ゼロ魔日記   作:ニョニュム

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○月×日◇曜日

 今日からトリステイン魔法学院は長期の夏季休暇に入った。日本で言う所の学生にはとても嬉しい夏休みだ。それにハルケギニアの夏季休暇は長い。期間にしておよそ二ヶ月半と言った所か。今まで我慢していたけど、これぐらいの長期休暇があれば充分にハルケギニアの彼方此方に散らばったと思われるクラスカードの回収を行なえる。

 

 しかし、その前にちょっとした問題がある。それはとりあえず先に里帰りしないといけない事だった。父親とはこの前、トリステインの王宮で再会したのでそんなに懐かしい気持ちにはならなかった。けど、母親と妹に会った時は懐かしいと感じた。特に妹はすっかり成長していた為、一目見た時は誰なのか判らなくなった。

 

 春の使い魔召喚の儀式で呼んだ使い魔を見せてくれ、と二人に頼まれたので、俺の後方で荷物を持ったイリヤ達を紹介した。結果として家族会議になりました。

 

 家族がいつも集まっていた部屋には忙しい筈の父親も呼び出されていて、母親達はイリヤ達を守るように俺の前に立ち塞がっている。王宮の帰り道で一緒に食事をした際、イリヤ達が異世界からやってきた等の問題は余計な混乱を招くだけなので、母親達には説明しない、と父親と話し合っていたので、イリヤ達の境遇を説明するのに問題は無かった。

 

 ただ母親と妹がイリヤ達の事を物凄く労わっていて、イリヤ達が引くぐらいの勢いだった。何故、イリヤ達の事をそこまで労わっているのか、よく判らなかった俺はまあいいか、と特に気にせず、自分の部屋に戻った。そして、部屋で出迎えてくれた馴染みのメイドさんが着ていた衣装を確認して、全てを思い出した。

 

 このハルケギニアではありえないミニスカートを着て、白のニーソックスで絶対領域を作り出すメイドさん。トリステイン魔法学院では大人しく真面目な性格で過ごしていた為に忘れていたが、実家で暮らしていた時の俺ははっちゃけていた。もっと直球で言うと変態だった。

 

 勿論、学園での生活を知らない母親や妹、メイドさん達は俺の事を変態として見ているのだ。一応、尊厳の為に書くがロリの趣味は無い。

 

 まさか、こんな場所で俺の黒歴史を目の当たりにするとは思っても見なかった。ルビーは大爆笑しているし、イリヤ達の視線は薄汚い生ゴミを見るような視線で痛い。とりあえず、メイドさんの衣装は本来の姿に戻してもらい、一人一人謝罪していった。

 

 小さい頃からセクハラをしていたメイドさんにはよく成長されました、と感動して泣きながら褒められてしまった。今考えると恥ずかし過ぎて顔が真っ赤になっていたと思う。お手伝いに来ていたメイドさんの中にはミニスカートのメイド服を気に入った子も数人ほどいたようで、今後もこの格好をしていてもいいかと尋ねられた時はもう笑うしかなかった。黒歴史の露見によって刻まれた傷はかなり深刻だ。

 

 

 

 

○月×日◇曜日

 朝練を始めるようになってから、早起きする癖がついた。しかし、実家で朝練を行なうにしてもアーチャーやギーシュがいない状況では朝練の効率が悪い。とりあえず子供の頃、無邪気に走り回っていた実家の屋敷を中心として、周辺をランニングする事にした。ランニングの途中には朝早くから農作業に勤しむ平民の姿があって、おはようございます、と挨拶しておいた。ギョッと目を丸くさせて俺を見る平民の視線にはもう慣れた。

 

 実家における俺の評価は奇人変人で、変態だ。驚かれても仕方ない。人は過ちを犯して成長するものだ。

 

 ランニングが終了して、瞑想をしていた時、父親が訪ねてきた。なんでも俺の居場所を使用人に尋ねて、俺を探していたとか。父親の用件は久しぶりに魔法を教えてくれるらしい。俺もそろそろ親越えの時期じゃないか、と思っていたので実践形式の訓練で挑んだ。

 

 割合、良い所まで追い込めるけど最後の一手が届かない。何度繰り返しても一度すら勝てなかった。やはり、現役軍人は強かった。

 

 もう少し、訓練に励んで、経験を積むように、と得意げに言われた時はカチンと来た。けど、“親の壁”という越えなければならない障害の大きさに心が震えた。いつか絶対に越えてみせると誓う。

 

 

 

 

○月×日◇曜日

 久しぶりに領内にある孤児院を訪れた。何か忘れているような錯覚に陥りながら、元気良く走り回る子供達の姿に癒された。この孤児院は江戸時代でいう所の寺子屋的な役割を与えてある施設だ。

 

 珍しく転生知識で成功した、計算知識チート作戦で学んだ大人達が孤児院の子供や近所の子供を集めて、色々な計算の授業を行なっている。その成果は少しずつ実っている様子で、既に孤児院にいる子供全員が掛け算や割り算程度の計算なら出来るようになっていた。これからもしっかりと指導していけば、俺が大人になる頃には結構優秀な人材が出てくると期待している。

 

 それに理解力の乏しい子供に対して授業を行なうので、大人の方もなるべく簡単に教える為、教える事を整理したりしていると復習に丁度良いらしい。流石にそこまで考えて指示していた訳じゃないけど嬉しい誤算である。

 

 久しぶりに自分の領地へ帰ってきて、残してきた転生知識の結末を確認しているとやはり、成功しなかった場所もある。金属であるネジやクギ、マスケット銃などの部品を規格化する方法だ。やはりベテランの職人でも同じモノをいくつも製造するのは難しいようで難航しているらしい。

 

 俺だって、規格化云々は拙い工業的な知識から意見してみただけで、アドバイス出来る事はあまり無い。それとは別にパイプを作って、川から水を引いて作った簡易式公衆水洗トイレはかなり人気のようだ。

 

 

 

 

○月×日◇曜日

 父親から魔法学院で懇意にしている女子生徒の一人でもいないのか、と尋ねられた。その事を俺に聞いてくる父親はまさに鬼だ。いや、トリステイン魔法学院はそういう面識を作っておく為の場である事も確かなんだけど。

 

 俺だって別にモテない訳じゃない。学院でそれなりにアピールされた事もあるが、一歩踏み込んだ関係になった人は誰もいない。もしかしなくても、俺のせいなのか。直前になるとヘタレて、逃げ出してしまう俺が悪いのか。いや、俺には魔法衛士隊に入隊して名前を挙げるって言う夢があるので気にしない。

 

 

 

 

○月×日◇曜日

 長期休暇で里帰りしてからそれなりの時間が経った。そろそろ身体の休息も充分に取った事だし、動き出すとしよう。ルビー達と話して、この休暇中に出来るだけクラスカードの回収に専念すると決めていた。

 

 クラスカードの回収に当たって、一旦、今までの情報を整理しよう。まず、今までに集めたクラスカードの枚数は四枚。種類はライダー・ランサー・アーチャー・アサシンの四枚だ。残っている三枚の種類はセイバー・キャスター・バーサーカーの三枚。

 

 残っているカードの内、キャスターのクラスカードはそんなに警戒する必要が無いと睨んでいる。何故ならキャスターの領分は知略であり、黒化した英霊(サーヴァント)には知性が無い。キャスターと殴りあった所で、イリヤ達が劣る筈が無い。

 

 逆に残っている二枚のカードはかなりの激戦が予想される。もし、発見出来たとしてもアーチャーに頼んで協力してもらった方が確実だ。それにアーチャーなら頼めば協力してくれる筈だ。

 

 それとあまり関わらないようにしているけど、ルビーとサファイア“は”アーチャーの正体に気付いている節がある。イリヤと美遊が正体を知らないのはどうなんだろうか。少なくともその件に関して俺から動く事は何も無い。静観するしかない訳だ。

 

 

 

 

○月×日◇曜日

 トリステインの王宮で事件が起きた。詳しい情報までは伝わってこないが、なんでもアンリエッタ女王陛下を攫おうと考えた反逆者が現れたらしい。詳しい情報が入ってこないので色々な噂が流れている間に、ルビーとサファイアの報告で王宮付近にクラスカードの反応があったと報告を受けた。

 

 ルビー達の報告を受けて、王宮が大変な事になっていると確信した俺はすぐに旅支度を終えて、王宮に向かった。覚醒したクラスカードの反応は別の何かに飲まれるようにして消えてしまったらしい。一応、その近くにアーチャーの気配があったようなので大丈夫だろう。

 

 イリヤ達の全速力に付き合って、王宮を訪れた俺達はルビーの案内に従って、地下水路へ向かう事にした。地下水路の奥で俺達を待ちうけていたのは気絶しているルイズと所々怪我を負っているアーチャーの姿。それにアンリエッタ様と銃士隊らしき女性、それに隻腕の男性、少し視線を横に向けてみれば、見るも無残さ姿で殺されていた男性の亡骸があった。

 

 

 

 

◇とある妹の記憶◇

 私のお兄様は基本的に褒められるような人物ではありません。それは人間として、メイジとして、なにより貴族として。ですが、久しぶりにトリステイン魔法学院の夏季休暇で帰って来たお兄様はとても成長されていました。

 

 事故とはいえ、年端もいなかいイリヤさんと美遊さんを使い魔として召喚したお兄様が、メイドとして二人を雇っていると聞いた時、変態的な行動をするお兄様が思い浮かんで、二人を労わりました。その中で歳が近い事もあり、イリヤさん達とお話するようになった私はお兄様の変態的な趣味が治った事を知りました。

 

 むしろ、心を入れ替えた様子でお兄様が持つ変態趣味の犠牲になっていたメイドの使用人相手に一人一人丁寧な謝罪をする姿はとても真面目で、好感の持てる姿でした。

 

 イリヤさん達の件で起きた家族会議の席ではどうやらお父様と結託して二人で何か隠し事をしているようでしたが、二人とも隠し事をするのが下手なので私もお母様も気付いています。

 

 お兄様の成長は人間的な部分だけではありませんでした。実家に帰ってきてから毎日、早起きして、屋敷の外で魔法の鍛錬を行っている事を知っています。メイジとして見れば、魔法学院へ入る前の実力ははっきり言って私より下。今でも系統魔法が上手く扱えないようなので“魔法”だけなら私の方が実力は上です。

 

 ですが、お父様を相手にした実戦形式の訓練では目を見張るものがありました。スクウェアクラスのメイジであり、現役軍人でもあるお父様相手に一歩も引かず、対等の動きを見せていました。お兄様の負けず嫌いはお父様の遺伝です。大人気ない事にお父様も本気になって相手をしていたので、何度試合しても勝てないとお兄様が認めるまで試合は続きました。試合を終えたお父様がこちらへ歩いてくると試合を観戦していた私と視線が合います。

 

「どうしたんだ、こんな朝早くに」

 

「お父様達がここにいると聞いて。お兄様はどうでしたか?」

 

 私の質問にお父様は嬉しそうに笑いました。

 

「以前とはまるで別人だ。今のアイツならいつか私を超えるメイジになるだろうな」

 

 そう言って笑うお父様はお兄様の前では平然な表情を浮かべていましたが私の前では大量の汗を流して、何度もブレイドで打ち合った右手は痙攣していました。

 

 それに比べて、遠目で見えるお兄様は特に疲労した様子も無く、訓練を再開していました。

 

 それから何日か過ごしている内に成長――いえ、昔のお兄様に戻っている事を実感出来ました。奇人変人と言われる前、まだ魔法がろくに使えない、けれど強い心と勇気を持っていた小さい頃のお兄様に。私が悲しい時は何も言わずそばにいてくれて、私が怖かった時は優しく抱きしめてくれた――――私が大好きだった頃のお兄様に。

 

「お兄様? お出かけになるのですか?」

 

「ああ、ちょっと遊びに行ってくる」

 

 にっこりと笑って鼻を啜るお兄様を見て、ああ、嘘なんだな、と思いました。お父様とお兄様が嘘をつく時の癖は鼻を啜る事。王宮の方で何か事件があったと聞きました。もしかしたらお兄様はその件に関して一枚噛んでいるのか。お父様と二人で何を隠しているのか分かりません。

 

 ただ、お兄様を見送る私の目にはお兄様の背中が大きく見えた事が嬉しくて無事に帰ってくる事を祈るだけでした。

 

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