ゼロ魔日記   作:ニョニュム

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○月×日◇曜日

 日々、激化していく戦争の戦火から逃げるようにトリステイン魔法学院へ避難してきているアルビオンの戦争難民達の中で一人だけ我が目を疑うほど美人の少女がいた。魔法学院という土地柄に警戒しているのか、深く被った大きな帽子のせいでじっくりと目に焼き付ける事が出来なかった。

 

 しかし、少し見ただけでその美しさはアンリエッタ様に負けず劣らずの美貌であり、男に生まれた性として不躾だと理解していながらも女性の母性を現す二つの果実へ視線が向いてしまう。きっと、彼女の事をルイズが知って目撃したら卒倒してしまうのでは無いかと本気で心配してしまうほど立派な物だった。魔法学院ではトップクラスのキュルケでさえ、彼女の前では霞んですら見える。

 

 気付いた時には人懐っこいのか、嬉しそうに纏わり付いてくる子供達を押しのけて彼女へ声を掛けていた。毎日のように女性を口説いているギーシュと違い、実家のメイド以外に年頃の異性へ自分から声を掛けた事の無い俺が、背中の痒くなるような台詞を思い付く筈も無い。直球で彼女の名前を尋ねていた。冷静になって考えてみると我ながら色々とバレた気がする。

 

 突然、メイジである俺に声を掛けられて驚いたのだろう。彼女は名前を尋ねた俺に対して驚きと戸惑いの表情を見せた後、こちらが笑顔になるほどの微笑を浮かべて自分の名前はティファニアです、と教えてくれた。

 

 しかし、ティファニアさんが自分の名前を名乗って見せてくれた微笑の中、その瞳の奥には得体の知れない悲しみの色が含まれていた。戦火から逃げて魔法学院へ来たのだ。早く住み慣れたアルビオンの土地へ帰りたいのだろう。その事に気付きながら何も出来ない俺はこの時ばかりは王軍の招集に参加しなかった自分を呪った。

 

 それと理由は不明であるが最近、よく頭痛に見舞われるようになっていた。特にティファニアさんの事を色々考えている時に発生する。“恋の病”なんて言葉をあるぐらいだ。だけど、今の所は自分がティファニアさんへどんな感情を向けているのか判らなくなってきた。

 

 ――――ただ、好きという感情以前にもっと大切な忘れてはいけない何かを忘れているような気がした。

 

 

 

 

○月×日◇曜日

 アルビオンから避難してきた難民の人々を保護するようになってから数日、今までは突然の受け入れで準備が出来ていなかった事もあり、目の回る急がしさで周囲の状況を落ち着いて観察する事が出来なかった。

 

 しかし、そろそろ魔法学院に残った女子生徒達も避難民達との接し方に慣れてきたのか、食事の配布などの支援が上手く回るようになって余裕が出来てから気付いた。今、魔法学院に戦える男性が殆どいない。武勲が欲しい男子生徒は勿論、男性教員もその殆どが戦争に参加している為、学院を留守にしている。

 

 判明しているだけで、魔法学院に残っているのはオスマン学院長とコルベール先生、後はアーチャーと俺ぐらいだ。正直な感想としてオスマン学院長とコルベール先生では頼りない気がする。俺と比べて二人がメイジとして遥か高みにいる事は充分承知しているつもりだが、“戦闘”となった場合に正直な所、戦力が足りていない。

 

 激しい戦争を繰り広げている今の神聖アルビオン共和国に避難民を受け入れているトリステイン魔法学院をわざわざ戦力を割いて襲撃するだけの余裕と必要性があるか不明であるが、もし襲撃を受けた場合、戦いの矢面に立って交戦出来る男性が俺とアーチャーの二人しかいないとか洒落になっていない。

 

 そんな俺の不安を見抜いているのか、アンリエッタ様がアルビオンの避難民を保護して守る為にアンリエッタ様直下の銃士隊を派遣してくれていた。俺が心配するような事は既に対応済みなのだ。

 

 これは完全に余談であるが、魔法学院へ派遣されてきた銃士隊の中には王宮の地下水路で会った事もあるアニエスさんもいた。

 

 

 

 

○月×日◇曜日

 ギーシュが王軍へ参加してアルビオンで戦っている為、不在であるがアーチャーとの朝練は二人になっても続けている。効率の面で多少の低下は免れないが元々朝練は二人でやっていた事だからそんなに違和感は無かった。

 

 他の生徒が寝静まっている早朝にも関わらず、メイジである俺が杖ではなく傭兵が使用するような無骨な鉄製の長剣を振り回して鍛錬を積んでいる場面が珍しいのだろう。朝練をしている俺達を遠巻きに眺めているギャラリーが着々と増えてきた頃、王国から派遣された銃士隊の一人が俺に声を掛けてきた。

 

 その内容を聞いてみると毎日仕上げに行なっているアーチャーとの模擬戦の相手をアーチャーの代わりにしてくれるというものだった。そんな提案を受けて俺とアーチャーは顔を見合わせた。

 

 表面上、俺がメイジという事もあり、とても丁寧な提案であったが、模擬戦を仕掛けてきた相手の瞳に隠された感情は魔法に頼り切ったメイジが剣の鍛錬を積んだ所で銃士隊には敵わない、そう言いたげだった。礼儀作法から始まり、規律に厳しいアニエスさんの部下にもこういう人物がいるのか、と内心で驚きながら様々な人との手合わせは訓練になるという事で申し出に頷いた。

 

 先に結論だけ言おう。俺と銃士隊隊員との模擬戦は俺の圧勝で決着した。素の実力では隔絶した差が無い筈であるが、それでも向こうは貴族のお遊び程度に剣を振り回していると油断していた為に隙だらけだったので容赦無くその隙を突かせてもらった。一応、これでも俺はオーク鬼とサシで大立ち回り出来る位の実力は身に着けている。

 

 俺達の模擬戦を遠くから観戦している平民達の中にティファニアさんの姿を認めた俺はかなり調子に乗った。俺の剣技を見て、敵討ちとばかりに挑んでくる他の銃士隊隊員達を相手に大暴れしていると怒り心頭の表情を浮かべたアニエスさんが現れた。

 

 俺が熨して地面に転がっている銃士隊の面々に早く警備に戻れ、と大きな声を出した。そして銃士隊の面々が自分の持ち場へ戻っていった姿を確認したアニエスさんは俺に勝負を挑んできた。

 

 先に勝負を吹っ掛けたのはこちらで非もこちらにあるが銃士隊の誇りとして魔法も使えるメイジ相手に“剣”で負けるのは銃士隊の面子が潰れるとかなんとか。連勝を重ねて調子に乗っていた俺はそろそろ連戦の疲労が出てくるから止めた方が良い、と止めてくれたアーチャーの静止を聞かず、アニエスさんの申し出を引き受けた。模擬戦は一進一退の攻防を繰り広げた後、連戦の疲れを一瞬だけ見せた俺がその隙を見逃さなかったアニエスさんによって敗北した。

 

 調子に乗って墓穴を掘るとは恥かし過ぎる。しかも、敗北した事に広場の片隅で落ち込んでいた俺をティファニアさんが嬉しそうな笑顔を浮かべて慰めてくれたのが致命的だった。約束通り強くなっていてくれて嬉しい、そんな事を言うティファニアさんに俺は首を傾げるだけだった。

 

 

 

 

○月×日◇曜日

 今日は魔法学園に現れた金髪女性によって、学友であるルイズが攫われていった。まあ、正確に記すなら王立魔法研究所“アカデミア”に所属しているルイズの姉。エレオノールさんがトリステイン魔法学院をいきなり訪ねてきたのだ。

 

 見事なブロンドの髪を風に靡かせ、良く言えば意志の強そうな悪く言えば気の強そうな顔立ちの美女であるエレオノールさんは第一印象通りにきつい性格を発揮して、急な事で慌てて止める魔法学院の先生を片っ端から口論で撃破していくとメイドとして給仕していたシエスタを捕まえて強引に実家へ帰ってしまった。

 

 朝練に顔を出した俺は事の顛末をアーチャーから説明してもらい、帰ってくるまでアーチャーの指導が受けられないと告げられた。明らかに面倒事が待っている展開に俺はアーチャーへご苦労様と声を掛けておいた。

 

 

 

 

○月×日◇曜日

 ルイズ達がルイズの姉であるエレオノールさんによって実家へ強制帰省させられてから既に数日が経った。最近は生活リズムやローテーションが安定してきたので個人的に使える時間が増えた。時間が出来て暇だった俺は好奇心に目を輝かせて嬉しそうな表情を見せて、整備と言い張ってアーチャーが学院へ持ってきたゼロ戦を弄繰り回しているコルベール先生をなんとなく観察していた。遠巻きに眺めていたら整備中のコルベール先生と視線があったので会釈した。そしたら何か勘違いしたのだろう。コルベール先生が俺の所まで歩いてくると少し大きめな試験管を嬉しそうな表情を浮かべて見せてくれた。

 

 なんでもコルベール先生から受けた説明では蓋をした試験管へガソリンを入れて、試験管を“固定化”する事でガソリンの気化を防ぎ、手軽に持ち運べるようにしたんだとか。

 

 その説明を聞いて、俺は思い切り噴き出してしまった。コルベール先生はみっちりとアーチャーからガソリンの危険性を教えてもらった筈である。

 

 そんな俺の反応を確認して、コルベール先生は子供のように目を輝かせて語り出した。ガソリンを上手く運用出来るようになれば破壊だけが火の骨頂ではないと証明出来る、と喜んでいた。

 

 何故、そのような話とガソリンを俺に見せてくれたのか尋ねてみるとコルベール先生の作った試作品に反応を見せる生徒は少なく、その中でも俺はよく反応してくれる生徒なので驚く反応が見たかったらしい。

 

 そんな事で簡易爆弾にもなりかねないガソリンを持ち出すな。心の中でコルベール先生にツッコミながらアーチャーにもっと言い含めて貰おうと心に決めた。

 

 

 

 

○月×日◇曜日

 ようやくと言っていいのだろうか、強制帰省を受けていたルイズ達が実家から魔法学院へ帰ってきた。そんな噂を耳にした俺は久しぶりとなるルイズ達の様子を拝見しようとルイズの部屋を訪ねたら、ルイズが忙しく旅の準備をしていた。学院へ帰って来たばかりで既に違う場所へ出掛ける準備をしているルイズ達の姿に俺は目を丸くする。

 

 そんな俺に準備の手伝いをしていたアーチャーが大きな溜息と共に肩を竦めた後、どんな事情なのか掻い摘んで説明してくれた。

 

 なんでも俺達が人知れず回収しているクラスカードのように、外部へ口外してはならない密命をルイズはアンリエッタ様から承ったらしい。その為には今回の戦争へ参加する必要があったのだが、実家に戦争参加を却下されて実家へ連れ戻されたらしい。

 

 ルイズと両親は口論の末に両親が納得出来る実力を見せる事になり、ルイズを守護する使い魔であるアーチャーとルイズの両親が激突したんだとか。結果こそ、アーチャーの勝利で終わったのだが、内容はかなりやばい所まで押されたらしい。アーチャーの実力を確認して戦争参加を認めてもらったとか。

 

 ……いや、英霊(サーヴァント)であるアーチャーを相手に二人掛かりとはいえかなり追い詰めるとかどんな化け物なんだ、ラ・ヴァリエール家。

 

 ルイズの実家に戦慄していた俺を余所にルイズ達は戦場たるアルビオンへ向かっていった。

 

 

 

 

◇ギーシュ・ド・グラモンの記憶◇

 

『て、敵襲ッ!』

 

 空に浮かぶ二つの月が栄える夜。怒号と共に大きな鐘の音を鳴らす音が野営地に響き渡った。鐘の音を聞いて慌てて飛び起きた僕は杖を手に取ると宿舎を飛び出した。二つの月に照らされて薄明るい外へ視線を凝らす。

 

「なっ!」

 

 そして息を呑んだ。補給部隊である僕の隊から遥か前方、前線で戦う大隊が野営地としている場所の付近が風に揺られながら赤く燃え上がり、空を赤色に染めていた。

 

「どうした! 何があった!」

 

『わ、判りません! 黒い閃光が奔ったと思ったら一瞬にして前線部隊の野営地が火の海に! 敵は単騎! 黒い剣を持って信じられない速度でこちらへ接近してきます!』

 

 何が起きたのか、状況を飲み込めない僕は情報を求めて叫ぶ。動揺している兵士が不可解な情報を僕へ伝えてきた。単騎で部隊に突撃を仕掛けて野営地を火の海に変える。いくらなんでもそんな情報は信じる事が出来ない。普通ならそう切り捨てる筈だ。

 

 だけど、何かが違うと僕の勘が告げていた。そして、すぐさまソレが正解だったと理解した。

 

『クククッ、ハハハハハッ! 素晴らしい、素晴らしいぞ、このチカラはッ!』

 

 僕の前に姿を現したのは夜中であっても暗く黒く見える漆黒の鎧と長剣を携えた初老の男性だった。肌がピリピリと警戒を始める。存在するだけで相手を恐怖へ引き摺り込むこの雰囲気。僕は何処かでこの雰囲気を知っていた。

 

『奴が妙な魔法道具(マジックアイテム)を持ってきたと思えばただのカードが剣になるとはなッ!』

 

 狂気を含んだ笑みを浮かべて初老の男性が笑う。男性の瞳は濁り狂っていて、正気の気配では無い。

 

『そして剣から伝わるこのチカラ、このチカラがあれば私一人でこのセカイを統べる事が出来る! こんな指輪などただの玩具ではないか!』

 

 誰かに向けて話しているのか、ただの独り言なのか、正気では無い為に判断が着かないにせよ、突然の襲撃者は“何か別のモノ”に呑まれている。理性ではなく本能がそうだと理解した。そして気付いた。

 

「あ」

 

 あの謎の襲撃者から溢れ出す雰囲気は本気の力を発揮する時のアーチャーが纏う雰囲気に似ているのだ。

 

 その事を理解した時、襲撃者と視線が交じり合う。襲撃者はニヤリと笑みを浮かべ、漆黒の長剣を両手で握る。漆黒の長剣へ鈍き光が集っていく。

 

 ――――自然と恐怖が湧いてこなかった。ただ、漆黒の長剣から放たれる圧倒的暴力の前ではどんなに足掻いた所で無意味だと本能が知っていた。

 

『約束された――――』

 

『全軍集中砲火!』

 

 襲撃者の腕が振り下ろされるよりも早く、辺りに響いた声と共に火が、水が、土が、風が、無数の魔法が襲撃者目掛けて殺到する。

 

「や、やったか?」

 

 魔法を放ったメイジが様々な魔法が殺到して土煙を立てている場所を見る。

 

『止めるな! 精神力がカラになってもいい、あれはタルブに現れた黒き悪魔と同じ存在だ!』

 

 この補給部隊を指揮しているウェールズ皇太子の怒号が戦場に響き、部隊に所属するメイジが放った魔法が次々に殺到する。

 

 魔法を放ったメイジの誰もが過剰攻撃だと思った。

 

 ただアレの存在を知っている僕と攻撃を続けろと命令を出し続けているウェールズ皇太子だけがアレを倒すにはまだまだ足りない事を知っていた。

 

『――――勝利の剣』

 

 ――――そして世界が闇の光に覆われる。

 

『やれやれ、到着早々トラブルとはな……』

 

 そんな世界の中で一筋の光が見えた。

 

『――――熾天覆う七つの円環』

 

 目の前に広がる花弁のような光が音を立てて割れながら闇の光を受け止める。その赤い外套を纏った背中は大きく見えた。

 

『この魔力とその宝具――――、貴様が何者であるか知らないが『彼女』で無いなら相手にならんな』

 

 白と黒の剣を構えた彼は呆れながら溜息を吐いた。

 

 

 

 

◇?????◇

 

「あら? せっかく渡した玩具をみすみす敵に渡すなんてもったいない事をしたかしら」

 

 黒いローブを纏った誰かは黒い鎧を纏った男性と赤い外套を纏った男性の戦いを水晶を覗き込んで遠くから見ていた。

 

「まあ、いいわ。これでようやくこのカードの使い方が分かったから。とてもいい道化でしたよ、クロムウェル」

 

 黒いローブを纏った誰かは水晶から見える映像の中で勝ち鬨を上げているウェールズ達を見ながら笑った。

 

「私以外にこのカードの使い方を知っている人間は二人、トリステインの誇る“聖女”だったかしら。確か居場所は…………そう、トリステイン魔法学院」

 

 

 ――――闇が動き出す。

 

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