「はぁ……」
ここ最近、ため息をつく回数が増えた気がするな……と、オサムはぼんやり考えながらため息をついた。彼は現在駅に向かう道中の途中だ。
今日は結局、クラスメイトと一言も話さなかった。昨日
その恵美は家の用事で早退した。また縁談だろう。親は今だに恵美が断るのを学習していないのだろうか? それとも学習していてなお諦めていないのか……。そもそも恵美も恵美で何故断るのかは教えてくれない。「こういうのはいくら親でも決められるのは嫌」と言っていたが、一人くらい好みの奴がいてもおかしくはないのではないかと思う。
「まあ考えても仕方ないか」
一人でそう呟く。そもそもどうしてこんなことを考えているのか、とも思いそこで思考を止める。
彼は駅へ向かうのを止め、喫茶店に入っていった。彼は普段、直で家に帰ったりはしない。家に帰ると
今日の彼もそうした。家までにかかるのに30分。夕飯はいつも7時なのでオサムは大概、6時半少し前に喫茶店を出る。5月なので、外はもう暗い。そして出た直後──
視線を感じた。
彼は実戦魔法師であるわけではない。魔法の才能は飛び抜けていても、実戦を経験しているはずがない。それでも分かるほど明確な敵意の視線だった。こういうことが少しでも分かるのは、
(何だ……?)
ここまであからさまだと、ズブの素人か、あるいはたかが高校生にそうする必要(敵意を隠す必要が、である)がないと考えられているか。正直、オサムは暗い中襲撃(かはまだ不明だが)を受けるようなことをした覚えがない。強いて言えば昨日の模擬戦だが、あれだけで襲撃(仮)をかけることはないだろう。もしかけるにしても、実力の差を昨日の模擬戦で証明したのだし、リスクが高すぎる。大体、同じ学校の生徒を襲撃しても何も意味がない。
いずれにせよ、何がしたいのだか分からない。オサムは自分のポケットの中にある特化型CADに右手で触れながら、あまり人のいない場所に車椅子を動かす。この時間帯、丁度魔法科高校の生徒が部活から帰る頃だ。巻き込むわけにはいかない。しかしこの行動は、同時にオサムを孤立させることにもなるわけだが、彼は気が付いていない。こういう行動の端々にオサムは一科生特有の
枝道を通り、行き止まりの場所にたどり着く。まだ敵意の視線は消えていない。オサムが振り返って声をあげようとした時──
「ッ!?」
物陰から人が飛び出して来た。途中からオサムの意図が分かっていたのだろう。もっとも、パターンの一つとして段取りの中にあったのかもしれないが。敵(仮)からしたらオサムが自ら人気のない場所に移動してくれたのだ。これ以上楽なことはない。
(速い!……自己加速魔法か? しかし
魔法には発動する時に不可避の反動が生じるはずなのだ。魔法を使えるところを除いて、一般的な高校生であるオサムが軍事用のハードテーピングで肉体を強化していることなど看破出来るはずがなかった。10年後と違い、この国はまだ沖縄や佐渡への侵略を経験していない。全員が全員、軍事に心得があるわけではないのだった。
(やるしかない……!)
手にナイフを構え、人間とは思えないスピードで迫ってくる人影を見てオサムは瞬時に判断した。慣れた手つきで特化型CADを取り出す。敵は三人、対処出来るはずだ。
この時襲撃者の誤算が一つだけあった。
オサムはあくまでも高校生レベルであり、実戦的な訓練はしていないと思っていた。それにオサムは車椅子。
つまり、実戦では恐れるに足りないと思っていたのだ。
これは全くの事実であり、オサムに実戦的な技術は全くないに等しい。モノリス・コードはあくまでも試合──つまり競技だ。
だがそれと実戦でも恐れるに足りないのとは違った。セオリー通りにいけば襲撃者の予測は間違っていなかった。しかし、現実は間違っていた。
オサムがCADの引き金を引く。
彼等の誤算は──
三人の男達は足首に違和感を覚えた。しかしそれを気にせず迷わず足を踏み出す。そして体重をその足に移行した瞬間、それは起きた。
グシャリと音がして足首が潰れた。
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
男達が一斉に倒れ、足首を抑える。酷《むご》い光景だった。くるぶしの辺りが一気に潰れていた。その潰れ方からして、加重がかかったのは横ではなく縦。走っていた時の自重で耐え切れなくなったような感じだ。ドクドクと、倒れたペットボトルから水がこぼれるように血が流れ出る。骨が砕けて潰れた肉にめり込んでいた。腱が半ばからちぎれたような感じになっていた。ぐじゅぐじゅとしている真っ赤な肉が痛々しい。
これが彼の特異魔法。生れつき収束系統が飛び抜けている理由。
瞬間老化《コンバージ・アシッド》
原理としては非常に簡単。対象を中心に酸性の気体分子や活性酸素を収束する。それによって対象の細胞等が急激にダメージを受ける。よって急激に老化が進む。到底細胞の再生速度が追い付くスピードではない。今のは勢いよく走っていたので、耐えられなくなって潰れてしまったのだ。足首だけ、年齢が大体150歳。普通、人間は生きていないレベルまで老化した足がハードテーピングされた脚力に耐えうるはずがなかった。
「はあ……」
のたうちまわる襲撃者達。それを見てオサムはため息をついて、警察に連絡する。
やはりため息が多い。
オサムはそんなことをぼんやり考えながら、警察に状況を説明していた。
瞬間老化《コンバージ・アシッド》は非生物にも使える魔法ですが、欠点があります。まあここで言うのもアレなんで……伏せときます(笑)