ゼロ魔日記   作:ニョニュム

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○月×日◇曜日

 俺が目を覚ました場所はトリステイン魔法学院にある病室の片隅に設置してあるベッドの上だった。何故、俺がベッドの上で寝ていたのか、思い出そうとしても記憶の欠片も思い出せなかった。ただ、俺は右肩辺りを包帯でグルグル巻きにされた状態で寝ていた。全然、怪我を負った時の記憶は無く、英霊(サーヴァント)に続いて、新手のスタンド使いでも現れたのかと疑ったぐらいだ。しかし、ズキズキと痛む右肩が俺の負傷を物語っている。

 

 どんなに思い出そうとしてもアルビオンで起きた出来事について全く思い出せない。俺が覚えているのはアルビオンへ向かう道中の事だけで、ルビー達の報告を受けてアルビオンで反応があったクラスカードの回収に向かった事。アルビオンへ向かう飛行船がある港町ラ・ロシェールを訪れて情報収集していた事。情報収集をしていた際に不幸が重なって、トリステインの牢獄から脱走していたフーケと再会してしまった事。比べる事すらおこがましいメイジとしての圧倒的な実力の差に即時降伏した事。命乞いという名の交渉とハッタリを経て、結果としてフーケからウエストウッド村と呼ばれる戦火が届いていない村を紹介された事。

 

 この辺りの事までは鮮明に思い出す事が出来るのだが、それから先のアルビオンへ到着してからの事が全く思い出せない。

 

 俺が目覚めたという話を保険医の先生から教えられたイリヤ達が病室を訪れたので、恥を忍んで、イリヤ達にアルビオンへ到着した後の記憶が全く思い出せないと話して、何があったのか話を聞いた所、イリヤが若干動揺した表情を見せて、ルビーが溜息交じりにアルビオンで何が起きて、何故俺が怪我をしているのか説明してくれた。

 

 何でもウエストウッド村へ無事に到着した俺達はウエストウッド村で何日か宿泊していて、ラ・ロシェールでフーケに捕らえられ、身代わりとして杖を奪われて魔法が使えない俺は村の宿で留守番をしていた。そんな時、戦える人間が誰もいない村の付近で黒化したランサーの英霊(サーヴァント)が覚醒して、戦えない村人の代わりとなって身体を張った俺はその結果として、ランサーの一撃を負傷している右肩へ受けて、その激痛で意識を飛ばしてしまった。

 

 ウエストウッド村では満足な治療が行なえない為に、イリヤと美遊がルビー達の能力をフル稼働させて、俺をトリステイン魔法学院へ届けてくれた。アルビオンの記憶がすっぽりと抜け落ちているのは大量の出血をしたせいとトラウマとして記憶を封印したんじゃないかと教えられた。何故か、少しだけ気になったベッドの隣に立て掛けてある大きな木の枝は俺の持っていた荷物を引っ掛けてきた物らしい。

 

 まだ、右肩の奥が痛むものの槍で貫かれた傷跡については既に治療が終わっていた。なんでも俺が万が一の為、大量に用意していた回復薬のおかげでスムーズに治療する事が出来たとか。何故、そんな大量の回復薬を所持していたのか尋ねられた時は話を濁しておいた。黒化した英霊(サーヴァント)と激闘を繰り広げて消耗しているであろうイリヤ達を治療する為に買い集めたのだが、結局自分に使う事になるとは恥ずかしくて言えなかった。

 

 他にも色々な事が世の中では起きたようだけど、疲れ切っている俺は適当に世間話を聞き流すとこの日記を書いて早く寝る事にする。明日からはフーケによって奪われて無くなった杖も探さなければならない。

 

 

 

 

○月×日◇曜日

 昨日、疲労困憊で聞き流していた世間話の中に凄く重要な内容の物が存在した。なんでもアルビオンで起きていたアルビオン王家と離反した貴族で組織された“レコン・キスタ”と名乗る貴族派の内戦は終結して、レコン・キスタがアルビオン王家の本拠地である王家の象徴、ニューカッスル城を陥落させてアルビオン王家の崩落をハルケギニア中へ宣言した。

 

 未だにアルビオン王家最後の血を引き継ぐウェールズ皇太子の生存確認はされていない。ウェールズ皇太子の生存の可能性と言う最大の障害を残しているものの、古くから続く王家崩壊の革命は各国にとって、激しい激震と動揺をさせる出来事だった。

 

 政治的な話があまり入ってこない魔法学院でも世の中の大きな流れとしてそんな噂が流れてきた。それと同時にもっと小さな世界――学院内でも変化があった。

 

 なにやら俺を除け者にして色々と行動していたルイズ達が、その内容は教えもらえなかったものの、トリステイン王国に対して大きな功績を残したと言う噂が学院中に流れていた。それと同時に学院の授業をサボって遊びに出掛けた事になっている俺が貴族にとって命に等しい杖を失って帰って来たと嗤われた。

 

 正直、怪我を負ってまでクラスカードを回収してきたのに学院で嗤われるこの状況が面白くない俺は怪我の事を聞いて、心配して訪ねてきてくれたルイズ達に八つ当たりしてしまった。最悪である。冷静になってみるとかなり恥ずかしい事をした。

 

 自分の行いが正当な評価をされないからと拗ねて、俺の事を心配してくれた人達に八つ当たりするとか最低の餓鬼だ。自分で自分をぶん殴りたくなってくる。忘れていて、勘違いしていた。俺は元々、周りの評価を得る為にクラスカードの回収を手伝い始めた訳じゃない。時間が過ぎてしまった為にその事を忘れていた。

 

 失った杖の代わりを探さないといけないのだが、明日はルイズ達が許してくれるまで謝罪するしかない。

 

 

 

 

○月×日◇曜日

 今日は朝から昨日のルイズ達に対する態度について謝罪し続けた。ある程度、男の意地と見栄を理解しているギーシュは割合簡単に許してくれた。しかし、ルイズを筆頭にした三人の女性陣がやばかった。とりあえず、女性に対する態度としてあれはどうなんだ、という話から始まり、鍛えている俺が怪我をして帰って来た事や命に等しい杖を失った事。本当に心配したのだと正座させられて、説教を延々と受けた。

 

 本当に長かった説教を終えて、全面的に反省している俺の姿を確認したルイズ達は満足そうに頷く。その後、怪我を負って帰って来た俺が何をしていたのか、その事について尋ねてきたのでクラスカードの存在を知るルイズ達へ正直に話した。その時、ギーシュが驚いていたけど、そういえばギーシュはクラスカードについて知らなかった。それでもギーシュなら大丈夫だろう。

 

 内戦中のアルビオン大陸に行って、クラスカードを回収してきたと正直に伝えた。勿論、俺が覚えているまでの出来事であるが。

 

 アルビオン大陸に行く為の港町ラ・ロシェールで、何処かの馬鹿貴族と傭兵が大暴れしたせいで色々と大変だった事を思い出話として伝えた時、ルイズ達が激しく動揺していた。ルイズがアーチャーに対して、何故町にいる事を教えなかったと噛み付いて、澄ました表情で肩を竦めたアーチャーが彼らには彼らなりの役割があると言っていた。

 

 ――――もしかして、近くにいたのか? そう思うと再び嫉妬しそうになるので考えるのを止めた。人に対して嫉妬するのは結構疲れるのだ。

 

 それと今日、コルベール先生の授業でとんでもないモノを見た。コルベール先生が喜々として理論を説明していた玩具の原理は完全にエンジンのモノ。正直、どういう反応をしていいのか戸惑ってしまう。今まで転生した知識を利用して成功したり、失敗したりと経験を積んだからこそ判断が出来ない。

 

 良くも悪くも貴族による統治のおかげで上手く回っているのがこの大陸の現状だ。この世界で産業革命が発生して、“科学”が発展した場合、この世界の辿る道が予想出来ない。実際、平民が革命を起こそうにも絵に描いたような最低の貴族はそうそういない。多少、鼻持ちならない貴族もいるがそれは少数派だ。

 

 こちらから行動を起こさず、協力を頼まれた場合に限って、コルベール先生に力を貸すぐらいでいいだろう。それと授業中にエンジンもどきの玩具を見て反応したのは俺以外には地球出身組くらいだった。

 

 

 

 

○月×日◇曜日

 新しい杖を探していた俺は俺達とは違う長い杖を持つタバサにその利点を尋ねてみた。勿論、携帯性が短い杖と比べれば大きく劣るのは間違いない。杖を隠して貴族という身分を偽る事も出来なくなる。それに杖を形状を大きく変える貴族は少ない。タバサはそんな俺の事を不可解そうな表情で見た後、色々と教えてくれた。

 

 様々な利点の中でも特に魅力的だったのは長い杖なら杖がそのまま武器として使える事、打撃武器としては勿論、ブレイドを纏わせる事で杖をそのまま剣としても扱える。携帯性の良い短い杖の時にはブレイドの魔法を補助程度にしか思っていなかったけど、生憎魔法に関して才能の無い俺が接近戦に持ち込めると言う意味では確かに便利だ。

 

 

 

 

○月×日◇曜日

 日々、積み重ねていたおかげで全く気付かなかったが、最近になってアーチャー達との朝練が激しさを増してきた。精神力を高める瞑想から始まり、アーチャーによる剣術指南、アルビオンから帰ってきてから実戦形式になったギーシュとの手合わせ、他にも慣れや集中力が途切れないように様々なメニューの訓練を順番に回しながら行なっている。

 

 その中でも特に激しくなってきたのはギーシュとの手合わせだ。俺達はお互いに負けず嫌いな所がある。ギーシュの指揮するゴーレムは完全に組織的な動きを見せるようになったし、マンティコアをイメージした獣型のゴーレムが登場するなど、ゴーレムの種類も増えてきた。

 

 ギーシュに負けないように俺は俺で、魔法を使わない逃げるだけの訓練からギーシュの作ってくれた青銅の剣を振るってゴーレムへ反撃するより実戦に近い手合わせとなっていた。

 

 いつだったか、キュルケがどうして二人ともそんなに強くなろうとしているのか、そんな事を尋ねられた。俺達は二人して、お互いに負けたくないからと即答していた。俺にとって訓練を一緒に重ねてきたギーシュは負けたくないライバルで、ギーシュにとっても同様だ。お互いに負けたくない親友として認め合っている。キュルケには呆れられたが、これは男にしか判らない感覚である。

 

 ギーシュのゴーレムが急に組織的な動きを見せるようになった事について尋ねてみるとギーシュは最近、実家のグラモン家に頼んで、兵法の参考になりそうな実家の本を送ってもらい、兵法の勉強を始めたんだとか。卑怯だ、と心の中で叫んだが、ギーシュの実家であるグラモン家と言えば、戦いで名前を挙げた生え抜きの貴族。兵法を学び、乾いたスポンジが水を吸収するように、兵法を身に着けていくギーシュもなんだかんだ言いながら、その血を受け継いでいた訳だ。

 

 

 

 

○月×日◇曜日

 王都へ行き、注文していた杖がようやく出来上がった。お値段的にはかなりの損失かもしれないが、固定化の魔法を重ね掛けした杖の強度は以前の杖を比べ物にならない。正直、貴族の使う魔法の杖と言うよりも木剣や木刀に近いかもしれない。

 

 両手で掴めるようにグリップ部分が存在し、ブレイドの魔法を使用する前提とした刀身のような形状。やはり、新しい杖を受け取った時はテンションが急上昇した。しかし、俺の新しい杖は周りの評価が不評だった。

 

 かなりカッコイイと思うんだけどな、ガンブレードならぬステッキブレード。ルビー曰く、俺の美的センスは随分と前衛的と爆笑された。少なくともお前に言われる筋合いは無い。

 

 

 

 

○月×日◇曜日

 最近、キュルケが宝探しを趣味にした。なんでも本当に存在するのかどうかの浪漫がキュルケの感性を刺激するとか。ちょくちょく宝探しに付き合っていた俺が仲間外れにされる事は無かった。しかし、今回は俺が参加した代わりにルイズが忙しいのか、他にやる事があるらしく、参加していない。

 

 信じられるか? 最近、危険地帯に踏み入れる事もあり、付いて来てくれるアーチャーのサポートやギーシュ達の援護があるとは言え、オーク鬼と真っ向から斬り合えるまでに成長していた。オーク鬼と言えば、一般的な傭兵相手なら五人程度を同時に相手する事が出来る猛者だ。少し前までの俺と比べたら、信じられない成長だ。

 

 オーク鬼と言えど、アーチャーの剣技に比べたら剣速は遠く及ばず、動きを鈍重。ギーシュのように罠を張った戦術がある訳でも無い。冷静になって考えてみれば、二人と毎日訓練を行なっている俺は今更、オーク鬼が恐れるような相手では無い事を理解した。

 

 前衛のポジションが板についてきた俺に対して、キュルケやギーシュが何処の“メイジ殺し”になるつもりだ、と突っ込みを入れた。言われて見れば杖の仕様を変更したとは言え、いきなりアーチャーやギーシュのゴーレムに混じって前衛部隊にいる事が多かったかも知れない。

 

 メイジとしてどうなんだ、と突っ込みを受けるかもしれないが、将来の夢はトリステインの王宮を守護する魔法衛士隊に入隊する事だ。よって、何も問題無いと自分に言い聞かせた。

 

 最近ではこの国で自分の力がどこまで通用するのか、挑戦したいとも考えている。実家へ迷惑を掛けるかもしれないが俺には優秀な妹がいるので大丈夫だろう。

 

 なんでも明日は学院に務めるメイドであるシエスタから情報を仕入れたタルブ村に眠る“竜の羽衣”を見学する事になった。なんでもフライの魔法を使わず、空が飛べるようになるマジックアイテムらしい。“らしい”というのは誰も飛んでいる姿を見た事はなく、持ち主が言っていただけの噂で真相は判らない。

 

 今回はメイドのシエスタも里帰りするそうで、アーチャーもついてくるとか。最近、朝練の後にちょこちょこ見かけると思っていたらそういう事か。ギーシュと二人でニヤニヤしながらアーチャーとシエスタのやり取りを見守っているとアーチャーは肩を竦めた。

 

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