【完結】朝起きたら辺り一面焼け野原になっていたんだが 作:ゆっくり実験
これは、私/俺の復讐だった。
◇
何処かの平行世界の藤丸立香は、十を越える聖杯にドクター・ロマン達の生存を願った。
しかし聖杯といえども完全消滅した彼の蘇生は叶わなかった。だから何処かの世界でロマンが生き残ることができる可能性を作ろうとしたのだ。
そして、藤丸立香の願いを託された聖杯は世界を漂流し、この世界へと流れ着いた。
そうして生まれたのが私だった。
聖杯に託された意志を継ぐもの。聖杯がそれ単体で行動するための仮初めの身体と心。
彼を参考にして作成された私の性別が本人と違うのは、同一の存在として世界から排斥されることのないようにだろう。
その後、魔神王に勘づかれることのないように記録の一部を封印しながら、普通の少女としての生活を送っていた。
だが、私には自由はなかった。
私は聖杯だったから。私の命は与えられた使命の為のもので、私の身体は見ず知らずの誰かの為のものだった。
聖杯として他者の願いを叶え続けた。聖杯としての力なんて使えないくせに、聖杯としての性質だけは残っていた。お人好しなんかじゃない。そういう風に造られていただけだ。
だから、私は人間が嫌いだった。
当たり前のように他者の献身を搾取する、どんな汚濁よりもなお穢らわしい人間。無価値ですらない、害悪な存在。
そしてある日、世界は燃え尽きた。
私が燃え尽きなかった理由は単純だ。私は聖杯なのだから。七つの特異点と共鳴して、擬似的な特異点でも形成していたのだろう。
私の反応を感知した魔神王は心底驚いたことだろう。だって現在七つの特異点を形成しているはずの、自らが送り出した聖杯と同じ魔力を感知したのだから。
それこそ冬木に派遣されていたフラウロスを呼び戻すほどに。それがオルガマリー・アニムスフィアの生還に繋がったのだろう。彼女の身体はどうしたのか分からないが、冬木の聖杯でも使ったのだろうか。
そしてレフ教授を目にした時、私は全てを思い出した。
チャンスだと思った。自由に生きることができる、それ以上に、人間に、カルデアに復讐するための。
分かってはいたのだ。私の存在が想定外のもので、彼らに私に対する責任なんてものはほとんど存在しないことは。
それでも許せなかったのだ。
だから、必死で命乞いをした。ここで死ぬわけにはいかない。せめて人間の希望を断ちきる情報を魔神王に伝えてからだ。
予想外にも私は彼の神殿へ招かれた。彼の聖杯を構成要素としていたから、もしかしたら別世界の自分からのメッセージとでも勘違いしていたのかもしれない。
そして彼は全てを視た。
それは驚くだろう。人類最後のマスターの記録を持つものが自分の味方をすると言うのだ。その奥まで視て納得したようだったが。
彼と話し合って分かったのは、やはり私には自由なんてないことだった。
聖杯なんて所持しても無駄だ。だって聖杯は人間の願いを叶えるものであって無機物である私の願いを叶えるものではないから。
そしてカルデアに味方しても、魔神王に味方しても私には未来はないらしかった。
藤丸立香の願いが叶っても、叶わなくても最終的には私の自我は聖杯から剥がれ落ちる。
結局、私は人間ではなく、ただの無機物に過ぎなかったのか。それでいい。人間は醜い。だからそれでいいんだと思おうとした。
それでも人間でありたいと思ってしまったのはきっと、思い出の中の彼らが────
だから、私はカルデアの人々が大嫌いだった。
…魔神王は私を処分しようとはしなかった。私を殺せば同一存在である七つの特異点の聖杯にも悪影響があり、最悪造り直すはめになると分かっていたからだろう。
それでも処分ではなくても魔術等で動きを止めようとしなかった理由は分からない。あの時私をマスターと呼んだ理由も。
或いは、人間に憧れた私に、生きた人間のみがなれるマスターという役割を与えてくれたのか。
彼が生み出した聖杯ゆえに、私を娘のように思って────
────まあ、それはないか。
その後私は、自由に生きるなんてことはできないという事実に何もかもどうでもよくなって、人間への復讐に全てをかけた。そうして、その復讐は成し遂げられたはずだった。
そうだ。
そうだとも。
それなのに、何故、彼が此所にいるんだ。
彼は当然のように、ゲーティアの悲願を、そして私の復讐を無かったことにした。世界は救われてしまった。
それはそうだろう。
彼ならばできるだろう。
彼方より現れた最後の一手。
魔術王ソロモン。
いや、
彼の皮を被った、
────人王ゲーティア。
魔術王ソロモンという名の英霊となったゲーティア。…私の知らない貴方。
魔術王ソロモンは英霊の座からも完全に消滅した。だが、彼の伝承が消えたわけではない。
空っぽの隙間が生まれたのだ。それはまるでとある侍の伝説の如く。
その伝説の再現に一番相応しい存在は、言うまでもなくゲーティアだった。
そうして、この物語は終焉を迎える。
大団円だ。犠牲無きハッピーエンドだ。
そう、彼らに犠牲はなく。しかし誰かが救われるためには誰かが犠牲にならなければならない。その為だけに私は設定されたのだ。
結局、どこまでいっても私は運命の操り人形に過ぎなかった。
誰かの願いを叶える為だけの舞台装置。
ああ、本当に────
────下らない、人生だった。
私は瞼を閉じた。
これにて本作は完結です。