龍燕はカズマを連れてウィズの店を訪ねた。ウィズは墓場に出現する歩く屍を退治するというクエストを受けた際に、墓場で知り合った人だ。初めて見た時から龍燕は気配で人ではないことに気づき、それをアクアが浄化魔法で退治仕掛けようとしたが龍燕が止めに入り、事情を聞いたりとして仲良くなった。
ウィズに会いに行く理由としては、カズマに何か良いスキルがないかを聞き、あれば伝授させてもらいたいと思っている。その際龍燕もこれは良いなと思えば一緒に覚えたいと考えていた。カズマは幅広くスキルを覚えているが、龍燕の場合は眞炎流があるため気になった魔法は初級のスキルを一通り覚えた。他から見れば中級からだがカズマと同じく使いようによっては初級でも十分に役に立つし、龍燕的には戦闘以外でよく役立っている。
「こんにちは」
「いらっしゃ、あ、龍燕さんにカズマさん。久しぶりです」
ウィズが笑顔で迎えた。
「今日はな、何か良いスキルがないなと聞きに来たのと、何か良い品がないかなと、その二点で来た」
「そうですか……ええと、アクアさんはいませんよね?」
少し身体を震わせながら聞くウィズに龍燕は答える。
「今日はバイトがあるとかでな。ならここには今日行こうと決めてきた。また浄化の魔法をウィズに掛けかねないからな。他の仲間もそれぞれに動いているから問題ない」
「そうでしたか。正直言いますとホッとしました」
ウィズは安心したようで笑顔を取り戻す。
「へぇこの棚のって全部魔道具?」
カズマが棚を見回し、小瓶を一つ手に取る。
「はい、そうですよ。あ、それは強い衝撃を与えると爆発しますので気を付けてくださいね」
「えっ?」
カズマは手に取っていた小瓶を慎重に元の場所へ戻す。
「そうなんだ……。こっちのは?」
先程戻した小瓶の、右隣に並ぶ小瓶をカズマは指差す。
「それは温めると爆発します」
「じゃあこれは?」
さらにカズマは隣の列を指差す。
「フタを開けると爆発します」
「これは?」
「水に触れると爆発します」
「……これは?」
「温めると爆発を」
その二人のやりとりに龍燕は気になったことをウィズに聞く。
「ウィズ?ここは爆発する魔道具の店?それともたまたまその棚には爆発する魔道具を置いているというだけなのか?」
「は、はい。その棚は爆発する系のが置いてあります。他の棚には他の魔道具がありますよ」
龍燕はそうかと返し、それからとさっきの話に戻した。
「ええと、何か良いスキルがないか?」
「スキルですか。そうですね……一通りお見せしますので、好きなものを覚えて言ってく
ださい」
二人はわかったと返すとウィズは一つ目は……と呟き、ハッとした顔を見せた。
「……すみません。私のスキルは相手がいないと使えないものばかりで、つまりせの……」
「そうか、相手が必要になるんだな。なら俺に試してくれて構わない。それで試す技は?」
「すみません。ええと、ドレインタッチと言います。効果は相手の体力や魔力を吸い取ることが出来ます。また相手に分け与えることも出来ます。では握手で」
「わかった」
龍燕は手を差し出し、それをウィズが握った。
「ドレインタッチ……どうですか?」
「……どうかな、多分吸われていると思う。……体力とかありすぎてそれほど感じていないだけかな?」
龍燕の体力は周りに比べると規格外なほどあるため、多少程度の減り具合では変化がよくわからなかった。
「ではもう少し強めにやってみますか?」
「あぁ構わない。……お、今のは感じた」
「龍燕さんは凄いですね。結構吸ったんですが…あのベルディアさんを倒したと聞きましたが、何だが頷けるような感じがします」
「頷ける、か。その言い方だと知り合いだったのか?」
龍燕はウィズがベルディアと友人だったら……と思ってしまった。
「私も魔王軍の幹部の一人でしたので顔見知り程度でしたが……ベルディアさんは滑ったとか言って自分の頭を転がして……私のスカートの中を何度も覗いてくる人でした」
ウィズの話に龍燕とカズマはそんな人だったんだなと軽く思った。
「そうだったのか、気づくの遅れたと頭を蹴り飛ばしてしまいましたとかなら笑い話だがな。向こうも覚悟してやっていただろうしな」
「あぁそうですね。……なんだか面白そうです」
龍燕の言葉にウィズは笑いながら小声で呟いていた。
「そういえば今、魔王軍の幹部の一人でしたとか言わなかった?」
「はい、言いましたよカズマさん」
カズマの問いにウィズは笑顔のまま頷き返す。
「これは内緒だな、アクアに聞かれたら真っ先に襲いに来るだろう」
「そうなんですか?」
「アクアは……まぁアレでも一様女神だからな」
「女神だったんですか」
驚きのあまりないウィズの言葉に龍燕は予想していたかなと思った。
「まぁそうだ。よし、記録完了。カズマも出来たようだな」
「おう」
カズマは満足そうに龍燕に返す。
「ごめん下さい、ウィズさんはいますか?」
老人がウィズを訪ねてきた。
「さて、着いたな」
龍燕達は今、古い屋敷の入り口にいる。これから住み込みで霊を祓う為だ。しかし家賃いらず、必要最低限の家具などもある。冬越し間近となっていたため、この任務は良い話だと思いすぐに受けた。
前にウィズの店に行った際に後から来た老人は住居の売買をやっている人で、この物件に現れる攻撃力はないものの驚かしやいたずらをする幽霊が祓っても祓っても次には憑かれる、有名な幽霊屋敷で困ったその老人はウィズにお願いをしに来た。そこで龍燕とカズマは住み込みを条件に受けさせてほしいとこちらから願い出たのだ。
「さて入るか」
楽しみそうに言う龍燕に皆がアクアはどうする?と聞く。アクアは入り口に着いたと同時に何かをぶつぶつと……小さくはないが長々と呟いていた。
「まぁ……気にせずに入るか。腹が減ったら自分からお腹減ったから何か作ってと言いながら来るだろう」
「ん……確かにそうだな」
「ですね」
龍燕達はアクアを一人入り口に置いて屋敷に入った。
「中は少し……いや結構汚れているな。部屋を決める前に掃除を手分けしてやらないと駄目みたいだ。とりあえず今日は最低限場所を絞ってやって、明日は本格的にやろう」
龍燕の言葉に皆が頷き返す。家具や階段の大きな手摺も誇りが厚く被っていたり、また床も汚れていたり、脆くなっているところもあった。
「わかりました。それでどこを掃除します?」
「そうだな、俺は台所をする。皆は広い部屋を頼む。今日はその部屋で過ごそう。それから時間がありそうなら玄関と一階廊下、厠をお願いする。二人も頼む」
龍燕の両籠手からそれぞれ炎が溢れ出て、暁と煉に変わる。
「二人には風呂場と脱衣室を見つけて、そこを主に頼む。俺は台所の掃除の後そのまま料理をやるから料理が完成したら今日の掃除は終わりにする。そしたら煉と暁は配膳を手伝ってくれ。では頑張ろう」
おう!と皆は声を上げて作業に入った。
それから皆で手分けして掃除を行って、夕方。龍燕は料理を終え、ダクネスとめぐみんに掃除してもらった部屋に綺麗にしたテーブルと椅子を準備させ、暁と煉に食器を、龍燕は土鍋と深く大きめの鍋を持って濡れた手拭いを丁度よいの台に敷いてのせた。そこで龍燕ははっと気づいた。
「…忘れていたな、アクアを」
その言葉に皆もそう言えばと口を揃えた。
「アクアはまだ入り口でぶつぶつと何か言っているのか?」
「あれから続いて言っていたなら喉が、口が渇くと思うが……暁と煉は皆に配膳してくれ。俺はちょっとアクアを呼んでくる」
「はーい」
「わかった」
龍燕は配膳を二人に任して、玄関を出て入り口へ向かう。やはりアクアはまだ何かを言っていた。喉は渇かないのか?と思いきや、アクアは自分の魔法で出した水をコップに入れぐいっと一飲み。そしてまた言い始めた。どうやらそれを繰り返しているようだ。
「アクア、皆は掃除を頑張ったが……お前は何かしたか?」
「えっ龍燕?!」
「まさか……サボるためにやっていたんじゃないだろうな?もしそうなら……夕飯はいらないよな?」
そう言い龍燕はアクアに背を向けると、その背中にアクアは涙目で飛び付いた。
「サボりじゃないわ!サボりじゃないの!だから夕飯をちょうだい!くださいっ!お願いしますっ!」
言葉とともにアクアの腹からぐぅーと鳴る。龍燕は軽く笑い振り返る。
「明日は本腰入れての掃除だ。そうなるとカズマと俺のちょっとした水魔法では全然足りないからな。バケツごとに出して、皆と一緒に掃除……出来るか?」
「出来る!出来るわ!私に任せて。だからご飯をたべましょう!」
「あ、ああ。じゃあ夕飯としよう。明日は頑張ってくれよ」
アクアは大きく頷いた。
二人は食堂に入り席につく。龍燕は入り口から見て左奥の席。その隣にめぐみん、ダクネスと座った。反対の右奥の席からカズマ、アクア、暁、煉と順に並んでいる。
「これはうまいな。なんという料理なのだ?魚を使っているようだが」
「それは鯛飯だ。俺が住んでいた国の海側の地域で祝い事の時によく作られる料理だ。他にもその輪切りになっているのは太巻きと細巻き。どちらも寿司料理だな。魚の手持ちは少ないが作ってみた。他にも、この汁物は豚汁。具沢山で旨いぞ」
皆はおぉと声を上げて食べていく。
「なぁ龍燕。この料理……日本のじゃないのか?」
「ん、いや羅暁の料理だが……似てるのか?」
「似てるというか、同じだ。ただ、凄く旨い」
カズマも鯛飯をガツガツと食べる。
「それはよかった。皆、思う存分食べてくれ」
龍燕もおかわりをしながらたくさん食べた。
夜中。風呂を済まし、女子男子とそれぞれ分かれて部屋を仕切って寝る事にした。
「良い風呂だったな」
「あぁ、久しぶりに体を休められた気分だよ」
久しぶりの敷布団に寝転がりながらカズマは幸せそうにしていた。
「まさかこの世界で敷布団に寝られるとは思わなかったよ」
「んー確かにな。宿にも止まった事もあったが皆寝台ばかりだったからな。たぶん下に寝ると言う考えがなかったんだろう。俺的には寝台よりもこっちの方がいい」
敷布団に龍燕も寝転びながら伸びをする。
次の日は予定通りに掃除をして行く。天気も良いため布団なども良い感じに干すことが出来た。
そして夜。この屋敷に幽霊騒動が起こった。