あと、IS学園についても色々と独自設定も突っ込んでいますので、ご容赦ください。
それでは、本編をどうぞ。
4月1日。日本では新年度の始まりという事もあって多くの企業で新入社員の入社式などが行われるのだが、各種学校でこの日から新学期が始まるところはそれほど多くない。
だが、IS学園はそんな数少ない例外に属する場所だ。
無論、新年度開始と同時に新学期が始まるのは理由がある。
IS学園は世界で唯一ISに関する知識を学習する場でありながら普通の高等学校としての側面も持ち合わせている為、ISに関係のない一般教養系の授業もそれなりに存在する。
ISに関する知識を学ぶ傍らでそれらの一般教養も身につけておく必要があるので、通常の高等学校の様な授業形態だと授業のコマ数が足りなくなる可能性が高い。
それを防ぐには授業1コマあたりの時間を伸ばし、授業の数そのものを増やす以外に方法がない為、IS学園では新しい年度が始まる4月1日が新学期の開始日となっているのだ。
具体的にはIS学園の授業は1コマあたりの時間が通常の高校よりも長い60分あるかわりに次の授業まで15分の休み時間が設けられており、実技の授業は基本的に2コマ分を使う。
その上で午前・午後共に3時間の授業が設けられている特殊な授業形態となっているのだ。
おまけにIS学園では入学式当日から通常授業を行う事になっている為、俺と一夏を含めた新一年生は全員新年度早々に登校して授業1コマ分の時間を使って入学式を済ませ、所属クラスの教室で
その原因は言うまでもない。クラス中の女子生徒の大半が同じクラスとなった俺と一夏の一挙手一投足に無言で注目しているからだ。
視線は俺と一夏に対してほぼ半分ずつの割合で注がれており、一定時間ごとに極僅かながら視線が緩んでいる事を加味すると俺と一夏を交互に観察しているのだろう。
こんな風に分析できているのも、ここ1ヶ月半の間にかなりの数のマスコミの前に顔を出してインタビューに答えていた経験から注目を集めるのに慣れ始めているからだが、クラスメイトとなる人達が向けてくる視線にはマスコミの人達からも感じた物珍しさ以上の期待が込められており、自分の注目度を再認識させられる。
無論、学園側も男子生徒二名に対する配慮はいくつかしてくれている。
学校生活を送る上での精神的負担を軽減する意味で俺達二人を同じクラスにしてくれたし、入学式の最後にクラスの担任ならびに副担任として紹介されたのも学園教師の中では数少ない顔見知りの織斑先生と山田先生だったのでそれなりに安心したのだが、クラスで割りあてられた座席の位置があまりに悪かった。
IS学園は一クラスに30人が所属しており、教室内には1列の座席に6つの席が等間隔で配置されている。
その列が5列並んだ状態で一人一席が与えられているのだが、何の因果か一夏と俺の席は嫌でも視線が集中する教室中央と右から2列目の最前列に配置されていた為、教室に入って席に着いた瞬間から大多数のクラスメイト達による視線の集中攻撃を受ける事になってしまった。
おまけにマスコミから取材を受ける時とは違ってカメラのシャッターを筆頭とした音を発するものが一切ないので動くに動けず、ある意味ではマスコミからの取材の時より辛い。
そんな針の
「全員揃ってますねー。それじゃあHRをはじめますよー」
山田先生は教室内を見回して生徒が全員着席している事を確認した後、微笑みを浮かべながらHRの開始を宣言する。
「改めて自己紹介をさせてもらいますね。私の名前は、山田真耶といいます。皆さん、一年間よろしくお願いしますね」
先生は自己紹介と共に挨拶をするが、クラス一同が異様な緊張感に包まれているため誰も返事をしない。
「じゃ、じゃあ自己紹介を出席番号順にお願いします。1番の相川さんから、どうぞ」
「はい!!――」
山田先生がそう言ってクラスメイトの自己紹介が始まる。
クラスメイトの人達とは今後話をする機会が多くなり、必然的に名前を覚えたか訊かれるケースも増える事が容易に予想できるので集中して自己紹介を聞くが、俺の名前は日本語表記だと『あ』なので、すぐに順番がやってくる。
「それじゃあ、次はアルバート君ね」
「はい」
俺は意を決して立ち上がり、周囲を見回す。
この時ばかりは一夏に注がれていた視線も俺に集中する事になるので感じる緊張感も一気に増す為、内心ではかなりたじろがされるが、それを表情に出さないように努めながら自己紹介を始める。
「アルバート・ウィルソンです。国籍はイギリスで趣味は料理。レパートリーは洋食がメインですが、こう見えて父親が日本人で俺自身日本生まれなので、和食も普通に作れます。性別の違いでクラスメイトの皆さんには色々と戸惑わせてしまう面があるかもしれませんが、これから1年よろしくお願いします」
一夏と幼馴染である事を今話すと教室中が騒がしくなるのは目に見えているので、敢えてその事は話さない。
俺の容姿は母方の祖父母の血がかなり濃く出ており、髪と瞳の色が金髪碧眼で顔立ちもコーカソイド系なので幼少の頃はこの容姿が原因で一悶着あったのだが、それのおかげで一夏達とも知り合えたので、そこまで気にはしていない。
自己紹介を終えて一礼をした後、着席すると、感じていた視線が一気に半減する。
どうやら着席直後の状態に戻ったらしく、教室内の約半分は相変わらず俺に注目しているが、一夏への注目も再開されたようだ。
「はい、ありがとう。それじゃあ次は――」
そう言って山田先生が次の生徒に自己紹介を促し、指名された生徒が手早く自己紹介を済ませていく。
「それじゃあ次は織斑君、お願いします」
「は、はい」
一夏の名字は『お』なので、比較的早く順番が回ってきた。
「えー……えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします」
教室中の女子がほぼ全員注目する中で挨拶をした後で一礼する一夏だが、緊張しているからか既に自己紹介を終えた俺や他のクラスメイトの様に趣味や特技を口にする様子は見られなかった。
「…………………以上です」
そんな状態ながらクラスメイト達の視線は相変わらず注がれたままなので一夏も何か言おうと口を動かそうとするものの、視線の圧力に屈して自己紹介を打ちきってしまった。
クラスメイトの人達も挨拶だけで自己紹介を終えられるとは思っていなかったらしく、半数が一夏の言葉を聞いた時のまま呆然としており、4分の1ほどがあまりに短い自己紹介を聞いて力が抜けたからか机に突っ伏し、残りの4分の1は自分達がプレッシャーを与えすぎた事を理解したからか、苦笑いを浮かべていた。
「織斑、緊張するのはわかるが、もう少しまともな自己紹介をしてみせろ。お前もウィルソンもいずれはマスコミの前に日常的に立つ事になるのだから、今の内に慣れておかんと後がつらくなるぞ」
それはいつの間にか教室内に入ってきていた千冬さんも同じらしく、呆れた表情でツッコミを入れるほどだった。
「ぐっ…………わかりましたよ、織斑先生」
一夏も先ほどの自己紹介はまずいと思ったらしく、千冬さんに一言返事をすると一度深呼吸と咳払いをしてから再び口を開く。
「改めて、織斑一夏です。特技としてはマッサージがありますが、異性にやるのはかなり心構えをしないといけないので、頼まないでもらえると助かります。名字でわかると思いますがクラス担任の織斑先生とは血の繋がった
緊張が残っているからか若干早口ではあるが、そう言って一通りの自己紹介を済ませた一夏は、一礼してから着席する。
一夏の自己紹介を聞いたクラスメイトの人達は『俺と一夏が幼馴染である』という新事実を聞いたからか、それまで無音に近かった教室中が私語で騒がしくなりはじめる。
「――はぁ、全員注目!! 騒ぎたいのはわからんでもないが、騒ぐのなら全員の自己紹介が終わった後にしろ。織斑の次の出席番号の者、自己紹介をしろ。HRの時間も限られているのだから、簡潔に頼むぞ」
だが、千冬さんがそのような事を許すはずもなく、一喝して注意を一身に集める事で緩みかけた教室中の空気を引き締め直し、次の自己紹介を促した。
「はっ、はい!!――」
指名されたクラスメイトの人もこの空気の中では抗う事は難しかったらしく、慌てて立ち上がり、自分の名前と趣味か特技のどちらかを告げた後、一言挨拶をして着席する。
「――よし、では次の者」
「はい!!」
その後も自己紹介が終わるたびに千冬さんが次の出席番号の人を指名していったので、場の空気は緩むことなく自己紹介が続いていく。
俺も前述の理由から引き続き集中してクラスメイト達の自己紹介を聞いていったのだが、その途中で懐かしい人物と再会する事となった。
「――次」
「はい。篠ノ之箒です。特技は剣術。クラスメイトでもある男子生徒2名とは幼馴染だ。みんな、よろしく頼む」
席を立って自己紹介を始めたのはISの生みの親である篠ノ之束博士の実妹であり、俺と同期の篠ノ之流門下生最後の一人でもある篠ノ之箒さんその人だった。
7年が経過した事で彼女も成長し、体つきなどは年齢相応に女性らしくなってはいるが、ポニーテールの髪型と、つり目がかった眼差しは昔と変わっておらず、箒さん本人であることは間違いないし、彼女の家族構成を考えればこの場にいたとしてもなんらおかしくはない。
だが、重要人物保護プログラムが適用されているにも拘らず生来の名前を名乗っているのが不可解だった。
できる事なら今すぐ箒さんの席の近くへ移動して彼女から直接その理由を訊きたいところだが、千冬さんが取り仕切っている中でそのような自分勝手な事をすれば叱責を受けるのは目に見えているので、いずれ時間ができた時に問いかけるとしよう。
自己紹介を済ませた箒さんは一礼した後、どこか満足気な表情で着席するが、特大の爆弾発言を聞いたクラスメイトの人達は静まりかえり、幼馴染の片割れである一夏は注目される要素を追加されたからか若干顔を青くしていた。
一方の俺はというと、入学早々に俺達と幼馴染である事を暴露して注目される要素を増やした箒さんに物申したい気持ちがあるのは確かだが、元々男子生徒として注目されるのがわかりきっている中で今更注目される要素を追加されたところで痛くも痒くもないと考えている部分もあり、正直何とも言えない気分だった。
「……はぁ。……次の者、自己紹介を頼む」
「……え? あ、はい!!――」
当然騒ぎになる前に千冬さんが次の出席番号の人に自己紹介を促したのだが、その声色には今言う必要がない事を言った箒さんに対するものと思われる呆れが多分に含まれていたし、それまで教室内に漂っていた緊張感も先ほどの爆弾発言によって呆然としている人が増えた事で霧散していた。
そんな状態ながら千冬さんの陣頭指揮で自己紹介は進んでいき、HR終了5分前にはクラスメイト全員の自己紹介を済ませる事が出来た。
「――さて、順番が前後してしまったが、私の自己紹介がまだだったな。これから1年間諸君らの担任を務める織斑千冬だ。先ほど織斑が言った通り、こいつとは
生徒全員の自己紹介が終わったので場をしきっていた千冬さんも自己紹介をするが、自分達の自己紹介を徹底的に管理している姿を見たからかハメをはずして黄色い声を上げる人物は皆無だった。
「諸君らの大多数は中学時代からISに関する知識を学んでいると思うが、中にはIS学園入学後に知識・技術の両面で初めてISに触れる者もいるだろう。そういった者は、不明な点があったら遠慮なく質問するように。授業中ならば不明点について出来る限り詳細な追加説明をするし、それでもわからなければ放課後に私と山田先生で理解できるまで教えるつもりだ。友人やクラスメイト同士で教えあうのも結構だが、我々教師もいる事を忘れないでほしい」
その後に告げられた言葉は、主に俺達男子生徒2名に向けられた物である事は容易に理解できた。
「その上で言わせてもらうが、諸君らには本格的な実習授業が始まる6月までにISの基礎知識を覚えてもらう。実際の操縦についての基本動作も1学期の学期末までには身体に染みこませてもらうつもりなので、基礎知識を理解し終えた者から量産機の使用申請を提出して少しでも多くISの実機に触れ、積極的に自己鍛錬を行うように。……わかったな?」
「「「はい!!」」」
「「「「「「「――っ!? はい!!」」」」」」」
それに続けて、今後の大まかな指導方針も告げられた。
幼少期の経験から千冬さんの有言実行ぶりを知っている俺・一夏・箒さんの3人はその宣言によって1学期末までに知識と実技の両面でISの基礎を学びきらなければならない事を理解させられたので即座に返事を返し、クラスメイトの人達も千冬さんの自己紹介をしきっていた時の態度と実弟の一夏が即座に返事をした事で千冬さんの厳しさを察したからか、俺達から一泊遅れて返事をした。
「よし。……それとこれは通達と言うより忠告になるが、これから諸君らが学ぶISの操縦知識は結局のところ人を傷つける技術だ。振るうべき時以外に振るったり、使い方を誤れば自分だけでなく他人も容易に傷つける。無論、一般人に振るうなどもってのほかだ。その点の認識を間違えれば、待っているのは自己の破滅だけだという事を忘れるな。今はまだ実習授業がないから実感はわかんだろうが、自らがどういった技術を身につけようとしているのか、その技術にはどれほどの責任が伴うのかをしっかりと考えて行動してほしい」
そうして生徒全員の意思確認を終えた千冬さんは、訓示を兼ねてIS操縦の本質を容赦なく突きつけてきた。
これは千冬さんが武術関係の物事を教える時に使う常套手段だ。
俺も篠ノ之流の鍛練を始める際には道場に保管されている日本刀の真剣を持たせられ、武器の重さを実感した事で『自分が人を傷つける技術を自発的に学ぼうとしている』のだと否応なく理解させられた。
その時はいきなり武器を持たされた恐怖の方が強くて『何故そのような事をさせたのか』までは理解できなかったのだが、鍛練を続けていく内に当時の千冬さんの意図が理解できた。
鍛練を初めて真っ先に理解したのが『自分が学ぼうとしている技術は人を傷つける為の物』だったので、必要な時以外にその技術を使おうとしても精神的なブレーキがかかり、悪用する事が極めて困難になるのだ。
ISはその圧倒的な性能から『最強の兵器』と呼ばれる事も少なくないため、機体を構築する機械技術と機体の操縦技術はどちらも悪用すれば大惨事を招く事が可能なので、扱いは極めて慎重な物にせざるを得ない。
そういった事情から千冬さんの訓示を初めて聞く者にとってはこれから学ぶIS関係の知識の悪用を考えてしまった時の精神的ブレーキの構築に役立つし、俺達3人に対しても自分にどういった技術が備わっているかを再確認する良い機会なので、理にかなっている。
キーンコーンカーンコーン
おまけに時間的にもちょうど良かったらしく、千冬さんの訓示が一区切りついた直後にHR終了を告げるチャイムが教室内に鳴り響いた。
「ふむ、ちょうど時間になったか。15分後に授業を始めるので、各員テキストの準備を忘れないように」
「では、今から15分は休み時間になります。自由に行動してもらって構いませんが、次の授業に遅れないようにしてくださいね」
千冬さんと山田先生はそう言って俺たち全員に一言ずつ声をかけてから、教室を去っていった。
「さて、と。こうして直接話をするのは7年ぶりだな、一夏。元気にしてたか?」
15分程度の時間ながら自由行動ができるようになったので、椅子の背もたれに体重をかけながら一度伸びをした後、左隣にいる一夏に顔だけ向けて声をかける。
「まあな。そういうお前も元気そうじゃないか、アル」
一夏としても望むところだったらしく、俺と同じ様に伸びをしながら顔だけこちらに向けてそう言ってきた。
「それと、物騒な忠告感謝。おかげで鍛え直すのにも気合が入った」
「そいつは重畳」
こう言ってくるなら、この1ヶ月半で多少なりとも鍛え直したのだろう。戦う事になった場合、少なくとも記録映像で見せられた腑抜けた斬撃を放ってくる心配をする必要はなさそうだ。
「まあ、アルと違って所属する国や企業が決まってないから、専用機に関しては一切決まってないんだけどな」
「そういえば、お前が動かしたのは学園に寄贈されてた打鉄だったな。……どこの国がお前に専用機渡すかでもめてるわけか」
男性IS操縦者に関するデータはどこの国も喉から手が出るほどに欲しいだろうから、現状で所属の決まっていない一夏に自分の国の作ったISを使ってもらいたいと思って当然か。宣伝にもなるし。
「そーいう事。その点ではアルが羨ましいよ。所属も決まってて、専用機も既に持ってるんだからな」
一夏は羨ましそうな声色でそう言ってくるが、俺からすればISの学習に全精力を傾ける事が出来る分一夏の方が羨ましく見える。
「それを言うなら、俺はお前の方が羨ましいよ。こっちは一般教養が半年分遅れてるんだぞ? その分の補修授業を受けた上で鍛錬も欠かす事が出来ないんだから、やる事で言えばこっちの方が多いくらいだ。波風立たないように四苦八苦してる今のお前とは質か量かの差があるだけで、苦労って意味だとそれほど変わらねーよ」
不幸自慢などしたくないが、こうも露骨に羨ましがられると苦言の一つも言いたくなるので、今の気持ちを正直に吐露させてもらう。
「確かにそう言われるとそうだな。……結局のところ、隣の芝生が青く見えてるだけか」
「だろうな。それ以外にやる事があるとすれば、一刻も早くこの環境への耐性をつけるくらいだろう」
一夏に同意しながら今まであえて無視していた自分の周囲に目を配らせると、休み時間が始まる前には影も形もなかった多数の女子生徒が上級生・下級生を問わず教室に押し寄せており、クラスメイトの人達と共に期待と緊張が入り混じった視線で俺達を見つめていた。
「そりゃそうだ。……まあ、お互い頑張ろうぜ」
一夏も俺と同じ様に周囲の事はあえて無視していたらしく、俺の言葉に同意しながら苦笑いを浮かべる。
「ああ。改めてよろしく頼む、一夏」
「おう。こっちこそよろしくな、アル」
そう言ってお互いに挨拶を交わし合い、握手をする。
「二人とも、少しいいか?」
その直後に背後から声がかかったので振り向くと、そこには箒さんが立っていた。
「箒。……久しぶりだな」
「久しぶり、箒さん」
「ああ。アルとは7年、一夏とは6年ぶりになるな。昔話に花を咲かせてもいいのだが、一夏に一つ訊きたい事がある。廊下まで付き合ってくれるか?」
「俺に? ……休み時間もそれほど残ってないから、手短に話せる内容ならここで言ってくれないか? 最初の授業から遅刻して、千冬姉に怒られたくないし」
休み時間はそれほど残っていないので、今席を立つと一夏の言うとおり授業に遅刻してしまう可能性は否定できない。
「む……確かにそうだな」
この反応を見る限りだと箒さんは余程一夏と話をしたかったらしく、残りの休み時間を把握していなかったようだ。
「それで、訊きたい事ってのはなんなんだ?」
「ああ。一夏がニュースでインタビューに答えていた時に中国の代表候補生と幼馴染である事を認めていたが、あれはどういう事だ? お前の幼馴染は私のはずだろう」
「その事か。今、鈴に関する事情を全部話すのは時間的に無理だから簡単に言うと、箒が引っ越した後に鈴が引っ越してきて、あいつが家の事情で中国に戻るまで仲良くしてたんだよ。確かこの授業が終わった後は昼休みだろ? そろそろ授業が始まるから、それ以外の詳しい説明は昼休みに昼食食べながらさせてくれ」
「……わかった、昼休みだな。また後で来る」
若干不満気ながら箒さんは一夏からの提案を了承すると、自分の席に戻っていく。
それを確認した後、いつ授業が始まってもいいように最初に行われるISの基礎理論に関するテキストを用意しておく。
キーンコーンカーンコーン
用意が終わった直後に授業開始を告げるチャイムが鳴り響き、教室外に集まっていた女子生徒の人だかりが凄まじい勢いで走り去っていく。
「みなさーん、男子生徒が気になるのはわかりますが、すぐに教室に戻ってくださいねー」
どうやら相当数の女子生徒が教室に訪れていたらしく、授業を担当する山田先生が見物に来ていた生徒達に対してすぐに教室へ戻るように催促していた。
「――どうやら皆さん自分の教室に戻ったようですね。……日直は決めていなかったので、出席番号一番の相川さん、号令をお願いしますね」
「はい!! 起立!!――」
山田先生から指名された相川さんが号令をかけ、授業が始まる。
今から始まる授業はIS基礎理論の名前通り、ISに携わる上での基礎的な知識となる機体と法律に関する授業だ。
ある程度専門用語が出てくるものの、事前学習で専門用語の意味を理解しておけば授業内容を把握するのは容易なので、特に質問をする必要もなくスムーズに授業は進んでいく。
「織斑君、アルバート君、今までの内容で何かわからないところはありますか?」
「俺の方は問題ありません、山田先生。続けてください」
途中で山田先生が不明点の有無を確認してくるが、理解できない部分はないので続行を伝える。
「俺も何とかついていけてるんで大丈夫です、山田先生」
一夏も事前学習は済ませてあるらしく、質問事項は無いようだった。
「他にわからないところがある人はいませんか? わからない部分があったら、素直に挙手してくださいね」
クラスメイトの人達の中にも今までの内容を理解できていない人物はいないらしく、挙手をする人は一人もいなかった。
そのまま授業は進んでいき、基礎理論の授業中に質問をする人物は一人もいなかった。
キーンコーンカーンコーン
「――、ここまでですね。そうそう、アルバート君に連絡が一つあります。中学校時代に済んでいない分の一般教養の授業を補修という形で行う事になりました。担当する先生が中学校で行っていた授業の内容を把握しておきたいと言っているので、今日の放課後に職員室まで来てくださいね。その時に補修の詳しい日程も説明します」
「わかりました。放課後に職員室ですね」
高校の授業についていくのに必須の補習授業についてなので、異を唱える事なく了承の言葉を返しておく。
「よろしくお願いしますね。それじゃあ相川さん、号令をお願いします」
「起立!!――」
そう言って山田先生は相川さんに声をかけ、挨拶が済むと教室を去っていった。
「一夏、先ほどの話の詳しい事情を聞かせてもらうぞ」
先生が教室を去ってすぐに、箒さんが一夏に話しかけてくる。どうやら先ほどの話がかなり気になっているようだ。
「一夏。今から箒さんにする話だけど、差し支えなければ俺も一緒に聞かせてもらっていいか?」
一夏とはこれから一緒に行動する事が多くなるのは目に見えており、その時に改めて話を聞かせてもらうのも二度手間になるので、手早くテキスト類を片づけて二人に同行を申し出てみる。
「ああ、俺は構わないぞ。箒はどうだ?」
「アルとも話をしたかったから、私も別に構わん」
「二人とも、ありがとな」
「じゃあ、食堂行こうぜ」
一夏はそう言いながら席を立つと出入り口へ向かっていくので、俺と箒さんも後に続く。
教室の外には先ほどの授業開始前と同じ様な人だかりができていたのだが、俺達が教室外に出るとモーゼが海を割った伝説のように人垣がスーッと割れて通り道ができる。
その通り道を通って学食へ向かうのだが、俺達の後ろにはハーメルンの笛吹きに操られたネズミや子供の如く女子生徒の皆さんがついてきた。
「ごめん、皆。男子生徒に話があるから、ちょっと通してくれる?」
その状態で隣のクラスである1年2組にさしかかると、ざわめく教室の中から俺達に話がある事を伝える大きな声が聞こえた。
「久しぶりね、一夏。その様子だと、元気にしてたみたいじゃない」
「まあな。そっちこそ元気にしてたみたいで何よりだ、鈴」
教室内の人垣をかき分けて出てきたのは、今から話を聞く事になっている
「一夏、お昼まだでしょ? あたしも一緒に行かせてもらっていい?」
「ああ。こっちの二人に鈴の説明もするつもりだったから、ちょうどいいタイミングだ」
「なるほどね。一応、名前聞かせてもらっていい? あたし、凰鈴音。凰でも鈴でも好きな方で呼んで」
「篠ノ之箒だ。よろしく頼む、鈴」
「アルバート・ウィルソンです。鈴さんって呼ばせてもらいます」
一夏から事情を聞いた鈴さんに自己紹介をしてもらったので、こちらも自己紹介を返す。
「うん、よろしく。二人ともファーストネームで呼ばせてもらうけど、構わないよね?」
「問題ない」
「こっちもファーストネームで呼ばせてもらってるから、問題ないよ」
「じゃあ、箒とアルバートって呼ばせてもらうわ」
「どう呼ぶかも決まったみたいだし、とっとと食堂行こうぜ。時間無くなっちまう」
お互いの呼称も決まったので、俺達の動向が気になる女子生徒一同を連れたまま4人で食堂へ向かうのだった。
そんなわけで、今回はここまで。
IS学園に関する独自設定の説明をした上で改定前と同じ部分で区切ろうとすると文章量が多くなりすぎると思ったので、ひとまずここまでとさせてもらいます。
原作とも話が前後していますが、その点はご容赦願います。
一夏サイドのヒロイン募集も継続中なので、要望のある方は活動報告のフォームを利用してコメントをお願いします。
以前通達しましたが、一夏サイドのヒロインについては次回の本編が投稿された時点で締め切りとさせてもらいますので、要望がある方はこの機会を逃さないようにご注意ください。
次回もほぼ書き下ろしになるので間が空くと思いますが、気長にお待ちいただけると助かります。