IS Never Say Never   作:蟹男

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ネタが……っていうより原作で明らかになっていない部分が多すぎて非常に書きにくいですね。基本的に原作と矛盾しないように書こうと思っているのでゆっくりしたペースになってしまいます。


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「……まだ着かないのか?」

 

「もうすぐですよ。それともこの位で疲れてしまいましたか?」

 

「俺は良いんだが、早くジャックの傷を治療してやりたいんでな」

 

「お気遣いどうも。ですがこの程度気にする程じゃ有りませんよ、血も止まってきましたし」

 

軽口を叩きながら人目を避け歩き続ける。誰かに見つからないというだけでなく、俺達に正確な場所を知られないようにするという目的も有るのだろう。この先に待っているのはそれ程の価値が有る物なのか、ただ単にこの女が心配性なだけなのか。

 

「見えてきました、アレが目的地です」

 

指差された先に有ったのは一見すると何の変哲も無く見える建物だった。目立つ真似をする筈が無いので当然といえば当然だが、恐らく中は全く違う造りになっているだろう。この辺りに他に建物が無い事から考えるに、恐らくは地下だ。そこに巨大な空間が有るのだろう……ISで戦う事が出来る位の広さの物が。

 

「――ようこそお二方、亡国機業へ。歓迎しますよ」

 

「亡国機業……」

 

その存在はあくまでも噂程度では有るが聞いた事が有る。この世界で生きる人間にとっては敵でも有り味方でも有り……確実なのはその動き一つで俺達の行く末が大きく変わってしまうという事だ。最も真偽の程は定かでは無く、内心では仕事が上手く行かなかった奴が言い訳に使っているだけだと思っていた。

 

だが実際こうして見せつけられてはその存在を否定する事は難しく、例えその名を騙っているだけだとしてもそれに匹敵するであろう力が有るのは間違いない。基地の襲撃の真相を掴んでいる事、俺達の所在を簡単に見つけられる事、……依頼者にISを一つしか渡しておらずもう一つを俺が持っている事。それら全てを知る事が出来るというだけでも並大抵の組織では無い事はすぐに分かった。

 

「これはまた大きな名前が出て来た物だ。俺の様なしがない一傭兵が構ってもらえるとは思わなかったよ」

 

「あら、随分とご自分の評価を低く見積もっていらっしゃるのですね。自身を高く売り込もうとする人が多いというのに珍しい」

 

「身の丈以上の仕事を引き受けた所で上手く行かんさ。長く続けるには無理をしない事だ」

 

「それが出来る人が殆ど居ないからこそアナタの名前は有名なんですよ。多くの人は賭けに出てそのまま死んでしまうし、成功しても足を洗う人が大半ですから。長年第一線で戦い続けているという事実だけでもこうしてお招きする理由になります……勿論それだけでは有りませんが。さ、こちらへどうぞ」

 

促されるままに付いて行く。やはり主だった施設は地下に造られている様で、外見からは想像出来ない程の広さを持っている。組織の規模を見せつけるかの様に歩いたその先に待っていたのはどこぞの大使館にも負けない程立派な応接室だった。

 

「へえ……豪華じゃないか。おまけにセンスも良さそうだ」

 

「お褒め頂き有難う御座います。此処は私が調度品を揃えたんですよ」

 

「そうかい、そういうのは俺には良く分からんが高かったんだろうな。このソファも随分と上等だ」

 

「どうぞ、お掛けになって下さい。きっと最高の座り心地ですよ――大使館にだって負けないぐらいに、ね」

 

俺達を余所の所よりも高く買っているという意思表示か、それとも自分達の方が優れているという只のアピールか。どちらにせよわざわざ気にする程の事では無いだろう。

 

「んじゃ、失礼するよ」

 

「どうでした?ウチの組織を見た感想は」

 

「流石、って感じだな。規模と言い設備の質と言い……お前も同意見だろ、ジャック」

 

「ええ。此処に来るまでは噂が一人歩きしている物だと思っていましたが、決してその名前にも負けないレベルですね」

 

コレは素直にそう思えた。変に取り繕ったりせずとも素直に言うだけで十分褒める事に繋がる事などそうは無く、下手に言葉で飾り立てするとかえって嘘臭くなってしまうだろう。裏の世界に多大な影響力を持つというのも納得出来る話だ。

 

「あのダニーさんにそこまで言って頂けるとは光栄ですね。折角ですのでもう少し私達の話を――」

 

「悪いが雑談は此処までにして貰おうか。幾ら続けても俺は依頼人の事を漏らしたり不利になる様な余計な事を言うつもりは無いぜ?だからその隠し持っているレコーダーも電源を切って貰えると有難いんだが」

 

「……失礼しました、まだアナタを甘く見ていたのかもしれません。では本題に入らせて頂きます。」

 

持っていた機械の電源を切り、こちらへ向き直る。その眼は先程までのこちらを値踏みするような物では無くなっていた。

 

「まずいくつかお尋ねしたい事が有るのですが……何故アナタは基地を襲撃したのでしょうか?」

 

「知っているだろう?ISを奪う様依頼されたからさ」

 

「質問の仕方が悪かったですね、私が聞きたいのは何故襲撃という手段を取ったのかという事です。アナタならもっと簡単な方法は有ったでしょう――暗殺、狙撃、或いは単に忍び込んで奪い取っても良い。それなのにどうして目立つやり方を選んだのですか?」

 

「だからこそ、さ。あそこのISを完全に自分達の物にしたい、そう言われたんだ。向こうにも面子ってモンが有るからな」

 

「成程、そういう訳ですか。……嫌な人ですね、アナタは」

 

「褒め言葉として受け取っておくよ」

 

とその時、それまで黙っていたジャックが申し訳無さそうに会話に入り込んできた。

 

「あの……全く話が見えないんですが。結局何故犠牲を出してまであんな方法にしたんです?」

 

「……お前見た目の割に案外頭が回らないよな。まあいい、丁寧に説明してやるよ。そりゃ勿論そういう裏技も最初は考えた、だけどそれでは真に奪い取る事には繋がらないんだ。仮にお前がその立場だとしよう、そんな時どうする?」

 

「それはまあ……犯人を捜しますよ。各所に協力を仰いだりすれば何処かに証拠は見つかるんじゃないですか」

 

「そうだ、分かってるじゃないか。つまり遠くない内に足が付いてしまう、そうなったら流石に返さざるを得ないし国際的にも大きな非難を浴びる事になるな。俺達としてもクライアントから違約金を取られるし、何より指名手配されかねない。流石にそれはちょっと御免だから……正面から堂々と行く事にしたのさ。何せISは最強の兵器だからな」

 

此処まで説明してやったのに未だに理解出来ていないらしい。少し想像を働かせれば分かるだろうに。

 

「途中までは分かりましたけど、どうして急にそうなるんです?危険な真似をするメリットが全然見えませんが……」

 

「ま、確かにリスキーだな。だけど上手く行ったらデカいぜ?もう一度向こうの立場になって考えてみろ、正面から当たって負けたって事を他の国に言えると思うか?」

 

「そう言われると……ISを使って通常の兵器に負けた、などとは言い出しにくいですね。となると持ち出されたISが他国に有ると突き止めても表立ってそれを追及出来ないという事になるのか。クライアントもそこまで計算して頼んできた、という事でしょうか」

 

「想像に過ぎないけどな」

 

とはいえ狙いはそれだけでは無かっただろう。俺にそう依頼を出せば真っ向から戦いに行くことを計算し、世界をひっくり返し得る映像を手に入れる事も狙いに入っていた筈だ。

 

「……と、悪いな。こっちで話し込んじまって。まあとにかく追求しようと思えば何処かで自分の無能を晒す事になる、外交の舞台ではソレは致命的な隙に繋がるからな。意外とこういうモンは堂々としている方が良いのさ。被害者が可哀想とか思わせないのがコツでな、そうすると泣き寝入りするしか無くなるんだよ。鍵の無い家に住んで泥棒に入られたー何て言ってもだれもまともに取り合っちゃくれないだろう?」

 

「他の国も完全な味方という訳では有りませんし、下手したら相応しくないとして他のISまで取り上げられかねない……と。とても参考になりました。やはりアナタは恐ろしいですね、私達の組織としてもなるべく敵に回したくない物です」

 

「買い被んなよ、聞かなくても分かっていた事だろうに。まあ敵味方はともかく頼みが有るなら聞いてやっても構わないけどな。……しっかり金は頂くが」

 

何か言われる前に立場はハッキリさせておく。俺は誰かに取り込まれるつもりも敵に回すつもりも無い。誰かの為に動く、という事がどうしても本質的に理解出来ないのだ。

 

「惜しいですね、アナタ程の人が加わってくれれば非常に嬉しい事なんですが……。まあ仕方有りません、今後我々からの依頼を受けて頂けるというだけでも十分です」

 

「悪いな、一箇所に留まるのは性に合わないんだ。……ジャック、お前はどうする?俺の事は気にしないで付いて行っても良いんだぜ?」

 

「……何の冗談ですか。私だってそんなつもりは全く有りませんが」

 

「お前は隠し事が下手だからな、動揺してんのが丸分かりだ。お前言ってたよな……今の世の中に対する不満を。勿論亡国企業に加わったからってそれがどうにかなるとは限らない、寧ろそれを積極的に利用してのし上がって行きそうでは有る。だけどな、ジャック。それでも俺と一緒に居るよりはマシだと思うぞ。別に何の不満も持っちゃいないからな」

 

ゴホン、と咳払いする音が聞こえた。少しヒートアップしてしまったらしい。

 

「……ああ、すまないな。勝手な事ばかり言ってしまって。そもそも勧誘するのはアンタらだし必要かどうかも聞いていなかったな」

 

「ジャックさんも加わってくれるなら歓迎しますよ、腕前は確かですしね。でもその話はまた後程、という事で……」

 

「そうだな、まずはこのアクセサリーの行く末を決めなきゃな」

 

懐から待機状態に有るソレを取り出す。俺にとってはこんな物道端に転がっている石ころと同じだ、何の使い道も無い。命と引き換えにする価値が有ったのか……それが決まるのはこれからだ。

 

「幾ら世の中を騒がせていようが俺には関係無い話だ……」

 

「ええ、そうでしょう。詰まる所それは道具です、使いこなせる人の下に有るべきだと思います。只とは言いません、既に売ってしまったもう一つの倍の値段でどうでしょう。悪くない話だと思いますが――」

 

「金額はそれでいい、だが一つ条件が有る」

 

「伺いましょう。ご不満でしたらもっとお金を出す事も可能ですが……」

 

現在のISの価値を考慮してもそれは破格の金額であるし、それ以上を出せるというのだから本当に底知れない組織だ。その誘いに心が少し動かされたのは事実だが、大事なのは金額では無いと思い出しその誘惑を振り切る。

 

「そうじゃない――これからこのISを使おうとしている人間、ソイツに会わせてくれないか?」

 

「…………分かりました。では、少し席を外させて頂きます」

 

そう言って俺達を部屋に残しスコールは出て行く。只黙って待っているのも暇だなと思っているとジャックが先程の話題を蒸し返してきた。

 

「ダニー、どうして私がこの組織へ身を置くべきだと思うんですか?私にはまだ彼らの思想や狙いがさっぱり見えてきません、アナタだってそうでしょう?確かに今の世の中に不満が無いと言えば嘘になります、でも彼らがそれを変えてくれるとは思えない」

 

「……結局お前は何も気付いちゃいないんだな。確かに俺だってコイツらが何考えているのか、笑顔の下に何を隠し持っているのかまるで分からんよ。でも一つ確実に言えるのは――何かを成そうとする意志、それを持っているって事だ。幾ら俺がイケメンで頭も良い完璧超人でも今後そんな思いを持つ事は有り得ないからな」

 

「自分で言いますか、自身が完璧などと……。鏡でも見てきたらどうです?」

 

「おいおい、この美男子を捕まえて酷い言い草じゃねえか。現に――」

 

「お待たせしました、彼女がそのISのパイロットとなる者です」

 

言い返そうとした俺の言葉を遮るようにドアが開き、スコールが一人の少女を連れ戻ってきた。内容を聞かれていないと良いのだが。

 

「さ、挨拶しなさい。オータム」

 

「……オータムだ、テメエがアタシのISを持って来た奴か?仕事が遅いんだよ」

 

「ちょっと、その口の聞き方は――」

 

「ハハッ、良いじゃねえか。元気の良いお嬢さんだ、親に口の聞き方は習わなかったのかな?」

 

入って来た時から感じていた敵意が尚更強くなった様だ。その視線の鋭さはまるで俺を射殺すかのようである。

 

「この……男のクセに!偉そうな事言うんじゃねえ!」

 

「申し訳有りません、この子は少し男嫌いでして……」

 

「止めんな、スコール!どうしてこんなクソみたいな奴に謝るんだ、アタシの方がずっと良いに決まってんだろ!」

 

「おいおい、嫉妬すんなって。……ま、クソみたいっていうのは事実だがな。もしかしたらそれ以下かもしれないけどよ」

 

適当にあしらいつつ立ち上がる。長い時間座っていた所為で体が少し痛い、それを和らげる為のストレッチを開始した。

 

「落ち着いて、オータム……。それで、どうなさるおつもりですか?確かにお連れしましたが……」

 

「何、少し気になってな。ちょっとテストさせて貰おうか」

 

「テスト、だあ?お前がアタシを試そうって言うのか?……上等だ、やってやろうじゃねえか!」

 

「……一体何をなさるつもりですか?出来れば危険な真似は止めて頂きたいのですが」

 

ストレッチを止めそちらに向き直る。体の方はしっかり準備が整った。

 

「何、簡単な事だよ。欲しかった力尽くで奪い取れ……それだけさ」

 

「ハッ、面白えじゃねえか。いつ始める――」

 

その言葉を言い終える前に大きく一歩踏み込んで蹴りを放つ。中々の手応えだが、どうやらかなりトレーニングは積んでいるらしい。鳩尾を狙ったのだが両腕でしっかりガードされてしまった。とはいえ体格差も有り吹っ飛んで行った少女は壁に激突してしまった為、そこそこのダメージだっただろう。

 

「ガハッ……!こ、この卑怯者が――」

 

「お前まさかISをスポーツ何かに使う気じゃないだろうな。覚えとけ、戦場で戦うなら卑怯な手段なんてのはむしろ積極的に使う物なんだよ。さて――」

 

「すみませんが、場所を変えて頂けますか?此処を壊されるのは少し困りますので……大丈夫?オータム」

 

「そりゃ悪かったな。弁償する事になったら稼ぎがどっか行っちまいそうだ」

 

幸いにして壁に叩きつけただけなので調度品に傷などはついていなかった。ISをタダで引き渡す羽目にならずに済んで一安心だ。

 

「戦闘に適した訓練用のスペースが有るのでそちらでお願いします。場所は――」

 

「途中で見たあの無駄に広い所だろ?んじゃ先に行ってるぜ。治療でも何でもやってから来いよ、行くぞジャック」

 

部屋を出て真っ直ぐその部屋に向かう。辿り着いたのは此処が本当は地下で有る事を忘れる位広い空間だ、

 

「中に入ると一段と凄いですね。どうしてこんな物が……」

 

「訓練用、って言ってたろ?きっとISもそれに入っているんだろうよ」

 

「ああ、成程。という事は――」

 

「待たせたな、この野郎!全力で相手してやるよ。まさか卑怯だなんて言わねえよな?」

 

急接近し現れたのは、ISを装備した状態で現れた少女だった。確か打鉄……だったか?名前は忘れたが接近戦しか出来ないような物だったと思う。

 

「いいや、良いんじゃないか?使える物は何でも使うのが正しいやり方だ、よ!」

 

「何だあ?偉そうなこと言ってた割に随分とビビってんじゃねえか。アハハハハ!」

 

全力で後ろに向かって駈け出す俺を笑い飛ばしている。いつでも追い付けると言う余裕の表れ、そして――

 

「ザーンネーン、そっちには壁しか無いんだよ。逃げられると思ってんじゃねえぞ?」

 

「ハア、ハア……この年になって全力疾走何てするもんじゃ無いな。少し休ませてもらうぜ」

 

壁にもたれかかり体力を回復する。少女は俺に襲われる恐怖を刻み付けようとしているのか、わざとゆっくりとしたペースで歩いて近寄ってきた。

 

「気分はどうだ?このクソ野郎が。さっきの恨みはらさせてもらうぜ」

 

「有難うよ、わざわざゆっくり来てくれて。お蔭でもう少しで準備が整いそうだ」

 

「何……?させっかよ!」

 

俺の言葉を聞くや否や、スラスターを起動させ一気に近付いて来た。素直な人間というのは実に好ましい。

 

「何をする気か知らねえが、さっさと死んじまえ」

 

「危ねえな、全く」

 

「そんなモンで……うわっ!」

 

剣を振り下ろす一撃を、俺は右手を上げて防ごうとした。普通に考えれば何の抵抗も無く全身が両断されてしまうだろう……手に持っていたISと共に。その事態を避ける為、剣の軌道を無理矢理変えてくれたのだ。

 

もしかしたら振り下ろすのを力任せに止めようとしていたかもしれないし、ISならそれも可能だったかもしれない。だがこの少女は生身でも訓練を積んでいる為、途中で剣を止める事の難しさを良く知っている。間違いなくこうすると思っていた。――そしてその結果、自身の状態に気を配るのを忘れ勢いのまま壁に衝突する事も想像の範疇である。

 

「おいおい、ちゃんと見ろよ。スピード違反に前方不注意で一発免停だな」

 

「こ、この野郎……」

 

どうやらまだ勝負は終わりじゃないらしい。シールドは大分削れたようだが、同じ手段は通用しないだろう。少し離れた壁際に移動しながら次の方法を用意する。

 

「もう許さねえ。一突きにしてやるよ!」

 

ISを懐に仕舞い待ち構える。後二十メートル……十メートル……良し、今だ!後ほんの僅かで接触する、という所で目隠しし取り出した武器を投げる。

 

「とうとう諦めたか……なっ!?」

 

指の隙間からでも分かる強烈な光――閃光弾が作動したのだ。その衝撃による一瞬の硬直から立ち直る前に間を詰め、不自然に伸ばされた腕に横から力を加える。若干賭けに近かったが目論見は上手くいった様だ。何を身に纏おうとその中身は人間、本能は抑えられない。

 

暗闇の中に有り続ければ人は正気を失い、眩しい太陽は視力を奪い去る。人いうのは実に我儘だがこの際そんな物はどうでも良い。脅威に晒された時の対応はそれぞれに決まっている事、そして強い光の場合は身を丸めて難を逃れようとするという事――大事なのはこの二つだけだ。

 

「ISを倒せるのはISだけ……見事な証明をしてくれたな!」

 

勢いを止める事は出来ずとも、増す事は簡単だ。流れに逆らわず力を加えるだけで良い。俺がやった事と言えば丸めようとする腕をほんの少し加速してやるだけ、そうすれば後は自身の力でトドメを刺す事になるのだ。

 

「く、クソ……が……!」

 

回復した視界に飛び込んできた少女のIS、そしてその体に突き刺さる自らの剣。僅かな差とはいえ自分の腕が限界以上のスピードで畳まれる事は想定外だったらしく、それが自滅という結果を引き起こす。身を守る為の動きがトドメとなるのだからこんなに皮肉な事は無い。ダメージはかなり深く、ISが解除され生身の体が崩れ落ちる。闘志だけは衰えて居ない様だがもう動けないだろう。

 

「十分だろう、まだやるか?」

 

「ハアッ、ハァッ……当たり前だ、アタシは負ける訳には――」

 

「いえ、オータムの負けです。これ以上は勘弁して貰えませんか」

 

いつの間にか部屋に入っていたスコールが勝負の終了を宣言する。絶妙なタイミングだ、これ以上続けると言うならいよいよ殺すしかなくなっていただろう。

 

「お疲れ様です、ダニー。まあどうせ初めからこの展開は分かっていたんでしょうが、かなり肝を冷やしましたよ。アナタの事ですから勝てないと思ったら素直にこの場に表れたりしないでしょうしね」

 

「そんなに褒めんなよ、俺だって神様じゃないんだから分からない事ぐらい有るさ。つっても、こんなヒヨッコに負ける訳は無いけどな。年季の差って奴だよ。良し、それじゃ――」

 

「待て、よ……アタシはまだ認めてねえぞ。勝手に決めんな……!」

 

この場を立ち去ろうとした俺を地面に這いつくばったまま呼び止める。随分と諦めが悪い。

 

未だに立ち上がる事さえ出来ない少女の下へ近付き、足を高く振り上げた後顔面目掛けて全力で踏み付ける。ダァンッ!と大きな音が室内に反響した。

 

「……ほーう、中々やるじゃねえか。少しでも目を背けたり逃げ出そうとしたらお陀仏だったのにな」

 

「ハッ……誰が逃げるかよ。テメエみたいなのは一番嫌いなんだ」

 

俺の足は顔スレスレの床を踏み抜いていた。人間の出せる最も強力な攻撃の一つ、それがコレだ。下手に動いて当たっていればどうなっていた事か……。

 

「なあ、おい。そんなにコイツが欲しいのか?お前の大っ嫌いな相手からのプレゼントになるんだぞ?」

 

「関係有るか、そんなの。アタシにとっては只の道具なんだ、誰が持ってきたって一緒だ!」

 

「……コイツはな、手に入れる為に死んだ奴が何人も居るんだ。お前にアイツらの命を背負って戦う覚悟は有るのか?」

 

「知らねえよ、そんな事!何度も言わせんな……ISなんか只の道具なんだ、だからアタシが使って強くなってやるんだ……か……ら……」

 

余程体力を消耗していたのか、話の途中で気絶してしまった。道具……只の道具、か。

 

「すみません、無礼な事を言ってしまって。どうかここは――」

 

「気に入った、コイツは譲ってやるよ。金は口座に振り込んどいてくれ。それじゃ、オータムによろしくな」

 

「え……あの――」

 

呼び止める声を無視して外に向かう。まだまだ腕の方は未熟だが今後が楽しみだ。久々に楽しみが出来た事に内心で喜びを覚えつつ出口へ近付いて来ると、遅れていたジャックがようやく追い付いてきた。

 

「ふう……全く、置いて行かないで下さいよ。どうしたんですか急に」

 

「時間掛かったな、トイレでも言ってたか?」

 

「違いますよ、連絡先を教えて貰ったり他にも色々と……今後どうやって仕事を受けるつもりだったんですか。まあ良いです、そんな事よりどうしてISを渡してしまったんですか?あんな事言われたっていうのに」

 

「何の事か分からないな。ISを道具って言った事か?それとも知らねえって言われた事か?」

 

後少しでこの建物を出る、という所で立ち止まり質問を返す。まだ此処から立ち去ってはいけない。大事な事が残っているのだ。

 

「両方ですよ。アナタは仲間の事を大事にしていたじゃないですか、だと言うのに何故その成果のISを――」

 

「勘違いするなよ、ジャック。アイツらはあんな使い道の無いおもちゃ見てえな物に命を懸けたんじゃない、ましてやそれと引き換えにする金の為でも無い。他ならぬ俺に命を懸けてくれたんだよ」

 

「…………」

 

「オータムは良く分かっていたよ。所詮道具に過ぎない、無駄に気持ちなんか込めるべきじゃない、ってな。それに……腹立つだろう?あんな小娘に俺の、俺達の仲間の命が背負われてたまるかってんだよ。ソイツは俺の役目だ」

 

振り返りジャックの顔を見つめる。先延ばしにしていた問題に向き合う時が来たのだ。

 

「俺からも質問だ……お前、これからどうする?お前の好きなようにしていいんだぜ?」

 

「私は……」

 

「答えられないんだろう?丁度良い……ハッキリ言ってやる。お前は中途半端なんだよ」

 

その言葉を聞くと何も言い返さず俯いてしまった。どうやら自覚は有ったらしい。

 

「ウサギみたいに世界を変える力も無い、何処かのお偉いさんみたいに元に戻そうとする知恵も無い、此処の組織みたいにそれを利用するしたたかさも無い、あのクソ餓鬼みたいに貪欲に力を求める飢えも無い……全てを諦め流されるままに生きる弱さすら無い。だから、ジャック。亡国企業に入れて貰え。きっといつかお前に足りない物を埋めてくれるだろうよ」

 

「……アナタは、アナタはどうなんですか?私には今言った物を持っている様には思えませんよ」

 

「当然だ、俺はそんなの初めから欲しいと思ったことも無い。只歩ける道を歩いて行くだけ、出来る事をするだけ……俺はそれだけだ。世界がどうなったとかは関係無い、ひたすらに自分らしく生きて行く。それで最終的に……俺らしい死に方が出来るんならそれで満足だ」

 

「そんな事が出来ると思っているんですか?」

 

「出来るかどうかじゃない、やるしかないんだよ。目の前に壁が有ろうが道が途切れていようが俺は曲がる事が出来ないんだ。無理かどうかはやってみないと分からない、駄目だったらこの世からサヨウナラ。それだけの事さ」

 

一歩踏み出し建物を出る。これでひとまずこの組織とは縁が切れた。

 

「それじゃあな、ジャック。次会うのは何時になる事やら……まあ元気でな」

 

振り替える事無くその場を後にし、最寄りの駅へと向かう。随分と寂れてはいるがそう遠くなかったのが幸いだ。

 

「さて、何処に行くかな……」

 

時刻表とにらめっこし、次の列車がいつ来るのか確かめる。が、普段自分で見る事が殆ど無いためどのように見ていいかさえ分からなかった。

 

「あーあ、一人は面倒クセえな。ったく」

 

やっとの事で向かう場所を決め、切符を買おうとするが機械の使い方で四苦八苦する。困った時は駅員に聞けば良いと思っていたが、生憎周囲には見当たらなかった。

 

「そういう時はこのボタンを押すんですよ」

 

「ああ、これはどうもご丁寧に――って、お前……」

 

「まずはお金の使い方から教えましょうか、ダニー。少しぐらい一人で出来る様にならないと行けませんよ」

 

「何で此処に居るんだ?」

 

やれやれ、といった感じで手振りをしながら呆れた様子で俺の質問に答えてきた。少し腹立たしい。

 

「アナタが何時までもここから出発しないからでしょう。大分遅れたのに追い付けるとは思いませんでしたよ」

 

「そうじゃ無くて……」

 

「――あの後、一つだけ気付いたことが有ります。確かに私は中途半端です、言われた物全てが足りていないしアナタの様に自分の運命をそのまま受け入れる事も出来ない。ですが……これまで自分の意志で道を決めてきた、それだけは間違い無い。あの組織に居ればいずれは次へ向かう事が出来るようになるでしょう……過去の自分と引き換えに。だから私は今まで通りやって自分で足りない何かを見つけるとしますよ」

 

「ハイハイ、分かったよ。面倒な事は頼むからな」

 

フ……と小さく笑い更に言葉を続けてきた。

 

「それに、考えてみると今回の報酬の分け前まだ頂いてませんしね。結構な金額だったんでしょう?」

 

「……やっぱりお前アッチに戻れよ。その方が良いって絶対」

 

「お断りします。少なくとも報酬をしっかりと貰うまでは付いて行きますよ」

 

下らない事を言い合いながらやって来た列車に乗り込む。これから先何が起こるかは分からないが、まあ取り敢えずは楽しくやって行けそうだ。

 

ISだろうと何だろうと、俺は目の前に有る物に立ち向かって行く。歩の悪い賭けもこれから何度もしなければならないだろうが、勝ち目が無ければ引きずり出すまでの事。勝負は蓋を開けて見るまで分からない、それだけで俺が生きて行くのには十分だ。

 

 




感想で指摘されたので調べた所、ISは反重力力翼と流動波干渉で飛んでいるというのは分かりました。しかしこれ、一体どういう意味なんでしょう?

反重力というからには恐らく重力を反転させて飛んでいるのかと思います。ですが、その場合自由落下以上のスピードは出ないし横にも進めない様な気がしますし、何より宇宙では役に立たないのでは?と思います。

流動波干渉に関してはまるで内容が掴めません。取り敢えず「流動」する「波」に「干渉」を起こしている、と強引に解釈しています。すると地上で考えると、流動する波というのは前のも併せて考えるにやはり流体力学的な意味の重力波なのでしょうか。それに上手い事干渉している……と考えられなくも無いですが、初めにその波を起こす動力は一体何処に……。そしてこれも宇宙ではかなり効果が落ちる様な……。

物理はそれ程詳しくないので間違っているとは思いますが、この話はどうにか弱点を見つけ出してそこを突くのが大事になるのでどなたか詳しく教えて頂けたらと思います。以前乗せた活動報告のアンケートの所に書いて頂けると尚有難いです。
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