ただ、ここ数日のあまりの猛暑による影響で思うように筆が進まず、バトルに関しては次回に持ち越しとなります。ご了承ください。
読者の皆様も熱中症や日射病に気をつけてお過ごしください。
それでは、本編をどうぞ。
6月20日追記 最新話執筆中に前後編で終わらないのが確定したので、サブタイトルを変更しました。
模擬戦から時間は流れ、IS学園の特別入試は明日に迫っていた。
ここ10日程の間に訪れた最大の変化は、セシリアとの精神的な距離がだいぶ縮まった事だろう。
彼女は母さんとの話し合いを終えた後で共同研究室にやってくると、それまでとは違いかなり好意的に接してきてくれた。
どうやら彼女の心境にいい意味での変化が起きたらしく、気安くファーストネームを呼び捨てで呼んでいいと言ってくれたので、それ以降はそうさせてもらっている。お礼といっては何だが、セシリアには俺の事も愛称で呼ぶように頼んでおいた。
いい事があったので自然とやる気も出たのだが、入試の日付も刻一刻と迫っていたので移動日の直前まで一般教養の学習とISの操縦訓練を続け、何とか前日の夜に設定されていたノルマまでこなし終える事が出来た。
特別入試は日本のIS学園で行う事になっているので、既に日本に入国。今はIS学園の近くにある政府要人が利用するホテルの一室にチェックインを済ませ、現在時刻は夜の8時となっている。
試験そのものは明日一日かけて一般教養と操縦適性の二つの試験が行われる事になっている為、早めに休んでおいたほうがいいだろう。
幸いといっていいのかはわからないが、肉体的な疲労は殆どないにも拘らず、精神的には相当な疲労が蓄積されているので、さほど時間をおかずに眠る事が出来るのは間違いない。
そんなちぐはぐな状態になった理由は簡単。政府の人が今回の渡日の為に用意してくれた数々の待遇に対して、かなり考えさせられる事になったからだ。
アラスカ条約によって指定区域以外でISを起動させることは禁止されているので、『移動時間の短縮を目的としてISに食料を積みこみ、文字通りイギリスから日本まで飛んでいく』という方法は使えない為、普通に飛行機を使って日本に向かう事になったのだが、まず驚かされたのは空港までの移動手段だった。
事前に政府の人から『家の前で待機していてくれればいい』という連絡を貰ったので、それなりにしっかりした服装で待っていると、家の前にロールスロイスのリムジンが停車した時には心底驚いた。
まごう事無き高級車であり、15の小僧を空港に送り届ける為だけに引っ張り出していい車ではない。
一瞬何かの間違いかと思ったのだが、そのリムジンから面識のある政府関係者であるイギリスの代表候補生管理官が出てきた時にこれに乗らなければいけない事を否応なく理解させられたので、
高級車だけあって揺れは殆ど感じず、なんの問題もなくヒースロー空港へ到着したのだが、そこで再び驚かされた。
何故なら、渡日の為に用意されていたのは乗客が俺しかいない特別便のジャンボジェットだったからだ。
『世界でたった二人しか確認されていない男性IS操縦者』という希少性を考えれば特別便という措置そのものは妥当であると理解は出来るが、ジャンボジェットである必要はないし、特別扱いされる俺の気持ちにもなってほしい。
なにせこちらは2週間程前までは完全無欠の一般人だったのだ。
その価値観はそうそう変わる物ではなく、無意識の内にこの特別便の為にどの程度の金が消費させられる事になるかを考え始めてしまった。
もっとも、飛行機の貸し切った場合の代金など知らないので具体的な金額こそ思い浮かばなかったが、少なくとも一般家庭で捻出可能な額ではなさそうだと予想出来た瞬間、本気で意識が飛びかけた。
ただ、ここで意識を飛ばしたら非常にまずい事になるのは明白だったので気合で意識を繋ぎとめ、表面上はいたって普通の
当然? 案内された座席は一般で言うファーストクラス。快適な空の旅を約束されてはいたが、帰りも同じ特別便でのフライトになる事を考えると、改めて『男でISを動かした』という事実が社会的にどれほど重いかを理解させられる事となった。
フライトの最中も問題は起きず、12時間ほどで日本の成田空港に到着。空港で待ち構えていた各国マスコミのインタビューに答え、同道してくれた代表候補生管理官と共にイギリス大使館の公用車でホテルまで移動し、現在に至る。
「何が何でも合格したいところだな、マジで」
IS学園は設立経緯からして特殊なので、原則的にはどこの国も干渉する事が出来ない。その為、試験に合格して入学する事が出来ればそこから3年間は必要最低限の干渉で生活する事が出来る可能性は高い。
それにIS学園は普通のハイスクールとしての側面もあるので、一般的な学生生活を送る事も出来るだろう。男性IS操縦者という特異存在になってしまった以上、そちらも十分魅力的な物に思えてしまう。
「なんにせよ明日は頑張らないといけないし、とっとと休んでおいた方が無難だな」
精神的なものであろうと疲れを残しておくわけにいかないので、シャワーを浴びて早めに休むことにする。
トランクの中から替えの下着とジャージを取り出してシャワールームへ向かい、30分程シャワーを浴びた後、明日に備えて眠る事にした。
◆◇◆ ◆◇◆
アルバートが入試に備えて早めに就寝している頃、会場であるIS学園では、明日の特別入学試験に備えての最終確認が行われていた。
「一般教養の試験問題の準備、よし。実技試験用のラファール・リヴァイヴの準備も先程終わりましたから、これで準備は完了ですね」
IS学園教師である山田真耶は、筆記・実技両方の試験準備が終わった事を確認すると、職員室の自分のデスクで一息つく。
「どうやら準備は終わったようだな、山田君」
そう言いながら、同僚の教師が真耶のデスクにコーヒーの入ったカップを置く。
「あ、ありがとうございます、織斑先生。後は明日になるのを待つだけです」
真耶は一言礼を言うと、コーヒーを飲み始める。
「なに、気にする事はない。ここ2週間程はあの二人の影響で学園中が慌ただしかったからな。私もようやく一息入れる事が出来る」
織斑と呼ばれた女性教師は自身の席である真耶の隣の椅子に座りながらそう言うと、真耶と同じようにコーヒーを飲み始めた。
彼女が言う『あの二人』とは、当然男性IS操縦者である織斑一夏とアルバート・ウィルソンの二人の事だ。
「でも、織斑先生は私たち以上に大変だったじゃないですか。マスコミのインタビューは数が多すぎて抑えきれなかったみたいですけど、それ以外は男性IS操縦者になってしまった弟さんが普通の生活を出来るように研究協力の申し込みなどをシャットアウトさせようと色々と奔走していたみたいですし」
真耶の指摘を聞いた織斑は一つため息をついた後、一口コーヒーを飲んでから口を開く。
「せっかくの社会的地位だ、利用できる時には最大限利用させてもらうさ。……それに、一夏には私のせいで以前とんでもない迷惑をかけてしまったからな。これ位はやっておかないと、いつ以前のような事が起きるかわからん」
それだけの行動を起こし、社会に認めさせる事が出来るだけの権力を彼女は持ち合わせていた。
彼女のフルネームは織斑千冬。モンド・グロッソの総合部門優勝者『ブリュンヒルデ』の栄冠に輝いた事もある女傑であり、同時に世界を騒がせている男性IS操縦者の一人、織斑一夏の実姉でもあった。
「私からすれば、アルバートのやつがISを起動させた事の方が驚きましたよ。イギリスに引っ越してからは連絡を取っていなかったが、こんな形で再会する事になるとは露ほども思わなかった」
「え? 織斑先生、アルバート・ウィルソン君の事をご存じなんですか?」
千冬とはプライベートでの付き合いもあるので、真耶は一夏の存在そのものは知っていたが、アルバートとも付き合いがある事は初耳だった。
「ご存じも何も、あいつは弟の一夏、束の妹の箒と同じく、私がモンド・グロッソで総合優勝を得て篠ノ之流が有名になる前に門下生となった男です。家庭の事情で7年前にイギリスに引っ越した関係で今まで各国のマスコミには知られていませんでしたが、それまでは殆ど泣き言を言わずに鍛錬に打ち込んでましたよ」
「はあ……。それはすごいですねぇ」
千冬の一人稽古を見た事がある真耶は篠ノ之流の鍛錬の厳しさも知っている為、鍛練中に泣き言を洩らさなかったというアルバートに感心する。
「当時の鍛錬を現在も続けているかは不明ですが、続けていた場合は私の動きをある程度トレースする事も可能でしょう」
「…………織斑先生の動きをトレース出来る時点で十分すごいですよ」
なにせ千冬が現役時代に使っていた機体《暮桜》は
単一仕様能力というのは、一定の条件を満たした時にISに発現する特殊能力の総称の事だ。
現存する467機のISは、どの機体であろうと
これは、単一仕様能力を発現させるための前提条件がかなり厳しく設定されていることに起因する。
その条件というのが、『操縦者とISの相性が最高の状態に達した時』だ。
それだけの条件を満たす事が出来る環境は限定されているので、ISのコアを機体に組み込み、操縦者を選定する段階で単一仕様能力を発現させられるか否かが大まかに決まってしまうと言っても過言ではない。
千冬と暮桜はその厳しい条件をクリアし、単一仕様能力を発現させることに成功。発現した特殊能力によって絶大な攻撃力を得る事になったが、その代償として機体の負荷処理の増大を招き、それを解消する為に
その結果、暮桜はいかなる時であろうと
もっとも、その不利を補って余りある攻撃力を有していたので、大抵の相手は一太刀、防御能力が高い者が相手でも二太刀浴びせる事に成功すれば相手のシールドエネルギーを全て奪い去る事が出来たが、最大の問題点として『どうやって相手に接近し、必殺の一太刀を当てるか』をクリアしなければならなかった。
その問題に対して千冬が導き出した結論は、『敵の攻撃を全て回避した上で隙を見て一気に近づき、攻撃を当てる』という非常にシンプルなものだった。
生身での身体能力も高い千冬にとって自身が出した答えは『実現可能な事柄』だった為、それからの鍛錬は敵からの攻撃回避と隙を見ての接近に宛て、その結果として世界最強の座に着いたのだ。
それは付き合いのある真耶も重々承知しているので、彼女からすれば『千冬の動きをある程度とはいえトレースできる』というだけで十分驚嘆に値した。
「あくまでも可能性の話なので、そこまで気負う必要はないでしょう。……挨拶に顔を出すつもりではありますが、明日の試験、よろしくお願いします」
「ええ。お任せください、織斑先生」
真耶は千冬からの言葉にしっかりと返事をする。
「これを飲み終わったら、寮に戻って休みましょうか」
「そうだな。……明日も早い事だし、休める時には休んでおきましょう」
二人はそう言って残ったコーヒーを飲み干し、片づけをした後で戸締りを確認。鍵を閉めた後、職員寮へと戻るのだった。
そんなわけで、今回はここまで。本当だったら千冬さんの登場とバトルを含めて1話で終わらせたかったのですが、あまりに暑すぎて頭が回らず、前後編の形になりました。申し訳ないです。
前書きで書いたとおり、次回は入試での模擬戦を主に書いていこうと思っています。
それでは、次回の更新をお待ちください。
6月20日追記 最新話の執筆を続けたところ、次の話で模擬戦終了までいきそうにありませんでしたので、大変勝手ながらサブタイトルを変更させていただきました。今のペースだと、次のエピソードは実技の模擬戦開始前までのエピソードになると思います。