ゼロ魔日記   作:ニョニュム

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主人公達の記憶

 

 こぢんまりとした部屋の中、見る者を落ち着かせるようなデザインで飾られているインテリア。そんな居心地の良さそうな、落ち着いた雰囲気の部屋の中には家主の趣味を主張するように壁際へ沢山の本棚が並べられていて、本棚の中には沢山の書物がずらりと並んでいた。

 

「貴方、そろそろ時間ですよ。…………ふふ、また、ソレを読んでいたんですか?」

 

 部屋の片隅に備え付けられた小さな机と椅子に腰を掛けて、“とある書物”に読み耽っている男性。美しい金色の髪と穢れなど知らない純白の白い肌、見る者全てを魅了する端麗な顔立ち、優艶な淑女である女性は読書に没頭している男性を見つけるとはにかんだような笑顔で声を掛ける。その声音は何処か呆れを含んでいた。

 

「あぁ、ティファニアか。すまない、もうそんな時間だったのか……」

 

 幾度となく繰り返し読み返したのであろう。ティファニアの問い掛けに反応した男性が持っていた“とある書物”は表紙と背に手垢が付着して、薄汚れた状態でページ自体もボロボロだった。大切な書物であるが、“固定化”の魔法は掛けていない。永遠ではなく、有限だからこそ、書物を大切に扱い、その内容を尊く思う。

 

 愛おしくとても大切にしている愛妻の言葉に反応して、“とある書物”へ意識を没頭させていた男性はゆっくりと書物を閉じる。愛妻の呆れを含んだ声音に気付いている男性は微笑を見せながら愛妻へ視線を送る。微笑を浮かべたその顔は何かを懐かしむ穏やかな表情だった。

 

「まあ、そう言うな。まだまだ未熟で非力だった頃の自分を見つめ直し、過去の気持ちを思い出しつつ、過去の自分よりも今を生きる自分がしっかりとして、成長しなければと戒めているだけだよ」

 

「もう、本当はそれだけじゃあ無いんですよね?」

 

 それっぽい理屈を並べて理論武装する男性へティファニアは呆れた笑みを浮かべる。それでも懐かしそうに笑っているのはティファニアも同じだった。

 

「あぁ、トリステイン学院で学んだ学生時代は本当に色々な事があったからな。今までの人生で一番大変で、一番騒がしく、一番楽しかった。今、俺が噛み締めている幸せと同じくらいに。今では皆が皆、気軽に会えるような立場では無くなってしまったからな。一国の女王に伝説を継ぐ虚無の魔法使い、トリステイン王国軍の総司令官に世界の財政を握ると言われるほどの大富豪。俺に至っては夢を叶えて魔法衛士隊の総長だ。今思えば、あの頃の学院生活はとんでもない人材が集まっていた訳だな」

 

 懐かしそうに微笑む男性は“とある書物”――――若き日の男性が書き綴った日記を丁寧に本棚へ片付けると書斎の外で待っているティファニアの下へ向かう。

 

「貴方、今日は家族でピクニックの約束なんですから。子供達は待ち切れなくてもう外にいます」

 

 書斎を出たすぐ前にある窓の外には愛すべきティファニアの血を引き継いだ特長的な耳を持つ愛娘と自分の血を引き継いだ大事な息子がこちらに向けて手を振っていた。そんな子供達の間に挟まるようにして、青いノースリーブの和服に狐耳。大きな尻尾が特徴である自分の使い魔が立っていた。

 

「幸せ……ですね」

 

「ああ、そうだな……」

 

 本当に、幸せそうに呟くティファニアの姿が愛おしく、抱き寄せるとティファニアは幼い少女のように顔を赤らめる。

 

「だ、駄目です。子供達が見ています」

 

 恥らうティファニアを余所に、外を見てみれば、自慢の使い魔が子供達の顔に手を添えて、目隠ししていた。

 

「大好きだよ。これからもずっと一緒だ。ティファニア」

 

「私もですよ。アナタ」

 

 俺は――――手に入れた幸せに口付けした。

 

 

 

 

◇イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの記憶◇

 本当に突然、何の前触れもなく、ハルケギニアと呼ばれる異世界へ召喚されて、そこで起きた様々な出来事は私と美遊、二人だけの秘密だ。本当の所、別に秘密にする必要は無いのだけれど、平行世界ではなく異世界とは言え、世界を移動したなんて事が“あの二人”に露見したら、私と美遊がどんな目に遭うか、考えただけでも恐ろしい。

 

 私達の身体に異常が無いかとか適当な理由を並べて、身体を弄繰り回されるに違いない。ルビーとサファイアにはハルケギニアについて公言しないように念を押しておいたし、二人とも良い経験になったぐらいにしか思っていない。何より私達の魔術とは根本から違い過ぎて、参考にすらならないらしい。

 

 私達がハルケギニアから私達の世界へ帰還した後、今後はこんな事が無いように調査を進めてくれたルビーが最終報告として教えてくれた。私達が何故、ハルケギニアへ呼ばれてしまったのか、その理由。

 

 ハルケギニアは元々、私達の世界とは違う、平行世界の地球と繋がっていたんだとか。元々、交わる筈の無い世界を繋げる。それはとても珍しい魔法で、ハルケギニアでも私達を呼び寄せたあの人以外には使いこなせるような人がいない、とても珍しい魔法らしい。

 

 それだけ珍しい魔法だ。私達を呼び寄せたあの人自身、自分が世界を繋げる魔法が使える素質を持っているなんて知らないし、考えた事も無い。春の使い魔召喚の儀式を行なっている最中、“無自覚”に世界を繋げる魔法を発動させたあの人は“無自覚”だったからこそ、未完成だった為に本来繋がる筈の地球ではなく、その場に居合わせたアーチャーさんの力に呼び寄せられ、アーチャーさんと同じチカラを持つクラスカードを所持していた私達の世界へ繋がり、私達を呼び寄せたらしい。

 

 勿論、これはこの世界の魔術的見解でルビーの考察だ。ルビーの考察が事実かどうか確かめる術はもう無い。ハルケギニアと私達の世界が繋がる事はもうありえないから。

 

 正真正銘、異世界であるハルケギニアで過ごした数ヶ月間の時間は多分、これから一生忘れる事は出来ないだろう。私達をハルケギニアへ召喚したあの人を筆頭に、ルイズさんやキュルケさん、タバサさんとそのお母さん、それにシエスタさんにマルトーさん、後一応ギーシュさんも。他にも異色んな人に助けられて、お世話になった。

 

 その中でも一番私達を助けてくれたのはアーチャーさんだ。ハルケギニアへ召喚された当初、動揺と混乱でまともな判断が出来ない私達の代わりに衣食住を確保してくれて、世界中にばら撒かれたクラスカードの回収にも沢山協力してくれた。

 

 …………私達には言えないような秘密を抱えていたようだったけど、その秘密も私達の世界へ帰還して、日常生活を送るようになってから気付いた。

 

「イリヤ、そろそろ晩御飯だぞ!」

 

「わかった!」

 

 私を呼ぶお兄ちゃんの声が聞こえて、私は返事をすると自分の部屋を出て、リビングへ向かう。最近、中華系の料理ばかり作りすぎてセラにぶっ飛ばされたせいか、控えたのだろう。美味しそうな洋食の料理がテーブルに並んでいる。

 

「今日は全部、俺の手作りなんだ。食べたら料理の感想を聞かせてくれよな」

 

「シロウ、私達の仕事を取らないでください」

 

「あはは、料理が空きなんだよ。だから、俺の趣味を奪わないでくれよ、セラ」

 

 お兄ちゃんを恨めしそうに見るセラのジト目にお兄ちゃんは困った様子で頭を掻いて、曖昧な笑みを浮かべる。

 

「もう、早く食べようよ!」

 

「そうだな、それじゃあ、いただきます!」

 

 私の助け舟に乗って、お兄ちゃんが音頭を取る。皆で手を合わせて一礼。

 

「どうだ?」

 

 美味しそうな料理を一口、料理の感想が気になるのか、お兄ちゃんが首を傾げて尋ねてきた。

 

「う~ん、美味しいけどお兄ちゃんならもっと美味しく出来ると思うかな」

 

「そ、そうか?」

 

 私の言葉にお兄ちゃんは面食らった表情を浮かべる。珍しい私の辛口評価に驚いた様子だった。けど、私は知っている。もっと美味しいお兄ちゃんの料理を。

 

 ――――あの世界で何度も食べさせてもらった料理。

 

 

 だって、この味はアーチャーさん(おにいちゃん)の味だから。

 




これにて完結となります。改訂版でしたが内容はほとんど変わっていません。

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