Infinite Sky:R   作:ショウゴ

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4か月近く放置していて誠に申し訳ありませんでした。
事情説明という名の言い訳はすべてあとがきで綴らせていただきますので、まずは本編をどうぞ。


12 セシリアの欠点 その1

サラ先輩の指導のもと、スカイ・ブレードの特殊兵装使用訓練を始めて5日が経過した。

 

事前に聞いていた通り、セシリアは予定の調整があったので初日と一昨日の訓練には参加できなかったのだが、昨日の昼過ぎにセシリアから研究所に予定の調整が完了したという連絡が入った為、今日の訓練から合流する事になった。

 

それ故、研究所に併設されているアリーナ・ステージでは現在進行形で俺・セシリア・サラ先輩の3名がそれぞれの専用機と量産機のメイルシュトロームを纏って特殊兵装の使用訓練を行っているのだが、訓練を初めて10分ほどで俺は一つの問題に直面してしまった。

 

その問題というのが、セシリアの話してくれる説明が細かすぎる事だ。

 

「――ビットの制御中に懐へ入り込まれてしまった場合、後方へ2メートル移動しながら体を後ろへ32度傾ければ攻撃を回避できるはずです。その後、相手の右斜め下30度か左斜め上50度の位置へ移動すれば反撃を行いやすくなるでしょう。他にも――」

 

今もセシリアは自分の戦闘経験を例にとってビットを交えた戦術と回避機動の説明をしてくれているのだが、その説明内容は異常に細かい為、どのように動けばいいのかをイメージするのが難しく、かえって分かりづらかった。

 

訓練を円滑に進めるならばすぐにでもその事を伝えた方がいいのだろうが、一度も実践をせずにその事を伝えるとセシリアの機嫌を損ねてしまう可能性が高いので、まずは説明を聞く事に集中する。

 

「――説明としてはこれくらいで十分でしょう。それでは、一度説明したとおりに動いてみてください、アル。サラ先輩は仮想敵として動いていただけますか?」

 

そうして集中しながらセシリアの話を聞いていると説明がひと段落ついたらしく、実践してみるように言ってきた。

 

「了解」

「……わかったわ」

 

聞いた説明は全て覚えているので、どのような動きをすればいいかはかろうじてイメージできている為セシリアに了承の言葉を返すが、正直なところあまりに細かな内容を長々と聞いていたので、これからやろうとしている動きと説明してくれた動きが合っているのかは自信がなかったりする。

 

おまけにセシリアは『何故その動きをするのがいいのか』を説明してくれなかったので、機動の有用性については理解が追い付いていない。

 

《……始める前に訊いておくわ。私はセシリアさんが初めに説明した機動の名前を聞いてどうやって動けばいいかは知っているから大丈夫だけど、アルバート君はあの長い説明を聞いていて、どういった動きをすればいいか理解できてるかしら?》

 

セシリアが俺たちの動きを俯瞰しやすいように彼女から距離をとっていると、仮想敵役のサラ先輩から秘匿通信(プライベート・チャンネル)が入ってきた。

 

今から俺がやろうとしている動きは先輩からすれば既知の機動らしいが、長々とした説明を聞いていた事で俺がその機動を実践できるかどうか心配し、確認の為に通信を入れてきたようだ。

 

『曖昧な部分はありますけど、それっぽい動きはイメージできています。後は実際に動いてみて、合っているか確認するだけです』

《君がそう言うならいいけど、これが終わったらセシリアさんには注意しないといけないわね。教えている内容そのものは問題ないのに、説明が細かすぎるわ。これじゃあ話が長くなるだけで、かえって逆効果よ》

 

素直に自分の現状を報告すると、先輩は多分の呆れを含んだ声でそう言った。

 

どうやら先ほどセシリアが話してくれた解説は、やろうと思えばもっと短くする事も出来るようだ。

 

つまり、あの長い説明もセシリアなりの配慮の一環なのだろう。

 

『先輩。説明が長い事を指摘するのは俺としてもありがたいので止めませんが、言い方がキツくなりすぎないようにお願いしますね。説明をもっと短くできるというのなら、長かった説明もセシリアなりに俺へ配慮した結果だと思うので』

《たとえそうだとしても、説明を受ける君に伝わらなければ何の意味もないでしょう》

 

大きく外してしまったとはいえセシリアの配慮を無碍に扱いたくはないのでフォローを入れておくが、正論で真正面から切り返されてしまった。

 

《それに機動の有用性についても説明していなかったから、君もどうしてあの動きをするのがいいか理解できていないんじゃない?》

『……その通りです』

 

おまけに内心の疑問点を指摘されてしまったので、認めざるを得ない。

 

《それについては私から説明してもいいけど、今は機動の実践を優先してもらえるかしら? 急かす形になって悪いんだけど、なるべく早く済ませてセシリアさんに指摘しておいた方がいいと思うから》

『そう、ですね。わかりました』

 

セシリアの説明が長くて分かりづらい点などは隠していてもお互いの為にならないので、その言葉を了承しながら実践の準備としてアリーナ・ステージ中央で待機し始めた先輩から20メートルほど距離をとり、高度差として先輩から20メートルほど上方の位置で停止する。

 

『アル、距離と高度はその程度とっておけば大丈夫ですわ。始めてください』

「了解。先輩、集中するので少し待っていてください」

『わかったわ。準備ができたら教えてちょうだい』

 

セシリアからも開放回線(オープンチャンネル)で距離は十分に取れている旨を伝えてきたので、セシリアと先輩に通信を送りながらビットをコントロールする為の精神集中を始める。

 

現状だとこの精神集中に10~20秒程度時間をかける必要があるのだが、意識の大部分をビットに傾けている関係上ほとんど無防備になってしまうので、今のまま実戦でビットを使おうとすると、精神集中をしている間に相手からの攻撃を受け放題になってしまうのは目に見えている。

 

それを回避する為にはビットをひたすら使い込んでコントロールに慣れ、最低でも精神集中に必要な時間を今の10分の1で済ませられるようにしなければならない。

 

その事はコーチ役を引き受けてくれた先輩とセシリアも承知しているので、ビットの使用に慣れることを第一にした今の段階だと俺の精神集中が終わるまで待ってくれているが、いずれは実戦に近い形での訓練を行いたいところだ。

 

「――お待たせしました、先輩。準備できました」

 

もっとも、それは将来の目標なので精神集中を優先し、20秒ほど時間をかけて集中を済ませたところで先輩に声をかける。

 

『それじゃあ、始めましょうか』

「ええ、よろしくお願いします」

 

先輩の返事に対して一言挨拶を告げてからビットを腰部後方のホルダーからパージし、説明を受けた機動の実践を始める。

 

機動の内容としては、複数のビットを別々の角度から連続で攻撃する基本的なモノだ。

 

仮想敵役の先輩は近接戦用のブレードを展開後、高度を上昇させながら接近してくるが、先ほどまで受けていた説明だけでなく、セシリアと初めて模擬戦をした時にブルー・ティアーズの記録映像を見ていたおかげで反応が遅れがちになる個所は理解できていたので、牽制として左斜め上前方、右斜め上後方からビットを突撃させる。

 

スカイ・ブレードに搭載されているビット《スカイ・エッジ》はブルー・ティアーズやサイレント・ゼフィルスに搭載されている通常のビットと違い、対戦相手に直接攻撃を仕掛けるソードビットなので、対戦相手と接触する機会は他の2機に搭載されているビットよりも圧倒的に多くなる。

 

対戦相手と接触する機会が多くなればビットを攻撃、ひいては撃墜されるリスクも増加する為、スカイ・エッジは設計段階から対戦相手のビットへの攻撃を回避しやすくする事と相手攻撃範囲からの即時離脱を目的として、推進用スラスターも小型ながらそれなりに出力の高い物を搭載しているので、突撃中のビットへの攻撃は余程タイミングが合わない限り難しいだろう。

 

事実、牽制の一撃目を左へのサイドロールで回避した後、姿勢制御も兼ねた後方へのブーストによって二撃目の攻撃も回避した先輩はビットへの反撃をしようとしたが、その頃には近接攻撃が可能な範囲からビットは離脱していた。

 

そして、反撃をする為に僅かとはいえ足が止まった為、追撃として右斜め下後方に移動させたビットをその位置から突撃させる。

 

当然先輩はそれに反応して迎撃姿勢を取るので本命としてビットを斜め下背後に移動させ、先ほどと同じように突撃させる。

 

『そこまで!! アル、ビットを止めて!! 先輩は離脱を!!』

「り、了解!!」

『わかったわ』

 

そうして本命のビットが動き始めたところでビットの動きを俯瞰していたセシリアから制止の声がかかったので、急いでビットへ停止命令を送る。

 

先輩も俺がセシリアに返事をするのと同時にビットの攻撃範囲から離脱を始め、それに応えるように停止命令を受けたビットの動きが止まる。

 

『お二人とも、お疲れさまでした。ビットの機動を俯瞰させていただきましたが、動きも先ほど説明した通りのものでしたし、問題はないように見えましたわ』

 

ビットが止まった事で仮想敵役である先輩の安全が確保された事を確認した後、ビットに帰還命令を送ってホルダーへ再度セットすると、セシリアが再度通信を入れながらこちらに近づいてきていた。

 

『私もセシリアさんと同意見ね。加えて言わせてもらうならアルバート君はまだビットの操作に慣れていないから、今のところは操作の習熟と基礎攻撃の機動パターンの学習を優先して、機動精度の上昇については機動パターンを一通り覚えてからの方がいいと思うわ』

 

サラ先輩も自分の意見を述べながら俺のところへ近づいてくる。

 

どうやら二人の反応からすると、先ほどの動きは上手くいっていたようだ。

 

「そうですね。まずは一通りの攻撃機動を覚えながら、ビットの操作習熟を目指そうと思います」

 

実戦でビットを使う為にはその二つは確実にこなさなければいけないので、先輩の提案を了承する。

 

「では、早速次の機動を説明いたしますわ」

「ちょっと待って。アルバート君に次の説明をする前に、セシリアさんに聞いてほしい事があるの」

 

それを聞いたセシリアが次の機動を説明しようとしたところ、サラ先輩がそれを止める。どうやらセシリアに説明が長い事を伝えるようだ。

 

「わたくしに、ですか? いったいなんでしょう、先輩」

「さっきの説明は私も聞いていたから率直に言わせてもらうけど、話が長すぎよ。動きの細かな部分も解説しようとする気概は認めるけど、そのせいで説明が助長になっていて本来伝えなきゃいけない要点の部分が曖昧になっているわ。次に説明をする時は要点を押さえながら話を短くするように意識する事と、『どうしてその動きをするべきか』も伝えるように意識してみたらどうかしら。先ほどの説明は『どう動けばいいのか』だけを長々と伝えていただけで『その動きをする理由』までは言っていなかったから、アルバート君もそこは理解できていないみたいだし」

「あ……。た、確かに機動の有用性を説明していなかった点は認めますが、わたくしとしては先ほどの説明でもかなり内容を吟味して解説したつもりです。具体的にはどこが助長になっていたのでしょうか?」

 

どうやらセシリアは先輩に指摘されて初めて先ほど実践した機動の有用性を説明していなかった事に気づいたらしく、若干顔色を曇らせながら先輩に問いかけた。

 

「具体的な事を言わせてもらうなら、動作内容の説明中に数字を多用しすぎているところね。距離を取ったり体を傾ける時の角度を細かく数字で伝えていたけど、そのせいで説明が長くなりすぎていたわ。今は動作一つ一つの精度よりも全体の機動を覚えてもらう事を優先した方がいいから、距離の取り方や体捌きの説明をする時は細かく数字で伝えなくても大丈夫よ」

「なるほど、次はその点を意識して説明をしてみますわ。今後もなにか気付いた事があったら、遠慮なく指摘していただけると助かりますわ」

 

セシリアは先輩のアドバイスに対して一言お礼を言うと、俺の方に向き直ってからこう言った。

 

「アル、先ほどは解り辛い説明をして申し訳ありませんでした。実を言うとわたくしも他の方にISの操縦を教えるのは初めてなので不慣れな点が多く、これからも先ほどのような説明をしてしまうかもしれませんが、その時は隠さずに教えていただけると助かりますわ」

「了解。これからは説明を聞いて分かり辛かったら言わせてもらうよ。――正直な事を言わせてもらうと、さっきの解説を聞いてた最中には説明が解り辛い事は気がついてたんだ。ただ、一度も実践をせずに早々に指摘してセシリアの気分を悪くさせるのもどうかと思ったから言わなかったけど、隠さずに教えた方がよかったなら気づいた時点で指摘するべきだったな。黙ってて悪かった」

 

真摯な態度で先ほどの説明不足の謝罪と同じようなミスを犯していたら指摘するよう頼んできたのでその要望を了承し、こちらも説明が解り辛い事に気付きながら黙っていた事を謝っておく。

 

「謝っていただく必要はありませんわ、アル。確かに気づいていたなら早々に指摘していただきたかったのは事実ですが、もとをただせば適切な説明が出来なかったわたくしに非があるのですから、気になさらないでくださいな」

「わかった。――確認しておきたいんですが、先輩が聞いてほしい事っていうのは今言った説明の事だけですか?」

 

セシリア本人から気にする必要はないと言われたので気持ちを切り替え、念の為に先輩に他に気付いた事がないか確認しておく。

 

「ええ、今のところ気になったのはそこだけね」

「わかりました。それじゃあセシリア、さっき言いかけた次の機動の説明をしてもらえるか?」

「かしこまりましたわ。――」

 

先輩からの指摘事項は説明の長さ以外にはなかったので、そのまま訓練を再開する。

 

自身の欠点を聞かされて即座に改善できる人間はそこまで多くないのでセシリアはその後も何度か先輩から説明の長さについて指摘を受ける事になったし、表現がわかりづらい時は俺も遠慮せずにその事を指摘した。

 

その甲斐あってこの日の訓練が終わる頃には説明の長さも自然と適切な物になり、セシリア自身も物事を教える事に多少は慣れたようだ。

 

おかげで訓練が終わる頃には俺も基本的なビットの動かし方をそれなりに覚える事が出来たので、俺にとってもセシリアにとっても今日の訓練は非常に有意義なものとなった。




そんなわけで、今回はここまでとなります。

まず、更新が4ヶ月停滞してしまった事をお詫びします。誠に申し訳ありませんでした。
更新が遅れた理由を言うと、11月の下旬頃にPCにトラブルが発生して修理に出さざるを得ず、そのまま年末まで執筆作業そのものが出来ない状態でした。
その後執筆作業を再開したのですが、自分で読み返していてPCトラブル前に書いていた話の展開に違和感を感じた結果、最初から書き直しをする事にしました。
おまけに書き直しをすると決めた直後にリアルの事情で執筆作業に割ける時間が多くとれなくなってしまった上に、モチベーションの低下も重なってしまった為、結果として4ヶ月も更新を放置する形になってしまいました。
現在も執筆作業に割ける時間はそれほど多くないので次の更新もいつできるかわかりませんが、完結させるつもりはあるので気長に更新をお待ちいただけると幸いです。
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