ストーリーの切りがいいところまで書こうとした結果、ここまで時間がかかってしまいました。
文章量も普段の倍近くあります。また、今回は会話文多め、独自設定のオンパレードなので、予めご了承ください。
それでは、本編をどうぞ。
ビィーッ
母さんから『国家機密を話す』という爆弾を落とされてから数分後、個人研究室に来客を告げるブザーが鳴り響いた。どうやら管理官と随伴の代表候補生の人が到着したようだ。
受付からの連絡を受けた後、話し合いの準備の為にデスクに座りっぱなしで何か作業をしていた母さんが即座にロックを解除して扉が開くと、いつも通りびしっとスーツを着こなした管理官と、随伴の代表候補生らしき白を基調としたIS学園の制服を纏った同年代の女性が入室してくる。
「失礼します、アリス博士」
「失礼します」
管理官・随伴代表候補生の順で挨拶をすると、管理官は部屋の入り口付近で待っていた俺とセシリアを一瞥してからこう言った。
「ウィルソン代表候補生がいるのは当然として、オルコット代表候補生も到着しているようでなによりです」
「重要な話があるという事でしたから、出来る限り急ぎましたの。御心配には及びませんわ」
「それは重畳。――今の内に紹介しておきます。彼女は代表候補生のサラ・ウェルキン。オルコット代表候補生は知っていると思いますが、年齢としてはあなた達の一つ上で、現在IS学園に通っています。春季休暇で帰省してきたばかりですが、本人の希望もあって今日は随伴してもらいました」
「紹介を受けました、代表候補生のサラ・ウェルキンです。アリス博士とセシリアさんは久しぶりになりますけど、ウィルソン君とははじめましてになるね。よろしく」
サラさんは俺とセシリアに一言ずつ挨拶をすると、初めて会う俺に握手を求めてきた。
「半年ぶりになりますわ、サラ先輩。お元気そうでなによりです」
「久しぶりね、サラちゃん。思ったより元気そうでよかったわ」
「……よろしくお願いします、サラ先輩」
再会になるセシリアと母さんは気軽にあいさつを交わしていたが、俺の方は初対面なので緊張しながらサラさんに挨拶をしてから握手をする。
「初対面のウィルソン代表候補生とウェルキン代表候補生の面通しも終わったようですし、座って腰を落ち着けましょう。今から話す事柄は、立ち話で済ませられるレベルではありませんから」
そう言って管理官はソファの方へと向かっていく。
「確かにそうね。皆、座ってちょうだい」
今から何を話すか把握しているらしい母さんも準備の為にPCと接続していたと思しきタブレット端末を手に取り、管理官と同じようにソファの方へ移動していく。
「「「わかりました」」」
何を話すか把握している二人が早々に移動したので、俺達代表候補生3人もソファへ向かう。
上座側に管理官・母さん・サラ先輩の順番で座り、下座側にセシリアと俺が座る。
「まずはじめに注意しておきます。今から私が話す事柄は、ウィルソン代表候補生の試験結果を除いて国家機密事項となりますので、決して口外しないでください。情報の漏洩が認められた場合、身柄の拘束と代表候補生の資格剥奪、ならびに査問委員会による裁判と数年間の監視をつけさせてもらう事になるので、そのつもりでいてください」
全員が着席すると、管理官が今から話す事柄についての注意事項を述べてきた。
「かしこまりました」
「覚悟しておきます」
管理官とサラさんが到着する前に母さんからその事は聞いていたので、既に腹は括っている。後はどういった情報かを聞くだけだ。
「よろしい。では、今回の話の発端であるウィルソン代表候補生の入試結果から通達します。実技試験については申し分なく、筆記試験についても教科ごとに得点のムラはありますが総合得点では十分な点を得ており、入学試験は合格。4月からはIS学園に通う事が出来ます。……おめでとうございます、ウィルソン代表候補生」
「色々大変だとは思うけど、頑張りなさい、アル」
「おめでとうございます、アル。4月からは同じ学園に通う事が出来ますわね」
「合格おめでとう、でいいのかな?」
「ありがとうございます。管理官、母さん、セシリア、サラ先輩。これからも色々と迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくお願いします」
試験結果を通達した管理官に始まり、母さん・セシリア・サラ先輩がそれぞれ祝辞を述べてくれたので、簡単にあいさつを返す。
セシリアが入試に合格した事は入試直前に話をした時に聞いていたし、実質的には女子高であるIS学園に通うとなれば色々と苦労するのは目に見えているが、それを差し引いたとしても3年間は普通の高校生に準じた生活を送る事が出来るのがうれしかった。
「そう言っていただく必要はありません。我々もウィルソン候補生には感謝していますから。――本来ならばしばらくそうしていただいても構わないところですが、我々にも予定があるので本題に入らせていただきます」
「あ、はい、解りました」
浮かれそうになったところで管理官から本題である国家機密の通達に入ると言われたので、気を引き締め直す。
「アリス博士、
「わかりました。――二人とも、これを見てちょうだい」
母さんはタブレット端末を操作してから俺とセシリアの間に端末を置くと、空間投影モードに切り替わったタブレット端末上に1機のISの姿が
最初に目を引いたのはISアーマーのデザインだった。端末に投影されている機体のISアーマーはブルー・ティアーズの物をより実戦向けに調整したような形状をしており、それだけでBTビームと
だが、それ以上に目を引いたのは腰部後方に浮かぶ
一目見ただけで大出力スラスターユニットである事が理解できる大型
特殊兵装の
一定時間ごとにビットはパージ・攻撃・格納の動きを繰り返しているが、その内訳は4機がティアーズと同じ射撃型のビット、残る2機はクリスタル状の自律稼働用大型コンデンサのみが浮遊しており、時折BTビームを膜状に展開して機体本体を守っていた。
頭部に装着されているハイパーセンサーも感度を高める事を目的にしているからか、通常のレンズ状のメインセンサーだけでなく触角を思わせる2本のサブセンサーを備えている為、機体全体のデザインと合わせて蝶のような印象だった。
イギリスはアラスカ条約締結後に行われたISコア分配時の話し合いでかなりうまく立ち回った結果、一般的な国に分配されている倍の数である4つのコアを所有しているので新たに専用機を造る余裕は存在するが、事が起こった際の国土防衛に支障をきたさないか心配になってしまう。
「……新型機、ですか?」
「ティアーズとブレードを混ぜて防御寄りにした様な機体ですね。製作予定の機体ですか?」
「違います。この機体の名はサイレント・ゼフィルス。あなた方も使用しているイギリス製第3世代機、通称ティアーズ・モデルの試作二号機です」
俺達がこの機体についての考えをそれぞれ口にすると、管理官は真面目な表情のまま機体名と簡単な解説をしてくれたが、その内容はにわかには信じがたいものだった。
「試作二号機、ですか? わたくしのブルー・ティアーズと、アルのスカイ・ブレードの間に造られた機体があったとしても不思議ではありませんが、新たな機体の専属操縦者の選抜試験が行われたという話は聞いた事がないのですが」
「それに、セシリアとブルー・ティアーズの発表記者会見が行われた後は俺がISを起動させるまで大々的な発表記者会見そのものがありませんでした。専属操縦者が決まっていなかったにしても、最新鋭機である第3世代型の機体の存在が一般に公表されていないのは不可解なんですが」
第一回モンド・グロッソの盛況によってISの存在が世間に受け入れられた後、国家代表や代表候補生の人達がタレント活動をするようになってからはISに興味を持つ人達も劇的に増加した事もあり、どの国でも専用機・量産機を問わず新型のISがロールアウトすると、その機体を世間に発表する為の大規模記者会見が行われる事が半ば通例と化している。
当然俺のスカイ・ブレードとセシリアのブルー・ティアーズもその例に漏れず、ロールアウト後の発表記者会見は行っている。
セシリアが専属操縦者となっているブルー・ティアーズがロールアウトした時には『世界で初めて実用化された第3世代型IS』という事もあって、機体のデモンストレーションを含めた最大規模の記者会見が国内のマスコミだけでなく国外のマスコミも招いた形で行われていたし、俺が専属操縦者を務めているスカイ・ブレードについても俺という『男性IS操縦者の発表』の場で一緒に行われたので国内外のマスコミが多数集まった為、機体のデモンストレーションこそないが発表記者会見の規模としてはかなり大きな方だ。
これが後発で新世代機を完成させた国の発表記者会見だと規模としてはもう少し小さくなり、搭載されている特殊兵装の発表が主になってくるし、量産機の発表となるとそもそもデモンストレーションを行わないパターンも多くなるが、どのパターンでも発表国の国内のマスコミだけでなく国外のマスコミも多少なりとも訪れてくるので、世間がどれほどISに興味を示しているかがよくわかる。
無論、国によっては独自のISを開発する下地である財力や技術力を持っていない国もあるので、そういった国は割り振られたコアも1つだけの場合が多いし、その手の記者会見とも無縁だが、そのかわりにISの開発能力が高い任意の国から量産型ISの筐体を輸入、自国に割り振られたコアを搭載して使用しているので、他国の情勢にはかなり敏感だ。
そんな国も存在する中で、このサイレント・ゼフィルスという機体だけが発表記者会見を行っていないというのは、あまりにも不可解だった。
「あなた達の疑問はもっともな物なので、順を追って説明していきます。――昨年12月にゼフィルスはロールアウトしたのですが、この時既に専属操縦者はブルー・ティアーズの専属操縦者選抜試験で次席だったウェルキン代表候補生に内定していました。ウェルキン候補生は現在進行形でIS学園に通っているので、機体の完成後はIS学園へ移送し、最低限の稼働データを収集した後で完成発表記者会見を行う事も決まっていたのですが、機体完成の情報その物が漏れていたらしく、日本への移送作業の最中に所属不明のテロリストによって襲撃を受けた結果、コアごと機体を奪われました。その為、テロリストの逃走を許した時点で機体の登録を抹消。関係者一同の間に緘口令を敷いた上でこの機体に関する全ての情報を隠匿したので、機体の存在が公表される事もありませんでした。完成発表記者会見が行われていない理由に関しては、全ての作業が順調に行われていた場合、ウェルキン代表候補生の冬期休暇中の帰省に合わせて記者会見を行う予定だった事も理由の一つとなりますが」
淡々と当時の事情を説明してくれる管理官だが、その声色には普段は感じられない怒りの感情が多分に含まれていた。
「あなた方にこの件を話した理由は、今後行わなければならない渡日に合わせた類似手口によるテロリズムと専用機強奪への警戒を促す為です。不確かな情報ではありますが、ISを強制的に除装させる機器を開発している国もあると聞きます。我々政府も日程の調整も含めた相応の対策は行いますが、お二人も警戒を怠らないようにお願いします」
「「――っ!?」」
確かに手口が解っていれば対策を講じやすくなるので情報の提供は助かるが、それ以上に話の内容が凄まじい物の為、俺もセシリアも驚きのあまり何を言っていいかわからなくなってしまう。
「事情を知ってもらった今だから話せる事ですが、ウィルソン候補生が特別入試の為に渡日する時にかなり物々しい扱いだったのはゼフィルス強奪事件という前例があった事も理由の一つです。我々からすればIS絡みで一度テロの被害に遭った経験がありますので、テロ対策として国外移動の際はああいった扱いになる事はご了承ください。これはオルコット代表候補生にも言える事なので、お二人とも渡日の準備を終えたら一度私に連絡を入れてください」
「あー…………そういう理由があるなら納得です。連絡の件も了解しました。俺も自分からテロに遭いたいとは思いませんから」
男性IS操縦者という希少な人材の護衛だけではなく、俺が使う機体であるスカイ・ブレードまで守るつもりならばああいった物々しい扱いになるのも理解できるので、ここは素直にうなずいておく。
「――わたくし個人としてもそういった事情があるのなら了承しておきますが、今までの話を聞く限りだとサラ先輩が随伴してきた理由がないように思えます。管理官、本日先輩が随伴してきた理由を尋ねてもよろしいでしょうか?」
「オルコット代表候補生の疑問はもっともなので、ウェルキン候補生から直接話してもらいます」
そう言って管理官はサラ先輩を一瞥すると、先輩は一度うなずいてから俺をまっすぐ見つめながら喋り出した。
「今日私が管理官に随伴した理由だけど、公私一つずつの目的を果たす為なの。公的な目的としては、管理官からの依頼をこなす為。私的な目的としては、アルバート君と直接会ってスカイ・ブレードについての話をしたかったからなの」
「スカイ・ブレードについての私的な話、ですか?」
「ええ。それについては後で話をさせて。まずは公的な目的である管理官からの依頼について説明していくけど、10日前に管理官からアルバート君が機体に搭載されている特殊兵装を実戦で使用可能になるレベルまでコーチしてくれって頼まれたの。その時にセシリアさんと模擬戦をした時と特別入試で山田先生と模擬戦をした時の戦闘映像を見せてもらったんだけど、アルバート君は基礎機動の習熟にかなりの時間を割いたみたいだから、使用訓練をしていない特殊兵装はどちらの模擬戦の時も全く起動させなかったでしょ? 特殊兵装を使わないんじゃ第二世代機と変わらないから、その点を改善させたいっていう連絡を管理官から貰って、こうして帰ってきたわけ。ここまではいいかな?」
俺の疑問を一度退けてサラ先輩が告げた管理官からの依頼内容は、当然といえば当然の物だった。
今までIS操縦の基礎を固める事を第一に訓練に取り組んでいた為、第3世代機最大の特徴である特殊兵装についてはスペックと操作適性の確認こそしたものの、使用訓練その物に関しては全く行っていなかったのだ。
個人的には基本的な操縦を一通り覚え終わった後で特殊兵装の使用訓練を行おうと考えていたので時期尚早な気もするが、せっかく手配してくれた伝手を使わない理由はないので、素直にうなずいておく。
「大丈夫です」
「それじゃあ、続きの説明をさせてもらうわ。ライジングブレードに関しては使うタイミングと発動時の振り方が主だから私一人でも十分教えられると思うけど、ビット関係は操作方法を含めていろいろと複雑だから、私よりも高い適性があるセシリアさんにも協力をお願いしたいんだけど、大丈夫かな?」
「ええ。わたくしもアルが特殊兵装を使用していない点は気にかかっておりましたので、協力は惜しみませんわ」
「ありがとう、セシリアさん」
訓練補助の依頼を受諾したセシリアにお礼を言うサラ先輩だが、彼女の今の話し方からすると、ビットどころかトンデモ最終兵器のライジングブレードすら適切な運用方法を知っている口ぶりなのが気にかかる。
「サラ先輩。随分とスカイ・ブレードに詳しいみたいですけど、何か理由があるんですか?」
「ええ。これは私的な目的の方にも関係してくるんだけど、単刀直入に言うわ。アルバート君が起動させなければ、スカイ・ブレードは私の専用機になっていたはずなの」
「あ……」
俺の質問に静かな口調でそう告げてきたサラ先輩の一言は、今の今まで考えつかなかった代物だった。
スカイ・ブレードは第3世代型の機体なので、機体のロールアウト前に専属操縦者の選抜試験が行われていたとしても何らおかしくない。
それどころか未だ実験機の側面が強い第3世代型ISの事を考えると専属操縦者の資質に合わせた機体の製作を行うべきなので、専属操縦者が先に決まっていた方が自然だ。
「もっとも、キミを恨んだり妬んだりといった気持ちはもうないから安心して」
「……それは、おかしいでしょう? 専用機がどれほど貴重かなんて、ISの知識が少しでもあれば誰でも理解しています。それを横から掻っ攫われて平然としてるなんて、ありえない。本当の事を言ってくださいよ」
今に至るまで一切説明されていなかったとはいえ、サラ先輩からすれば、俺の存在は栄えある専用機を何も言わずに横から奪っていった
そんな憎き男を目の前にして出会い頭に罵声の一つも浴びせず、平然と受け入れている時点でサラ先輩の態度は明らかにおかしかった。
「確かにワールドニュースで君の事が報道された時は驚いたし、その後で管理官からスカイ・ブレードが君の専用機になった事が決まったっていう連絡を受けた時は君に対していい感情を持っていなかった事は認めるわ。でも、『ただの女の代表候補生』と『世界でたった二人しか確認されていない男性IS操縦者』なら政府としては後者を優遇しておいた方が色々な利益を得る事が出来るのは目に見えているし、私程度が文句を言ったところで政府の決定は覆らない事が理解できない程頭が悪いわけじゃないからね。その場では管理官からの通達を受け入れておいたわ」
サラ先輩は当時の事を思い出してそう言うが、裏を返せばその時は俺がスカイ・ブレードを使う事を認めていなかったという事だ。一体何が彼女の意識をここまで軟化させたのだろうか?
「それから時間が経って、10日前に管理官が君の訓練を依頼してきたの。その時に渡されたセシリアさんと山田先生を相手にした君の模擬戦の映像を見せられて、いい意味で驚かされたわ。様々な条件が重なった結果とはいえ、ISを起動させてから僅か3日でセシリアさんを相手に全武装を破壊して投了させ、2週間で手加減されているとはいえ学園の教師の中では上から数えた方が早い山田先生を追い詰めかけている。その二つの結果だけでアルバート君の近接格闘戦における資質はオールラウンダーの私以上である事は否応なく理解させられたし、機体との相性も私以上に高い事は理解出来たわ。念の為に山田先生に君との模擬戦の事を尋ねたら、近接格闘戦に入ってからはかなり本気を出していたみたいだし、あのまま続けていたらブレードの損耗が限界を超えていたかもしれないと言っていたの。山田先生に本気を出させる事自体が珍しい事だし、同じ条件でそこまでの損耗を与える事が出来るかと問われたら首を横に振るしかないから、君の事を認めたわけ。納得してくれた?」
つまり、映像記録を見て俺がスカイ・ブレードを使った方がいいと判断したのか。
「……そういう事なら、納得です」
先輩の事情は理解できたのだが、横から専用機を奪っていったという事実そのものは消えないので、どうしても負い目を感じてしまう。
「ありがとう。そうして心の整理がついた後で映像を見返していたら、管理官の指摘通り特殊兵装を全く使っていなかったものだから、もったいないと思ったのよ」
「もったいない、ですか?」
代表候補生の人から見れば俺の模擬戦なんて無駄の塊なのは言われなくても理解しているので、オウム返しに問いかけてしまう。
「ええ。自己学習の結果なんとか形になっているだけの基礎機動と、今まで積み重ねてきた篠ノ之流の修練による剣術、その篠ノ之流という下地を利用した織斑先生の戦闘機動を僅かにトレースした動きの3つだけでここまでの成果を挙げる事に成功したのなら、もう少し時間をかけて特殊兵装を実戦で使えるようになっていれば、山田先生の時みたいな実力勝負になっても対戦相手を上回る事が出来たんじゃないかってね」
「……本当にそうでしょうか? 随分と俺の事を買ってくれているみたいですけど、過大評価のし過ぎでは?」
たとえ基礎機動の習熟が終わり、特殊兵装を使用可能になっていたところで勝敗そのものに影響を及ぼすとは思えないのだが、そこまで変わるものだろうか?
「過大評価かどうかは、第三者である管理官達に君と山田先生の模擬戦の映像を実際に見て決めてもらいましょう。管理官、博士、セシリアさん、ご協力をお願いできますか?」
「アルがIS学園の教諭を相手にどういった模擬戦をしていたのかは興味がありますから、わたくしは構いませんわ、先輩」
「模擬戦の映像その物を見た事がないから興味あるし、私も構わないわよ、サラちゃん」
「映像の一部始終を見た経験はありますが、私もお二人に同意します。映像データの用意をするので、少しお待ちください」
サラ先輩からの要望をセシリア達は受諾、管理官がゼフィルスの画像を映していたタブレット端末を操作して、IS学園から提供されたと思しき俺と山田先生の模擬戦を第三者の視点から記録した映像を表示させる。
「どういった条件で映像を見るかは知りませんが、厳正な目で見てください。前もって教えておきますが、現状で俺が同時制御できるビットの機数は2機が限度です。ビットを使った戦術を取り入れる場合、その事を忘れないでください。俺から言える事はそれだけです」
ここまでのお膳立てされてしまった以上、この流れを止めるのは不可能だと理解できてしまったので、俺も覚悟を決めて3人を見守る事にする。
それと同時に、より正確な予想をしてもらう為にビットの同時制御の限界数も一緒に伝えておく。
「模擬戦の一部始終を見た後、アルバート君がスカイ・ブレードに搭載されている二つの特殊兵装を使う事が出来ていたら試合の展開がどう変わっていたか、その予想を聞かせてください」
「わかりました。では、映像の再生を開始します」
管理官のその一言で映像の再生が始まったので、3人の考えがまとまるまで待つ事にする。
「――スカイ・ブレードの第二特殊兵装については門外漢なので使用しない事を前提に予想してみたのですが、2機のみとはいえアルがビットを使う事が出来たのならば、最初の武器破壊も上手くいった可能性があるので中盤の射撃戦も結果が違ったでしょうし、最終盤の離脱もビットによる攻撃で離脱速度を遅らせる事は十分に可能であったとわたくしは判断いたしますわ。後は盾殺しに注意しながら戦えば、勝利する事も不可能ではないでしょう」
模擬戦の映像をすべて見終え、5分程が経ってからセシリアが自身の予想を述べてきた。
「オルコット代表候補生の意見に賛成です。加えて言うならば、離脱中にビットで攻撃した隙をついてライジングブレードを発動させた方がいいでしょう。下手に距離を詰めて近接格闘戦を仕掛けた場合、盾殺しをくらうリスクが高まります」
「私も二人の意見に賛成だわ。たとえビットが使えず、ライジングブレードだけが使えた場合でも、先生の離脱中にライジングブレードを発動させて逆転に賭ける事も出来たわけだから、確かにもったいないわね」
管理官と母さんもセシリアの意見に続いてそれぞれの予想を口にしてきたが、奇しくもビットのみ・ビットとライジングブレードの両方・ライジングブレードのみが使える場合となっていた。
「私もビットのみならセシリアちゃんの意見、ライジングブレードのみなら博士の意見、両方が使えるなら管理官の意見と同じ事を言わせてもらうわ。少なくとも、実力勝負になった場合も想定して特殊兵装の使用訓練を行うべきだというところまでは認めてもらえるかしら?」
実力勝負になったら機体のスペック以上に操縦者の技量がモノを言うので、使える手札は多い方がいい。その事を考えると、特殊兵装を使えるようになっておくべきだという意見は聞き入れておくべきものだろう。
「これだけ意見を言われれば、納得せざるを得ませんよ。それに、現時点だと俺よりも特殊兵装について詳しいですから、先輩が訓練の陣頭指揮を執る事も異存はありません」
なので、先輩の言う通り特殊兵装の使用訓練を始める事を了承する。実戦で使用できるまでどれくらいの時間がかかるかわからないが、出来る事なら新学期が始まるまでには使えるようになっておきたいところだ。
「ありがとう、精一杯やらせてもらうわね。――二人にも予定があるでしょうから、訓練を始めても大丈夫な日を聞かせて。私の方でそれに合わせた訓練メニューを作っておくわ」
先輩は一言礼を言った後で俺達の予定を確認してきたので、この後の予定を答える事にする。
「操縦訓練については専用機持ちとしての訓練と1日おきでやっているんで、俺は今日からでも始められます」
今日はちょうどよく機体の操縦訓練を行う日だったので、都合がよかったと言えるだろう。
「わたくしは予定の調整もあるので、早く見積もっても明日からの参加になりますわ。ビットの各種訓練については、明日以降から開始する形でお願いいたします。予定の調整が終わり次第、連絡を入れさせていただきますわ」
だが、セシリアは代表候補生の職務以外に色々とやらなければならない事がある影響で都合がつかないようだ。
「わかったわ。ビットに関しては実戦的な戦術運用レベルになると使い慣れているセシリアさんに任せる事が多くなると思うから、今日のところはライジングブレードの訓練をメインにして、ビットに関しては私が説明できる範囲でやらせてもらうわ」
ビットの専門家であるセシリアが今日の訓練に参加できない為、そうなるのも無理はない。
「了解です」
「お手数をおかけして申し訳ありません、先輩」
「気にしないで、セシリアさん。あなたが忙しい事は重々承知しているから、訓練に参加してもらえるだけで十分ありがたいわ」
セシリアはすなまそうな表情で先輩に謝罪するが、先輩は気にした様子もなくセシリアをねぎらう。
「お気遣いありがとうございます。予定の調整を終わらせて、出来るだけ早く訓練に合流させていただきますわ」
「ええ。連絡、待っているわ。――管理官、一通りの話は終わりましたから、プライベートな行動をさせてもらって構いませんか?」
そうして訓練についての話がひと段落つくと、サラ先輩は管理官に確認を取り始めた。どう考えても、先ほど言っていた『スカイ・ブレードについての私的な話』をする為だろう。
「ええ、構いませんよ」
「ありがとうございます。――アルバート君、さっき言ったスカイ・ブレードについての私的な話、させてもらっていいかな?」
「これからお世話になりますからね。愚痴だろうと何だろうと、好きに言ってもらって構いませんよ」
管理官の承認を得たサラ先輩が先ほど言っていた話をしていいか問いかけてきたので、何を言われてもいいように内心気を引き締める。
「そんなに気を張らなくてもいいわ。私が言いたい事は、たったひとつ。今までの私の話を聞いたからといって、スカイ・ブレードを使う事に負い目を感じたり、気後れしたりしないで。私はあくまでも専属操縦者の筆頭候補だっただけで、本当の専属操縦者じゃないわ。スカイ・ブレードの専属操縦者は、間違いなくアルバート君よ。そこを勘違いして私に対して負い目を感じたり、気後れしたまま機体を使っていたら間違いなく
サラ先輩から告げられた言葉は、ある意味で理不尽極まりないものだったが、それと同時に
ISには操縦者との相互理解能力と自己進化能力が備わっている為、操縦時間が増えれば機体側でも操縦者の特性などを理解していくので自然と機体性能を引き出しやすくなるし、機体との相互理解が一定のレベルを超えれば『
だが、裏を返せば操縦者か機体のどちらかが相手の理解を怠った場合、『形態移行』が発生する確率は極めて低い物になるという事に他ならない。
サラ先輩が危惧しているのは、俺が先輩に対して過度の気遅れや負い目を感じすぎた結果、スカイ・ブレードの意志との間に相互不理解が発生する事だろう。
そうなったら俺にとってもスカイ・ブレードにとっても不都合になるのは目に見えているので、こうして直々に釘を刺してくれているのは容易に察する事が出来る。
この件については、精神的な負担にならないように注意しながら心の整理をつけていくしかないだろう。
「……確かにかなり難しいですけど、出来る限り努力はしてみます、先輩」
「頼むわね、アルバート君」
自分の中で一応の結論が出たのでそう言うと、先輩は緊張した面持ちを解いてそう言ってきた。
「ウィルソン代表候補生、我々政府からもウェルキン代表候補生の存在を秘匿していた事を謝罪をさせてください。あなたがISを起動させた後、政府関係者の間でもウェルキン代表候補生の存在をあなたに通達すべきかはゼフィルス強奪事件の情報開示の可否と共にたびたび論議の的になっていたのです。各種訓練に対して高いモチベーションを保っている現在の状況でそのモチベーションを落とすような話題は避けたかったのですが、特別入学試験をクリアしてあなたもIS学園へ通う事になった以上、ゼフィルス強奪事件の二の轍を踏まずに済む確実な方法はあなた方の操縦技量の上昇以外に考えられませんでした。そして、ウィルソン代表候補生を除いてスカイ・ブレードに最も詳しいのは専属操縦者の筆頭候補だったウェルキン代表候補生となります。彼女と接触を持つという事は、遅かれ早かれスカイ・ブレードの専属操縦者筆頭候補であったと知る事になる。それならば始めからその事を知らせてしまった方がいいと思い、本日随伴してもらったわけです。アリス博士もこれらの事情はご存じだったのですが、守秘義務などがあって今までお話しする事が出来ませんでした。それらを含めて要らぬ心労を与えるような真似をしてしまい、誠に申し訳ありませんでした」
「……いきなり事情を聞かされた時は驚きましたけど、よく考えれば起こり得る事態ですからね。予想してなかった俺も悪かったという事にしておいてください」
それに続いて管理官が申し訳なさそうな表情で政府内の事情説明を兼ねて謝ってきたくれたので、今の自分の気持ちを素直に告げておく。
「お気遣いありがとうございます。今後はこのような事が起こらないよう、細心の注意を払わせていただきます」
「こちらこそこれからもよろしくお願いします、管理官」
政府の人達にはこれからも色々なバックアップをしてもらう必要があるので、挨拶を返しておく。
「かしこまりました。――話すべき内容は全て話したのですが、何か質問はありますか?」
「俺の方も特にはないです」
訊きたい事は話し合いの最中に聞く事が出来たので、改めて質問したい点はない事を告げる。
「わたくしからは特に質問事項はありませんわ」
それはセシリアも同じだったようなので、話し合いはこれで終わりという事になる。
「わかりました。――では、本日の話し合いはこれで終了となります。お集まりいただき、ありがとうございました」
「「「「ありがとうございました」」」」
管理官が最後に一言挨拶をして、話し合いは終了となった。
「それでは、予定の調整の為にわたくしは失礼させていただきますわ。皆様、ごきげんよう」
セシリアは簡潔にそれだけ言うと、管理官達に一礼してから研究室を去っていった。
「では、私も失礼させていただきます。ウェルキン候補生はどうしますか? 一度自宅へ戻るならこのまま送っていきますが」
「ご厚意はありがたいのですが、残ってアルバート君との訓練に入ろうと思います。もちろん、アルバート君がよければですが」
「それは大丈夫ですよ、先輩。よろしくお願いします」
「わかりました。それでは、また何かあったら連絡を入れます。ごきげんよう」
訓練開始を受諾する俺の返事を聞いた管理官は、一礼して研究室を去っていった。
「それじゃあ、私も共同研究室に戻るわね。サラちゃんも訓練が終わったら声をかけてちょうだい、家まで送っていくわ」
「ありがとうございます、アリス博士」
「これ位なんて事はないわ。それじゃあまたね」
サラ先輩にそれだけ言って、母さんも研究室から出ていった。
「じゃあ、私達も訓練を始めましょうか」
「了解です。先輩は着替えがあるでしょうから、アリーナの更衣室を使ってください。俺の方はここで準備する事も出来ますから」
アリーナに併設されている更衣室を同時に使う訳にもいかないので、先輩に使ってもらう事にする。
「その申し出はありがたいけど、いいの?」
「ええ。中にISスーツは着てるんで、服を脱いでシューズを履き換えるだけですから」
その気になれば5分で準備を済ませられるので、色々と時間がかかる先輩に更衣室を使ってもらった方がこちらとしても気が楽なのだ。
「そういう事なら、遠慮なく使わせてもらうわね。それじゃあ、また後で」
「ええ。アリーナ・ステージで待ってます」
サラ先輩はそう言って研究室を去っていったので、俺もガスの元栓などを確認してからISスーツに着替え、アリーナへ向かうのだった。
そんなわけで、今回はここまで。ストーリーが次回に伸びないように考えていたら、いつもの倍近くまで膨れ上がってました。読み辛かったら申し訳ないです。
読者の方々にお聞きしたいのですが、字数が短くても更新が早い作品と更新が遅いけど字数が多い作品はどちらの方が好まれるのでしょうか?
今後の参考にしたいので、ご意見を聞かせてください。
次回の更新もこれくらいかかるかもしれませんが、お待ちいただけたら幸いです。