。思い出したくもないそんな地獄のような指導によって、もはや体に染み付いている。

 

「提督。大本営から艦娘の配属の連絡が来ています。配属される日にちが今日になっているのですが、確認したところ昨日の業務日誌の引き継ぎの項目には何も書かれていませんが、提督はこちら件はご存じでしょうか?」

「いえ!何も聞かされておりません!!申し訳ありません!!」

「何故、そこまで私に対してへりくだっているのですか。それでどうしましょうか、提督」

「申し訳ありません!!加賀さん!!本日配属となるともうこちらに艦娘も向かっていると思われますので受け入れるしかないかと!お手数なのですが、私に本日配属される艦娘の艦種と名前をお聞かせ願えないでしょうか!!」

 

大本営から送られてくる艦娘の配属指令書は、事前に申請を送れば、拒否できたり、配属を遅らせることができる。

これは、資材などの備蓄や鎮守府内の環境などを提督が考慮して考えた結果、配属を受け入れるか受け入れないかを決めることができるのだ。

その場合は、配属予定の艦娘は他の鎮守府に回されることになる。

 

「提督、上司は貴方なのですが。何故、私にへりくだってるのですか。……ええっと、艦種は軽巡洋艦ですね」

「軽巡洋艦」

「はい。艦娘の名前は……大井ですね」

「大井さんですね。わかりました。……大井?」

 

加賀さんの口から本日配属される艦娘の名前を聞いた途端、訓練生時代の思い出が走馬灯のように流れてきた。

涙を堪え、泥をすすり、御国のためにと必死になって学んできた私の青春時代。

そのストイックなまでの姿勢で、周りの学友からは一目おかれ、余りの神々しさ、前向きな姿勢から接触を躊躇され、それを乗り越え私に声を掛けてくる程の猛者は、片手でも余りある程の人数であった。

つまり、友達が少なかったのである。

そして、軍学校が全寮制であり親元を離れたのを良いことに、私は気の向くまま心が赴くまま生活。結果的に、生活習慣が悪化、規律に厳しい軍学校の中で、私は唯一、常に生活指導を常に受け続ける孤高の存在と化してしまった。

それを問題視したのが、当時の教官、練習艦の大井先生である。

先生は、堕落した私を叱咤激励、時には厳しく、時には鬼のように私を教育してくださった恩師なのである。

卒業時、進路が定まってなかった私が提督になることが決まったときに誰よりも喜び涙してくれたのは、他でもない大井先生だ。

そんな先生に私は感謝はしているが、それを上回るほどの恐怖を覚えているのも確かだ。

できれば必要最低限、会いたくない。会えば怒られるのは目に見えてわかっている。

それだというのに何故大井先生がこの鎮守府に配属になるのだろうか。

練習艦はどうしたのであろうか。

 

 

「加賀さん。その、できれば穏便にその配属を無かったことにしたいのですが……」

「何を言ってるんですか、提督。先程、受け入れるしかないと仰ったばかりではないですか」

「そこをなんとか!!お願いします!!」

「いや、あの……。私に頼まれてもどうしようもないのですが……」

 

なんということか。

この大井先生が如きオーラを放つ我が鎮守府きっての強者である加賀さんでも無理だと言うのか。

 

「なら、長門さんや山城さんに頼んで……」

「何を言ってるんですか、提督。一艦娘である私たちにそんな権限有るわけないでしょう。というか、何故その二人なのですか」

「なんと……終わった」

「今日は、やけに言葉を発しますね、提督。」

 

どういうことだろう。私は常日頃から実に多くの言葉を発している。口には出さないだけであって。

 

「それで、本日配属されるこの、大井さんという艦娘をご存じなのですか?」

「存じるも何も、彼女は私の訓練生時代に指導して頂いた教官なのです」

「なるほど。確かに配属指令書の経歴の欄に三月まで軍学校の練習艦を務めていたとありますね」

「元教官がかつての教え子に指示を出されるというのは、些か角が立つものでありましょう。穏便な鎮守府運営の為にも、ここは一つ、配属を受け入れないか、私が異動しましょう。それが良い」

「そんなこと出来るわけありませんよ。……提督、間違えていたら大変失礼なのですが……」

「はい」

「かつての教官であった大井さんの事が苦手なのでしょうか?それでしたら、提督がここまで配属を渋り、普段よりも饒舌なことに説明がつくのですが」

「そんなことはありません。訓練生時代、常日頃から怒られていたとか、厳しくされたとかそのような理由で、苦手としているわけではありません。私が苦手としているのは、普段から仏頂面で厳しい雰囲気を醸し出している方達や、不機嫌なオーラを周りに振り撒き不必要に周りを緊張させるような方達だけです。しかし、大井先生は、普段は朗らかで優しげな微笑みを浮かべていますのでその点はとても好感を抱きますが、だがそれは、世を忍ぶ仮の姿。本来は、自分より下のものを虐め痛め付けることに快楽を見出だす悪魔なのです。いくら私とあろうと人ではない悪魔は苦手と言うべきだけなのです」

「そうですか……。提督、もう一つ質問をしても良いでしょうか」

「はい」

「その苦手な人達の中に、私も入っていますね」

「……」

「頭にきました」

 

しまった。不必要なことまで言ってしまった。

忘れていたわけではないが、加賀さんは聡い。今の私の言葉から私が加賀さんを苦手としていることを見抜いてしまった。

執務室の雰囲気が更に張りつめた。

これは非常にまずい。自業自得なのだが、私一人ではどうしようもない。誰か、誰か助けてください!!

 

そんなことを考えていると、コンコンと、ノックの音が聞こえた。

 

「はい、どうぞ」

 

これはチャンスだ。この張りつめた空気を一変できるかもしれない。

 

「失礼します」

 

そう言って、室内に入ってきたのは先程まで話題に挙げていた人物であった。

 

「球磨型軽巡洋艦の四番艦、大井です。どうぞ、よろしくお願い致しますね。」

 

そう、我が恩師である大井先生だ。

 

ついに来てしまったか……

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。