プリキュアvsプリキュア ミラクル・マジカル最後の日   作:キュアミラクル

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プリキュアvsプリキュア ミラクル・マジカル最後の日


プリキュアvsプリキュア ミラクル・マジカル最後の日

 

 

 助けて。

 そんな声が聞こえた気がして、私は思わず振り返る。

 

 そこにはいつもの、自然豊かなノーブル学園の中庭があるだけだった。

 

「……?」

「どしたのはるはる?」

「……気のせいかなぁ」

 

 私───春野はるかの耳が確かに聞き取った、微かな声。

 助けて。か細く、今にも消え入りそうな声だった。たぶん、女の子の声。

 

 私とみなみさん、きららちゃん、トワちゃんは中庭でお弁当を食べていた。自分たちで作ったものを持ち寄って交換するということは事前に決めていたので、私は朝早くに起きて気合いを入れて作ってきた。

 超が付くほどのお嬢様学校であるノーブル学園の生徒として日々を暮らす私たち。料理ひとつ取っても、レディーの当然の嗜みとして基礎から応用まで徹底的に叩き込まれているため、持ち寄った弁当はどれもお店で売っているような華やかなものばかり。

 

「はるかもだいぶ料理上手くなったわよね」

「そんなこと無いですよ。それに私は、ミス・シャムールにもかなりスパルタで教わりましたし……」

 

 思い出すだけで冷や汗が出る。ミス・シャムールは、私たち4人専属のレッスンコーチ。すっごく厳しいんです……

 私たちは「ノーブル学園の生徒」という肩書きのほかに、「プリンセス」とも呼ばれている。

 正確には、呼ばれていた、になるかな。この一年、その「プリンセス」となって悪いことをしようとする人たちと戦ってきたんだけど、その戦いもつい先日、ひとまずの区切りがついた。

 ───って話は、本当は内緒なんだけどね。

 

「んじゃ、はるはるのお手製お弁当、いっただっきま〜す♪」

「召し上がれ……………………ッッ!?」

 

 滝。「まるで」とか「例えるなら」とか、そんなんじゃなくて。

 滝・そ・の・も・の・だった。中庭をまるごと押しつぶすような、大きな滝の激流が突然空から降ってきた。

 

「中庭が……っ!」

「何これ……一体誰がこんな!」

 

 激流によって中庭に空いた大きな穴を目にして、スカーレットトワちゃんとトゥインクルきららちゃんが困惑と憤りを露わにする。

 私たちに激流が直撃する寸前、変身プリンセスエンゲージしてなんとか空中に回避することに成功した。幸い、私たち以外に中庭に人はいなかったから犠牲になった人はいないと思う……でも、そんな分析ができるほど私たちは冷静ではなかった。

 

「みんな、あれ!」

「……あれは」

 

 マーメイドみなみさんが指をさした先。私たちが飛んでいる空中より遥かに上空に、太陽を背にして2つの影がそこにあった。

 感覚でなんとなくわかる。あれが私たちに攻撃をしてきた、誰かさんなんだと思う。

 

「行くよ、マジカル」

「ええ、ミラクル」

 

 影は冷たく、そう呟いた。

 

「マジカル……ミラクル……って!?」

「あの2人、もしかして……」

 

 私もトゥインクルも、驚きながらもその影の正体に気づき始めた。でも、その気づきを信じたくはなかった。

 この春、出会ったばかりの後輩が私たちに襲いかかる理由なんて、思いつかない。

 

「ふたりの奇跡、キュアミラクル!」

「ふたりの魔法、キュアマジカル!」

 

「「魔法つかいプリキュア!」」

 

 サファイアスタイルと呼ばれる、青い衣装に身を包んで2人は私たちを見下ろしていた。

 

「なんでよ……なんで2人がこんなこと!」

「………………」

 

 答えは返ってこなかった。代わりによこされたのは、先ほど中庭を消し去ったものより大きな激流だった。

 

「ヤっバ……ッッ!」

 

 トゥインクルと私が咄嗟に激流の前に飛び立つ。後ろにはノーブル学園の校舎があった。なんとしても防がなきゃ……!

 

「キラキラ、月よ!プリキュア・フルムーン・ハミング!」

「舞え、百合よ!プリキュア・リィス・トルビヨン!」

 

 トゥインクルが出した月のシールドを、後ろから私のリィス・トルビヨンが押す。激流を受け止め、なんとか押し返そうとしてみるものの、私とトゥインクルの全力でようやく止めることが出来てるという状態だった。

 

「高鳴れ、泡よ!プリキュア・バブル・リップル!」

「滾れ、炎よ!プリキュア・スカーレットフレイム!」

 

 すかさず、マーメイドとスカーレットがミラクルとマジカルに向けて泡と炎を飛ばす。2人がそれを避けることで激流の勢いは収まり、フルムーン・ハミングがそのままかき消した。

 

「……マジカル」

「分かってるわよ、ミラクル。私たちだけじゃきっと勝てない。“彼女たち”の力を……借りましょう」

 

 っ!?

 ミラクルとマジカルは、私たちを見下ろしたまま互いにリンクルステッキを向け合った。何をする気なの……!?

 

「「キュアップ・ラパパ!」」

 

 呪文と共に、2人のリンクルステッキから放たれた光の粒子が、それぞれ相手を包み込む。

 光が薄らいでいくと、2人が魔法によってその姿を変えたことに気づく。そしてその姿は───

 

「爪弾くは荒ぶる調べ!キュアメロディ!」

「爪弾くはたおやかな調べ!キュアリズム!」

 

「「響け、2人の組曲!スイートプリキュア!」」

 

 私たちの先輩───北条響さんと南野奏さんが変身するスイートプリキュアの姿がそこにあった。

 

「うっそ、魔法でそんなことまで出来ちゃうわけ?」

「手強いですわね……!」

「「プリキュア!スイートハーモニーキィーック!!」」

 

 メロディミラクルとリズムマジカルは、こちらに向かって急降下してくる。応戦するために私たちも飛び上がり、やがて私たち4人との衝突であたりにブワッと衝撃と爆風を撒き散らす。

 

「はぁぁぁぁ!!」

「うっ……!」

 

 2人はそのまま、凄まじい速さで私たちにパンチやキックを連続で放ってくる。先輩の姿をしてる2人に反撃が出来ずにいる私たちは、その攻撃を受け流したりガードしたりするので精一杯になっていた。

 

「戦うつもりが無いのなら、大人しく私たちに倒されなさい!」

「そうはいかないわ……!あなた達がどうしてこんなことをしているのか、知らない内はね……!」

 

 マーメイドの答えに顔をしかめ、メロディとリズムは一旦飛び退く。

 

「……これ以上、時間を無駄遣いには出来ないのに」

「マジカル、ありったけの全力で……一気に」

「そうね」

 

 メロディの合図で、2人は道具を取り出した。スイートプリキュアが使う、ベルティエだった。

 

「ミラクル!マジカル!やめて……2人とも、こんなこと望んでないでしょ!?」

 

「溢れるメロディのミラクルセッション!プリキュア・ミラクルハート……アルペジオッッ !」

「弾けるリズムのファンタスティックセッション!プリキュア・ファンタスティック……ピアチェーレッ!」

 

 私の言葉は、まったく届かない。2人が飛ばした4色の炎が私たちを覆うと、2人は言葉を続ける。

 

「「三拍子……いち、に、さん……っ!!」」

 

「「フィナーレ!!」」

 

 炎は爆発を起こし、咄嗟にスカーレットがバリアを張ったけど衝撃に耐えきれず、私たちは校舎前に叩き落とされる。

 

「きゃあっ!」

「う……っ!」

「やっ……ばい……」

「くっ……!」

 

 私たちを追って一気に距離を詰め寄ったメロディとリズムは、私たちの目の前に降り立つと間髪入れずにまたベルティエを構える。

 

「「翔けめぐれ、トーンのリング!」」

 

 さっきの攻撃のダメージと落ちてきた衝撃でもう動けない私たちに、これを防ぐ術は無い。

 やめて、と叫ぶことも出来なかった。もう届かないと分かっていたから。悲しくて私は、涙がこぼれた。1年間、夢のプリンセスになるために頑張ってきて、グランプリンセスにもなることが出来たのに、結局───後輩を守ることも、止めることも出来ないなんて。

 

 カナタ──────

 

 

 

 

──────

 

 

 メロディとリズムがミュージックロンドの構えを取った時だった。大きな炎が2人に向かっていき、2人がそれを回避した。

 

 炎の主が空から飛んでくる。白い───ドラゴン!?

 

「乗って!」

 

 見たことない女の子が、私たちに向かって手をのばす。誰だろ……すっごく可愛い。それにあの服……

 

「くっ……うっ」

「うご……け……っ!」

 

 けど、私たちの身体は動かない。すかさず、パフとアロマが女の子と男の子の姿になって私たちを両わきに抱えた。

 

「パフっ!」

「ロマっ!」

 

 2人が白いドラゴンに飛び乗ったことを確認すると、女の子はドラゴンに声をかける。

 

「よしっ、飛んで!」

「グルルルルル……!」

 

 ドラゴンは勢いよく飛び出して、猛スピードで空を翔けた。瞬く間にミラクルとマジカルの姿は小さくなり、やがて見えなくなった。

 助かった───情けないことに、私の胸はそんな気持ちでいっぱいだった。防ぐのでやっとだった、ミラクルとマジカルとの戦い。あれ以上続けてたら、間違いなく私たちは負けていただろう。

 しばらく飛び続けて、ドラゴンが飛ぶ速度を緩めてきた頃にやっと、女の子が振り返って私たちに話しかけてきた。

 

「大丈夫……ですか?大変だったでしょう」

「助けてくれてありがとう。でも、あなたは一体……?」

 

 みなみさんが尋ねる。私たちもなんとか身体が動かせるようになっていたので、身体を起こして女の子の話に耳を傾ける。

 

「私の名前はキュアフェリーチェ。あなた達と同じ───伝説の戦士、プリキュアです」

「プリキュア、やはりそうだったのですわね」

 

 キュアフェリーチェと名乗った彼女は、「魔法つかいプリキュア!」としてミラクルやマジカルと共に戦っていたらしい。フェリーチェは、あの2人に何があったのか、知ってることを教えてくれた。

 

「3日ほど前に突然、2人はああなってしまいました。理由も、その目的もまったく私には分かりません。教えても───くれません」

 

 声が震えてる。フェリーチェは、今にも泣きそうな顔をしていた。

 

「既に44人ものプリキュアが、彼女たちの手によって倒されています」

「44人……って、私たちの先輩のほとんどじゃない……!?」

 

 フェリーチェは言葉を続けた。

 

「そして、消滅させられています」

「消滅……って、つまりどうなっちゃうわけ……?」

「文字通り、消えます。彼女たちは倒したプリキュアの皆さんに、魔法をかけます」

 

 消滅の呪文、というものがあるらしい。いつもふたりが唱えてる「キュアップ・ラパパ」のようなものだと思う。

 

「その後にひとこと、こう付け加えるのです。『消えなさい』と」

「それだけ……!?たったそれだけで、あの先輩たちがみんな、消えちゃったっていうの!?」

 

 きららちゃんが、我慢できずに立ち上がる。ドラゴンの背中は不安定で、風を受けて「おっとっと」とよろめくと、バツが悪そうにまた座る。

 

「……もちろん、『人を消す』魔法など、簡単に扱えるものではありません。膨大な魔力を消費し、魔法の発動にも時間がかかります。高位の魔法つかいでも、使えば命を落とす禁忌の魔法と言われています」

「それをあの2人はもう、40回以上も……?」

「あの2人が持つ魔力は底が知れません。消滅魔法を使っても、『とても疲れる』くらいで済んでしまいます。先ほどの2人もスイートプリキュアを消してきたばかりで、疲れきっていたはずです」

 

 そんな……あんな圧倒的だったのに、あれでもフルパワーじゃなかったなんて……。

 

「でも、そんなすごい魔法使えるならなんで、最初から使わないで襲いかかってくるわけ?」

「先ほど言った通り、発動に時間がかかるのです。その上、あの魔法はかなりの至近距離でかけなければ効力はありません。だから相手が動けなくなるまでやっつけて、それから魔法をかけるしかないのです」

 

 その方法で今まで44人ものプリキュアを倒してきたのなら、あの2人の強さは相当なものだろう。フェリーチェが言うには、私たちプリキュアの大先輩であるブラックとホワイトも、あの2人に負けてしまったらしい。

 しかも、あのリンクルステッキでその数々のプリキュアの力も吸収しているらしい。恐らくそれで2人はメロディやリズムにも変身することが出来たんだと思うと、フェリーチェは教えてくれた。

 

「あの2人の連携は、歴代でもトップクラスです。プリキュアもあと数えるほどしか残っていません……だから、皆さんにお願いしたいのです」

 

 フェリーチェが変身を解いて、私の手を握る。

 

「みらいと……リコを……いっしょに止めてほしいの」

 

 フェリーチェの変身前の姿───花海ことはちゃんは、涙を浮かべてそう言った。

 

「なんで邪魔をするの、はーちゃん」

「っ!?」

 

 声がして、ことはちゃんが空を見上げる。私たちを追ってきたミラクルとマジカルが、もう追いついていた。ドラゴンの背中に降り立つと、2人の言葉にことはちゃんが反論する。

 

「2人こそ……どうしてこんなことするの!?」

「…………」

「こんなのおかしいよ……いつもの2人に戻ってよ!誰かに操られてるのなら、誰に操られてるのか教えてよ!」

 

 泣きながら、2人に問いかけることはちゃん。でもミラクルとマジカルは険しい顔をしたままだった。

 

「操られてなんかないよ、はーちゃん」

「そう……私たちは、自分の意思で戦ってる」

 

「「だからそこをどいて、はーちゃん」」

 

 ことはちゃんは首を振った。マジカルが小さくため息を吐いて、言葉を続けた。

 

「私たちは倒さなければならないの」

「あと6人、プリキュアを」

 

 そこから、ミラクルとマジカルのこれまでの経緯が、彼女たち本人の口から語られた。

 

 

 

 

 

──────

 

 

「めいっぱい、飛ばすわよみらい!!」

「わあああああごめええええええんん!!!」

 

 それは、寝坊した私のせいでリコまで遅刻しそうになったある日の朝のこと。まだ寝ぼけてる私を叩き起こして、朝支度もやってくれて、なんとか連れ出してくれたリコとほうきに乗って学校に急いでいた。

 

「だからあれだけ、夜寝る前にマンガ読んじゃダメって言ったでしょ!? みらいは集中したら止まらなくなるんだから!」

「いや〜どうしても続きが気になって……」

 

 面目ない、と私は謝った。リコも「もう」とだけ言って、ほうきのスピードを上げた。口ではこう言ってるけど、リコは本当に優しい。

 私が寝る前にハマってしまったマンガというのが、最近映画化までした、死神の出てくるSF風のサスペンスもの。死神と人間が入り乱れて頭脳戦を見せる、普段あまり私が読まないようなお話なんだけど───これが読んでみると面白くて。難しいことはわからないんだけど、それぞれ違うことを思いながら騙しあう姿にドキドキしてしまって。

 

「やっぱりみらいはリコがいないとダメモフ」

「ほんとにね……ってうわぁ!?」

 

 カバンの中から顔を出したモフルンに返事をした直後、私たちの目の前に黒い霧がブワッと突然広がった。

 私とリコは空中で急ブレーキをかける。私は止まりきれなくて、ちょっとリコの背中にぶつかってしまう。

 

「いててて……ごめんリコ」

「みらい……これって」

 

 リコは霧をじっと見つめてた。やがて霧は中心に吸い込まれるように集まりだして、人のような形を作り上げていく。

 いや───人じゃない。ドクロの顔、黒いフード、手には大きな鎌、本や漫画でよく見るあの姿は───まさか。

 

「死神……!?」

〔よくご存知で〕

 

 霧は、短くそう答える。

 

〔俺の名はラモール。キミが予想した通り、死神さ……朝日奈みらい〕

「……ッ!?私を、知ってるの……!?」

 

 死神が、私の名前を知っている。

 心臓がバクンバクン鳴るなか、恐る恐る尋ねた。

 

〔そんなに怖がらないでくれ。これでも俺は、プリキュアの歴史を見守る神々の一人なんだ〕

 

 ラモールは、髑髏の隙間からそんな声を出した。

 マスクのなかで喋ってるみたいな、曇った声。なのにまるで耳元で囁かれてるような、静かでハッキリ聞こえる喋り方は私の不安をさらに煽る。

 

 怖い。

 

「プリキュアを……見守る?」

〔そうだ。次々生まれ、数が増えるプリキュア……一人ひとりの力がとても強大であるが故、誕生のタイミングやパワーバランスを調整したり、過ちを犯すものが出たら止めたり───そんな役割をそれぞれの神々が分担して行っている〕

 

 リコの問いに、そう答えるラモール。リコはまた尋ねる。

 

「じゃあ、あなたの役割は……?」

〔出る杭を打つ仕事さ。今まで私に勅命が下ることは無かったが、キミたち───『魔法つかいプリキュア』という存在を間引きするのが、遂に俺に下った最初のお仕事というわけだ〕

 

 ───間引き?

 

〔『魔法つかいプリキュア』……自覚があるのかは知らないが、キミたちの力は歴代のどのプリキュアとも比較にならない、無限の可能性と危険性を秘めている。魔法という大きな力に、プリキュアが組み合わさるのはまだ早かった。連れている妖精たちまで次々にプリキュアへと変えてしまうその力は、放っておくと世界そのものを壊しかねない───だから俺が動くことになってしまった〕

 

 ラモールは手をかざした。ぼうっと薄暗く光ったその右手は、私たち2人の手に向かって枝分かれして飛んできた。

 

「きゃっ!?」

「うわっ!?」

 

 リコと私の手の甲には白い花の絵が浮かび上がっていた。花びらが7枚、見たことのない花。

 

〔それはこの世界ではツマトリソウと呼ばれているものだ〕

 

 ……いま、『妻と理想』って言いました?

 

「みらい、ツマトリソウっていうのは花の名前よ。ちなみに花言葉は『純真』───だったかしら」

 

 流石だねリコ。完全に私の思考を読んでる。しかも知ってるんだねツマトリソウ。

 「純真」。それを聞いてまず思い浮かぶのは、先に学校に行っているはーちゃんだ。そういえば大丈夫かな……今日はひとりで先に行かせちゃったけど。

 

〔そう、ツマトリソウの花の紋章だ。その花弁は1日が経過すると1枚散る仕組みになっている〕

「散って……その後はどうなるわけ?」

〔それは『死神』である私にのみ使える呪いのようなものでな。全て散って花弁が無くなった時、キミたちも消える〕

 

 タメも無く、さらっと語られた。

 リコが──消える?

 

「「いやだ!!」」リコと私の叫びが重なった。

「みらいが消えるなんて嫌……!」

「リコが消えるなんてやだ……!」

 

 意味がわからない───消えるって、どういうこと……!?

 それがさっき言ってた「間引き」なの……!?

 

「消えるって何よ……理不尽よそんなの……」

「……なんでこんなこと」

〔言っただろう、キミたちの力は世界を壊しかねない……だからキミたちを消すことで調整がなされるんだ〕

 

 でも心配するな。

 そう、ラモールは続ける。

 

〔プリキュアを、25人〕

「……っ?」

〔キミたち一人の力はそれでつり合うんだ。だから、花弁が散り終える一週間以内に25入のプリキュアを消せば、相・方・の・呪・い・を・解・い・て・や・る・〕

 

 ───リコを、救える?

 

〔言っておくが、俺を倒せば解けるとか、そのような生易しい呪いではないぞ。キミたちプリキュアは伝説の戦士───ならば、その運命を懸けるのもやはりその拳が相応しい。しかもキミたちプリキュアは、人を守るためにこそ真価を発揮する〕

 

 ラモールは、髑髏の奥に潜む赤い瞳をギラリを光らせる。

 

〔愛する者を救いたくば───戦え〕

「───ッッ!?な、待ちなさいっ!!」

 

 一方的に、言うだけ言って。

 死神は姿を消した。

 

「……みらい!手を出して!」

「───へ?」

「キュアップ・ラパパ!呪いよ、解けなさい!」

 

 魔法を唱えるリコは、私の手に向けて杖を振るう。けれど杖に反応はない。できない魔法は、唱えても発動しない。

 

「……キュアップ・ラパパ!キュアップ・ラパパ!キュアップ・ラパパ!!」

「リコ……」

「キュアップ・ラパパ!キュアップ・ラパパ!……どうしてよ、私たちが───なんでこんな」

「……他のプリキュアを消すなんて、そんなのできっこないもんね」

 

 私の言葉に、リコは固まる。何か思い当たることがあるみたいに、声を震わせてリコは私に呟く。

 

「……昔ね、本で見たことがあるの。魔法には、語り継ぐことを禁じられた危険なものがたくさんあるって。そのなかに、人を『消滅』させる魔法があるって」

「消……滅?」

「私たちが普段使ってる『キュアップ・ラパパ』って呪文の起源には色んな説があるんだけど、その内のひとつにこんな話があるの。

 キュアップ・ラパパって呪文は、今でこそ何にでも使える万能の呪文として使われてるけど、元々は『出現させる』魔法だった。現象や物、人、その全てを目の前に出すのがキュアップ・ラパパって呪文で、それに対して……」

「あったんだね。反対に、消滅させる呪文が」

 

 リコは頷いた。

 

「キュアップ・ラパパって呪文のことがまだ研究され始めたばかりで、それを制御するために見つけられた呪文らしいの」

「……その呪文って」

 

 聞きたくなかった。

 でも、聞かずにはいられなかった。

 

「その呪文はね……」

 

 

 

 

 

──────

 

 

「ディスアップ……ラパパ……」

 

 その呪文をあの2人が唱えれば、私たちは何事もなかったかのように消されてしまう。

 そんなことあるわけない。そう言いたいけれど、既に他のプリキュアたちが消されてる以上、嘘ではないのだろう。

 ミラクルは話を続ける。

 

「今日でもう、6日になるの。私たちに残された時間はあと1日も無い」

 

 ツマトリソウの花の呪い。1日に1枚散っていくという花びらは、ミラクルの手の甲にもう1枚しか残っていない。

 

「私たちだってね、すごく悩んだよ。7日しかないのに、最初の3日間は丸々悩む時間に使っちゃった」

「それなら……なんで相談してくれなかったの!? 2人とも悩んでたなら、私を頼ってよ! 私だってやっと……2人と並んで立てる、プリキュアになったのに……!」

 

 ことはちゃんの叫びにも、ミラクルとマジカルの冷たい表情が変わることはなかった。

 

「はーちゃんには、心配かけたくなかったの」

「心配するに決まってるよ……でも、そんなのッ!」

「それで私たちは決めたの」

 

 残された1枚の花びらを互いに優しく撫でる。

 

「たとえ他のすべてを失うことになっても」

「自分の命を失うことになっても」

「リコを守る」

「みらいを守る」

 

 ふたりの瞳には、もう、互いの顔しか映っていない。

 

「はーちゃんだって嫌でしょ?リコが消えるなんて……」

「みらいが消えるなんて、耐えられるわけがないわよね?」

「消える……みらいと……リコが……」

 

 ことはちゃんは糸が切れた人形みたいに、その場で崩れ落ちて膝をついた。

 

「ことはちゃん……」

「はるかさん。あなた達に恨みはありません。けど───リコのために消えて下さい」

「狂ってる……!はるはる、こんな奴らほっといて逃げよ!!」

 

 きららちゃんが声を上げる。

 

「……ダメだよ、きららちゃん。逃げるなんて、できない」

「なんでよ!? このままだと私たち……!」

「だって、ことはちゃん言ってたでしょ? ふたりを『止めてほしい』って」

「……そうね。プリキュアとして、困ってる後輩の頼みごとを無下にするなんてできないわ」

「みなみん……」

「きらら。4人で……力を合わせましょう」

「トワっち……ああもう、分かったってば!こうなったらやってやるわよ!絶対あの2人を止める!」

 

 いつも、一番現実を見てみんなを心配してくれるきららちゃん。そんな優しいきららちゃんが大好き。でも、今日は付き合ってもらうね。ごめん。

 

「ありがとね、きららちゃん」

 

 きららちゃんは笑顔だけ返してくれた。そしてプリンセスパフュームを取り出して、叫ぶ。

 

「はるはる!みなみん!トワっち!行くよ!!」

「うん!」「ええ!」「ええ!」

 

「「「「プリキュア!プリンセス・エンゲージ!!」」」」

 

 

「マジカル……あの中だと一番強いのは」

「スカーレットかしらね。でもサファイアのストーンはさっきの戦いで魔力を使いすぎてまだ……やっぱりアレを使うしかなさそうね」

 

「「キュアップ・ラパパ!」」

 

 私たちが変身を終えるのと同時に、ミラクルとマジカルもさっきみたいに互いに魔法をかけ合って姿を変える。

 

「知性の青き泉!キュアアクア!」

「しんしんと降りつもる清き心……キュアビューティ!」

 

 「プリキュア5」のアクアと、「スマイルプリキュア」のビューティ。狙いは……スカーレット!?

 

「フローラ!トゥインクル!スカーレットを守るわよ!」

 

 狙いにいち早く気づいたマーメイドが先頭に立つ。向かってきたアクアとビューティは水と氷の弓矢を手に握っていた。

 

「────ッッ!マーメイド!」

「ビューティ・ブリザード・アローッ!」

「サファイア・アローッ!」

 

 トゥインクルのフルムーン・ハミングの準備が追いつかなかった。水と氷の、二本の矢は、目の前のマーメイドを無視してスカーレットの両腕を撃ち抜く。

 

「あぅ……っ!?」

「スカーレットッッ!」

「まずは1人……」

 

 バイオリンを使って戦うスカーレットの腕を使えなくしたミラクルとマジカルは、そのまま目の前のマーメイドに掴みかかる。

 

「狂っているようで、でも冷静に考えて戦ってる……貴女達をそこまで変えてしまうなんて……」

 

 一瞬驚きを見せたマーメイドは、2人に掴まれ落下しながら決意を固めてドレスアップキーを握る。

 

「エクスチェンジ……!」

 

 マーメイドから眩い光が放たれる。私たちが一年間目指してきたプリンセスの頂点。その名も……

 

「グランプリンセス! ハァァァァァッッ!」

 

 マーメイドにくっついていたアクアとビューティを鍵型のロッドで振り払うと、それを身体の前で風車のように回した。

 

「プリキュア!グラン・メイルシュトロム!」

 

 回したロッドから黄金の竜巻が飛び出し、空中で大きくうねりながら2人を呑みこんだ。

 

「やった! ナイス、マーメイド!」

「……いいえ、まだ……!」

 

 竜巻が細くなっていく。だんだんと見えてくる、シールドを展開したキュアサンシャインとキュアロゼッタ。また変身したの……!?

 

「……くっ!!」

 

 空中を蹴ってマーメイドへの距離を一気に詰めた2人は、サンシャインとロゼッタがそれぞれ得意とする武術で一気に畳みかける。マーメイドは捌ききれずに攻撃を浴びてしまう。

 

「待って2人とも!」

「いい加減にしなさい、よ……っ!」

 

 私とトゥインクルで、2人を後ろから抱きしめるように抑える。でも2人はそれを気にもしないようにマーメイドだけを見つめて、私たちを振りほどこうと身体を振るう。

 

「お願いだから……もうやめて!」

「……ロゼッタバルーン!」

 

 ロゼッタの風船から巨大な妖精ランスが出てきて、そのままマーメイドとスカーレットを下敷きに地面へと落ちていった。

 

「マーメイドッ! スカーレットッ!」

「アンタらァ……!」

「あとはフローラとトゥインクル……あなた達だけ」

 

 私たちを振り解いた2人がキックで私たちを地面に向けてたたき落とす。私たちも咄嗟にグランプリンセスになって、空中になんとか踏みとどまる。

 

「なんか今日はこういうのばっか……人に見下ろされるの、あんま好きじゃないんだよね……!」

「トゥインクル……力を合わせよう!」

 

 頷いたトゥインクルと上空の2人に向かっていく。

 

「「プリキュア・ダブルパ──ンチッッ!」」

 

 突き出した拳が2人に近づくにしたがって、2人がまた別の姿に変身していることに気づく。背中に生えた翼、アレは───キュアエンジェルになったピーチとパッションだ。2人もこちらに向けて急降下してくる。

 

「「プリキュア・ダブルキ──ックッッ!」」

 

 落下の勢いも加わったダブルキックは私たちのダブルパンチをものともしなかった。押し負けた私とトゥインクルはそのまま、地上の森へと勢いよく落下していく。

 ピーチとパッションも落ちる私たちを追ってくると、私たちが地面に激突する瞬間にトドメのパンチを放つ。

 

「…………かはっ」

「うぐっ…………」

 

 逃げ場を失った衝撃は地面に巨大なクレーターをつくり出した。変身も解ける。

 もう、指1本動かせないや。かろうじて首を傾けると、すぐ横のきららちゃんと、ちょっと遠くにみなみさんとトワちゃんが倒れてるのが見えた。

 

「これで……あと2人だね、マジカル」

「ええ、もう少しよ。ミラクル」

 

 私ときららちゃんのすぐそばに立ってるミラクルとマジカル。

 

「みんなは消させないロマっ!」

「パフたちがみんなを守るパフっ!」

 

 ああ……パフとアロマが立ち向かってくれてる。

 今なら、ミラクルとマジカルの────みらいちゃんとリコちゃんの気持ちが、ちょっと分かるかも。

 

 みなみさん……きららちゃん……トワちゃん……みんなが消されちゃうなんて、自分が消えるより嫌だ。3人が消されちゃうくらいなら、私は何だってする。

 

 2人もきっと、そう思ったんだよね?

 

「……ディスアップ・ラパパ」

 

 どうしようも、なかったんだよね?

 

 だからきっと、あの時。

 

 「助けて」って。

 

 あれはきっと、2人の──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「消えなさい」

 

 みんな、逃げて──────

 

 向けられたリンクルステッキの輝きがいっそう増したところで、私の記憶はプッツリと途絶えた。

 

 

 

 

 

 

──────

 

 

 下の方からすごい大きな音が聞こえて、私は気がついた。

 みらいとリコの言葉にすごく落ちこんだ私はそのまま、飛んでるフレアドラゴンの背中にいたみたい。音が聞こえたほうを見下ろしてみると、森から煙が上がっていた。

 

「────みんな!」

 

 煙の方に急ぐと、そこには大きなクレーターが3つ。4つのパフューム。倒れたパフとアロマ。

 間に合わなかった……の?

 

「このままだともう……プリキュアみんな……みらいとリコに消されちゃう……」

 

 フレアドラゴンから降りて、プリンセスパフュームをひとつひとつ拾っていく。キーは挿さってない。可愛いピンク色だったはずだけど、もう真っ白で輝きも無い。

 もう、プリキュアの力を吸い取られちゃってるんだ。

 

「でも……私だってみらいとリコが消えるのはやだ。やだよ……っ!」

 

 どうすれば……どうすればいいの?

 涙でにじむ景色の奥に、ミラクルとマジカルと、モフルンが見えた。

 

「モフルン……! モフルンは……どう思ってるの?」

 

 モフルンは、いつものキラキラな目を私に向けて、しゃべってくれた。いつもの優しい声で。

 

「モフルンも、みらいとリコみたいにたくさん考えたモフ」

 

 いつもと変わらないモフルンのはずなのに───すごく悲しそうだった。

 

「プリキュアのみんなが消えることと、みらいやリコが消えること。どっちが悲しい気持ちになるのか」

 

 横にいる2人の顔を、順番に見るモフルン。

 

「プリキュアのみんなが消えることももちろんつらくて、悲しいことモフ。でも、みらいとリコが消えることを想像したら───ここがすっごく、痛くなったんだモフ」

 

 そう言って、モフルンは胸に手をあてた。

 わかるよ、モフルン。私もいま、そこがすっごく痛い。

 

「だからモフルンは決めたモフ。モフルンは、みらいとリコの味方でずっといるって、そう決めたモフ。

 はーちゃんは気づいたモフ? 2人が倒そうとしているプリキュアに、モフルンとフェリーチェは数に入ってないんだモフ」

「……それって」

「2人は、また4人で幸せな毎日を過ごしたいって思ってるだけモフ。そのためだけに戦ってくれてるモフ。つらい気持ちをガマンして。

 だからはーちゃんにも、2人の気持ちを分かって欲しいんだモフ」

 

 モフルンは、モフルンだった。

 大切な人のためにならとことんガンコで、優しい私のお姉ちゃんで、お母さん。

 

「……モフルンはすごいね」

 

 答えをしっかり見つけてるモフルンを、私はすごいって思ったんだ。だって、そこまで言われても、私にはやっぱりみらいとリコの味方をするのが絶対正しいって、思えなかったから。

 でも、どうすればいいのかわかんない。みらいとリコの敵になっても、もうすぐ2人は消えちゃう。そんなのやだ。

 

「わかんないわかんないわかんない! 全然わかんない……誰か」

 

 

 

 どうすればいいのか───教えて。

 

 

 

「教えて……教えてよぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

 

 

 

 

「自分の心に、素直になれば良いんだよ!」

 

 

 

 

 

 ピンク色の光が、ビームとなってミラクルとマジカルに飛んでいく。ビックリした2人はあわててビームをはじき飛ばした。

 

「……くっ! あなた達!」

「みなぎる愛、キュアハート!」

「世界にひろがるビッグな愛!キュアラブリー!」

 

 キュアハートとキュアラブリーが私の前に立っていた。さっきの声は、ハートの声だったんだね。

 

「私もリコも、あと1人ずつ倒すだけ。最後に立ちふさがるのは……やっぱりあなた達なんだね」

「前は倒しきれなかったけど───今は倒せないわけじゃないし。これで終わりにするわよ、みらい!」

 

 ミラクルとマジカルが構える。ハートとラブリーもそれを見てグーを握る。

 

「今は倒せないわけじゃない、か……さて」

「それは……どうかな?」

 

 どんっ、て空気がふるえた。4人が同時に飛び出した音だ。

 

「1人ずつ確実に倒す!ミラクル!」

「まずはラブリーだね!」

 

 ううん、4人じゃ───ない。

 

「キュアハートはモフルンに任せるモフっ!」

「なっ!? 増えた!?」

 

 ババっと2手に分かれて、ミラクルとマジカルとラブリー、モフルンとハートがそれぞれ戦っていた。モフルンはトパーズの力でダイヤ、ルビー、サファイア、トパーズ、アレキサンドライト、の5人に分身をしていた。

 

「愛を失くした悲しいぬいぐるみさん───あなたのドキドキ、取り戻してみせる!」

「モフルンは───負けないモフ!!」

 

 5対1なのに、ぜんぜん心がまけてない。キュアハート……すごいね。

 ラブハートアローを使って、襲ってくるモフルンたちを次々とやっつけていく。

 

「私たちはひとりじゃない……仲間がいつもそばにいる! だから力も湧いてくるし、絶対に負けない!」

 

 今度はマジカルラブリーパッドを取り出して、目を閉じるハート。そんなことしたら危ないって普通は思うんだろうけど、なんでだろ。ハートなら大丈夫って、思っちゃうんだよね。

 スキあり!と思ったのか、モフルン5人が一斉にハートに飛びかかる。ハートに重なった次の瞬間、ハートから5色の光がパーって広がって、モフルンたちをはらい飛ばす。アレは───ラブリーストレートフラッシュ。

 分身のモフルンたちが消えて、トパーズのモフルンだけが残る。

 

「モフ……やっぱりプリキュアは強いモフ。ずっと見てただけのモフルンより強いのは、当たり前かもしれないモフ」

「あなたこそ、ぬいぐるみとは思えない強さだよ!」

「……そうモフ。ぬいぐるみは普通は、戦わないものモフ。でも……!」

 

 モフルンが両手を広げると、さっきよりもっとたくさんの分身が出てくる。横いっぱいに並んだモフルンたちはまるで、壁みたい。

 

「今は───今だけは、みらいとリコのために戦う時なんだモフ!」

「……わかった!ならあなたの愛、私が受け止めてみせるッ!!」

 

 

 

 

 

──────

 

 

「ラブリィィィー……………ビィィィーム!!」

「うっ……!」

「ぐぅっ!」

 

 ハートと同じように自信マンマンに戦うラブリーは、ミラクルとマジカルにも負けそうな感じがぜんぜんしなかった。

 

「プリキュア!パッションリストラクション!」

「「プリキュア!ダイヤモンドエターナル!」」

 

 チェリーフラメンコのラブリーがたっくさんの炎を飛ばす。それと、ミラクルとマジカルのおっきなダイヤがぶつかって爆発を起こす。爆発の風でミラクルとマジカルは飛ばされて地面に落ちる。ラブリーは全然動かない。

 

「……くっ、うう……」

「ハァ、ハァ、ミラクル……!」

 

 立ち上がる2人の目には、涙がこぼれていた。もう何回も拭いてびしょびしょになってる手でまた目をこすって、ラブリーに向かっていく。

 

「ハァァァァァァァァァ!!」

「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「……ラブリーハートスタンプ!」

 

 ラブリーにやられても、やられても、やられても。

 ミラクルとマジカルは泣きながら向かっていく。パンチする。キックする。戦う。叫ぶ。

 

「やだよぉ……やだぁぁ!!リコが消えるのは、リコが消えるのは………ッッ!!」

「みらいが、みらいがッッ!………ああああああ!!!」

「………………………そっか」

 

 ラブリーは戦う手を止めて、向かってきた2人を両手を使って抱きしめた。何が起きたのかわかんないって顔でミラクルとマジカルはそのまま止まった。

 

「誰かのために戦うことは、悪いことじゃないよ。私たちプリキュアにとってすごく大切なことだし、『守りたい』って気持ちはプリキュアを強くしてくれる」

 

 優しく話すラブリーの言葉に、ミラクルとマジカルは動けない。

 

「でもね、私は、プリキュアみんなのことも、あなた達2人のことも、全部守りたいの」

 

 ──────全部、守りたい……

 

 ラブリーの言葉が、私の心のモヤモヤを、太陽みたいにぴかーっと晴らしてくれたような、そんな気持ちになった。

 みらいとリコか、プリキュアみんなか。どっちかしか選べないって勝手に決めてたのは私の方だ。

 「自分の心に、素直になれば良いんだよ!」というハートの言葉が頭のなかでくり返される。そうだ、もっと素直にワガママに───消えて欲しくないものは全部、消えないようにギュッとしてれば良かったんだ。

 

 この手で。

 

「だから、ここは私に任せてよ? ね?」

「……うぅ、うぅぅぅ……!」

「ラブリー…………」

 

 2人が、握りしめた手を下ろしたその時、こっちに向かってくる影があった。

 たくさんのモフルンが、ハートを倒してこっちに向かってきていた。

 

「みらいとリコを───守るモフゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

「グォォォォォォォォォ!!!」

 

 モフルンたちを止めたのはフレアドラゴンの吐いた炎。ありがとう、ドラゴンさん。

 

「モフルン、私ね、やっと見つけたよ。自分の答え」

 

 みらいとリコを。

 大切な人をもう離さないために、歩いて会いに行く。

 変な感じ。さっきからずっと見てたのに、なんか久しぶりに会うみたいな、そんな気持ち。

 2人の前に着いて、ラブリーの後ろから話しかける。

 

「みらい、私ね? ちょっとドジだけど、花が咲いたみたいにいつもニコニコ笑ってる、元気なみらいが───すっごく大好き」

「……はーちゃん」

「意地っぱりだけど、頭が良くって、みんなのことをいつも一番に考えてくれてる、世話好きなリコが───すっごく大好き」

「はーちゃん……」

「でもね、いまの2人は、私の大好きな2人じゃないの。悲しい顔して、泣きながら戦ってるでしょ? はーちゃん、そんなの見たくないんだよ」

 

 

 

 だから。

 

 

 

「だから、私が止める! 2人を、私の大好きなみらいとリコに戻すよ! ぜったい! だって……!」

 

 変  身フェリーチェ・ファンファン・フラワーレ。

 

「いつもの2人の笑顔が、私は大好きなんですから」

 

 

 

 

 

「いいね、その意気だよフェリーチェ!」

 

 ラブリーは振り返って、私にウインクをひとつ。するとラブリーの腰元から、軽快なメロディーが鳴り響きました。

 

「おっと、お2人さん失礼〜。はいもしもし!」

 

 音の主は、『キュアライン』と呼ばれる彼女たち専用の通信ツールでした。

 

《ラブリー、遅くなってすまない。こちらの準備がようやく整った》

「ブルー! わかった! 2人もちょうどここにいるから、連れていくよ!」

《その必要は無いよ》

 

 やり取りの直後、私たちの真横に大きな鏡が出現しました。鏡の向こう側が透け、映し出されたのは青髪の男性と───校長先生!?

 

《ラブリーが報告してくれたツマトリソウの呪いの解呪法が無事に見つかった。彼の協力があってのことだけどね》

《みらい君、リコ君、時間がかかってしまってすまなかった。かなり古式の黒魔術系統の魔法に、今回の呪いと酷似したものがあったのじゃ》

 

 鏡の向こう側の、2人の足下には大きな魔法陣が描かれていました。

 思い出しました。青髪の男性は、「ハピネスチャージプリキュア」の皆さんの協力者の神様ですね。そういえば以前に、リコから聞いたことがありました。

 

《ラモールの今回の一連の行動はすべて、彼の独断で行われたものだ。この件を受けて緊急で神々の審議会も開かれる予定で、そこで厳重に抗議をする予定さ。そもそも『死神』の役職は不必要ではないかと議論にもなっていたから、今後はそういう……》

「ブルー、早く早く! 2人の呪い、解いてあげようよ!」

《……そうだね、急ごう》

 

 神様相手にあそこまで強く出られるラブリーの肝の据わり方には、尊敬の念を抱きます。

 神様はひとつ間を置くと、私に視線を送ります。

 

《フェリーチェ、呪いを解くにはキミの力が必要となる》

「私が……ですか?」

《そうじゃ。この魔法陣の起動には消滅魔法レベルの莫大な魔力が必要となる。しかも、注ぎこめるのは魔法陣の構成上ひとりだけなのじゃ。儂の魔力でも到底及ばないその魔力量を引き出せるのは、プリキュアであるみらい君とリコ君、それから……》

 

 私しかいない、と。なるほど。

 

 しかし、散々迷った挙句、温存されていた魔力がこんな形で役に立つなんて、思ってもいませんでした。

 

《解呪の対象にはどちらにせよ、魔力の注入は出来んのじゃ。頼む、フェリーチェ》

「ううん、是非とも私に───やらせて下さい」

 

 前に出た私は、魔法陣に向け両手をかざします。

 

《みらい君とリコ君も、ツマトリソウの紋章をこちらに》

 

 変身を解いたみらいとリコも、魔法陣に向けて手の甲をかざします。その瞬間、反応するようにボンヤリと紋章が光を帯びました。

 

《それでは起動をよろしく頼む、キュアフェリーチェ》

「分かりました……いきます!」

 

 ひとつ、息を吸って。

 

「───キュアップ・ラパパ!!」

 

 ……ッッ!

 唱えた瞬間、両手からとてつもない勢いで魔力が吸い取られていくのが分かります。これは確かに、プリキュアでなければ務まらないのかもしれません。

 

《今じゃ、ブルー!》

《神・ブルーと愛の名の下に告ぐ! 呪いよ、浄化せよ!》

 

 神様がそう叫ぶと、みらいとリコの紋章が強く光り輝き──────

 

「……みらい」

「リコ……リコ!」

 

 みらいとリコの手の甲から、ツマトリソウの紋章がスゥーと消えていきました。

 

「……みらい!リコ!」

「モフっ!」

 

 私とモフルンも変身を解いて、4人で泣き叫びながら、抱き合った。

 プリキュアとしてはかっこ悪いかもしれないけど、しょうがないよね。だって、ほんとに嬉しかったから。みらいとリコが消えずに済んで。

 また4人でいっしょの、明日が来るんだって思ったら、涙が止まらないんだもん。

 

「リコ!はーちゃん!モフルン!ああああああ……!」

「なによみらい、みっともないわよそんなに大泣きして」

「はー! そういうリコだって泣いてるよ?」

「みんな笑いながら泣いてるモフ」

 

 

 いっぱいいっぱい泣いて。実は一番泣いてたリコがやっと泣き止んだ頃、鏡の向こうから声が聞こえた。

 

《キュアフェリーチェ。実はキミに頼みたいことが、もう一つあるんだ》

 

 神様に言われて鏡を見ると、鏡のいろんなところにたくさんの人の顔が映る。

 

《詳しい話は、もうすぐそこに到着する男から聞いておくれ。僕は審議会に顔を出して来ようと思う》

 

 そう言うと鏡は消えて、向かいからこっちに歩いてくる男の人が見えるようになる。ヒゲの長い、ノッポなおじいちゃんだった。

 

「私は四葉家の執事、セバスチャンと申します。キュアハートの協力と指示で、ここにとある方々を集めました」

 

 セバスチャンさんの頭上から、何台もヘリコプターが降りてくる。ヘリコプターからは子ども、おとな、いろんな人が出てきて───森のなかは一気に大にぎわい!はー!

 

「ここにいる方々は皆、プリキュアに縁のある方々です」

「こんなに……!」

 

 さらにもう一人、空から降ってくる。見たことのある女の子。それはプリンセスフォームになったキュアエコーだった。

 

「キュアフェリーチェ、あなたに力を貸して欲しいの。私の力と、ここにいるみんなの思いと、あなたのフラワーエコーワンドで……消えたプリキュアたちを呼び戻すの」

「フラワーエコーワンドで……? そんなこと、出来るの……?」

「出来るよ。だから信じて、みんなと───あなたの思いを」

 

 再びフェリーチェとなり、エコーと手を合わせてエコーワンドを握り、それを上空に掲げます。

 

「皆さん!プリキュアへの思いをこめて、手を上に!」

 

 私の呼びかけで、集まった皆さんが次々に手を上にかざします。

 

「プリキュア!」

「プリキュア〜!がんばれ〜!」

「帰ってこ〜い!」

「お願いだから、戻ってきて〜!」

「ひめ〜!ゆうゆう〜!いおなちゃ〜ん!!!」

 

 みんなのプリキュアの思いが光となって、どんどんエコーワンドに集まってきます。すごい……こんなに!

 

「フェリーチェ!」

「ええ!皆さんの声を、増幅させます!」

 

 集まった思いをエコーワンドでどんどん大きく膨らませます。あまりに膨張しすぎた思いの光は、まるで気球のように大きく丸くなっていきました。

 

 

 

 

 

「思いよ……願いよ……愛よ、届け!」

 

 

 

「「プリキュア・プリンセスエコールラブ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

「光の使者、キュアブラック!」

「光の使者、キュアホワイト!」

「輝く命、シャイニールミナス!」

「輝く金の花、キュアブルーム!」

「煌めく銀の翼、キュアイーグレット!」

「大いなる希望の力、キュアドリーム!」

「情熱の赤い炎、キュアルージュ!」

「はじけるレモンの香り、キュアレモネード!」

「安らぎの緑の大地、キュアミント!」

「知性の青き泉、キュアアクア!」

「青いバラは秘密の印、ミルキィローズ!」

「ピンクのハートは愛ある印!もぎたてフレッシュ、キュアピーチ!」

「ブルーのハートは希望の印!つみたてフレッシュ、キュアベリー!」

「イエローハートは祈りの印!とれたてフレッシュ、キュアパイン!」

「真っ赤なハートは幸せの証!うれたてフレッシュ、キュアパッション!」

「大地に咲く一輪の花!キュアブロッサム!」

「海風に揺れる一輪の花!キュアマリン!」

「陽の光浴びる一輪の花!キュアサンシャイン!」

「月光に映える一輪の花!キュアムーンライト!」

「爪弾くは荒ぶる調べ、キュアメロディ!」

「爪弾くはたおやかな調べ、キュアリズム!」

「爪弾くは魂の調べ、キュアビート!」

「爪弾くは女神の調べ、キュアミューズ!」

「思いよ届け……キュアエコー!」

「きらきら輝く、未来の光!キュアハッピー!」

「太陽さんさん、熱血パワー!キュアサニー!」

「ぴかぴかぴかりん、じゃんけんぽん!キュアピース!」

「勇気りんりん、直球勝負!キュアマーチ!」

「しんしんと降り積もる、清き心……キュアビューティ!」

「みなぎる愛、キュアハート!」

「英知の光、キュアダイヤモンド!」

「ひだまりぽかぽか、キュアロゼッタ!」

「勇気の刃、キュアソード!」

「愛の切り札、キュアエース!」

「世界に広がるビッグな愛!キュアラブリー!」

「天空に舞う蒼き風!キュアプリンセス!」

「大地に実る命の光!キュアハニー!」

「夜空に煌めく希望の星!キュアフォーチュン!」

「咲き誇る花のプリンセス、キュアフローラ!」

「澄み渡る海のプリンセス、キュアマーメイド!」

「煌めく星のプリンセス、キュアトゥインクル!」

「真紅の炎のプリンセス、キュアスカーレット!」

「ふたりの奇跡、キュアミラクル!」

「ふたりの魔法、キュアマジカル!」

「あまねく命に祝福を、キュアフェリーチェ!」

 

 プリキュアオールスターズ、勢ぞろいの瞬間でした。光が弾け、ミラクルとマジカルが消したプリキュアが全員復活を果たしたのです。

 

「……? ねぇミラクル、私たち、キュアテンダーとかアロ〜ハプリキュアとか、もっとたくさんのプリキュアと戦ってたわよね……?」

「心配は無用です。ただいま、全てのプリキュアの復活を四葉グループが確認致しました」

 

 セバスチャンさんの言葉に、胸をなでおろすミラクルとマジカル。

 

「さ〜て、一件落着!みんな揃ってしあわせハピネス!」

「愛の力は偉大なり、ってね!」

「なんでハートがそんなに偉そうなのよ……」

「ラブリーも」

 

 ダイヤモンドとフォーチュンのツッコミに、プリキュアみんなが笑いました。

 

「ふふ……、あっ……」

 

 ふと見上げると、空にはいつの間にか虹がかかっていました。まるで私たちを労うような、たくさんの色が見える、そんなキラキラの虹が。

 

 

 

 

 

──────

 

 

 後日談というか、今回のオチ。

 あれからみらいとリコは、プリキュアみんなのところを一人ひとり回ってごめんなさいをしたの。

 

 簡単に許してもらえることじゃないから、怒る人もやっぱりいたんだ。けれどみんな、最後には許してくれた。やっぱりプリキュアのみんなは優しいね、ってモフルンと話してたんだよ。

 

 みらいとリコにツマトリソウの呪いをかけたラモールはその後、神様たちが話し合って「神の世界から出ちゃダメ」ってことに決まったみたい。それこそすごく怒られたみたいで、ブルー様が言うには「死神という役職が無くなる日も近い」んだって。

 

 ボンバーガールズプリキュアのみんなに謝りに行った帰り道、アメリカのメロンパン屋さんで買ったおっきなイチゴメロンパンを食べながら、私とみらいとリコはほうきで日本のお家を目指して飛んでいく。モフルンは今日は、私のほうきに乗っていっしょにメロンパンを食べてるよ。

 

「モフぅ〜! いつものメロンパンとは違う甘さでおいしいモフ〜!」

「……ふふっ」

「なに笑ってるの?はーちゃん」

 

 思わず笑いがこぼれて、リコが尋ねてくる。

 

 あのね、リコ。みらい。私思ったんだ。「やっぱりこうじゃなくっちゃ」って。モフルンがおいしそうにメロンパンを食べて、みらいとリコが並んで飛んでて。いつもの景色だけど、こうやって4人でいられることがこんなに幸せなことなんだって、この間のことでよく分かったんだ。

 

「───んーん、なんでもないっ」

「……そう」

「なんだか楽しそうだね、はーちゃん」

 

 私はこの3人のことが好き。

 だからもっと、このキラキラでワクワクな景色を守れるように、私も強くならなくっちゃいけない。

 

「キュアップ・ラパパ!」

「はーちゃん!?」

「何を……」

「花びらよ、踊って!」

「……花びらがひらひらモフ! とってもきれいモフ〜!」

 

 そう、こうやって笑ってる3人といっしょにいられるように。強く、強く。

 

「───よーし、みらい! リコ! 誰が先にお家に着くか、競争しよっ!」

「今度は競争? あのねはーちゃん、あんまり速く飛びすぎても……」

「いま、競争って言いました!? よーし乗った! ワクワクもんだぁ!」

「やったぁみらい! それで、リコはどうする? 負けちゃうの、イヤ?」

「なっ、別に負けたりなんかしないし!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明日も、明後日も、その次の日も、その次の日も、もっともっとずっとその先も。

 

 

 はーちゃんは、頑張るよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だって、こんなに、ワクワクもんだしっ!

 

 

 ねっ? みんなも、そう思うでしょ?

 

 

 

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7

5

4

「プリキュアSS」シリーズ

プリキュア VS プリキュア!? ミラクル・マジカルさいごの日!

 

 




プリキュアvsプリキュア ミラクル・マジカル最後の日
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