ゼロ魔日記   作:ニョニュム

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○月×日◇曜日

 今日は学院で働いているメイドのシエスタが生まれ育った実家があるタルブ村を訪れた。タルブ村には他の村に存在しない、村のシンボルとなっているらしい“竜の羽衣”なるフライの魔法を使わずに空を飛べるマジックアイテムがあると言い伝えられていて、その話を聞いたキュルケ達とタルブ村を訪れたのだ。

 

 空を飛ぶ機械や船なら飛行機や飛行船を思い浮かべる事が出来る。しかし、誰にでも使えるマジックアイテムで使用者が空を飛ぶ事が出来れば、確かにお宝かもしれない。

 

 辿り着いたタルブ村はまさに田舎の中の田舎、と言う言葉が相応しいのんびりとした時間が流れているのどかな村だった。やはり故郷に帰ってこれた事が嬉しいのか、喜びを隠しきれていないシエスタは村に着くとニコニコした笑みを浮かべて、タルブ村を案内してくれた。

 

 キュルケ達が気を回して、折角暇を貰って帰ってきているのだから実家に帰ってあげなさい、と言っても、私の大好きな村を皆さんに知って貰いたいんです、と言って、案内してくれた。

 

 タルブ村のシンボルとなっている“竜の羽衣”。シエスタの案内で見付けたソレを見て、俺達は絶句した。

 

 “竜の羽衣”――――その正体を知った俺や地球組は戸惑いを覚え、何を知らないキュルケ達はただの鉄屑が空を飛ぶなんてありえない、と残念そうに肩を落としていた。別にミリタリーなどの軍事知識に詳しくない、興味の無い俺でも知っている。

 

 タルブ村のシンボル“竜の羽衣”――――その正式名称は零式艦上戦闘機。通称、ゼロ戦。第二次世界大戦から活躍してゼロファイターと呼ばれたこの世界にはありえない科学の結晶。ミリタリーに詳しくない人でも聞いた事がある日本が世界に誇った“飛行機”だ。

 

 動揺する俺達を余所に案内してくれたシエスタが説明をしてくれた。この“竜の羽衣”を持っていた元々の持ち主は何処からともなく現れて、タルブ村に住みついたシエスタの曽祖父だったらしい。

 

 真面目な曽祖父は稼いだお金の一部で周囲の反対を押し切り、“竜の羽衣”に固定化の魔法を掛けてもらい、亡くなる間際に墓石へ彫った文字を読めた人物に“竜の羽衣”を譲ると言い残して亡くなったそうだ。

 

 シエシタに案内されて向かった曽祖父の墓石には日本語で“海軍少尉佐々木武雄、異界ニ眠ル”と刻まれていた。シエスタの風貌にほんの少しだけ感じていた違和感や懐かしさ、その正体は彼女に流れるその血であった。

 

 

 

 

○月×日◇曜日

 曽祖父の墓石に刻まれたハルケギニアで生きる人間には絶対に読めないであろう日本語をスラスラと読む事が出来たアーチャー。その事をシエスタから聞いたシエスタの家族はぜひ、“竜の羽衣”であるゼロ戦を受け取って欲しい、と頼まれていた。本当は俺やイリヤ達も読めるがややこしい状況になるので、シエスタの家族には黙っておいた。

 

 なんでも価値の判らない自分達よりも価値の判るアーチャーが持っていた方が曽祖父も喜ぶとか。正直な話、アーチャーがゼロ戦を持っていた所であまり意味は無い。しかし、シエスタの父親があまりに真剣な表情で頼んできた為にアーチャーもその圧力に負けて頷いてしまった。

 

 勿論、固定化魔法のおかげで状態が良いとは言え、燃料が入っていない“竜の羽衣”たるゼロ戦が飛ぶ筈も無い。タルブ村からトリステイン魔法学院まで運ぶには結構な金額のお金が必要だった。そのお金を用意したのが学院へ運び入れる時にたまたま通りかかったコルベール先生だ。アーチャーに対して、ゼロ戦の構造などを教える等の条件を出して運搬費用を支払っていた。

 

 ぶっちゃけた話、かなりまずいんじゃないだろうか。魔法が台頭するこの世界で独自にエンジンもどきを作り上げるほどの発想力と行動力を兼ね備えたコルベール先生がゼロ戦の構造を理解する。このままだと産業革命が起きたとしても別に不思議な事じゃない。もし“科学”が台頭してくる事があれば、ハルケギニアは荒れる。

 

 少なくともアーチャーはその事を弁えている。アーチャーに視線を送れば、困った様子で頷いていた。

 

 

 

 

○月×日◇曜日

 とりあえず、今まで起きた出来事の中で判明している事を書き綴っていこう。トリステイン魔法学院の宝物庫に眠っていた“破壊の杖”こと、ロケットランチャー。タルブ村に眠っていて、パイロットが日本人で確定している“竜の羽衣”こと、ゼロ戦。科学の結晶たる二つを目撃した俺が導き出す答えは一つ。ハルケギニアと日本――もしくは地球が、使い魔召喚の儀式以外で繋がっているのでは無いか、と言う確信を得た。

 

 だからと言って、俺に出来る事は無い。もし、交流が始まった場合に通訳を買って出る事くらいだろう。それは別にして、もしも地球と繋がっているのなら一度だけ日本に帰りたい。イリヤや美遊を送り届けるのは勿論、並行世界の概念が存在するなら、もしかしたら前世の俺が生きていた世界に繋がっているかもしれない。もしそうなら、会いたい人達が沢山いる。俺はもうハルケギニアで生きていく事を決めた。それでも前世でお世話になった施設の院長先生や会社の同僚、急に死んでしまった為に迷惑を掛けた人達へ謝罪したい。

 

 当然、実際問題として日本に帰る事が出来たとしても、直接会って会話する事は出来ないだろうし、輪廻転生してメイジになりました、と言って信じてくれるような人達では無いので、自己満足で影から会いに行く程度の事しか出来ないんだけど。

 

 

 

 

○月×日◇曜日

 今日はコルベール先生が固定化されていた燃料の塊を解析して、ガソリンの精製に成功していた。その量はなんと大きな樽が二つほど必要な量である。コルベール先生の解析力には脱帽であるがガソリンの精製は色々と不味い。“竜の羽衣”が魔法も使わずに飛べる事を知られたら、その先にある兵器としての運用も容易に想像出来る。元々、ハルケギニアだからこそ、ただの珍しいお宝として評価されているが“竜の羽衣”の本質は何処まで行っても兵器だ。

 

 それにガソリンにしても、ガソリン単体で充分に兵器として活用出来る。なにより危険な爆発物であるガソリンをその辺の樽に入れて保管している事自体、自殺行為だ。長期保管でガソリンが気化した場合、どんなタイミングで爆発するのか判らない。特にコルベール先生の実験小屋なんて、メイジ的にも危険な物が色々と集まっている。精製中に爆発しなくて本当に良かった。

 

 その事に気付いたアーチャーが慌てて精製したガソリンを“竜の羽衣”へ入れている所を見た時は人事だと思って、思わず笑ってしまった。“竜の羽衣”を飛ばす為には後三つほど大きな樽が必要、とアーチャーが言っていた。それとアーチャーはガソリンの扱いについてコルベール先生に何度も注意していた。

 

 アーチャーがガソリンの危険性を説明すればするほど瞳を子供のように輝かせていくコルベール先生の姿に、逆効果じゃないか、と思ったけど、とりあえず自分にはあまり関係無い事にして気にしないでおく。アーチャーの引き起こした事だし、自分で解決する筈だ。

 

 

 

 

○月×日◇曜日

 トリステインの美貌であるアンリエッタ姫がゲルマニア皇帝、アルブレヒト三世と結婚式を挙げる。トリステイン魔法学院はキュルケのように様々な国から生徒が集まってくる性質上、政治的な話から切り離されている。今回飛び込んできたニュースは驚くべきものだった。しかし、今回の結婚式がアルビオン王国を滅ぼして、台頭を始めた“レコン。キスタ”に対する牽制である事は容易に想像出来る。

 

 残念ながらトリステインの戦力と“レコン・キスタ”の戦力を比べた場合、その戦力比は圧倒的に劣っている。動乱だった時代ならいざ知らず、少なくとも安定した秩序を得たトリステインに頼れる戦力は少ない。

 

 この辺りは実力主義でいつでも鎬を削っているゲルマニアと伝統を重んじるトリステインの違いだろう。確かに伝統を大事にする事はとても大切な事だ。しかし、その所為で進歩が止まっているのなら、それは変えていくべき悪しき風習である。

 

 色々と書いたが正直な話、俺は大きなショックを受けている。アンリエッタ様はお世辞抜きにしても“トリステインの美貌”と言っても過言では無い。アンリエッタ様のファンだった俺として結婚の話はダメージが大きい。邪な希望ではあったが魔法衛士隊を目指す理由の一つに、アンリエッタ様と知り合いになれるかもしれないと淡い期待も存在したので、本当に残念でならない。

 

 

 

 

○月×日◇曜日

 これは日記ではなく、状況を纏める為に書いている。普通の学生生活を送っていた俺は急にルビーからクラスカードの反応があった事を伝えられた。クラスカードが出現した場所は以前訪れた事もあるタルブ村付近の草原。最近、オスマン学院長から“レコン。キスタ”とトリステインで小競り合いの戦争が勃発して、両軍が戦っている戦場がタルブの草原と聞かされていた。

 

 ルビーの話を聞き終えた俺は正直、眩暈がした。今までの経験上、クラスカードが出現する場所は黒化した英霊(サーヴァント)以外にも危険な状況である場所が多かった。ルビー曰く、戦場や争いが起きている悪意が集まりやすい場所に出現する確立が高いのは充分にありえる事らしい。色々とその説明をしてくれたけど、唖然としていた俺は殆ど聞いていなかった。ただ、簡単に説明するなら“危険な場所ほどクラスカードも出現しやすい”。正直、投げ出したくなったのは秘密である。

 

 

 

 

◇シエスタの記憶◇

 目の前に広がる光景はまさしく地獄でした。他に例えが見付からない、思い付かないほど凄惨な光景。私が幼い頃に走り回った美しく綺麗な草原。アーチャーさんに見せたかった自慢の草原は全てを灰に帰す煉獄の炎に焼かれて黒い煙を巻き上げています。武装した兵士やメイジの方々が全身の苦痛に嘆き、助けを求めながら炎に包まれている草原に伏して、その身を焼かれて悲鳴を上げている状況。地獄の光景を作り出した人物はたったの一人。アーチャーさんに似た姿をした黒い霧を身体に纏わせた男性は燃え盛る煉獄の炎の中で佇みながら、次の獲物を見つけようと視線を周囲へ向けています。

 

 最初に起きた異変は港町であるラ・ロシェールの方角から聞こえてきた大きな爆発音でした。実家で家族との団欒を楽しんでいた私は爆発音に驚いて、家を飛び出して何が起きているのか確認しました。視線の先では空から燃え盛る飛行船が何隻も墜落してきて、墜落した飛行船を追撃する為に巨大な飛行船が姿を現して、タルブの草原に碇を下ろして、停泊しました。そして、停泊した飛行船から何匹ものドラゴンが空へ舞い上がり、墜落した飛行船へ攻撃を加えながら、数騎の騎士を乗せたドラゴン達がタルブ村まで飛んでくると騎士の指示に従って、容赦無く村の家々に対して紅蓮の炎を吹いて、家を焼いていきました。

 

 戦争――――繰り広げられる唖然とする光景を眺めていた私の頭にその言葉が過ぎった時、新たな異変が起きました。黒い霧を身体全体に纏わせたアーチャーさんに似た男性が何処からともなくふらりと姿を現しました。男性は手に持った弓を村へ破壊を撒き散らす騎士とドラゴンの方へ向けるといつのまにか現れた矢で射抜きました。ドラゴンに騎乗していた騎士の方がその事に気付いて回避しようとした瞬間、村全体を震撼させるような圧倒的な爆発音と共に男性の放った矢が大爆発を引き起こして、騎乗していた騎士の方を巻き込んで、空を駆けていたドラゴンを撃墜しました。

 

 最初はアーチャーさんが助けに来てくれたのだと思いました。ですが、それは違いました。大きな爆発音と墜落していくドラゴンの姿を確認したドラゴンを駆る騎士の方達が男性を殺害する為に動き始めましたがその全てを容易く撃墜した男性。次に男性が弓を向けた場所は墜落したアルビオンの艦隊、そしてタルブの村でした。

 

 そんな時、全てを破壊して、悲劇を撒き散らした男性は新たに現れた武装集団に気付きました。その集団は救援に来たトリステイン軍です。

 

『っ! 魔法衛士隊は応戦! 他の部隊はまだ息の有る人の保護を! 敵も味方も関係ありません! 恥知らずのアルビオンにトリステインの気高さを見せてやりなさい!』

 

 男性が狙いを付けたその先には以前、トリステイン魔法学院を訪れた時に拝見する事が出来たアンリエッタ様が戦装束を身に纏い、ユニコーンへ跨りながら指示を出している場所です。軍の中心部で辿り着くまでには沢山の兵士を越えなければいけません。ですが、狙いを絞った男性は止まりません。驚愕する速度で進撃する男性は男性に気付いてその歩みを止めようと立ち塞がった騎士の方々を全て切り伏せると血に塗れた白黒の双剣をアンリエッタ様へ向けてしまいます。

 

『殿下! ここは危険です、お下がりください! 何処のどいつか知らぬが殿下に刃を向ける無礼を働く者はこのマザリーニがお相手する!』

 

『アハ~、お相手するのは私達の役目ですよ~。そうそう、私達はアイツの相手をするので今の内に説明をしておいてください。今回は流石に被害が大き過ぎます。何処まで説明するのか、その裁量は貴方にお任せしますよ。イリヤさん、今回は戦闘が長引く分、村へ被害が届いてしまいます。様子見無しの最初から全力全開で行きますよ!』

 

『あっ、俺に丸投げかよ! 判ったよ、アーチャーは頼んだぞ!』

 

 アンリエッタ様の危機に男性の刃からアンリエッタ様を守ろうとした初老の男性が杖を構えたその時、学園で何度も見ていて知り合いでもあるイリヤさん達が姿を現すとイリヤさんと美遊さんが凄まじい速度で黒い霧を纏う男性を殴り飛ばして、その場から離脱します。

 

『貴方は確か……』

 

『失礼を承知で申し上げます! 今の内に避難をお願いします。彼女達が本気で戦う為に軍を退けてください。説明は後でいくらでもしますからお願いします。この場にいる人間でアレの相手を出来るのは彼女達だけなんです!』

 

『…………、分かりました。全軍、生存者を回収しながら撤退しなさい!』

 

『殿下! それはっ!』

 

『黙りなさい! 貴方が殿下と呼ぶ私の指示です!』

 

『っ! 全軍撤退! トリステインの誇りにかけて生存者を見捨てるな!』

 

『『『おおー!』』』

 

怒号が鳴り響き、見る見る内にトリステイン軍が男性と戦っているイリヤさん達の近くから遠ざかっていく。

 

『これでいいんですね?』

 

『はい』

 

『ですが、これ以上は退きません。彼女達もまた、本来は私達が守るべき民なのですから。それと貴方には城へ出向き、今回の件について説明を命じます。魔法学院にはこちらから連絡しておきますのでそのつもりで』

 

『……、分かりました』

 

そして、信じられないほど高次元にある戦闘は美遊さんが取り出した紅い槍で黒い霧を纏った男性の心臓を穿つ事で決着が着きました。

 

『っ! 黒き悪魔はトリステインの誇る二人の聖女が討ち滅ぼした! 全軍、消化作業に当たれ!』

 

『『『おおー!』』』

 

そして残ったのは燃え尽きて黒くなった草原と手厚く保護されたイリヤさん達、アンリエッタ様の慈悲で惨敗してボロボロとなったアルビオンの艦隊が“見逃されて”逃げ帰っていく光景だけでした。

 

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