王の財宝をフル活用したら人類滅んだ 作:容疑者X
ん? あれ、また繋がったのか。時間の後に世界規模でずれたのに、妙な縁だな。後で切っとくか。
さて置き、またのご登場。そう、俺だ。例によって例のごとく名前は無い。正しくは、たぶんあるんだが憶えてない。前例なんて一つしかないんだから、変わらず、と言い換えてもいいだろう。
まあ、どうせ暇なんだ。付き合ってくれ。暇だろう? 暇でないはずがない。ならいいだろう、聞いていきなよ。こいつも何かの縁だ。
前と同じ、くだらん話だ。与太話でもほら話でもないあたりが余計にくだらない。だが話す。異論は認めん断じて認めん私が法だ黙して従え。
さて、過去に戻ってからの話だ。国家の垣根を一切廃してみたり、一定以上の兵器が開発される度に破壊したりしてみたが、何度やっても人類は滅びた。最後辺りはもう星の寿命すら削れる規模になったりもした。当然のように俺にまで矛先を向けてきた。むしろあいつら、破壊する度により強力な兵器作るのは何なの? 以前もそうだが、イタチごっこが好きなのか。隣の芝は青いのか。芝どころか土壌ごと吹き飛ばしてもしぶとく直す執念は尊敬できる。一瞬でできるせいか、最近そうした執念が殊更よく見えてきた。
まあ、過去の話はこれくらいで。今の話をしてみよう。
うん、転生したんだ。これはもう俺がいない時空に行かないと無理だな、と思ったからさ。魂を弄って、輪廻の輪を自分で泳いで、何回か人以外になったりもしたが、どうにか人間の男として生まれてみた。正直途中まで楽しんでいただけなのは否定しない。そしてやっぱりよくある転生者ムーブ。幼小中高と神童扱い天才扱い、好かれ嫌われ慕われ憎まれ、いろいろと。まあ、悪くない人生だった。
そして、高校三年生になって、進路について周囲が話しているのを聞き流しながら、寄ってくるクラスメイトに勉強を教えていた頃、丁度昼休憩のことだ。
随分と不格好な魔方陣が表れて、教室内の人間を異世界に連れ去ってしまった。壊さなかった理由は興味が湧いたから。だって数えきれない転生はしたけど異世界召喚なんて初めてだったから、つい。
それからは嘘のようなテンプレ祭りだ。何回噴き出したか憶えてない。心を見ながら聞いたら余計に笑った。世界中を見渡して聞くとさらに笑った。最初と最後は大げさすぎて舞台役者かってくらい大きな声と通る笑い声をあげてしまってそんな自分に余計に笑った。笑いの衝動を抑えるのに宝具使ったのなんて初めてだった。それくらい笑ったのだから、凄まじい大笑っぷりだったろう。
召喚自体から笑って、不格好な魔法に笑って、魔力の仕組みに笑って、種族を迫害しているのに笑って、前時代的な貴族に笑って、貴族を残しておかないといけない世界の決まりで笑って、決まりを作った神を笑って、信奉する宗教に笑って、それが一神教なことに笑って、神がいるのに笑って、めぐりめぐって最後は王の野望が不老不死だったことで思いっきり笑った。いや、笑うだろう。笑わないわけがない。笑わなければなんとする。ここまで面白かったのは世界が滅びかけて人類の絶対数が減った後に、もしかしたら獣との交配で獣人ができるんじゃないか、とか本気で調べていた科学者たちを見て以来だ。ちなみにそいつらが獣とヤった挙句に病もらって死んだことで当時の人類は滅んだ。それに匹敵するだろう、これは。
収めた後、睨んだり武器を向けたり囲んだりしてくる輩をガン無視して、元クラスメイト達に意思確認をした。大事なことだ、帰りたいか帰りたくないか。ただの質問に一切関係のないところから反発された時はまた噴き出した。こっちでも見た目はしっかり黄金比だから、普段話を聞かせるだけなら、男女問わず軽く微笑んで見せればいいんだが、場の空気に酔ってたのが人気のある一団だったから始末が悪い。いや、即座に黙らせたんだが、それでも空気は既にそっちに傾いて、つまらないからさっさと帰ろうかと思った。猿の縄張り争いを思い出していたのもある。馬鹿らしくなったんだよな。その時だよ。意外なところから声が上がったんだ。
どこにでもいるような、影が薄くて陰気で友達の少ない、それでいて承認欲求の強い、俗にいうボッチ。その中で、一番立場の低い、あと少し運が悪ければ強姦だの輪姦だのされてそうな雰囲気の、何をやられても言い返せなさそうな女子が、最初に声を上げたのさ。いや、今思い出しても声を上げたとか言えるほど大きくなかったんだが、最初に嫌だと、小さいながらも訴えたのはそいつだった。それから、一気に帰りたいと声が上がった。
ところで、勘違いしないでもらいたいんだが、俺は別に人の意思が美しいなんて思っていない。率直に言って見下している。俺にできることを一つもできない、才能も習得も中途半端で、何がしたいのかさっぱりわからない劣等たち。道具に頼ってるやつが言うなって? 言うよ。道具に頼ることもできない奴に何言われようが、鼻で笑ってやれる。優れた道具を手元に持っているのと持っていないのじゃ人生が違うんだ。
話が逸れた。とにかく、人の意思の力とか、逆境でも頑張る勇気とか、おぞましくも強い執念だとか、そんなものに価値を見出せるほど、俺の目は肥えちゃいなかった。
それでも、ああ、いいものを見たさ。さんざん馬鹿にしといて変な話だが、本当にいいものを見たと思ったんだ。
こっからは巻きでいいだろ。心を読んで、本当に帰りたいと願っていても声を上げられなかった奴まで含めて全部戻してやった。思っていない奴らは残したが、全員チート能力は剥がしたから無力な一般人だ。問い詰めようとする王を壁に埋め込んで同化させて不老不死にしてやった。それ以外に何もいらないと願っていたのは彼奴なのだから文句は言うまい。言えないのか、どうでもいい。
良くも悪くも強欲な王女にはそれこそすべてをくれてやった。王妃の病を癒し、その美貌を移し替え、国庫を潤し、豪遊を途絶えさせず、民草の生活を向上させ、彼女こそが至高の王であると祀られて、挙句失せろというから失せてやったら、俺がいなくなった国で即日押しつぶされて自殺した。
傲慢な王に脅されていた司祭が隠していた罪人という名の無実で無力な人々には最大の支援をした。ついでに残ったクラスメイト達の生活も保障してやった。魔族という名の被害者を擁護して国を興した。全種族の内部抗争をすべて叩き潰し、それぞれが最も長く生きるために必要だろう知識をやった。神を叩き潰して貴族が必要な決まりをぶち壊した。
いやあ、俺頑張った。世界は間違いなく平和になった。
そうしたら、果てが結局同じなんだよ。前と同じように居場所も文化も食事もくれてやったのに、前と同じように滅んだ。なんなんだこれ。わけがわからないよ。
何で全部の欲望を満たしてやってるのにわざわざ他所から奪うかね。いや、それぞれにしか役立てないと思っていた技術や作物なんかが、他種族にとってかなり有用な研究資材だった、なんて事態が連続して起きたからなのはわかってるんだ。となるとあれか、そもそも満たされてなんかなかったと。欲望って底なしなんだな。
次は、そこを踏まえてやってみようか。さあ、戻ろう。世界を渡る必要はないよな、この世界の過去へ戻ればいい。
じゃあな、誰かさん。二度あることが三度ある、なんてことにはならないといいな。……あれ、これフラグ?