ゼロ魔日記   作:ニョニュム

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○月×日◇曜日

 初めに言っておこう。トリステインを騒がせた盗賊メイジ“土くれのフーケ”による“破壊の杖”強奪事件は解決を見た。謎の盗賊“土くれのフーケ”の正体はなんとオスマン学院長の秘書でもあったミス・ロングビルであった。穏やかな雰囲気と一歩下がって相手を立てる性格は正体を隠す為の演技であり、すっかり騙されていた俺は女の顔の使い分けに戦慄した。

 

 何故、ミス・ロングビルが“土くれのフーケ”と判明したのか。それはイリヤ達のお蔭である。黒化したライダーと対面した俺達は後先考えずに後退して、ライダーとの戦いはイリヤと美遊、アーチャーにしか任せることが出来ない。

 

 黒化してもライダーはライダー。イリヤ達三人を相手にして一歩も引かない戦いぶりを見せていたのだが、やはり多勢に無勢。三人が連携して戦えば、結果は明白。激闘の末、ライダーは撃破されて、クラスカードへ戻る。

 

 三人が一息した所、ライダーから逃げ出す為に俺が放り投げてしまった“破壊の杖”を持って抜け出そうとしていたミス・ロングビルを発見。怪我はないか、とイリヤが声を掛けた所で、黒化したライダーとの次元が違う戦いを目の当たりにしたミス・ロングビルは錯乱状態に陥っていて、半ば自棄になった状態で“土くれのフーケ”としての本性を現して、この場から脱走する為にイリヤ達へ突然の不意打ち。不意打ちに大騒ぎしているイリヤ達を放っておいて、ミス・ロングビルが“土くれのフーケ”では無いか、と疑っていたアーチャーが音もなく首筋へ手刀を叩き込む。気絶した所を拘束して、連れてきたという訳だ。

 

 どうして、アーチャーが最初からミス・ロングビルを疑っていたのか。説明を聞いてみれば納得がいくものであり、“土くれのフーケ”が学院の宝物庫を襲撃したのは夜。当然、学院から逃げ出した時間も夜だ。しかし、ミス・ロングビルは“土くれのフーケ”の潜伏場所が判明した時、フードを被った男と断言した。地球より朝の早いハルケギニアでは寝付くのも早い。夜中に“土くれのフーケ”を目撃した人間は本来なら皆無であり、夜という暗闇の中で、フードを被った人間の性別を判断するのは至難の業だ。イリヤ達が分からなかったのに、その辺にいる平民がどうやって性別を見分けたのか。アーチャーは見事な推測で、ミス・ロングビルを最初から疑っていた。

 

 “土くれのフーケ”を捕らえ、“破壊の杖”を取り戻した俺達は意気揚々と学院へ帰還し、フーケをオスマン学院長へ引き渡した。その後、フーケを捕らえた褒美として、なんと“シュヴァリエ”の爵位をトリステイン王国から授爵した。正直な所、棚から牡丹餅が落ちてきた展開であったが、断るのも変なので喜んで授爵した。

 

 その日の夜にあった“フリッグの舞踏会”では学生の身分でありながら“シュヴァリエ”を授爵した俺と関係を持とうとする人で溢れていた。その中でも少しばかり過激なアプローチを仕掛けてくる女生徒が数名ほど現れた時は流石に頭が痛かった。正直に言って、俺の腕へ柔らかな胸を押し付けて腕組みする女生徒相手に鼻を伸ばすな、というのは拷問に等しい。イリヤ達の手前、色々と我慢したけど、これが自分一人の手柄だったらどうなっていたか分からない。

 

 

 

 

○月×日◇曜日

 当然と言えば当然のことかも知れないけれど“フリッグの舞踏会”があった翌日、俺はイリヤと美遊が暮らしている隣の部屋に呼び出されていた。まあ、それ自体はどうでもいい。あの時は黒化したライダーが目の前に現れたことで気が動転していて、ハルケギニアに暮らす俺が“知っている筈の無い”知識をペラペラと垂れ流して、ルビーと口論してしまった。呼び出されること自体は予想済み。イリヤ達にとって“知らない筈の知識”を持つ俺の正体は何者なのか、怒涛のイベントで時間の都合が合わなかったが本来なら真っ先に確認する事柄である。

 

 イリヤと美遊、二つのカレイドステッキは当然として、アーチャーとルイズくらいならいるんじゃないか、と思いつつ、イリヤ達の部屋を訪れた俺を待っていたのはイリヤ達とルイズ達――――だけではなく、キュルケやタバサと言った捜索隊に志願して、一緒に戦った皆が俺を待っていた。流石にこの状態で誤魔化すことが困難なのは理解している。俺は誤魔化す為に用意していた説明をした。

 

 “電子虚構世界(セラフ)”――――聖杯が作り出した月の世界。

 そこで行なわれた血で血を洗う聖杯戦争。

 最弱とも言われるキャスターの英霊(サーヴァント)である“玉藻の前”をパートナーとして駆け抜けてきた戦場の数々。

 聖杯戦争の勝者として、地球の事象を観測し続けた聖杯を手に入れて、“根源”の一部へ触れた事。

 そして、バグとして消去される未来しか残っていなかった俺が気付いた時にはこの世界ハルケギニアへ生まれ落ちた事。

 

 俺の説明を聞いて、イリヤ達はなんとなく納得した様子で頷く。説明を聞いても理解出来なかったルイズ達には前世の記憶があり、それがイリヤ達と同じ世界だったと説明した。

 

 当然、真っ赤な嘘である。しかし、その事実を確かめられる人間はいない。それに嘘のポイントを押さえた説明だったので、納得してくれたようだ。人間は嘘に嘘を重ねるといずれ矛盾した点が出現して、理論が破綻してしまう。だが、逆に言ってしまえば聖杯クラスまで話題を大きく広げて、矛盾なく説明を終えることが出来れば、それは限りなく真実へ近い嘘になる。

 

 前世の俺は聖杯を手に入れた魔道師だった。それで“知らない筈の知識”を持っていることについて解決した。勿論、同時にハルケギニア中に散らばったクラスカードの回収に関して、最大限の協力をすると約束した。荒唐無稽な話であることから、被害が出るまでトリステインへ報告するのは止めておく。説明した所で信じてもらえる要素はなく、いらない不安を煽っても仕方ない。

 

 

 

 

○月×日◇曜日

 朝の鍛錬を始めてから既に数日、朝練の成果という奴だろうか。今日は初めてアーチャーとの模擬戦で三分間を無傷で逃げ回ることが出来た。正直な所、ギリギリ逃げ切れた、というのが本音で、第三者の立場から俺達の鍛錬を見たら、俺が無様に地面を転がって逃げているようにしか見えない。実際にその通りであり、毎回詰め将棋みたいにアーチャーの好きなように誘導されて一撃を貰っていた俺としてはたとえ無様だろうと大きな進歩だ。

 

 アーチャー自身も満足そうな表情で頷いて、逃げ切ることだけに集中して鍛錬をしたおかげで予想以上の成長速度だと褒められた。勿論、アーチャーから褒められるのは嬉しい。しかし、俺との鍛錬でアーチャーが本気を出す筈もなく、限りなくギリギリのラインまで手を抜いて戦った模擬戦の結果なので素直には喜べない。

 

 アーチャー曰く、今の実力でも一対一の状況に限れば、その辺りにいる傭兵相手に杖を持たなくても充分に逃げ切ることが出来るらしい。それと逃げるだけでは自分の身を守ることは出来ない。アーチャーの剣技はアーチャーに特化した独特の剣術であるが、剣術の基本ぐらいなら指南出来るようなので、指南してくれるようにお願いした。黒化した英霊(サーヴァント)との戦いで俺が足手まといでしかないことは納得しているし、理解している。

 

 しかし、それでもせめて自分の身は守れるぐらいの。

 大切な人や友達が守れるくらいの力が欲しかった。

 

 

 

 

○月×日◇曜日

 朝の鍛錬をしていると俺の指導をしてくれているアーチャーが、ある男子生徒の首根っこを掴んでズルズルと連れてきた。男子生徒の名前がギーシュ・ド・グラモン。イリヤ達が学院で暮らし始めた頃、色々とトラブルを巻き起こした間柄の人物だ。俺個人とは仲良くしているけど、その場にイリヤ達がいたらなにかしらイリヤかルビーと口論している。他人の使い魔とは言え、メイドと口喧嘩など普通なら考えられないことであるが、言い負かされても貴族の特権階級を振り翳さないのは感心する。

 

 じたばたと脱走を図るギーシュを余所に、何故連れてきたのかアーチャーに尋ねてみると俺の為らしい。一対一がある程度形になったから次は一対多数の逃走訓練が俺を待ち構えている。スパルタ気味だけど、アーチャーの中で俺がスパルタに耐えられるぐらいに成長したと思ったら、少しだけテンションが上がったのは秘密である。

 

 そういえば何故、アーチャーはギーシュがゴーレムを使えることを知っているのか。イリヤ達とのトラブルは避けられたので、アーチャーとギーシュの接点はあまり無い筈。疑問に思って尋ねてみた所、ギーシュは露骨に視線を逸らして身体を震わせて何も語らず、アーチャーは小さな失笑をしただけ。

 

 要領を得ない二人に首を傾げた俺であったが、そういえば最近、俺の関わっていない場所で決闘騒ぎが起きたとか噂で耳にした。ああ、と納得した俺はなにやっているんだ、とギーシュへ呆れ、大人気無いアーチャーにも溜息を吐いた。

 

 

 

 

○月×日◇曜日

 朝の鍛錬をギーシュと積むようになってから気付いたのだけど、ギーシュのゴーレムが本当に強い。個々としての動きだけなら緩慢で鈍重、アーチャーと模擬戦を繰り広げた俺からすれば全然脅威にはならない。しかし、ギーシュのゴーレムが本領発揮するのは一対多数の集団戦において。ゴーレムの数が増えれば、単純な理論で注意力は分散されてしまう。アーチャーの言い分では個々の動きを統率するギーシュもまだ未熟であり、単調的な行動パターンしか命令出来ないので、後はタイミングを合わせれば相手にならないとか。

 

 最初に言っておくが俺は剣による戦い方を訓練している訳じゃない。メイジなのだから、魔法を主力においてサポートとして剣が使えればと思っているだけだ。アーチャーやイリヤのようにガツガツ前線で敵と刃を重ねる魔法戦士を目指している訳ではない。メイジ相手に四方からの同時攻撃をどう避けろと言うのだ。最近、確かに剣の鍛錬が楽しくなってきたのは事実だけど。

 

 しかも、鍛錬を重ねるにつれてギーシュも手馴れてきたらしく、ゴーレムの形状を少しだけ変化させてみたり、間合いの違う得物をゴーレムに持たせてみたり、少しずつ組織的な動きを見せたりと色々な工夫をしてきている。それがかなり効果的な運用なので始末が悪い。負け越してきているので、少し得意げなギーシュに腹が立つ。その内にギーシュのゴーレムを華麗に翻弄するぐらいの実力になってみせると心に誓った。

 

 

 

 

○月×日◇曜日

 一緒に昼食を取っていたキュルケ達に指摘されて知ったことだけど、いつのまにか俺の朝の鍛錬が学院内でちょっとした噂になっているとか。その内容の殆どは誇り高い貴族の人間が何処の馬の骨ともしれない平民に教えを請い、無様に地面を転げ回り、泥だらけになる。貴族としての誇りがどうのこうのと言った感じのモノだ。

 

 その事をキュルケから聞かされた俺は失笑してしまった。確かに貴族として平民の上に立つ自覚を持ち、誇りを持つのはいいだろう。しかし、俺達はまだ学生で、自己鍛錬を重ねる時期なのだ。誇りだけで強くなれるのなら誰だって苦労しない。努力する姿なんて基本的に無様な姿で、滑稽な光景で当たり前。自分に足りない物、自分が持っていない物を手に入れようと手を伸ばして努力するのだ。見てくれは無様にもなる。

 

 それでも貴族としての誇りを盾にして己の非力から視線を逸らす人間より、無様でも努力する人間の方が尊いモノだと思っている。

 

 

 

 

○月×日◇曜日

 こういうものはどこの世界も一緒なのだろう。俺達が通っているトリステイン魔法学院は学院の名前を冠しているので、勿論、沢山の先生がいる。その中で生徒から人気の先生もいれば、逆に生徒から嫌われている先生も存在する。“疾風”のギトー。二つ名の通り、優秀な風系統のメイジであるがギトー先生は生徒から嫌われている。

 

 それもその筈。ギトー先生の授業は最初に風系統の魔法がどれだけ優れているのかという説明から始まる面倒な教え方。少なくとも毎回同じ説明をしているので、生徒達はギトー先生の話を殆ど聞き流している。

 

 元々、大前提として、ハルケギニアでは自分の得意な属性を一番優れた属性と考える風習がある。その辺りがピンと来ない俺にとって、自分の得意な属性に誇りを持つことは間違いじゃないと思うが、それを他人へ押し付けるのはいただけない。生徒に物を教える立場の先生がそんなことを言い出すのだから、手に負えない。

 

 授業中に俺の方をチラリと見た後、朝から土遊びしている貴族がどうのこうの、と言われた時にはイラっと来た。頭にきたので嫌味の一つでもギトー先生へ言い返してやろうかと思ったけど、悔しいがメイジとしての腕前はギトー先生の方が上なので我慢した。

 

 

 

 

○月×日◇曜日

 今日は本当に良い日だ。なんと今日は急なイベントがあり、ギトー先生の授業中、慌てた様子で教室へ飛び込んできたコルベール先生は飛び込んだ拍子にずれてしまった金髪のカツラを整えながら、とんでもない発言をしてギトー先生の授業を中断した。

 

 それはトリステインが誇る王女――――“トリステインの美貌”とも謳われた絶世の美女、アンリエッタ様がゲルマニア訪問の帰り道にトリステイン魔法学院を訪れるというものだった。

 

 勿論、学院全体でアンリエッタ様を御出迎えすることになり、初めて拝見したアンリエッタ様の姿は“トリステインの美貌”と謳われた通りで、眩暈がするほどの美人だった。相手が王女様でなければ、絶対に声を掛けていた。

 

 アンリエッタ様を出迎えた時に、目が合ったとテンションがハイになっていた俺へイリヤ達が蔑むような視線を送っていたけど、男はいつまで経っても美人には弱い。これは真理だ。

 

 

 

 

○月×日◇曜日

 今日は朝の鍛錬に、ギーシュとアーチャーの二人が姿を現さなかった。鍛錬している時は少しだけ疑問を抱いたけど、二人して寝坊する日もあるか、と特に気に止めず、鍛錬を始めた。鍛錬を始めて、二人がいないことで初めて気付いた訳だが、一人で鍛錬を積むのと皆で鍛錬を積むのでは効率が段違いだった。仕方ないので今日の鍛錬は瞑想をメインに据えて鍛錬した。

 

 朝の鍛錬が終了して学院の授業が始まった時、クラスの中でちらほらといない生徒がいた。その人物はルイズにキュルケ、タバサにギーシュといった俺とよく一緒にいる友達ばかりだ。明らかに俺が仲間外れにされているし、皆が何をしているのか全く予想出来ないので、蚊帳の外にされた俺はちょっとだけ寂しかった。

 

 授業が終わったその日の夕方。自分の部屋でのんびり読書していた俺は部屋へ飛び込んできたイリヤ達の話を聞いた。なんでもクラスカードの発見と存在する拠点を発見したとか。

 

 そして、イリヤ達にクラスカードが存在する場所を聞いて、頭を抱える。

 

 “白の国”――――浮遊大陸アルビオン。学院に届く噂の中で一番の危険地帯。アルビオンは内乱が勃発している国だ。

 

 

 

 

◇アーチャーの記憶◇

 彼に対して、一番初めに抱いた印象は言い表せない不信感だった。このハルケギニアという土地において召喚された使い魔が基本的にどういう扱いを受けるのか、この世界で過ごしていく間に目の辺りにしてきた。どういう過程を経て、イリヤ達が召喚されたのかは判らない。しかし、召喚した直後、主人である彼へ暴力を振るったイリヤや美遊に対して、彼はとても理解があり、年頃の少女として模範的な紳士の態度を見せていた。だからこそ、彼の行動は不自然だ。

 

 この異世界において平民と呼ばれる人間と特権階級である貴族との間には決定的な亀裂と深い溝が存在する。彼の使い魔として召喚されたイリヤ達とて、この世界ではただの平民でしかない。あれだけ他の貴族の視線が集まる場所で引き起こされた惨劇を許すのは普通なら有り得ない。貴族としての面子は潰れ、平民が貴族に手を上げた事実など揉み消して当然のこと。少なくともこの世界の常識であれば何かしらの折檻が起きてしかるべきだが、彼はイリヤ達にバツを与えたりしない。

 

 彼の性格もあるのだろう。年頃程度には煩悩を持っているようだが、基本的に人畜無害で、争いを回避する傾向を持つ彼。偶然、ちょっとしたトラブルが起きた際に親しくなった学院で働くメイドのシエスタに彼のことを尋ねてみた所、学院へ勤める平民達の間で彼の人気は高かった。

 

 平民と貴族の立場上、言葉遣いこそ上下関係のそれであるが、基本的に気さくな態度で声を掛けて楽しそうに談笑したり、働く平民と生徒の間でトラブルが起きた場合も間に割り込んだりして、非のある方を咎める公平さを持ち、頼み事をした後は必ずお礼を言ったりする。当然と言ってしまえばそれまでのことであるが、平民と貴族という大きな格差の前で成されていなかった当たり前のことを当たり前に行う。それが彼の人気の秘密だとか。

 

 少しだけ警戒しながら、時を過ごしていた私が彼の本質を見抜く機会は想像していたよりも早くやってきた。

 

 早朝、昨日の晩にルイズから任せられた洗濯などの雑務をシエスタに手伝ってもらいながら済ませた帰り道、額に大粒の汗を垂らしながら中庭の隅で彼が杖を振り回しているのに気付いた。

 

 なんとなくそれらしい構えで杖を振り回している彼の姿が、指導者もおらず、がむしゃらに己を鍛えていたかつての自分を思い出し、いつのまにか声を掛けていた。ざっと鍛錬の内容を見て、注意点を指摘したら彼はムッと顔をしかめて、手合わせを要求してきた。

 

 聞かされていた噂と違い、負けず嫌いな面に驚きながら手合わせで軽く蹴散らすと、言い訳せず、素直に自分の態度が悪かったと謝罪してきた。使い魔とはいえ、平民である私に対して。

 

 不審な点もあるが、年相応の好感が待てる少年、それが彼に対する評価だった。

 

 そして黒化した英霊(サーヴァント)――ライダーとの戦闘を経て、彼に対する言い表せない疑念は解決した。イリヤ達に呼び出された彼から語られた前世の記憶。月で行なわれた聖杯戦争。最弱のマスターとして、最弱の英霊(サーヴァント)たるキャスターと戦った事。傷付きそれでも前に進んで駆け抜けてきた戦場と生きる為に、信念の為にぶつかり合ったマスター達。その中には間桐慎二や遠坂凛、葛木と言った私にとっても聞き覚えのある名前がいくつもあった。勝ち抜いた先、聖杯を手にして消えた彼は最後に言ったのだ。

 

 目が覚め、ハルケギニアで生を受け、この世界で生きる意味を。

 

 前世で奪い、背負った命がある。

 乗り越え、踏み潰してきた願いがある。

 だからこそ、この世界で生を受けたなら大事にしたいと。

 この世界で暮らし、いつのまにか繋がっていた絆があり、それを守るだけの力が欲しかったと。

 

 おそらく私以外の皆は彼の語った話に納得しただろう。辻褄は合っていた。だが、私は彼が嘘をついていることを知っている。話の辻褄が合っていても嘘をつく瞳の躊躇いまでは隠せていない。それでもこの世界で出来た絆があると語った時の瞳には一点の曇りも無かった。彼はまだ、何か隠しているのだろう。

 

 それは恐らく、私とイリヤの――――――――。

 

 

「アーチャー君、彼を連れてこなくてよかったのかな? 彼がいれば、争いが起きた場合、前衛が楽になる」

 

 

 馬に揺られながら、思い出した様子でギーシュが言う。確かに彼がいれば前衛が少しは楽になるだろう。

 

しかし。

 

 

「ギーシュ。君は自分で選択この任務についてきた。今回の任務は戦力になるからと気軽に声を掛けられるものでもあるまい」

 

「確かに、それもそうだね」

 

 

 私の言葉にギーシュは頷く。ルイズがアンリエッタ姫から受けた密命は国の未来を左右する。こちらの個人的な理由で無関係の人間を巻き込むのは躊躇われた。

 

 “白の国”――――浮遊大陸アルビオン。

 

 嫌な予感しかしないこの旅に深い溜息を吐いた。

 

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