ゼロ魔日記   作:ニョニュム

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○月×日◇曜日

 “白の国”と呼ばれ、地中に眠る風石のおかげで空へ浮遊している国。それがアルビオンだ。最近、詳しい事情は入ってこないまでも、内乱が起きて国内が荒れていると噂の危険地帯。アルビオンへ向かって移動している道中に、そのことを説明した訳だが、イリヤ達はなんとなく理解しているようで、何処となくピンと来ないような表情をしていた。

 

 正直、それは仕方無いことだろう。人の死がかなり身近にあるハルケギニアと違い、イリヤ達が暮らしていたち地球。ひいては日本に住んでいたイリヤ達に戦争の話をした所でイメージが沸かないのも無理が無い。地球で超絶的な激闘を繰り広げてきたイリヤ達とて、相手はクラスカードで人間じゃない。人間同士の殺し合いに理解がある方がおかしい。

 

 イリヤ達へ偉そうに説明している俺だって、本当の所は戦争のイメージが沸くか。と尋ねられたら困り果てるだろう。ただ、このハルケギニアに産まれて生活していく中、戦争を経験したメイジの家庭教師や傭兵の話を聞く機会が何度かあったので、漠然と戦争、ひいては人間同士の殺し合いが前世の世界より身近にある気がしただけだ。

 

 どちらにせよ、学生と子供である俺達がそう簡単に向かえるような場所ではない。

 “浮遊大陸”の名に恥じず、アルビオンという国はトリステインと同等の国土を持ちながら、空中に浮いている。言ってしまえば、巨神兵の代わりに人間が暮らしている天空の城と言った所か。空中に浮いているので大抵は大洋の上を移動していて、ハルケギニアの上に訪れるのは月に何度かだけ。ラ・ローシェルの港町からアルビオンへ行く飛行船が出ている。

 

 因みに最近ハルケギニアへ近付いて来たばかりなので、少しだけ出遅れてしまった。学院からだとどんなに馬を飛ばしても、二日ほどは移動時間を見ておいた方がいい。しかも、元々、大前提として内乱状態と噂されているアルビオンへ飛行船が出ているかどうか判らない。

 

 

 ――――なんて、そんな風に考えている時もありました。

 

 普通に移動すれば二日は掛かる筈なのに俺は今、ラ・ローシェルにある手ごろな値段の宿でこの日記を書いている。正直な所、今でも思い出したくない。それぐらいの強行軍だった。

 

 切欠はルビーの一言で、俺がイリヤ達に内乱が起きているアルビオンへ向かう危険性を何度も説明した時に、なにをトチ狂ったのか、ルビーがどうせ黒化した英霊(サーヴァント)と戦うことに変わりなく、回収する為の危険は付き物だ、と妙なことを言い出した。

 

 それにラ・ローシェルまでの移動手段として用意していた馬を見たルビーが、時間も惜しいことですし、魔法使いなら目的地まで飛んでいきましょう、とぶっ飛んだ提案をして、時間が惜しいのでその案が採用されて移動開始。

 

 英霊(サーヴァント)との戦闘では何の役にも立たない俺は治療ぐらい出来るようにと治療用の魔法薬をいくつか揃えておいた。

 

 一応、俺にもフライという魔法があるけど、精神力を消耗する以上、ずっと飛び続けている訳にはいかない。イリヤ達と俺では基本的な能力が違いすぎるのだ。苦肉の策として、イリヤと美遊にラ・ローシェルまで運んでもらうことになった。

 

 しかし、その時の方法が変身したイリヤ達が持つルビーとサファイアにぶら下がりながら移動するという絶叫マシーンも真っ青になる移動方法だった。実際、何度か、手の握力が無くなって振り落とされた。その度に慌ててフライで体勢を立て直していた。イリヤ達は背負ってくれると言ってくれたけど、それだけは断固拒否した。イリヤ達のような年下の女の子に背負われるのだけは絶対に嫌だった。俺が足を引っ張った為に余計に時間を割いたけど、これだけは男の意地で譲らなかった。

 

 ラ・ローシェルの港町に到着した俺達は飛行船がいつアルビオンへ向かうのか、飛行船を出している業者に話を聞いて、明日船が出ることを確認すると宿を探した。前々から準備していた訳でもなく、唐突で突然の旅路だったので、懐具合は当然寂しい。予算の都合からあまり上等な宿を取ることは出来なかったが最低限、イリヤ達の為に鍵が掛かるくらいの宿にしておいた。

 

 夜も更けてきた頃、イリヤと美遊に外へ出歩かないように言い聞かせた俺はアルビオンの内情を少しでも探ろうと“金の酒樽亭”と看板が飾ってある薄汚れた居酒屋を訪れた。そこで宴会を始めていた傭兵達へ一杯奢り、気分良くさせた所で、アルビオンの内戦に参加していたらいし傭兵達から話を聞かせてもらった。

 

 傭兵達の話を聞いた限り、アルビオン王家を主体とした王党派とその他の貴族を主体とした貴族派の激突は日々激しさを増していき、王党派がかなりの劣勢に追い込まれているらしい。情報を集めた傭兵達も衰退していく王党派に見切りをつけて、命がある内に帰って来たとか。

 

 また、それとは別の話で、俺の考え過ぎだといいのだが、俺達が町へ到着して宿を探したりしていた昼間の時間に、貴族派である緑色の長髪を持つ美人な土系統のメイジと謎の男が報酬に物を言わせて傭兵を集めていたという話を聞いた。土系統のメイジで、緑髪の美人と聞いて、“土くれのフーケ”を思い浮かべたけど、トリステインで捕らえられているフーケがこんな戦争の最前線に近い場所にいる筈が無い。

 

 それと傭兵達の一人にイリヤ達と行動していた所を見られていたらしく、イリヤ達の値段を尋ねられた。年端もいかない美少女であるイリヤ達にメイド服を着せて、町中を歩いていたのだ。目立つのも無理は無い。

 

 内心でロリコンの道は業が深いぞと呟きながら、折角仕入れた貴族派へのお土産で、純潔だからこそ価値がある等と適当な理屈を並べて傭兵の話を流しておいた。

 

 日記を書いている間に思い出してきたが、相手から情報を聞き出す為とはいえ、我ながら確実にイリヤ達にバレたら蔑んだ軽蔑の視線を送られる最低な会話をした。内戦状態が続いて働き口が無い為に、何処の街の女は安かったとか。そんな話ばかりした。

 

 情報収集をしている間に、俺のことを気に入ったお節介焼きの傭兵が何人かいて、話に出てきた噂の土系統メイジに口利きしてくれると言ってきたので、危険を承知でお願いした。戦争を引き起こしている張本人達なら激戦区や戦火の届いていない街や村を知っている筈だ。なるべく戦火に関わらないよう気をつけながら、アルビオンを捜索していけばいい。

 

 ………………別に、美人メイジって言葉に興味を惹かれた訳じゃないことをここに記しておく。

 

 

 

 

○月×日◇曜日

 有り得ない。本当に有り得ない。いくら何でもこれは無いだろ、トリステイン。世界はこんな筈じゃないことで溢れている。俺の祖国でもあるけど、トリステインの馬鹿さ加減には眩暈を覚える。何故、緑髪の美人メイジがトリステインの牢獄に捕らえられている筈のフーケなんだ。本当に勘弁してくれ。“土くれのフーケ”を捕らえてから、まだ、一月も経っていない筈なのに、脱走しているとかトリステインは職務怠慢もいいとこだ。下世話な会話になると思って、“金の酒樽亭”にイリヤ達を連れて行かなかったこともあり、フーケと顔を合わせた瞬間に杖を差し出してフーケへ降伏した。どう考えても俺より実力で勝っているメイジとフーケに雇われた戦争帰りの傭兵が数人。抵抗したところで、相手が退くに退けない状況を作るだけだ。

 

 

 

 

○月×日◇曜日

 昨日は想像の範疇を超えている出来事を目の当たりにして、感情の赴くままに日記を書き綴った訳だが、順を追って、説明した方がいいだろう。正直な所、俺自身が今だに混乱している状態なので日記を書き綴りながら、落ち着いて理解出来ていない状況を整理して纏めていこう。

 

 まず、俺は昨日、傭兵に口利きしてもらった貴族派の美人メイジと会う為に“金の酒樽亭”を訪れた。余計なトラブルを起こしたくなかったので、イリヤ達を連れてこなかった訳だが、それが間違いだった。結論から言えば、貴族派として暗躍する美人メイジの正体はトリステインの牢獄で捕らえられている筈の“土くれのフーケ”だった。美人メイジなんて言葉を信じなければ良かった。

 

 何も知らない傭兵に紹介された時、お互いに唖然として硬直し、フーケが思考を取り戻す前に降伏して、俺に敵意が無いことをアピールした。そのおかげで荒事に発展することはなく、警戒心丸出しのフーケの命令で、杖を奪われて、両手両足を縛られて拘束された状態で、フーケが身を隠しているアジトへ連行された。

 

 情報を聞き出す為に拷問すると言い、俺を運んできた傭兵を追い払い、アジトでフーケと二人きりになるとどうしてこんな所にいるんだ、と尋ねられた。奴等とは別行動なのか、等のよく分からないことを延々と尋ねてくるフーケに、俺は全く要点が分からないフーケの質問に首を傾げた。その様子を見たフーケは溜息を吐いた後、俺の目的を聞いてくる。

 

 フーケなら“破壊の杖”の事件で黒化したライダーを直に目撃している。下手な嘘を吐いて危険を犯すより、正直に教えた方がいいと判断した俺はフーケに俺がアルビオンへ来た理由を説明する。

 

 黒化したライダーと同じような存在がアルビオンにも潜んでいて、黒化した英霊(サーヴァント)を封印する為にアルビオンへ向かう途中だったことを伝える。俺の説明を聞いていたフーケの表情に明らかな動揺が見えた。

 

 フーケがどういう経緯でアルビオンの戦争に関わり、貴族派に味方しているか分からない。しかし、それでも黒化した英霊(サーヴァント)が軍のぶつかり合う戦場で暴れた時、どうなるか。少なくとも黒化した英霊(サーヴァント)には敵も味方も関係無い。破壊の限りを尽くし、勝利も敗北も等しく無に帰す。黒化した英霊(サーヴァント)が暴れた後に残るのは圧倒的暴力の傷跡。戦争の結果がどうあれ、黒化した英霊(サーヴァント)によってアルビオンという国がめちゃくちゃになる。それでは王党派も貴族派もあったものではない。

 

 フーケの表情に余裕が見られなくなった所を見計らい、これがチャンスと判断した俺は情報を小出しにしてフーケの興味を引く。

 

 黒化した英霊(サーヴァント)はイリヤ達の暮らす世界から来た敵であること。

 黒化した英霊(サーヴァント)に目的はなく、ただ破壊衝動に従って、アルビオンに無差別破壊をもたらす化け物であること。

 黒化した英霊(サーヴァント)を打倒するにはイリヤ達しか倒せないこと。

 俺が死んでしまった場合、イリヤ達との契約が解除されて、まだ六体も残っている黒化した英霊(サーヴァント)をハルケギニアに置いて帰ってしまうこと。

 黒化したライダーはまだ戦闘タイプの化け物で無かったこと。

 

 黒化した英霊(サーヴァント)に対して知識が無いフーケは知識が無いまでも、黒化した英霊(サーヴァント)の圧倒的な存在感と危険性を充分に承知しているので、会話の中で俺を殺さないような話の展開へ持って行った。

 

 それこそ、戦力として伝説の“烈風”や一個師団を用意して黒化した英霊(サーヴァント)へ挑めば、かなり良い勝負を繰り広げると予想するけど、そんなことをフーケへ教えてやる義理は無い。

 

 俺がフーケのアジトへ拘束された状態で放り込まれてから数刻、フーケは時間も忘れて長考し、苦悶の表情を浮かべた後、俺の拘束を解いてくれた。その代償として、お互いに今回の件は干渉しないと約束して、一枚の手紙と共にまだ内乱の戦火が届いていない村の名前と場所を教えてくれた。

 

 サウスゴータ地方にある“ウエストウッド村”。ただし、その村で暮らす住人の一人でも黒化した英霊(サーヴァント)の被害に遭った場合、トリステイン魔法学院に乗り込んででもお前を殺すと宣言された。結局の所、逆に考えればウエストウッド村にフーケの弱点があると教えているようなものだけど、俺がそれを利用する危険性を犯してでも守りたいものなのだろう。解放と同時に荷物は返してくれたが、杖だけは返してくれなかった。勿論、抗議したけど、黒化した英霊(サーヴァント)と戦えるのか、と聞かれた俺は押し黙るしかなかった。

 

 その日の晩、どうやらフーケが何処かの宿屋を襲撃したらしく、早朝になっても飛行船が出ないようになっているので乗るのを諦めた。

 

 恥ずかしながら正直に自白すると、杖を持っていない丸腰の状態で外を出歩く怖さを思い知った。トラブルが起きてもよほど魔法を使うことは無いが、それでも魔法と言う存在が俺の中で気付かない内に自信の根底になっていた。なにか起きても最後は魔法に頼れば良い。心の片隅でそんなことを考えたことがある。

 

 流石に魔法が使えるからと言って胡坐をかかず、剣術の鍛錬や格闘術の鍛錬が必要なのだろ理解した。相手を傷付け、自分を守る魔法の力を持っていることに“慣れてしまっていた”俺はフーケに杖を奪われたことにより、本当の意味で自身が丸腰になる恐怖を思い知らされた。

 

 

 

 

◇マチルダ・オブ・サウスゴータの記憶◇

 私が女売りに会おうと思った切欠は本当にただの気まぐれだった。基本的なことであるが、傭兵なんて職業につく人間は良い意味でも悪い意味でも血の気の多い人間が多い。傭兵達の錬度にもよるが、そこら辺にいるゴロツキと似たり寄ったりな奴も数え切れないほどいる。

 

 胸糞悪い話ではあるけど、そんな荒くれ者である傭兵達を組織的に運用する為には暴力による圧倒的な支配か、傭兵達の欲望を満たしてやるぐらいしかない。同じ女として虫唾の走ることではあるが、傭兵達の欲望を向けて、その欲望に答えて、受け止める“犠牲”が必要なことは理解しているつもりだ。これが他国と行なわれる泥沼の戦争であるなら、略奪や強姦を繰り返して欲望を発散させるだろうが、この戦いはアルビオンの実権を奪う戦いだ。戦後の事も考えて、村や街での略奪などは控えるように命令されていた。

 

 女売りを紹介してきた傭兵の話を聞くと女売りが連れていた二人の少女はメイド服を着せられた状態で、その美貌は少女にしておくには勿体無いほどの美人であるらしい。貴族派へ売る為の選り抜きだとか。正直な話、心境だけなら年端もいかない少女を下衆な貴族へ売りつけて金を儲けようと考えている女売りはぶっ殺してやりたい。

 

 しかし、それだけの美少女を純潔のまま確保して、“商品”に貶めた人物なら幅広い情報網とそれに見合った手腕を持っている筈。私の目が届く範囲で子供に手出しさせるつもりは無い。女売りが持つ情報網を当てにして、女売りと会うことにした。

 

 多分、我ながらマヌケな表情を浮かべていたと思う。傭兵達が騒いでいる“金の酒樽亭”の片隅で女売りと顔を合わせた時、アイツと私はお互い予想外の人物登場に唖然として呆気に取られていた。

 

 アイツはトリステインの牢獄に捕まっている筈の私がこの街にいることに対して。

 私はあのくそ餓鬼共を囮にして別行動で私を追いかけてきたと思って。

 

 私とアイツの膠着状態は長く続かなかった。それはアイツが私の判断よりも早く行動を起こしたからだ。一切の抵抗も見せず、貴族にとって命の次に大切な物と言える杖を差し出して命乞いするアイツの姿は無様で、だからこそ同時に上手いと思った。

 

 私が知っているアイツの実力はそれなりに高い。メイジとしては今一つのようだけど、近接戦闘もこなせて、逃げ足も速いとなれば中々侮れない。アイツがこの状況で本気を出して抵抗したら、傭兵の間で少なくない犠牲が出ていた筈。そうなった場合、被害を受けた傭兵達も後に退けなくなる。だけど、実際は出会い頭に降伏して命乞いをして見せた。メイジのそんな姿を見せられたら、傭兵達はアイツのことを心の中で不甲斐無い奴と笑い、馬鹿にして雑魚としてみるようになる。

 

 アイツを自分より下の存在だと認識されたその刷り込みは異常事態が発生した時に効果を発揮する筈。アイツの事を下に見て、舐めてかかる傭兵達にはアイツを止めることは出来ない。慢心した傭兵を蹴散らすぐらいの実力は持っている筈。アイツが逃げ出した場合、再び捕まえられる確率は低い。アイツを舐めている傭兵には荷が重い。

 

 一応、普通の一般客がいる“金の酒樽亭”で尋問など出来ない。無抵抗のアイツを拘束して、アジトとして使っていた部屋まで連れてくると、知っている情報を吐けと脅す。そうするとアイツは何の躊躇いもなく、知っていることに答え始めた。少しずつ力はつけているけど、所詮は学生。命まで奪うつもりは無いが、こちらが主導権を握っている限り、殺害というブラフは見せておくべき。そう考えていた。

 

 だけど、アイツから伝えられた情報は私にとって唖然として、衝撃に値するモノだった。

 

 “破壊の杖”を盗み出す際に、突如現れた黒い霧を纏った化け物。

 あの化け物と同じ存在がアルビオンの国内に潜んでいること。

 あの化け物はアイツが使い魔召喚の儀式で呼び出したイリヤとかいう異世界の魔法を行使する人間にしか倒せないこと。

 アイツが死んだ場合、異世界から召喚されたイリヤ達はあの化け物どもをハルケギニアに置き去りにして異世界へ帰還してしまうこと。

 あれだけの戦闘力を見せた化け物はアイツの話では純粋な戦闘タイプでは無かったこと。

 

 色々な情報を捲くし立てるように説明された為に少し混乱しているけど、確かなことが一つだけある。それは私の自慢である特性ゴーレムを一撃で粉砕できる力を持つ化け物がまだ六体もいる。それにあの戦闘能力を持ちながら、あの化け物は純粋な戦闘タイプでは無かったという事実。

 

 ――――あの化け物より強い化け物がまだ六体も存在している。

 

 不味いと分かっていても思い浮かべてしまうのは故郷の村に残してきたあの子達のこと。

 あの化け物は扱いを間違えたらその被害は凄惨なものになっていただろう。私はあの化け物と化け物を討伐した少女達の人ならざる力のぶつかり合いを目撃している。

 

 どうしても無理だった。あの化け物と同じ存在がアルビオンに存在すること自体が私には我慢出来ない。あの化け物がもし村に出現したら。結果は日を見るより明らかで、考えただけでも寒気がする。

 

 だから私は覚悟を決めてアイツの拘束を解いた。元々、今回の件に関して、私とアイツが敵対する理由が無い。アイツがアルビオンへ向かう目的は化け物を討伐すること。白仮面の計画の邪魔になる訳じゃない。

 

 この世界のメイジがいた所で、あの化け物と戦えるようにはならない。私に向けられる傭兵達からの疑念を避ける為、戦力外であるアイツの杖だけは拝借しておく。

 

「結局、アイツはどうなったんですかい?」

 

 使っていたアジトから“金の酒樽亭”へ戻った私を待っていたのは私へアイツの口利きをしてきた傭兵の一人が尋ねてきた。

 

「スパイを引き入れそうになったことは白仮面へ黙っておいてやる感謝しな」

 

 貴族の証であり、命の次に大切な、アイツが持っていた杖を懐から取り出すと無造作に放り投げて踏み付けてへし折る。

 

「っ!」

 

 命に等しい杖の扱いを見て、傭兵達が息を呑む。それだけの動作で、傭兵達はアイツの末路を勝手に想像したのだろう。その勘違いをそのまま利用させてもらう。アイツ等にはあの化け物をどうにかいて貰わなければ困る。これだけ決定的なところを見せれば、白仮面に対する傭兵の口封じは完璧。

 

 どんどん面倒なことになっていると認識しながら私は溜息を吐くと、馬鹿な学生を襲撃する為の準備を始めた。




もう少しでヒロイン登場です。
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