Infinite Sky:R   作:ショウゴ

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お待たせしました。今回は模擬戦の後始末的なエピソードです。展開の都合上一人称と三人称が混ざっていますが、ご容赦いただけると助かります。

それでは、本編をどうぞ。


05 お話をしよう

模擬戦終了の合図がかかったのでお互いに着地し、それぞれのISを待機形態に移行(シフト)させる。

 

「オルコットさん。模擬戦の相手を務めていただき、ありがとうございました。しばらくは特別入試の対策に専念したいので難しいですが、それが終わってある程度技量が身に着いたら、また模擬戦の相手をしていただけますか?」

「……ええ、よろしくってよ。出来る事ならすぐにでも再戦と行きたいところですが、我慢してあげます。今の内に言っておきますが、次は先程のようにいくとは思わないでくださいな」

 

模擬戦をしてくれたお礼と共にいずれ再戦をしてくれるか訊いてみたところ、それなりに好意的な答えが返ってきてくれた。

 

「それは言われるまでもなく理解してますよ。先程の模擬戦で俺が勝てたのは、オルコットさんが俺とスカイ・ブレードの詳細を知らなかった部分が大きいですから。これからは操縦訓練にも励むつもりですが、普通に使える手は使い切ってしまったので、次の模擬戦でも勝とうと思ったら純粋な操縦技量で上回るしかないと思います」

 

これは偽らざる本音だ。

 

意図的に伏せていた部分があるとはいえ、オルコットさんは俺がどういった戦術を使うか、スカイ・ブレードがどういった機体かよく知らずに今日の模擬戦に挑んだのに対し、俺はブルー・ティアーズの詳細スペックから使用する戦術、パイロットであるオルコットさんの操縦時のクセまで知った状態で模擬戦に挑んだのだ。

 

操縦技量の圧倒的な不足を、相手の情報を得て徹底的な対策を練る事で補完した状態で戦った結果が先程の模擬戦なので、お互いが相手の情報を知っている状態で戦った場合、確実に地力である操縦技量と稼働時間の差が出てくる。

 

そうなれば技量が低く、稼働時間の短い俺の方が圧倒的に不利なので、相当苦戦させられるだろう。

 

「なるほど。……それでは次回の模擬戦までにどこまで技術に磨きをかけられるか、楽しみにさせていただきますわ。アリス博士、わたくしはこのまま帰宅させていただいてもよろしくって?」

『個人的にはさっきの模擬戦について二人で話をしたいんだけど、大丈夫かしら?』

「そういう事なら構いませんわ。どちらに向かえばよろしいでしょう?」

『それなら、私の個人研究室に来てちょうだい。アルはその間に共同研究室で機体の修復と整備、調整の方法を教わっておきなさい。話が終わったら、内線で連絡するから』

 

確かに機体のいじり方は教わっておいた方が後々の役に立つので、今の内に覚えておいた方がいいだろう。

 

「了解。共同研究室でいろいろ教わっとくよ」

『そうしておきなさい。セシリアちゃん、先に研究室で待ってるわね』

「かしこまりました。シャワーと着替えが済み次第向かわせていただきますわ。……それではアルバートさん、次回の模擬戦を楽しみにしていますわ」

「わかりました。オルコットさんも気をつけて帰ってくださいね」

 

オルコットさんはそう言ってアリーナの出入り口に向かっていったので、彼女の方を向いて挨拶をしておく。

 

『それじゃあアルバート君、機体の修復方法とかをレクチャーするから、一緒に共同研究室に行こうか』

「はい、よろしくお願いします。アリーナの出入り口で待ってますね」

 

マイク越しに研究員さんが声をかけてくるのでアリーナの出入り口で待っている事を伝え、早足で待ち合わせ場所へ向かう事にした。

 

 

 

 

 

◆◇◆ ◆◇◆

 

 

 

 

 

研究所に併設されている小型アリーナは、実際にISを動かす為のアリーナ・ステージだけでなく、更衣室やシャワールームも備わっている。

 

そのシャワールームで熱めのシャワーを浴びながら、セシリアは先程までの模擬戦を思い返していた。

 

(負けも負け、完敗でしたわね。……敗因として最も大きいのは、彼を侮り過ぎていた事かしら?)

 

模擬戦の内容としては、『攻撃手段の(ことごと)くを対策され、武装をすべて破壊された上での投了勧告を受け入れる』といういっそ清々しいくらいの負け方だったので逆にすっきりしている。

 

今にして思えば、3日前にアルバートが言っていた『武術の経験』は『篠ノ之流を修めている事』を指していたのだし、『出来うる限りの手を打って足掻く』と言っていたのも『過去に行ったブルー・ティアーズの模擬戦のデータを見て対策を取る』事を指していたのだろう。

 

こうして(かえり)みると、あの時冷静になっていれば少々捻じくれた言い回しではあるがアルバートは自分がどういった手段を使うかバラしていた事も気づけただろうし、やろうと思えばアルバート自身の情報収集と彼の専用機であるスカイ・ブレードの詳細スペックを知る機会も作る事が出来たはずだ。

 

そして、普段からアルバートの事を拒絶せずに交流を持っていれば3日前の時点でこの事に気づけただろうし、情報を収集しておけば純粋な操縦技量で勝るセシリアが勝てた確率は高い。

 

全ては後の祭りだが、アルバートの事をよく知らず、『偶然ISを動かしただけの素人』と侮った時点で無意識ながら勝ち目を手放していたのだから手に負えない。

 

(つまり、この敗北はわたくし自身の怠慢が招いた結果という事。いかなる相手であろうと侮ってはならないと教えてくれた彼には、感謝しないといけませんわね)

 

代表候補生であるセシリアを相手にしてそれだけの事をなしたアルバートに対して興味が湧くと共に、これだけの成果を出す事が出来た彼が、始めて話をした際にセシリアの顔色を窺うような言動ばかりしていたのか疑問が湧いてくる。

 

「アルバート、ウィルソン。……一体、あなたは何を考えていますの?」

 

持ち前の眼差しの強さと、今日見せた頭のキレに反するような半年前の言動が腑に落ちず、彼の名前を口にする。

 

それだけで不思議と胸の内が熱くなり、アルバートの事をもっとよく知りたいという欲求が湧き上がってくる。

 

「……彼の事を知るいい機会ですし、色々と話を聞かせてもらうとしましょうか」

 

おあつらえ向きに、これからアルバートの母親であるアリスと話をするので、アルバートがどういった人物かを知るにはちょうどいいタイミングだろう。

 

「博士をお待たせするわけにもいきませんし、急ぎましょうか」

 

熱めのお湯を浴びているだけだったセシリアは手早く体を洗い始め、少しでも早くアリスの個人研究室へ向かう事を決めるのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆ ◆◇◆

 

 

 

 

 

アリス・ウィルソンはアリーナで約束した通り、セシリアと二人で話をする為に自身に宛がわれている個人研究室でもてなしの準備を進めていた。

 

(話をしてる最中に摘むお菓子は用意したし、ティーポットも後はお湯を注ぐだけ。うん、大丈夫ね)

 

普段は研究主任と言う立場上もてなされる側に回る事が多いので、もてなす側になった回数は多くないアリスだったが、セシリアが部屋に来る前に何とか準備を終える事が出来た。

 

 

ビィーッ

 

 

(あら、来客。セシリアちゃんかしら?)

 

そうして一息ついたところで来客を告げるブザーが室内に響き渡ったので、準備を終えたセシリアがやってきたのかと思いながら、内線の受話器を取って来客を確認する。

 

『アリス博士、お待たせいたしました。中に入ってもよろしいでしょうか?』

「ええ、大丈夫よセシリアちゃん。今ロックを解除するわ」

 

来客は予想通りだったのでそのまま扉のロックを解除。自動的に扉が開き、若干緊張した表情でセシリアが入室してくる。

 

「いらっしゃい、セシリアちゃん。今お茶の準備しちゃうから、座って少し待っててくれる?」

「か、かしこまりました」

 

セシリアに一言声をかけてからアリスはお茶を淹れる為に簡易キッチンスペースに向かっていき、もてなしを受けるセシリアはアリスの言葉を素直に聞き入れて部屋のソファに座り、アリスを待つ。

 

「お待たせ。紅茶はゴールデンルールに沿って淹れたつもりだけど、味に関しては過度の期待をしないでもらえるとありがたいわ」

 

そう言いながら、アリスは紅茶の入ったティーカップとケーキの乗ったお皿をセシリアの前に一つ置き、同じモノを自分が座る場所であるセシリアの反対側に置くと、ソファに腰掛ける。

 

「まずはお礼を言わせてちょうだい。私と話す時間を作ってくれた事、感謝するわ」

「お気になさらないでください、博士。元々模擬戦はわたくしからアルバートさんに申し込んだことですし、彼について色々とお尋ねしたい事も出来ましたから」

「あの子について? 一体何が知りたいの?」

 

セシリアが知りたそうな息子の個人情報に見当がつかないので、アリスはどういった事柄について知りたいのか問いかけてみる。

 

「アルバートさんは、話をする時に話相手の顔色を窺った発言をする事は多いのでしょうか? ご存じのようでしたら教えていただきたいのですが……」

 

セシリアは紅茶をストレートのまま一口飲んでから、己の疑問を口にする。

 

「私が把握してる限りだと感情の機微にも鋭い子だから、よほど変な精神状態でもない限りはそういった話し方をしないはずよ。……セシリアちゃん、アルにそういった話し方された事があるの?」

「えっ、ええ。半年前にブルー・ティアーズの受領を済ませた後、アルバートさんに個人研究棟まで案内してくれた事のお礼を言う為に話しかけて、しばらく彼と話をしていたのですが、その時はかなりわたくしの顔色を窺った話し方をされていましたわ」

 

アリスの問いかけに対してセシリアは若干戸惑いながら肯定し、同時にいつ頃の事かも告白する。

 

「半年前、ねぇ。……セシリアちゃん、その時、アルの態度ってどうだったか覚えてる? どこか普段と違った感じとかはしなかったかしら?」

「その時以降は殆ど彼と話をした事がないので普段の様子がどのようなものかは存じませんが、3日前や先程話をした時と比較すると、どこか冷静さを欠いて、浮ついた様子だった気がしますわ」

 

セシリアがアルバートとまともに話をしたのはその3回くらいなので、半年前の事を思い出しながらそう答える。

 

「なるほどねぇ。……つかぬ事を訊くけど、セシリアちゃんはアルの事をどう思ってるの?」

「アルバートさんに対して、ですか?……彼の事を少しでも知りたいとは思っているのですが、その感情の種類がどういったモノかを問われると、自分でもよくわかりませんわ」

 

アルバートはセシリアが思う理想の男性像に近い面もあれば、その正反対の存在である亡き父に近い面も持ち合わせている為、彼に対する感情はかなり複雑になっている事だけは確かだった。

 

「そっか。それじゃあ、ひとつ人生の先輩としてアドバイスをあげる。一つの面にだけとらわれるのはよくないわ。アルがセシリアちゃんの顔色を窺って話をした事、忘れろとは言わないけど、しばらくは気にせずにあの子と話をしてみるのもいいんじゃない? そうするだけで、今まで知らなかったアルの一面が見えるはずよ。セシリアちゃんが好ましく思う面、疎ましく思う面の両方が見えるでしょうけど、その二つを含めてアルだって事を忘れないようにね。……アルに対して自分がどう思っているかは、そうしてアルの色々な面を知った後で考えればいいんじゃないかしら」

「そう、ですわね。確かに不快な面を見せられた事があるだけで、わたくしはアルバートさんの事を殆ど存じあげません。彼の事を知りたいのならば、その為の努力を怠ってはなりませんし、話をしていけば、いずれこの感情の正体も見えてくる。――ありがとうございます、アリス博士。これから早速アルバートさんのところに向かい、話をしてみる事にしますわ」

 

そう言いながらセシリアは席を立つと、アリスにお礼を言ってからお辞儀をして研究室を出ていこうとする。

 

「役に立ちそうならアドバイスをした甲斐があるってものよ。……アルはしばらく共同研究室で機体のいじり方のレクチャーされてるだろうから、色々と教えてあげてちょうだい」

「はい!! それでは、失礼いたしますわ」

 

特に止める理由もないのでアリスは一言そういうと、セシリアは出入り口でアリスに向き直ってもう一度礼を言い、研究室を去っていった。

 

「いやー……青春ねえ」

 

バイタリティあふれるセシリアの行動に感嘆しつつ、アリスは一人でティータイムを楽しむことにした。

 

あの二人の関係がどうなるかはアリスにも予想がつかないが、少なくともここ半年よりは距離が縮む事だけは確かだろう。




そんなわけで、今回はここまで。初めからセシリアに好意を持たせるのはどうかと思ったので、こんな形にしてみました。
次回はちょっと時間を飛ばして、特別入試のバトルエピソードをやろうと思っています。
おそらくですが、10話目くらいには原作1巻の話に入れると思います。

週1回での更新を目指していますが、更新が出来ない時もあると思いますので、その時は気長にお待ちいただけると助かります。

それでは、次回の更新をお待ちください。
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