Infinite Sky:R   作:ショウゴ

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またもお待たせして申し訳ありません。予告通り、今回は一夏サイドのエピソードになります。
篠ノ之流について独自設定を突っ込み、原作で語られている織斑家の家庭環境を考えて一夏の性格を若干変更を加えておりますので、ご容赦ください。

それでは、本編をどうぞ。


another prologue side:I

俺、織斑一夏が原因は不明ながらISを起動させてしまい、検査の結果本格的なISの操縦適性がある事が判明した翌日に報道された『イギリスでも15歳の少年がISを起動させた』というニュースを見て真っ先に感じたのは、『俺以外にも同じ境遇になってしまった同性の人物がいる』事に対する安堵感だったが、そのニュースの続報を見ていて安堵感以上の驚きを続けて味わう事になった。

 

まず最初に驚いたのは、報道された『イギリスの男性IS操縦者』というのが小学3年の終わりにイギリスへ引っ越した同性の幼馴染、アルバート・ウィルソンだったからだ。

 

ニュースによればアルの母親であるアリスおばさんは現在イギリス最大手のISメーカーの研究所に勤務しており、おばさんに用事があったアルが研究所に向かい、そこに安置されていた最新鋭のISに興味本位で触れたところ、起動させてしまったらしい。

 

俺も似たような状況でISを起動させてしまったのでISを動かした時の状況についてコメントできる立場ではないのは重々承知しているが、それでも幼馴染がISを動かしてしまった事が信じられなかった。

 

そしてそれを抜きにしたとしても、アルがISを動かしたという証拠VTRを見た時の衝撃は早々に忘れられそうにない。

 

映像はIS用のアリーナらしき場所に動きやすい恰好で待機しているアルの下にISが運び込まれるところから始まり、カメラの前でアルがISのコクピットに搭乗。そのまま上空に数メートルほど浮き上がると、空中に静止して篠ノ之流の型をいくつか行った後で着地、ISの装着を解除するまでが映されていたのだが、衝撃を受けたのは空中で行っていた篠ノ之流の型についてだ。

 

アルが映像の中で行っていた型は刀術を基本に様々な武器を扱う篠ノ之流の中でも基礎中の基礎といえる最もシンプルながら重要な動作ばかりであり、篠ノ之流の師範である柳韻(りゅういん)おじさんや師範代である千冬姉などの篠ノ之流関係者が見れば、それだけで現在どの程度の力量があるかはっきりと見極めてくれるだろう。

 

俺はその領域まで至っていないので現在アルにどの程度の力量が備わっているのかまではわからなかったが、少なくとも動きのキレと柔軟性は渡英以前と比較する必要ない程度には上がっているのが見て取れた。

 

その事実はアルが渡英後も篠ノ之流の鍛錬を怠っていなかった事を如実に表しており、剣の腕も上がっているのは容易に想像が出来た。

 

アルが渡英する直前にあいつとは10本勝負を行った事があったのだが、その時の結果は8勝2敗で俺の勝ち越しだった。

 

だが、俺は思うところがあってここ3年ほどは剣に全くと言っていいほど触れていなかったので腕は相応に錆びついているため、腕を上げた今のアルとその時と同じ条件で戦えば負け越してしまう可能性は否定できない。

 

剣に全く触れていなかったのは、それなりに理由がある。

 

剣を置いた遠因にもなっているのだが、俺には両親に関する記憶が殆どない。

 

何故なら、俺の物心がつき始めた頃に俺と千冬姉の二人が余裕をもって大学を出る事が出来る程の多大な養育費を残して両親が蒸発したからだ。

 

どうして両親がそのような暴挙に出たのかは定かではないが、少なくとも俺達姉弟はそのせいで色々と苦労してきたので蒸発した両親に関する事柄は余程の事がない限りお互いに触れる事はないし、残された養育費も千冬姉がIS操縦者として働き始めるまではやむを得ず利用していたが、千冬姉がIS操縦者として安定した収入を得る事が出来るようになってからは一切手を着けていない。

 

幸いといっていいのか、千冬姉の稼ぎがいいので俺の学費を払ってなお人並みの暮らしはできる位の蓄えはあるのだが、昔から姉に養われている身としては常に無理をさせているような心苦しさを感じていた為、少しでも楽をさせてあげたかった。

 

そんな特殊な家庭事情故に少しでも家計の足しになればと思い、学校にも届けを出して中学入学後に新しくできた友人の祖父が経営する食堂で社会に出た時の予行演習を兼ねて特例としてアルバイトをさせてもらっていたのだが、その影響で鍛錬に割く時間は殆どなくなってしまったため、剣を置く事を選んだのだ。

 

その選択を間違っていると思った事はないが、『昔は勝ち越す事が出来た相手に追い抜かれてしまったかもしれない』というのは地味にショックだった。

 

「一夏、いるな?」

 

そんな風にへこんでいると、若干疲れた声色をしながら唯一と言っていい肉親である千冬姉の声が玄関から聞こえてきた。

 

「お、お帰り、千冬姉」

「ああ、ただいま。すぐにまた出ねばならんが、お前にも色々と話をしておかねばならんからな。そのまま座っていろ」

 

千冬姉はリビングに入ってくるなりそう言うと、ソファに腰を下ろす。

 

「話っていうと、やっぱ俺がISを動かした事絡みだよな?」

「それ以外に何がある。まず始めに、中学に話を通してお前の高校受験の志望校をIS学園に変更させてもらった。理由を簡単に説明すると、お前の実験動物化を防ぐ為だ。これに関しては日本政府も同意し、お前の中学に政府から直接通達がされているから変更するのは不可能だと思え。入試は3日後に行う」

 

念のために話の内容を確認すると、肯定の言葉とともに凄まじく不穏な理由で志望校の変更と入試の日程が言い渡された。

 

「実験動物って、いくらなんでもそれはない――」

「とは言いきれんぞ。お前とアルバートの二人を徹底的に調べれば、ISが女にしか使えん理由が判明すると考えている輩は少なくないはずだ。言いたくはないが、あの時(・・・)の様な事を起こそうとする連中がいる可能性も否定できん。その事を考えれば、IS学園への入学は盾になる。あそこに通っている限りはどこの国もおいそれとは手出しできんからな。その為の志望校変更措置だ」

 

『あの時』というのは、千冬姉の現役時代に俺が誘拐された事を指している。ああいった事が起きうる以上は了承するしかないのは理解できるが、別の所での不安もある。

 

「IS学園に通う事の有用性は理解できたけど、IS学園って、かなり倍率高かっただろ? 3日で入試の準備を済ませるのはどう考えても無理だって」

「安心しろ、一般教養の偏差値に限定すればIS学園はお前が元々受けようとしていた藍越(あいえつ)学園とさほど変わらん。――確か模試での判定はA判定だったな?」

「ああ、そうだけど」

「なら問題はあるまい。今のままでも十分合格を狙えるはずだ。入試を始めとした勉強絡みの事柄に限定すれば、お前はアルバートとは比較にならん位に恵まれているんだ。とっとと入試をパスしてしまえ」

 

模試の合格判定を確認してきた千冬姉は俺の返事を聞くと入試の太鼓判を押してくれたのだが、同時に疑問も出てきた。

 

「千冬姉。今の言い回しを聞くと、勉強以外の面ではアルの方が恵まれてるって解釈も出来るんだけど、それって気のせい?」

「他国からの干渉を受けない事が恵まれている証だというのなら、気のせいではないぞ。お前とアルバートの現在の立場を比較すると、今のところはあいつの方が他国からの干渉を受けづらいのは確かだからな。理由を詳しく説明してもいいが、国際情勢と政治的観点の混じった話になるから長くなるぞ。それでもいいなら話をするが、どうする?」

 

含みのある言い方で千冬姉は俺とアルの置かれている立場の違いについての説明をするか否か問いかけてくる。

 

「どうして俺の方が勉強で有利なのかは知っておきたいから、そこだけは説明してほしいけど、それ以外の部分は時間がある時に説明してくれればいいや。またすぐに出なきゃいけないなら、長話をしてる余裕もないだろうしね」

「――余計な気を回すな、馬鹿者」

 

俺の返事を聞いて千冬姉は呆れた表情で一言そう呟くと、気を引き締め直して再び口を開く。

 

「まあ、お前が知りたい事の説明はそんなに時間はかからん。イギリスと日本は似たような学歴社会ではあるが、異なる部分も多い。双方の国の学歴社会の差異については今回の話には関係ないので説明を省くが、その違いというのは学校にも存在する。さて一夏、イギリスと日本の学校で最も大きな違いは何だと思う?」

「イギリスと日本の学校の一番の違い? ……学校における制服の有無、とか?」

 

千冬姉が突然日本とイギリスの学校の違いを問いかけてきたので、一番ありそうな違いを挙げてみる。

 

「それはアメリカとの違いだ、不正解。――イギリスと日本における学校の最大の違いはな、学校の開始時期だ。イギリスの学校というのは、どこも原則的には9月から開始される。つまり、今のアルバートは中3の半ばに差し掛かるかどうかといったところだ。ISを動かす前から受験勉強も進めてはいたのだろうが、万全とは言い難いだろう。学園側にも今後の予定がある以上、あいつに与える事が出来る試験の猶予は最長でも3月の頭まで、日数で言えば2週間弱だ。それまでに残った半年分の受験勉強を全て終わらせなければならないのだから、どう考えても付焼き刃にしかならん。当然付焼き刃で済ませた部分は入試の後に復習する必要がある。そうやって考えると、お前の方が勉強では比較にならん位恵まれている事は理解できるだろう?」

 

確かに全教科分の半年分の勉強を付焼き刃とはいえ2週間弱で詰め込み、その後で復習していく事に比べれば、高校入学への事前準備がしっかりできている俺の方が圧倒的に有利だ。泣き言を言っていられる立場ではない。

 

「今の説明を聞いて、俺の方が不利だとは言えないって」

 

こと勉強絡みの事柄に関しては俺の方が圧倒的に恵まれている事は十分理解できたので、千冬姉の言う通りとっとと入試を済ませてしまおう。

 

「わかったならいい。――他に何か訊いておきたい事はあるか? まだ時間はあるから、説明に時間がかからんことなら話せるぞ」

「じゃあ、今の俺とアルの間にどれくらい技量の差があるかを訊きたい。鈍ってる自覚はあるけど、鍛練をやめる前と比較してどれくらい腕が落ちたかまでは把握しきれてないから」

 

千冬姉が追加の質問の有無を問いかけてきたので、現在のアルとの技量差を訊いておく。同じ境遇になってしまった以上は比較される事も多くなると思うので、現状でどれくらい差が付いているのか把握しておき、徹底的に鍛え直さなければならない。

 

理由は簡単。ブランクを空けてしまったとはいえ篠ノ之流を修め始めたのは俺の方が先なので、後から始めたアルには抜かされたくないという単純な物だ。

 

「それならとっとと庭に出て基礎型をやれ。型を見なければ判断すら出来んからな」

「わかってるよ」

 

千冬姉に言われるまでもなく庭先に出てニュースでアルが見せていたのと同じ型をこなすが、3年のブランクは色々な意味で大きかった。

 

自分で動いていて真っ先に驚いたのは、身体の柔軟性が思った以上に落ちていた点だ。

 

俺やアルが修めている篠ノ之流は詳細な資料こそ昔の戦火で失われてしまったものの、伝えられる様々な型から察するに『女性が男性を倒す』事を目的として設立された可能性が高いらしい。

 

当然、修める型は女性の身体が持つ柔軟性を活かした回避と受け流しを重視した物が多く、それらの型から派生する返しの一撃(カウンター)で相手を沈めるのが篠ノ之流の基本的な戦闘方法だ。

 

それゆえ、男が篠ノ之流を修める場合は身体の柔軟性を上げる事は必須事項なのだが、3年のブランクは育ち盛りの俺の身体から柔軟性を奪うには十分な時間だったらしく、一部の動きは自分でもわかるくらいに劣化していた。

 

それ以外にも運動らしい運動を中学での体育の授業や学校行事に依存していたからか、一通りの型を終えた時には僅かながら息が上がっていた。

 

昔は基礎型をこなしただけで息が上がる様な事はなかったため、体力その物も僅かとはいえ落ちている可能性すらあった。

 

「――まあ、そんなところだろうな」

 

もっとも、個人的には惨状と形容したい今の状態も千冬姉からすれば予想の範囲内だったらしく、一通りの型を見終えた第一声は平然としたものだった。

 

「さて、今の実力がどの程度あるかだったな、一夏。鍛錬をやめる前のお前の実力を100とした場合、今の実力は少なく見積もって60、多く見積もったとしても70の前半といったところだろう」

「げ、ほぼ半減かよ」

「当たり前だ。篠ノ之流の一番の持ち味は身体の柔軟性を利用した受け流しと回避だぞ? それを活かせなくなっている時点で、実力は落ちてしかるべきだ。そもそも育ち盛りの時期に鍛錬を辞めた場合、高い確率で柔軟性を損なう事は鍛練をやめる際に警告しただろうが」

 

確かにバイトを始めると伝えた時にその警告を受けた事は覚えているが、ここまで影響するとは思ってもみなかった。

 

「まあ、お前の実力は今言った通りだ。対するアルバートの実力だが、先ほどと同じ基準を採用した場合、あいつの現在の実力は110から120の間だな。少なくとも、今の鈍った状態ではほぼ勝てんと思え」

「それくらいはわかってるよ」

 

ほぼ倍近い差が付いている以上、真っ向勝負では間違いなく勝てない事は嫌でも理解できた。

 

「理解できたのなら、走り込みと柔軟からやり直すんだな。あとは素振りと型をこなして少しでも剣を振る感覚を取り戻しておけ」

「了解」

 

やる事は多いが、時間ができ次第鍛練に取り掛かるとしよう。

 

「あとは何か質問はあるか? なければ入試以外の事柄について説明しておきたいんだが」

「俺からは他に質問したい事はないよ、千冬姉」

「わかった。まず最初に確認しておくが、鈴が中国でIS操縦者をしている事は知っているな、一夏?」

「ああ。シェンロン、だっけ? その専属操縦者をやってるのはニュースで見たけど」

 

リビングに戻りながら、千冬姉の質問に答える。

 

異性としては二人目の幼馴染、凰鈴音が千冬姉と同じ専用機持ちのIS操縦者として活動しているのは記憶に新しい。

 

なにせ転校したとはいえ同中出身者がIS操縦者になっていたので、鈴が専用機を使ってマスコミに機体性能のお披露目をしている姿は学校中で騒ぎになったからだ。

 

「知っているならいい。実を言うと、鈴も今年のIS学園の入試を受けていてな。昨夜の試験終了後にあいつの下に行って、一つ頼み事をしてきた」

「頼み事って、いったい何を?」

「なに、帰国後に自分が一夏の幼馴染である事を暴露して近隣諸国のマスコミの目を集めるように頼んだだけだ。これに関しては強制の類は一切していないし、報酬も用意してある。引き受けた鈴を責めてやるなよ?」

「でも、代表候補生ってかなり忙しいんだろ? 俺としては鈴に負担をかけるような事はしたくないんだけど……」

 

ISを動かしてしまった事で国を問わず色々なところに迷惑をかけているというのに、知人にも負担を強いるのは正直言って遠慮したい。

 

「気を回しすぎだ、馬鹿者。精々取材の対応頻度が多少増えるだけで、お前が思っているほど鈴に負担はかからん。一月の間に代表候補生がこなす仕事の量からすれば、誤差の範囲内だ」

 

つい半年前まで日本の国家代表として動いていた千冬姉がそう言うなら負担にならないのだろうが、それでも気になってしまう。

 

「それに、鈴に動いてもらったのもれっきとした理由がある。近々お前の下にも男でISを動かした件で各国のマスコミから取材の申し込みが殺到するのは言われなくてもわかっているだろうが、あの手の取材は慣れていないとそれなりに負担がかかる。鈴に動いてもらったのは、申し込まれる取材の絶対数を少しでも減らす為だ。取材の総数その物が減れば、負担その物も少なくなるからな。今の内に注意しておくが、取材の中で鈴と幼馴染である事に関する質問も受ける事になるだろう。だが、それらの質問に関しては絶対に曖昧な答え方をするなよ? 下手な答え方をすると、あいつの立場を脅かす危険性がある。自分と鈴がどういった関係なのかは、はっきり答えろ。いいな?」

「わかった。俺としても鈴にこれ以上迷惑かけたくないから、マスコミに鈴との関係を訊かれたら『ただの幼馴染だ』って答える事にするよ」

 

鈴の立場を悪くするのは本意ではないので、マスコミにはありのままを話すとしよう。

 

「そうしておけ。それと、マスコミの取材以外にも各国のIS系の研究所やメーカーから面談の依頼が来るはずだ。こちらに関しては既に根回しを始めているからある程度は数を絞れるが、面談の依頼先によっては合わざるを得ないケースもある。面談の内容は十中八九代表候補生としてそれぞれの国や企業へ帰属する事への打診だろうが、安請け合いは絶対にするなよ? 一生を決める選択になりかねん。今回の面談は今後も続くであろう話し合いの判断材料くらいに思っておけ、いいな?」

「元から安請け合いをする気はないけど、現在進行形で世間を騒がせている位で千冬姉が心配するほど面談の依頼ってくるものなのか?」

 

男でISを動かし、本格的な操縦適性を有している事が信じられないというのは理解できなくもないが、正直言ってその程度の些細な違いでどうして政府やマスコミを含めた社会その物が騒いでいるのか疑問に思ってしまう。

 

「少なくとも、イギリスと日本を除いた主要六ヶ国からは間違いなく面談依頼がくると見ていいし、日本政府自身もせっかくの貴重な人材を手放すつもりはないだろうから、接触を持ってくる可能性は高い。今挙げた国以外にも接触を持とうと考えている国家は相当数に及ぶだろう。今はまだピンとこないだろうが、今のお前はイギリス以外の各国政府から見れば世界にたった一つしかない如何様にも姿を変える宝石のようなものだ。その希少価値は計りしれん。ゆえに、どこの国も躍起になって手に入れようとするだろう。自覚できていないだろうが、既に一夏にはそれだけの力が備わっている。これからは自分に世間を騒がせ、場合によっては動かす事が出来るだけの社会的価値がある事を理解して行動するんだ。でなければ、お前の周りにいる者にも迷惑をかける事になる。それは本意ではあるまい?」

 

素朴な疑問を口にしたつもりだったが、思いのほか真剣な表情と声色で諭された。

 

社会に出て数年が経過している千冬姉がこう言っている以上、俺の社会的価値というのはかなり大きいのだろう。

 

「そりゃあね。――これからは色々と気をつけて行動するよ」

 

俺に備わった力がどれほどあるのかはまだ自覚できていないが、少なくとも面談の時の話はしっかり聞いて、提示された条件を比較して決めるとしよう。

 

「私も面談の際には保護者として同席させてもらうが、今言った事は忘れるなよ?」

 

千冬姉はそう言うと、壁掛け時計のあるあたりを一瞥した後席を立つ。

 

「すまんが時間が残っていないので、話はここまでにさせてもらう。私は仕事に戻るが、後でマスコミへの対応について中学から連絡が来るはずだ。それまでは家で大人しくしていろ、いいな?」

「わかったよ。わざわざ戻ってきてくれてありがとう、千冬姉。仕事、頑張って」

「ああ。マスコミへ対応する時には合流するつもりだから、また後でな、一夏」

 

千冬姉を見送る為に玄関までついていくと、最後に一言そう言って慌ただしく家を出て行った。

 

「――試験勉強、やっとくか」

 

見送りをすると手持無沙汰になったので、学校からの連絡を待つまでの時間つぶしと実験動物化の抑止を兼ねて部屋に戻り、手持ちの問題集を引っ張り出して3日後の入試に備えておく。

 

俺やアルの事が報道された後で家でゆっくりできたのはこの時が最後で、これ以降は入試や取材対応、各国担当者との面談で身の回りがかなり慌ただしくなった為、事態が一応の鎮静化を見せた四月までは殆ど休みなしで動き回る事になった。

 

その中で最も重要な入試に関しては事前に太鼓判を押してくれた千冬姉の言った通り、さほど苦労せずに合格できたのだが、大挙として押し寄せてきたマスコミにはかなり苦労させられた。

 

なにせマスコミ各社が俺の下へ訪れてきた時には既に鈴の口から俺と幼馴染である事がバラされていた為、鈴との関係を疑う質問もかなりあったし、鈴個人をどう思っているか訊かれる事もあった。

 

もっとも、俺が鈴の事をどう思っているかを正直に伝え続けた結果、俺の言葉に嘘は含まれていないと判断された為、入試の結果が出てからは鈴との関係について質問してくる事はほどんどなくなった。

 

そんな風に若干しつこかったマスコミに比べれば各国の研究所や政府関係者との面談はあっさりとしたもので、面談の回数はそれなりにあったものの、現段階では担当者の自己紹介と自国ないしは研究所の自己アピールを聞くくらいだった。

 

そうして大人達への対応をしながらも空いた時間を利用して鍛練を再開し、鈍らせてしまった剣の腕を鍛え直していく。

 

若干前後する形になるが、俺の入試結果が出るのとほぼ同じタイミングでアルも入試を受けたらしく、千冬姉を通じて凄まじく物騒な励ましを受けた。

 

その頃には自分が世間から注目されている事は嫌でも理解できていたので励ましの中に含まれていた注意勧告も素直に受け取り、身体を壊さないように注意しながら鍛練を続ける。

 

IS学園からも必読書類として様々な書類が送られてきたのだが、その中には国際的なISの使用規則を記した本も送付されてきた。

 

ただ、この規則本は1ページあたりの紙がかなり薄い上に表紙が黄色背景の黒文字で印刷されていたので、古いタウ○ページと間違えて捨てそうになったのは秘密だ。

 

幸い破棄する前に中を見てIS絡みの本だと気づいたのでことなきを得たのだが、紛らわしいにもほどがあった。

 

ISに関する規則本なので読まないわけにはいかず、なんとか読破したのだが、入学準備はそれだけでは終わらなかった。

 

IS学園は世界で唯一のIS操縦者育成機関なので生徒保護にも力を入れており、入学者は保護を兼ねて学生寮への入寮を義務付けられているのだが、俺とアルの入学は突発的な物なので学園側も新学期開始に合わせた学生寮の整備までは完了させる事ができなかったため、俺の場合はしばらくの間は自宅から通う事になった。

 

これは俺の住む町がIS学園の存在する離島と専用リニアトレインで繋がっているからこそできる事で、千冬姉から聞いたところによるとアルの場合はホテル暮らしになるようだ。

 

それでもいずれは入寮する必要があるので、今の内に入寮準備として私服とちょっとしたゲーム類をまとめてボストンバックに詰めておいた。

 

それらの事をこなしていたらいつの間にか入学式を翌日に控えており、時間というものはやるべき事があるとあっという間に過ぎていく事を実感させられながら新学期を迎えるのだった。




そんなわけで、今回はここまでとなります。

原作でも語られている『幼少期からの両親不在』という設定を加味して、拙作の一夏は大人びた考えもできるようにしました。

冷静に考えると、原作での性格は特殊な家庭環境で育ったわりにのんき&無知すぎるので、こちらの方が自然と思ってテコ入れをしました。

次回は漸く改定前の第一話にあたるエピソードなのですが、今見るとあまりにひどい文章であることと、設定を変更した部分の違いでほぼ書き下ろし同然となるのでまたお待たせしてしまうかもしれませんが、気長にお待ちいただけると助かります。

一夏サイドのヒロイン募集も継続中なので、要望のある方は活動報告のフォームを利用してコメントをお願いします。
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