艦隊これくしょん~コクチョウは消えた~   作:海軍試験課所属カピバラ課長

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第15話 平常のオブザーブ

「うーん、なかなか思うようにできねえもんだ」

 

「妖精頼りの開発は基本的に運ですから」

 

 ──こればかりは我々にもどうにかできるものではないのです。

 

 ううん、と勇が唸る。勇は不知火と共に工廠にいた。せっかく回せるようになった工廠なのだから利用してみようと思い立って、榛名に一言だけ断ってから赴いたのだ。

 

 工廠に訪れて真っ先に目に付いたのは、あれだけ装備でゴタゴタとしていた工廠がきれいさっぱりと整頓されていたことだった。妖精に勇が奥を見ると言ったあの時は、道を作るだけだった。だが工廠自体が片付いていたので、勇は大いに驚かされた。

 

 妖精曰く、「なんだか興が乗ってしまった」とのことらしい。それで完全に片付けてしまうのはさすがと言わずにはいられなかったが。

 

 つまり工廠が開放されたことによって開発と建造がようやくまともにできるようになったのだ。今までもできないわけではなかったが、あれだけごちゃごちゃしていては新しく作った装備の置き場がなかったのだ。

 

 せっかく解放された工廠だ。使わない手はない。だがこの鎮守府の問題は艦娘の数ではない。艦種も充実しているし、保有されている数も十分だ。つまり建造を回す必要性はあまりない。

 

 だから勇は開発を選んだ。装備の充実具合は正直に言って心許ない。よって優先すべきは開発なのだ、と。

 

 なので開発をするぞ、と勇は意気込んで不知火と共に工廠に乗り込んだわけなのだが。

 

 ──強化型本式缶です

 

「またかぁ……」

 

 見事なまでに外していた。勇の狙いは電探だ。どんな状況下においてもあって困るものではないと考えて電探を開発しようと試みたのだが、一回も思うように開発してくれない。

 

「くっ……もともと開発用に用意してきた資材の残量を考えると次で最後か」

 

「司令、どうしますか?」

 

「まあ、これだけは使うつもりで持ってきた資材だからな。これで最後にするよ」

 

 工廠が解放されたのなら1日に一定数は開発を回すように、と上からお達しが来ているのだ。理由はわからないが、向こうは鎮守府の装備面に不安があることも知っていたのだろう。

 

「よし、ラストだ!」

 

 妖精に開発用の資材を渡す。事前に鎮守府にある資材量をきちんと把握してから持ってきたものなので使い切ってしまっても問題はないようにしている。

 

 ──じゃあやっちゃっていいのです?

 

「やっちゃってくれ」

 

 祈るような気持ちで結果を待ち続ける。もう謎のペンギンや綿埃のぬいぐるみらしき物体とお目見えすることはご免被りたい。

 

 さあ、来い。今度こそ電探を……

 

 ──改良型本式タービンですね

 

「だめか……」

 

 勇が肩をがっくりと落とす。そう簡単に望みどおりのものが開発できるわけではないことは知っていたが、本当に楽な道ではないらしい。

 

「続けますか、司令?」

 

「……いや、やめとこう。これ以上やって資材不足になったら本末転倒だ」

 

 あくまでも開発をする理由は鎮守府の運営を立て直すため。開発のしすぎで鎮守府運営を崩壊させたというようなことがあっては笑い話にもならない。

 

「今日はこんなもんにしとく。ありがとな」

 

 ──いえいえ。またどうぞなのです

 

「ああ、その時はまたよろしく頼むよ」

 

 きれいになった工廠から勇と不知火は立ち去った。工廠の鉄扉が閉まる間際に勇は工廠の仮眠室をちらりと見た。明石が占領していた仮眠室は空室になっている。明石は間宮の隣の部屋で寝るようになったので、もうここを使う人はいなくなっていた。

 

 きっとこれでよかったのだろう。明石は急に他の艦娘と接していくことは難しくとも、食堂のシフトで入る人数ていどの艦娘となら問題なく接することができている。ならば明石は少しずつ慣らしていけばいい。急には無理でも一歩、踏み出せた明石ならきっと大丈夫だと勇には思えた。

 

「司令、この後はどうしますか?」

 

「そうだな……」

 

 出撃や遠征関連はまだ榛名がすべて采配を振っている。資材管理に関しても開発のための資材を勇が手続きを取った上で確保したので使えたが、根幹を握っているのはまだ榛名だ。

 

 鎮守府の再建をするのならいずれはそこにも手を出す必要がある。それがいつなのかはわからない。だができるかぎりは早い方がいいだろう。

 

 問題はまったく方法が思いつかないことだが。

 

 よくよく考えてみれば今までもすべて行き当たりばったりだったのだ。明石の件だって商店街に連れ出したのはきっかけの一つにでもなればと思っていたからであって、よもや自分が襲われるとは思わなかったし、明石があれで工廠から出てきてくれるとは思わなかった。

 

 すべてその場での対応。うまくいったのは偶然の産物だ。そう考えると我ながら計画性のなさに涙が出そうだ。

 

「司令? 聞こえていますか?」

 

「ん? ああ、大丈夫だ。どうしようかと思ってな」

 

 一朝一夕で鎮守府の運営権を勇のものにすることはできない。榛名に譲るつもりがなさそうな現状では難しいことだった。

 

 もし勇が再建が完了次第、すぐに異動ということならば少しばかり強引な手に出てしまってもよかった。だが再建したあとも勇はここで司令長官として勤務を続けるのだ。あまり権力を嵩にきて強権的に再建を進めてしまっては、今後がやりづらい。

 

 まあ、強権的にやるのはガラじゃないという理由もあるが。

 

 それにしても本当にどうしたものだろう。現段階で勇が直接的に鎮守府運営に関われることなど、ついさきほどやった開発だけだ。食堂は間宮に任せっきりにしてしまっているし、そして榛名に渡された書類のサインはとっくに片付いていた。

 

「本当にどうしたもんかな……」

 

「司令、では鎮守府の見回りというのはどうでしょうか?」

 

「見回り……?」

 

「だめですか」

 

「いや、ナイスアイデアだ不知火。そうしようか。不知火の時間は大丈夫か?」

 

「午後から出撃シフトが入っていますが、それまでなら問題ありません」

 

「じゃあそれまでお付き合い願おうか」

 

 とはいえもう昼が近いため、鎮守府全体をぐるりと回ることはできない。せいぜい回ることができて数ヶ所だろう。

 

「まずは……ん? そういえば不知火、入渠風呂はどうなってるんだ?」

 

「のぞきですか?」

 

「ちげえよ!? 清掃はどうしてるのかって話だ」

 

「たいていは有志の艦娘たちがやっていますね。自分たちが使うところなので他の艦娘に声かけをして清掃しているようです。大浴場の方もそういった方々がやっているようですね」

 

「へえ……前まではあの放置具合だったのをよくやってくれるようになったな」

 

「司令が掃除をしてからは手を入れるようになったみたいですね。あれだけ汚れていると手を出すのは難しかったようですが、今ならばということなのでしょう」

 

 確かにあの惨状で掃除をしようと思うことはなかなか心理的に難しいことだろう。だが不知火の助けを借りて勇が掃除したこともあって、手を入れやすくなったのかもしれない。

 

「まあ、不知火の話し方からすると問題ないんだな?」

 

「はい、ありませんね。さすがに問題があると出撃行動にも差し障ることなので、しっかりと管理されています」

 

「ならいいか。だがそうなると、どこに行こうか……」

 

「食堂でいいのでは? 司令も明石さんの様子を見ておきたいでしょう」

 

「そうだな。じゃあ不知火のアイデアを採用しようか」

 

 それになんだかんだ不知火と共に話していたら時間が押してきてしまっていた。あまり長引かせると不知火が出撃に遅れてしまうかもしれない。

 

「じゃあ食堂に行くか」

 

「そうしましょう」

 

 勇の隣に不知火が立ち、2人が揃って鎮守府の廊下を歩く。勇が着任してからもうだいぶ時間が経った。さすがに鎮守府の地図は頭の中に入っている。もう不知火に先導してもらう必要はない。だから不知火は隣を歩いていた。

 

「よう、間宮。景気はよさそうだな」

 

「忙しくて大変ですよ。でも明石さんが常時アシスタントに入ってくれるようになったおかげで楽になりました。もちろん、このお仕事に文句があるわけじゃないですよ?」

 

「はは、そいつは助かるよ」

 

「私がここから異動になる時もいずれは来ます。だからちゃんと私がいなくなった後も食堂が回るようにしておかないといけないと思うんです」

 

「だから明石があんなにひいこら言って働いているのか」

 

 ちらっと勇が厨房の奥を覗くと、明石が厨房内を縦横無尽に駆け回っていた。やっていることは野菜を切ったり、鍋が沸騰しないように見張ったり、簡単な炒め物を作ることだがそれでも慣れていないことをやるのは大変だろう。

 

「もう少しいろいろ教えてやったらどうだ?」

 

「私のやり方は見て覚えろ、なので」

 

「厳しいな」

 

「お料理に関して私は妥協しませんよ」

 

 間宮がにこり笑うと勇の背筋にぞくっと冷たいものが走った。これが本職のプライドというものだろうか。

 

「まあ、明石はいろいろあれだ。お手柔らかに頼む」

 

「わかっていますよ。厳しくはしていますけど、できること以上はやらせないようにしてますから」

 

「そうか。まあ、明石のことを見てやってくれ」

 

「はい、お任せください。ところで提督、ご注文は?」

 

 にこやかに間宮が勇に問いかけた。少し悩んでからトンカツ定食を勇は選んだ。続いた不知火も同じものを注文した。誰もいないテーブルを選んで勇が座ると不知火が対面に腰を下ろす。

 

「別にいいんだぞ、俺に付き合わなくても。護衛って言ったって同じ部屋にいるなら大丈夫だろ」

 

「不測の事態が起きた場合、不知火が司令のそばにいた方が素早く対応できるので」

 

「そんなもんか?」

 

「そんなもん、です」

 

 もぐもぐと不知火がトンカツを頬張る。つられて勇もトンカツを口へ運ぶと粗めのパン粉によってザクッとした歯ごたえと柔らかな肉から肉汁が溢れ出した。

 

 特に何か言葉を交わすわけでもなく、ひたすらにもぐもぐやり続ける時間が過ぎていく。先に食べ終えた勇は急須から湯呑みに茶を注いで飲んでいた。

 

 そうこうしていると不知火も食べ終わり、トレーを持って立ち上がる。

 

「司令、すみません。そろそろ……」

 

「出撃か」

 

「はい」

 

「大丈夫だ。行ってこい」

 

「護衛と言っておきながらすみません」

 

「それこそ気にするな。あとは食堂でゆっくりしてから部屋に戻るからよ」

 

「そうですか。ではお言葉に甘えさせていただきます」

 

 昼食後は食堂を利用する艦娘は大きく減る。別に休息所が設けてあるためそちらに艦娘が流れるからだ。よって食堂に残る艦娘はほとんどいない。だから勇は誰かに気を使うことなくゆっくりしていくつもりだった。

 

「では不知火は出撃してきます」

 

「おう。気をつけろよ」

 

 勇が不知火が食堂から去っていく姿を見ながら湯のみのお茶に口をつけた。




思い返すと何かにつけて食堂しか行ってませんね。あとは商店街の弁当屋。どれだけ食事をぶちこめば自分は気が済むのでしょう。
それにしても、まったりとした空気を書くのもいいですね。のっけから先代が艦娘に殺されてたりといろいろありましたがこういうのがやっぱりいいと思いませんか?

仕事が終わった後になにかするわけでもなく、お茶を啜る。実に穏やかで平和ですね。

開発は……ほら、運だから。タービンとか缶ができちゃうのはしょうがないよね。
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