俺と由紀とコーヒーと   作:鳥頭堂正太郎

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実話を元にしておりますが、基本的にフィクションです。
コーヒー屋はいくつかモデルがらありますが、それぞれ足して、3で割った感じなので、このままピタリとしたモデルの店はありません。
おいしいチーズケーキは実在します。
ディープキスはR18じゃないよね?


深夜の街をさまよってみたら

「なんか、こう、俺、ムラムラしてきた。」

と、俺は女友達の由紀に向かって言った。

時間は夜の10時、場所は1人住まいの由紀のアパートの1室。

すると、由紀は

「はぁっ!?」

と叫び、手元にあった大きな猫のぬいぐるみをだき抱えた。

「いやさぁ、こう、知らない町の夜景というか、夜の風景とか見てると、ふらふらさ迷いほっつき歩きたくならない?」

そう言うと由紀は

「ならない。」

と断言した。そして、しばらく口をもごもごさせると、

「っていうか、ほっつき歩きたいからムラムラしてきたって言ったの?」

と言った。

「そうだけど。」

俺がそう言うと、由紀は地獄の底から響いてくるかのような低い声で

「さいってぇ」

と言い、由紀の抱えていたぬいぐるみがふっ飛んできて、俺の顔に命中した。

「好きなだけ、好きな所へ、ほっつき歩いてこい。バーカ。」

と、由紀の怒った声が聞こえた。

 

「じゃ、じゃあ、行ってくる。」

俺はぬいぐるみを置いて、玄関へ出た。

 

「あ、鍵どこ?」

由紀のアパートはオートロックだから、鍵を持っていかないと、入れなくなってしまうのだ。

「右横、靴入れの上」

由紀のキツい声だけが聞こえた。

「えっと一緒に行く?」

俺の問いに、由紀は

「行かない!!」

とだけ、答えた。

俺は靴入れの上に置かれた部屋の鍵を手にすると、由紀の部屋を出た。

 

「由紀の奴、なに怒ってんだ、わけわからん。」

俺はそう呟くと、エレベーターに向かって歩きはじめた。

 

 

夜の街が好きだ。

賑やかしい繁華街より、一つ裏道の静かな街が好きだ。

それなりに明かりが灯っていて、夜でもたまに誰かとすれ違う程の人通りの街がいい。

 

そうやって、ネオンサイン眩しく、呼び込みや酔っ払いの煩い街中をさけ、俺はちょっと古めかしい商店街を歩いていた。

 

夜だから、静まりかえった街はシーンとしていて、聞こえるのは俺の足音だけだ。

ほとんどの店は閉まっていて、元からシャッター街なのか、昼間は賑やかなのかはわからないが、あぁ、こんな所にこんな店があるのか、こんなモノがあったのか。

などと新鮮な発見に満ちている。

 

ふと見かけた路地の一軒から、明かりが漏れていた。

覗きに行くと、なんともクラシカルながら、ハイカラな感じの店構えである。

 

木の看板がかかっていて、「西洋茶館」とあった。

あぁ、いいじゃん。

なんか、好み。

見るとドアノブに営業中の掛札。

 

いいね、行こう。

 

ドアを押して、中に入る。

古い。テーブル、壁などの内装は木材が多用されているが、珈琲の焙煎の煙でいぶされて、なんとも味のある渋い色あいである。

これはうまいコーヒーが飲めそうだ。

俺は直感でそう思った。

 

「いらっしゃい」

カウンターの中には、白髪頭にヒゲを蓄えた老爺がいて、彼はニコリともせず言った。

だが、彼を老爺と呼ぶにはあまりに失礼だろう。

ピンと伸びて真っ直ぐな背中、威厳さえ感じさせる厳しい顔付き。

主。

彼にはこの言葉が相応しかった。

 

「1人だけど、いいかな?」

俺がそう言うと、主は

「どうぞ、お好きな席へ」

と言った。

店内は狭く、入ってすぐのカウンターに数席の椅子、奥にはボックス席が二つほど。

だが、俺はこう言われた時、どこに座るか決めている。

 

カウンターのガス台や湯沸かしなどのある場所の前。

すなわち、おそらく主が作業をする場所の真ん前。

俺はそこでもっとも強く漂ってくるコーヒーの香を嗅ぎながら、主のコーヒーを入れる作業を見るのが好きなのだ。

 

席に座ると、お冷とメニューが出された。

見るとコーヒーの種類は豊富で、ブルーマウンテン、キリマンジャロ、モカとメジャーな銘柄から、コピルアックとまで書いてある。

やるなぁ。俺はそう思った。

反し、食べ物は少ない。

サンドイッチなどの僅かな軽食に、特製チーズケーキおすすめとあった。

 

チーズケーキ。

ふむ、由紀の奴が好きだったな。

もし美味かったら、由紀に持って帰ってやってもいいな。

なんだか機嫌が悪かったが、うまいチーズケーキを食ったら、機嫌をなおすだろう。

 

みっちりとメニューを最初から最後まで読んで、熟考したあげく、俺が選んだのは、

「ブレンドとチーズケーキください」

だった。

 

俺にコーヒーのいろはを教えてくれた、今や亡くなった名店のマスターが言っていた。

「初めての店に行ったら、ブレンドを頼みなさい」と。

 

ブレンドはその店の店主がうまいと思う配合でブレンドしているのだから、初めて行った店ではブレンドを飲んでみて、うまいと思えば、それはその店の店主と、君の好みが近いわけだから、それから通いつめて、一番好きな味を見つけたらいいんだよ。

マスターはそう言っていた。

俺は以来、初めての店では、ずっとそうしている。

 

主は俺の方をちらりと見ると、

「ブレンドにチーズケーキね。カップは後ろのから好きなのを選んで」

と店主は言った。

 

なるほど、店主の後ろには所狭しと、山ほどのカップがずらりと並んでいる。

見事なコレクションだった。

俺は一つ一つ、じっくりと見て回る。

どれで飲んだら美味そうだろうか?

どれが俺を呼んでいるのだろうか?

 

ふっと、カップと目が合った。

ちょうど主の真後ろだ。

青地に金の装飾が施され、口先は大きく開いて飲みやすそうだ。

あぁ、これだ。これで飲むコーヒーはうまい。

俺はそう思って、主にそのカップでと伝えた。

すると、主は手を止めて俺の方を一瞥すると、ほうっとでも言いたげな顔をして後に、ふっと笑った。

 

そして、主は再びむっつりとした顔をして、カップを取り、コーヒーの抽出を始めた。

 

主の動作は流れるように滑らかでありながら、おそろしく集中しているのだろう、とても厳しい顔をしていた。

 

しばらくして、

カタンと俺の前に静かにカップが置かれ、

「はい、ブレンドね。」

と主が言った。

俺は、カップを手にすると、左の手で蓋をするようにして、顔先にもってくると香りを嗅いだ。

あぁ、いい香りだ。

 

続いて、色を見る。

コーヒーだから当然真っ黒だけど、どこか透明感があって、琥珀色に見える。

 

そっとひとくち含む。

まるでカップが唇に吸い付くようだ。

うまい。

俺は苦味と酸味が云々などという料理評論家じみた事を言うのは嫌いだ。

本当にうまいものは、言葉では表現されない。

ただただ、圧倒されるのみだ。

 

 

と、俺がコーヒーの味わいに酔いしれていると、

「はい、チーズケーキね。」

と、チーズケーキの乗った皿が置かれた。

ホールケーキをカットしたであろうカットケーキがのっている。

色は雪のような純白で、美しい。

その上にどろりとした限りなく透明に近い乳白色のソースがかかっていた。

 

フォークの先にちょっと付けて舐めてみる。

ちょっと酸味のある感じ、あぁ、これ、林檎だ。

 

俺は林檎のソースをチーズケーキ全面に広げると、フォークを、刺し入れる。

柔らかい。

そして、口に運ぶ。

 

うん、うまい。

やはり、おすすめするだけはある。

これは由紀に持って帰ってやらねばなるまい。

 

とまれ、俺は瞬く間に、コーヒーを飲み干し、チーズケーキを、皿に残ったソースをすくいとるようにしてまて、食い尽くした。

 

「チーズケーキの持ち帰りできますか?」

俺は主に問いた。

すると、主は

「できるよ、いくつ?」

と言った。

「一つ。」

とっさにそう答えた。

だが、すぐに訂正した。

「いや、二つ。二つください。」

「二つね、ちょっと待ってね。」

主はそう言うと、持ち帰りの準備をはじめた。

 

「コーヒーも、チーズケーキも、すごいうまかったです。」

俺は主にそう言った。

「あぁ、ありがとうね。」

主はちらりと俺を見ると、そう言った。

「カップもすごい飲みやすくて、買って帰りたいくらいです。」

「あぁ、あれはうちで一番高い奴だからね。見る目あるなって思った。」

えっと思って、カップを持ち上げ、底を見ると、青色の剣が交差するようなマーク。

「あぁ、マイセンですかぁ、こりゃあ、到底買える値段じゃないですね。これを買うより、ここに通いつめていた方が安くあがりそうだ。」

と、俺が笑って言うと、主は

「お待ちしております。」

と答え、チーズケーキの入っている箱を差し出した。

「保冷剤を入れてありますが、すぐ食べないなら、冷蔵庫いれてください。でも、なるべく早く食べて。」

と主は言った。

俺は箱を受け取り、精算を済ませて、店を出た。

とてもいい気分だった。

よし、帰ろう。

俺は由紀の部屋に戻る事にした。

 

部屋に戻ると、由紀はゲームをしていた。

最近ハマっているBLゲーだ。

ちょ、お前、男同士の喘ぎ声が聞こえるわ。

真っ最中かよ。

 

「ただいま。」

俺は由紀の隣に座る。

「おかえり」

まだ声が怒ってる。

「良いコーヒー屋を見つけたんだ、うまかった。」

「ふーん、あたし置いて、あんた一人で行ってきたんだ。」

いや、お前が行かないと言ったんじゃねーか。

「そこの特製チーズケーキ買ってきたんだけど、食べるか?」

と言うと、由紀はようやくこっちを向いた。

「チーズケーキ?」

声がちょっと柔らかくなった。

「食べ物で買収されると思わないでよ。」

はぁ、意味わからんし。

 

「食べない?なら、冷蔵庫しまっとくけど。」

由紀は口をもごもごさせながら思案を始めた。

ダイエット、痩せなきゃ、でもチーズケーキ、でも夜中。などという声が聞こえる。

 

「しまっておこうか?」

と言うと、由紀は

「いいよ、もう、食べる。どうせ君だけ食べてきたんでしょ、ずるい。」

と言った。

なにがずるいのかわからんが、

「はいはい、では、ご用意しますよ。お姫様。お皿は何処ですか?」

と、俺が言うと、

「台所、シンクの隣。」

あぁ、はいはい。

俺は皿を2枚用意すると、それぞれにチーズケーキを乗せ、フォークも揃えて、戻った。

「はい」

そう言って手渡すと、

「あ、君も食べるんだ。」

と言った。

あぁ、食べるよ、食べるとも。人が食ってるの見たら食いたくなるじゃないか。

 

とまれ、由紀は覚悟を決めたようで、別容器に入っていた林檎のソースをチーズケーキにかけ、

「いただきます」

と言うと、一匙すくって口に入れた。

「はあぁぁ、おいしい」

由紀はうっとりとした顔をして言った。

「なあ、うまいだろ。これ。由紀はチーズケーキ好きだったから、食わしてやろうと思ってさ。」

「うん、おいしい。でも、ちょっと黙ってて。」

由紀はそう言うと、一心不乱に、でもゆっくりと味わうように、チーズケーキを食い始めた。

俺も食べる事にする。

 

しばらくして、俺が食い終わってから、由紀も食い終わった。

 

「ごちそうさまでした。」

由紀はそう言って手を合わせた。

が、由紀は俺の方を向くと、

「ネェ、食べたりない。」

と言った。

と言っても、もう、俺も食っちまったし、さすがに店はもう閉まっている。

 

「いや、もう、無いし。店も閉まってるし。」

と言うと、由紀は頬を膨らませた。

「やだ。」

そう言うと、由紀は俺に飛びかかってくると、俺の頭を押さえつけ、自分の唇を俺のそれに押し付け、俺の唇を舐めまわした。

 

しばらくして、由紀の唇が離れた。

「お、おい、由紀!」

俺がそう言うと、由紀は

「チーズケーキの味がする。でも、まだ足りない。」

と言って、再び唇を押し付け、俺の口の中に舌が入ってきた。

そして、口中や舌といったあらゆる箇所を舐め始めた。

 

由紀。

 

俺は由紀を抱きしめると、由紀の舌に己のそれを絡ませた。

 

その後、むちゃくちゃSEXした。




シン・ゴジラ対カンムスを書いていたら、ふと食べ物の話が書きたくなり、なんか書きたくなって書いてしまいました。
まぁ、R18に出来なくもないんですが、あえて一般向けで書いてみました。
続きのR18版が読みたかったらリクエストください。

これから二人は付き合っていくのかは知りません。
続編は書きませんが、俺と由紀という二人の話は書くかもしれませんが、同名の他人です。

著者は知らない街に行くと、夜中に出歩きたくなります。
そんで、夜中にコーヒーが飲みたくなります。
でも、夜中にコーヒー出してる店って少ないんだよね。
なお、店名と実在店舗とは関係ありません、たぶん。
違っていても怒らないでください。

思ったよりアクセスがあったり、評価もされているので、こんな話をまた書いてみようかなと思いました。
次はモーニングコーヒーをお題に書いてみようかなと思っています。

ネタばらしのコーナー。
積極的に元ネタをばらしていくスタイル。
長崎・南蛮茶屋(実は名前を間違えて付けた)
東京・大坊珈琲店(閉店、涙)
東京・古瀬戸珈琲店(知人にここでしょと言われた、だからモデルは一つだけじゃないと)
名古屋・ペギー珈琲(さて、どこの部分のモデルでしょうか)
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