ゼロ魔日記   作:ニョニュム

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よろしくお願いします。


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○月×日◇曜日

 今日はトリステイン魔法学院に入学した。

 新しい生活が始まるのを記念して、今までの人生で一度も縁の無かった日記なんてモノを綴ってみようかとペンを持った次第である。

 とりあえず、初めての日記という事で、書きたいと思う事が色々とある訳だが、俺という人間を知って貰うには一言で片が着く。

 

 俺は“転生者”である。

 

 自分が“転生者”だと自覚したのはいつだったのか、正直な所、あまり覚えていない。

 それでも俺は“地球”で生まれ育った前世については明確に覚えている。

 俺の前世は普通の日本人で、仕事は何処にでもある営業系のサラリーマンをしていた。

 それに自分が死んだ時の記憶もしっかりと覚えている。死因は交通事故による出血死だ。

 別に、小さい女の子を助けたりして、大型トラックに轢かれた訳じゃない。

 結論から言ってしまえば、仕事帰りに疲労で集中力が切れた事による居眠り運転の単身事故である。

 

 勤めていた仕事場がブラック企業だった、と言えたら気が楽になれるのだが、俺の勤めていた会社はブラックでもなんでもない普通の会社だ。

 居眠り運転をした直接的な原因は俺の趣味のせいだろう。

 幸いな事に俺は肉親と呼べる人間がいない。所謂、過去ポとかに使える“児童施設”で育った人間である。

 まあ、請求する関係者がいない以上、事故で破壊してしまったガードレールや電柱は国民の皆様から集められた税金で支払われたに違いない。

 

 …………話が逸れてしまったので、話題を戻そう。

 

 俺は“転生者”である。

 

 何故、二回も記したかというとコレが大事な事だからだ。

 このネタで判ってくれた人には特に説明する必要が無いと思うが、判らなかった人の為に正直に書こう。

 言ってしまえば、俺は現実から逃げ出して、二次元に逃避行したオタクと呼ばれる人種だった。

 わざわざ日記を日本語で書いているのも理由がある。俺が第二の人生を謳歌しているこの世界は“地球”では無い“異世界”だ。

 それがつまりどういうことか。日本語で書いてあるこの日記を読める人間は俺だけである。

 どんな悪口や煩悩を書いた所でこの世界の誰にも読めないのだから、好き勝手な内容の日記を書く事が出来る。

 

 前世で生きた年数を通算してみれば、精神年齢だけで四十代前半のおっさんなのだが、そんな事を考えている時点で精神年齢が四十には程遠い。

 多く見積もっても、前世で経験した二十代半ばと言った所だ。

 

 まあ、俺の自己紹介はこのくらいで充分だろう。今更ながら、俺しか読まない日記に自分の自己紹介をして意味があるのだろうか。

 少し考えたら悲しくなったがそれはまあいい。大切なのはこれからの日々だ。

 

 冒頭にも書いてあるように俺は今日、トリステイン王国が誇る全寮制のメイジ育成機関“トリステイン魔法学院”に入学した。

 そう、トリステイン“魔法”学院だ。

 この異世界“ハルケギニア”に著作権と言う言葉は存在しないので平気だが、額に稲妻の傷を持つ少年が通う事になった魔法学院を思い浮かべて貰えばいいと思う。

 流石にあの世界ほど万能な魔法では無いが、ハルケギニアでも魔法が使える人間と使えない人間では隔絶した身分の違いがある。

 

 この世界で魔法を使える高貴な人間を貴族、魔法が使えない人間を平民と言う。

 ハルケギニアは魔法の有無で明確な身分の差が存在している。

 つまり、トリステイン魔法学院に入学して魔法を学ぶ俺は貴族として生まれ変わった。

 正直な話、貴族の中でも王家とちょっとした繋がりがある俺の実家はある程度裕福で、生まれついての勝ち組だった俺は特に生活する上で支障が起きたりしなかった。

 文化水準が明らかに日本より劣っていた為にPCや携帯ゲームと言った娯楽が無かったのは寂しかった。それでも無いなら無いでなんとかなるようなものだ。

 

 幼少期の俺は自分が“転生者”で、特別な人間であると勘違いを起こし、よくある転生モノのNAISEIチートに憧れて、色々と試してみた。

 まず、一つ目は、

 ・牛糞ぶちまけ豊作作戦。

 作戦内容はタイトル通りだ。その結果は失敗だった。

 自分でも本当にこれでいいんだろうか、と首を傾げながら、実家が管理する畑の一画を貸してもらい、牛糞を肥料として撒いたが駄目だった。

 むしろ、その畑の作物は軒並み腐っていき全滅、結果を伝えたら、両親にも大目玉を食らった。

 牛糞を何かで加工すれば肥料として使える筈なのだが、そこまで詳しい園芸の知識を持っていないので諦めざる終えない。

 

 それから、

 ・最強三権分立作戦。

 NAISEIチートの中でも最も判りやすい作戦である。

 思い付いたのだが、わざわざ旨い汁を吸っている貴族側の俺が、そんな政治革命を起こす必要は無いので、すぐに諦めた。

 このハルケギニアは貴族がヒルラルキーの頂点に存在している世界だ。

 それに、俺の家庭教師として来ていた貴族の人にペラペラと三権分立の思想を語った所で子供の妄言、と言って切り捨てられた。

 文字の読み書きすら出来ない平民が政治に参加する。

 それがどういう事態を招くのか。完膚無きまでに論破されてしまった。

 結局の所、時代と政治が合っていない。

 

 他にも、

 ・計算知識チート作戦。

 これは珍しく成功した。ハルケギニアは中世のヨーロッパに近い生活水準なので、計算方式の確立がまだされていなかった。

 

 他にも思い付く限り色々と試した訳だが、成功したり失敗したりでいつのまにか実家の中で奇人変人扱いされていた。総合的に見れば失敗した方が多いかも知れない。

 実家に与えた損害は馬鹿に出来ないが、奇抜な発想と共に実家へ与えた利益も大きい。

 両親からまことに扱い辛いと評価を受けていた俺は、厄介払い兼貴族の嗜みと人脈作りの為にトリステイン魔法学院に入学させられた。

 入学自体は予想も覚悟もしていたので、特に気にならないが、残念な事が一つだけある。

 

 実家だからこそ出来ていた、平民のメイドさんに対するセクハラの数々が出来なくなってしまう事だ。

 他の貴族が見ている前でそんな事をすれば、指を指して笑われてしまうだろう。

 この世界にはセクハラなんて言葉は存在しない。特に貴族と平民の間では逆らう事さえ許されない。そんな世界だ。

 

 勿論、俺の世話係である若いメイドさんの衣装はコスプレなどで見られる膝丈三十センチのミニスカート。実用性皆無の少しでも動けば、下着が見えそうになる変態仕様。

 一日に一回、メイドさんのミニスカの奥を覗けるかどうか、楽しみで仕方なかった。

 まあ、やり過ぎた為に、平民から“煩悩馬鹿息子”と呼ばれたり、思春期が近い出来の良い妹に汚らしい汚物を見るような軽蔑の視線を注がれたけど。

 実家暮らしの時は目を瞑っていた両親も、学院では控えるようにと度々忠告していたので、大人しく暮らしていこうと思っている。

 

 

 

 

○月×日◇曜日

 トリステイン魔法学院に入学してから既に半年が過ぎて、学院の生活にも充分慣れた。

 我ながら入学初日以外、一切日記を書いていない自分をどうかと思うが仕方ない。三日坊主にすらならなかった。

 半年振りに書いているこの日記だって、勉強机を整理していたらたまたま出てきたので書いているだけだ。

 とりあえず、日記に書くような出来事は起きていないので、近状報告でもしておこう。

 

 正直な話、結構な勢いでモテモテです。学院生活で煩悩を封印している俺は端から見れば、成績優秀・運動神経抜群・品行方正・上流家系・性格も悪くなく、外見もそこそこの優良物件で通っている。

 特定の誰かと付き合っていないので、ちょくちょくアプローチを受けたりしている。

 同じように女生徒に人気で友人であるギーシュ・ド・グラモンは不特定多数の異性と付き合っているようだが、俺には真似出来そうにない。

 友人と言えば、ギーシュ以外にも何人か面白い友人がいる。

 

 一人はトリステインに隣接する帝政ゲルマニアからの留学生であるキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。

 『火』の系統魔法を得意とするメイジで、その実力は俺の遥か上を往く。

 キュルケのことを一言で表すなら“爆裂おっぱい”に限る。

 たまにこちらをからかって、凶悪兵器を腕に押し付けてくる時は鼻の下が伸びないようにするだけで、精一杯だ。

 

 一人はタバサ。正直な所、タバサについてはあまり知らない。タバサ自身、詮索されるのを嫌うタイプのようだ。キュルケと仲良くしていたら、いつのまにか仲良くなっていた。

 あまり美味しくないハシバミサラダが大好物の“残念おっぱい”だ。

 

 一人はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。

 トリステイン屈指の名門貴族であるヴァリエール公爵家の三女で、かなり遠縁であるが魔法学院へ入学する前から顔は知っている。

 名門貴族でありながら、四系統魔法はおろか、コモン魔法すら使えない彼女は同じクラスの皆から魔法が使えないゼロのルイズ、と馬鹿にされている。

 ルイズが魔法を使うと全て爆発して、失敗するのだ。

 公爵家の三女を馬鹿にする。俺からしたら戦々恐々であるが、この世界は魔法の有無がそれだけ重要とされている。

 しかし、普通に魔法を失敗すると爆発なんて起きないので、爆発も充分に魔法だよね、と皆に馬鹿にされて落ち込んでいるルイズに声を掛けたらぶん殴られた。

 それから少しずつ話をするようになり、仕事で失敗した後輩を励ますつもりで接していたらいつのまにか仲良くなっていた。

 よく話すようになって気付いたのだが、ルイズはスゲーツンデレだった。

 お互いに恋愛対象として見ていないが、ルイズがデレた時は相当なモノになるとオタクであった俺の勘が告げていた。

 

 

 

 

○月×日◇曜日(日記から抜粋)

 トリステイン魔法学院へ入学してから、既に一年が過ぎようとしている。

 明日は春の使い魔召喚の儀式がある。

 春の使い魔召喚の儀式とは簡単に言ってしまえば、二年生へ進級するに当たって、自分のパートナーとなる使い魔を召喚する儀式の事だ。

 二年生の進級試験も兼ねているので、使い魔召喚を失敗する事は許されない。

 やっぱり使い魔と聞いて浮かぶイメージはフクロウが強い。黒猫やフェレットなども思い浮かぶが、魔法少女で無い俺はフクロウに憧れている。

 

 

 

 

◇とある主人公の記憶◇

 今日は二年生へ進級出来るかどうかを決める春の使い魔召喚の儀式がある。

 どのような使い魔が出現しても大丈夫なように、学院の中庭に移動した俺達はコルベール先生の指示に従って、順番に使い魔を召喚している。

 メイジの実力を知るには使い魔を見よ、と言われるぐらい、メイジと使い魔は似たもの同士が多く、メイジとしての資質にも左右される。

 

 火系統の魔法が得意なキュルケはサラマンダー、俺と同じで風系統の魔法が得意なタバサは風竜と言った所か。風竜を召喚したタバサの資質はとんでもない訳だ。

 

 順番待ちで友達が使い魔と交友を深めている中、とうとうルイズの番が来た。

 本人は気合を入れて奮起しているが、その気合が実るかどうか。

 皆から“ゼロ”のルイズと揶揄されるルイズの登場に、使い魔と交友を深めていた生徒達もルイズに注目している。

 

 ルイズは深く深呼吸した後、浅く閉じていた瞳を大きく見開いて使い魔召喚の呪文を唱えながら杖を振り下ろす。

 

 ――――瞬間。

 

 激しい爆発音が中庭一帯に鳴り響き、爆心地から巻き上げられた土煙が視界を奪う。

 

「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出してどうするの?」

 

 土煙が風に流されていき少しずつ視界が回復していく中、誰かの問いかけが聞こえた。

 爆発に紛れて極秘に用意した幻想生物を持ってくる。普段の誇り高いルイズなら考えられない手であるが、二年生への進級が掛かっている今回はやりかねない。

 それにしても平民を連れてくるなんて無茶にも程がある。

 ルイズにしてはらしくないミスだ、と首を傾げながら土煙が晴れるのを待っていた俺は爆心地の中心に立つ人物の出で立ちと顔を見て、思いっきり噴き出してしまう。

 

『やれやれ、随分と手荒い召喚だとは思ったがこれはどういう状況なのかな、マスター?』

 

 そこには赤い外套を風に靡かせて、ニヒルに笑う白髪の男性――――アーチャーが立っていた。

 

 皆が皆、突如現れた謎の使い魔(?)に注目している中で、俺は一人で何が起きているのか判らず、思考を停止させていた。

 

 『サモン・サーヴァント』で呼び出された英霊(サーヴァント)

 確かにサーヴァントには違い無いが、全然違う。

 アーチャーの姿を見て、平民と呼んだ生徒の気が知れない。

 いくらなんでもアーチャーから発せられる威圧感を感じ取れば、平民で無い事ぐらいは理解出来る。

 現実逃避をしている内に、ルイズとアーチャーが契約をしていた。

 

「後は君で最後だ。時間も押しているので、よろしく頼むよ」

 

 ぽかんと口を開けて、その光景を眺めていた俺に、コルベール先生が話しかけてくる。

 

「はい、判りました」

 

 一旦、アーチャーの事を頭の隅に追いやり、深呼吸をしてからフクロウがでますように、と祈りながら杖を振る。

 

 ――――瞬間。

 

 再び爆発が起きて土煙が視界を奪っていく。

 

『ちょっと、ルビー! 何がどうなってるの! ここは何処よ!』

 

『アハー☆、私にも判らない事はあるんですよ~! まあ、今回は外部から強制的に召喚されたって所ですかね~』

 

『イリヤ、少し落ち着いた方が良い。私達を囲むように人の気配がたくさんある……』

 

『落ち着くのは賛成です。事情を知っていそうな方がいますから話を聞いた方がいいと思います』

 

「イリヤ……だとっ!」

 

 聞こえてきた声と妖精に見間違う愛らしいその姿を確認した俺は考えるのを止めた。

 

「ハッハッハ、早く『コントラクト・サーヴァント』しないとな」

 

 のそのそとイリヤの前まで近付くと、警戒心丸出しのイリヤに笑いかける。

 

「だ、誰ですか?」

 

「――――君達のご主人様になる者です」

 

「っ!? 近寄るな、変態いぃぃぃ!」

 

 イリヤの肩を掴もうとした時、リリカルでマジカルな魔法少女の杖にぶん殴られて、俺は意識を手放した。

 

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