とか言っておきながらいきなり飛ばしてますwww
模擬戦の開始はその日の昼休みとなった。岸がいち早く申請を入れたからだろう。そのくらい、岸は憤っていたのだ。
それ以降の授業は静かなものだった。オサムはまだしも、他の生徒もボソッと二、三|言(こと)ほど呟くだけで明確な会話が生まれない。異様な緊張感だった。それは、受験直前の受験生の心境に似ていたかもしれない。自分達の中の希望(何か)が成されるか否かが決まる、その直前の緊張感に。
そうしてその時は訪れる。
昼休み、本来ならば各々(おのおの)の『お弁当スポット』で昼食を食べている時間だ。しかしこの日は違った。
模擬戦の申請を受けた風紀委員は、この試合をさして重要視せずに受理し、認めた。所詮二科生同士のくだらないいざこざだろう、と。
しかし監督役の風紀委員は、集まった観客の人数に目を剥いた。試合する二人を合わせると25人、クラスまるまる一つ分の人数である。昼飯が遅くなるな、くらいしか考えていなかった監督役の三年生風紀委員は、そんなに重要なものだったか……と考え込むが、理由は分からない。
そして、その試合をする人物を見て更に驚いた。
「影井……か……?」
その一人が魔法事故のせいで下半身不随となり、そのせいで二科生となった元クラスメイトだったからだ。影井は何も言わず、モーターで動く車椅子に乗ってきた。
そしては監督役の風紀委員は初めてこの試合がヤバいと悟った。良く名前も見ずに許可のはんこを押した委員長を怨みたい気分だった。
「格が違い過ぎる……!」
一方的な試合となるのが確定している。しかし監督役は監督役、始める前から試合を辞めさせることは出来ない。
監督役の生徒は知っていた。影井が二科生になったのは足が動かなくなったために、魔法師として使い物にならなくなったからだと。それが意味するところは、魔法演算領域に支障が出たとか、魔法の存在を信じられなくなったとかではないということ。
要するに、オサムは魔法は自体全く不自由なく使えるのだ。
そして監督役の生徒はもう一つ知っていた。
影井オサムの実力を。
「……それでは、ただ今より……3-E岸海斗と、同じく3-E影井オサムの試合を始める。双方、俺の開始の合図があるまで待機。また、手足を使った攻撃も許可するが、蹴りを入れるつもりなら学校指定のソフトシューズに履きかえること。もちろん、試合開始前にCADを起動するのも禁止」
試合開始前の注意事項をつらつらと述べる監督役の生徒。その表情は諦めに染まっていた。
応援の割合は、
オサム:岸=0:23。
監督役の生徒は岸側の生徒の気持ちが想像出来た。監督役の生徒は一科生とはいえ、二科生が一科生にどういう感情を持っているかは知っている。表だって馬鹿にしたり見下したりするのは一部の生徒だとしても、確実に反感情として相手に残るのだ。それを挽回出来ると信じているのだ、彼らは。
もう影井も同じ二科生なのに……。
「スリーカウントで試合を開始する」
その結果はあまり見たいものではない。
「3、2、1、始め!」
しかし試合は始まった。
岸が単一の移動魔法をオサムにかけるために、CADに想子(サイオン)を送り込む。CADが起動式を展開し、岸の魔法演算領域に返す。そして起動式から魔法式に改変……しようとしたときには既にオサムの魔法は発動していた。
「うおっ……!」
岸は突然、不可視の力に勢いよく後ろに引っ張られたのを感じた。その正体は空気。オサムが岸の後ろに収束魔法を発動したのだ。圧縮された空気の穴埋めをするために、空気は後ろへ流れ込む。それに引っ張られたのだ。
当然前から攻撃が来ると思っていたために、完全に不意をつかれた岸は、成す術(すべ)もなくバランスを崩し、重心を後ろに持ってかれた。魔法式の展開は多大な集中を要するので、霧散してしまう。
しかしオサムの攻撃はそれだけでは終わらない。圧縮された空気の塊を、発散系統の魔法で解放したのだ。一気に元の場所に返ろうとする空気は、後ろに倒れかかっていた岸に衝撃波のような形で、至近距離でぶつかる。急激な前後の揺さ振りをかけられた岸は脳震盪を起こし、意識を刈り取られた。
勢いよく前へ倒れ込む岸。その体は起き上がらない。
「勝負あり!!」
監督役の生徒がそう告げた。
あまりに呆気ない試合だった。
場が不自然な程静まり返った。
オサムは一人、クルリとその身を翻して教室へ戻って行った。
あまりに圧倒的だった。岸が展開しようとしたのは単一の移動魔法。後ろの壁に叩きつけるというもの。単一の魔法であるため、干渉力においても負けづらく、それ故使い古された手だ。それは、勝率が高いが故に使い古されている手だ。
対してオサムが発動したのは収束・解放からなる2工程の魔法。本来、2工程は単一……つまり1工程の魔法より発動が遅い。少し考えれば当たり前のことだ。プロセスが多いのだから、発動が遅いのは当然。同じ系統(収束と発散は同じ系統)とはいえ、本来岸が魔法発動で遅れをとるはずがなかったのだ。
E組の生徒達は、岸の背中を見詰める。
遠い、あまりに遠かった。
二科生と一科生の間に立ちはだかる壁は、想像以上に大きかった。
「畜生……」
意識を取り戻した岸が倒れこんだまま、呟いた。
誰かが両手で目を覆った。誰かが嗚咽を漏らした。
「奴は──」
その空気を断ち切ったのは監督役の生徒だった。
「特別なんだ。試合してたのが俺で、2工程の魔法を発動しようとしたら多分、俺は負けただろう」
皆、その言葉に静かに耳を傾けている。
「あいつは部活に入ってるわけじゃないから、皆によく知られてない。でも、毎回九校戦には出てるし、モノリスコードで優勝もしてる。だから──」
「それがどうした」
しかし、岸がその言葉を切った。
「俺は、一科生に負けたのが悔しいんじゃない。馬鹿にされた奴に負けたのが悔しいんだ」
岸は立ち上がると教室に向かって歩きだした。
岸はあくまでmobです。
次の話でヒロインでます。短くてすみません。
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