内容的に前回分を合わせると3部構成になってしまうので、誠に勝手ながら前回のサブタイトルは変更させていただきました。申し訳ありません。
それでは、本編をどうぞ。
一夜あけて、特別入学試験当日。
ホテルで朝食を取った後、筆記用具や受験票などの必要な物を持って大使館の公用車に乗せてもらう形でIS学園へ向かった。
IS学園のある離島へ向かおうとする場合、一般的には島と本土を繋ぐリニアトレインを使うのだが、車でIS学園へ向かう事も不可能ではない。
だが、代表候補生管理官から聞いた話によると、IS学園へ向かう専用道路はかなり強固なセキリュティが施されている為、使用できるのは生徒の親類を含めたIS学園の関係者か学園への物資搬入を行っている業者、各国の要人くらいのようだ。
その中でも学園関係者が利用する場合は事前の申請と渡航前の各種チェックを受ける必要があるし、搬入業者の場合でも専用IDカードの提示と不審物混入有無のチェックを行う必要があるので、不自由なく利用できるのは各国の要人だけらしい。
今回俺は第3ケースである要人と同等の扱いになっているらしく、セキリュティゲートを通った後は一度も停車することなくIS学園の敷地内へ入る事が出来た。
「申し訳ありませんが、我々にも職務があるので一度失礼させていただきます。試験の終了予定時刻にはお迎えにあがりますので、ご安心ください」
「わかりました。ここまでの送迎、ありがとうございました」
島内にある駐車場で大使館事務員の人に送ってくれた事のお礼を言ってから、車を降りる。
俺の降車を確認した大使館公用車が専用道路の方へ向かっていくのを見送った後、受験会場である学園の校舎へ向かおうとしたところ、駐車場の出入り口付近に一人の女性がいた。
「人違いではないと思いますが、アルバート・ウィルソン君であってますよね?」
「ええ。そちらはIS学園の先生であってますか?」
「はい、山田真耶といいます。学園までの案内と、各試験の試験官を務めさせていただきます。今日は一日よろしくお願いしますね」
山田先生はそう言ってから一礼してきた。
「わかりました、山田先生。今日一日、よろしくお願いします」
受験票や今日一日の日程が記載された資料と一緒に島内の地図も送付されてきているので一人で行動する事も出来ないわけではないが、迷ってしまう可能性も0ではないので案内役の人がいるのはありがたかった。
「それでは、校舎の方へ案内しますね。ついてきてください」
そう言って山田先生が歩きだすので、俺も彼女の後についていく。
「アルバート君、今日の試験のスケジュールは把握しているとは思いますが、確認しておきたい事などはありますか?」
今日の特別入試は午前中と午後の一部を使って一般教養の筆記試験を校舎で行い、そのあと実技の操縦適性試験としてアリーナで模擬戦を行う事になっているのだが、どうしても気になる点が一つある。
「はい、あります。今日は学園に通う生徒の皆さんも普通に登校されて授業を受けているんでしょうか? もし授業をしている場合、休み時間中に俺の姿を見ようとする生徒さん達への対策はどうなっているのか聞いておきたいのですが……」
時の人である男性IS操縦者の一人が公的に学園へやってくるのだ。生徒の人達からすれば、生で俺の姿を見る事が出来る絶好の機会である事は間違いないだろう。
そうなると、俺にインタビューを求めるマスコミの人達のように大挙として押し寄せてくる事も考えられる。
学園側としても無用な混乱を避ける為に何かしらの対策は講じてあると思うが、具体的なプランについて聞いておきたかった。
「わかりました、順番にお答えしますね。まず一つ目の質問ですが、生徒たちは今日も普通に授業を行っています。二つ目の質問につきましては、アルバート君の試験会場となる自習室とアリーナには近づかないよう今朝のSHRで全クラスの生徒に通達してあります。破った生徒には懲罰訓練を課す事も同時に伝えてありますし、仮病などを使って見にこようとした生徒にも懲罰訓練が課せられる事を伝えてあります。おまけに自習室の近くには先生達が待機していますから、生徒達はそう簡単に近づかないと思います。筆記試験の間に設けてあるアルバート君の休憩時間も生徒達の授業の休み時間とはずらしてあるので、一般生徒達と会う事はまずないと思いますよ。今の時間だと1時間目の授業中ですから、自習室へ向かう間にも生徒と会う事はないはずです」
なるほど。相互の休憩時間がずれていれば合う確率は減るし、先生達に見つかって懲罰訓練を受けるリスクを考慮すれば、心理的にも動きづらくなる。安心して試験に臨む事が出来そうだ。
「確かに、それなら試験に集中できそうです。教えていただきありがとうございます、山田先生」
「いえいえ。アルバート君の注目度を考えると、これでも対策として十分とは言いきれないですから」
山田先生はそう言うが、対策を講じた上でそれが通用するケースに収まっているだけでありがたみを感じてしまう。
普段のマスコミ相手だとこうはいかない。
なにせ世界中から大挙として集まってくるので数が圧倒的に多い為、対策を取ろうとしても焼け石に水となってしまい、最終的にはまとめてインタビューを受けざるを得なくなってしまうので、その事を考えるとこうして集中できる環境を作ってもらえただけでも十分だ。
「でも、こうしてマスコミの人達の事を気にせず、普通に歩けるだけでも十分ですよ」
「そう言ってもらえるなら幸いです。もうすぐ校舎につきますよ」
話しこんでいる間にそこそこの距離を歩いていたらしく、200メートルほど先にIS学園の校舎が見えていた。
あまり気を抜きすぎてもいけないので気持ちを切り替え、そこからは黙って山田先生の後ろについていく。
校舎内に入った後も授業中というだけあって静かなもので、話し声らしきものもほとんど聞こえてこなかった。
「ここが試験会場になります。準備をしてきますので、中で待っていてください。少し狭いですが、我慢してもらえると助かります」
「わかりました。失礼します」
そう言って山田先生は図書室の近くにあった扉の前で止まったので注意を了承して扉を開いてから一礼して室内に入り、室内に備え付けてあるデスクに座って筆記用具などを取り出し、山田先生が来たらすぐに試験を始められるように準備しておく。
「お待たせしました、これより筆記試験を開始します。1教科の試験時間は60分。間の休憩時間は10分となっています。回答用紙に名前を書いた後、合図があるまでは試験問題を開かないでくださいね」
準備が終わってかなり緊張しながら待っていると、体感時間で5分程が経過した後、大きな封筒を抱えて山田先生がやってきて試験の制限時間と注意事項に関する説明をしてきた。
「了解です」
「まずは解答用紙と問題用紙を配布します。最初に解答用紙に氏名を記入してください」
山田先生はそう言うと、デスクの上に問題用紙と解答用紙を置いてくれたので、指示どおりに解答用紙へ氏名を記入する。
「記入し終えたみたいですね。…………それでは、始めてください」
解答用紙への氏名の記入を終えた事を確認した山田先生が少し間を空けて開始の合図をしてきたので、俺は問題用紙を開いて筆記試験に挑み始めた。
◆◇◆ ◆◇◆
試験は間に休憩時間を挟みながら順調に進み、後1分で筆記試験最後の教科も制限時間を迎える事になる。
ここ2週間必死になって試験対策の詰め込み学習を行った成果か、全教科空欄は一切なし。回答の正誤はあるだろうが、それも帰りの特別便で自己採点すればいいだろう。
「そこまで!! 筆記用具を置いてくださいね」
制限時間を迎えたので山田先生の静止の声がかかり、俺は筆記用具をデスクに置く。
「これで筆記試験は終了となります。用紙を教員室に置いてきますから、少し待っていてください。私が戻ったらアリーナに移動し、30分後に実技の操縦適性試験として模擬戦を行います。この時間は休憩時間としての意味合いよりも着替えなどの準備をする為の時間だと思ってくださいね。ISスーツなどは準備してありますか?」
「はい。今もインナーとして着てますから、すぐに始める事も可能です」
山田先生が問題用紙と解答用紙を回収しながら質問してきたので、返事をする。
インナーとしてISスーツを着ている理由は、今回の渡日の最中に何かしらの事件に巻き込まれてISを展開せざるを得なくなった時に少しでもエネルギーの消費を抑える為なのだが、今までそういった事態には陥っていないので助かっている。
「準備がいいですね。それでは、少し待っていてください」
そう言って山田先生は部屋を出ていったので、俺は背もたれに体重をかけて全身の力を抜く。
「あ゛~、疲れた。アリーナに着いたら、休憩を優先しよう。着替えはすぐ済ませられるし」
今着ている服を脱いでシューズを履き替えるだけだから、3分もかからない。準備運動や機体の設定確認に15分かけるとしても、10分程度は休めるはずだ。
「お待たせしました、アルバート君。アリーナまで移動しますから、ついてきてくださいね」
「わかりました、山田先生」
一応の方針を決めてペンケースをバックにしまったところで山田先生が戻ってきたので、彼女の後に続いて移動を開始する。
「山田先生、実技試験の模擬戦って、どこのアリーナでやる事になってるんですか?」
その最中、俺はふと模擬戦をどこのアリーナで行うのかが気になったので、山田先生に質問してみる。
島内地図によればアリーナは6つあるのでどのアリーナを使うのかは知らないが、生徒さん達の訓練の事も考えるとそこまで大きいアリーナを使う事はないだろう。
「アルバート君はISを起動させて2週間くらいしか経っていませんから、少しでも動きやすいように一番大きな第3アリーナを使う事になっています。更衣室で着替えをはじめとした準備を終えたら、ピットまで移動してくださいね。道順はアリーナについてから説明します」
俺からの問いに答えながら山田先生は校舎に一番近いアリーナへ進んでいくので、そこが実技試験の会場である第3アリーナなのだろう。
「わかりました」
確かに俺の技量は低いので、空中での旋回半径などは大きなものになってしまっている。その事を考えると、広いアリーナで戦えるのはありがたかった。
それからすぐに第3アリーナに到着し更衣室まで案内された後、山田先生に更衣室からピットまでの道順を教えてもらい、実技試験の準備時間となった。
試験の開始時間まで30分しかないので時間がかかりそうな着替えと機体の設定確認を真っ先に済ませ、そこから10分程休憩。筆記試験での疲れを少しでも解消し、準備運動を済ませた後、山田先生から教えてもらった道順をたどってピットへ移動する。
「待ってましたよ、アルバート君。実技試験の準備は大丈夫ですか?」
そこではISスーツに着替えた山田先生が待ち構えており、試験に臨めるかどうかを確認してきた。
「はい、すぐに始められます」
「よろしい。では、実技試験のルールを説明します。実技試験は事前に説明したとおり、模擬戦を行います。相手は私が勤めさせていただきますね。使用機体の制限はないので、アルバート君は自分の専用機を使ってもらって結構です。模擬戦と言っても現段階での操縦適性を見る事が主な目的なので、必ずしも勝つ必要はありません。模擬戦に負けてしまっても、試合の内容次第では合格判定が出る場合もある事は忘れないでくださいね。……ここまでで何か質問はありますか?」
試合内容を参照するのなら、被弾覚悟の特攻は間違いなく評価を下げるのでやめておくべきだろう。
千冬さんの動きをトレースして使う分には問題ないはずだが、これも完全にトレース出来ているわけではない。
千冬さんはISに搭載されているPICを常時マニュアルでコントロールする事で敵機から攻撃を紙一重で回避し、その後の僅かな硬直をついて
だが、俺は現状だとPICをマニュアルでコントロールしきれる程の技量を持ち合わせていないので、PICの制御に関しては自動制御モードに設定している。
自動制御モードなら操縦者である俺の動きに合わせて機体が自動で慣性を制御してくれるので非常に楽なのだが、自動制御故の弱点も存在する。
自動制御と手動制御と比較すると、複数の戦闘機動を繋ぐ動きの滑らかさが最低でも一段は劣る物になってしまうし、一定以上の速度に達すると制御タスク上は慣性制御の優先順位が上昇する為、回避機動が操縦者の意図とは関係なく僅かながら大きくなってしまう。
わかりやすく言ってしまえば、自動制御での戦闘は戦闘機動が上級者の機動と比べてぎこちないものになるし、敵の攻撃を紙一重で回避できなくなってしまうケースが増えてきてしまう。
それ故、一定以上の技量を身に付けた操縦者はPICをマニュアルでコントロールする事でより円滑な戦闘機動を行い、敵機からの攻撃を紙一重で回避し、少しでも自分が攻撃する機会を増やしているのだ。
千冬さんの戦闘機動はその最高峰ともいえる物なのでPICを自動制御している状態でのトレースには限界がある為、トレース出来ている分は少なく見積もって2割、多く見積もっても3分の1程度だろう。
確実に点数を稼ぐのなら、今できるだけのトレースと篠ノ之流の技を駆使して戦った方がいいのだろうが、気になる点もあるので質問しておく。
「はい。俺の機体は第3世代機なので特殊兵装が搭載されてるんですが、それも使った方が評価されるんでしょうか?」
それは、この試験における特殊兵装の扱いについてだった。ただ使うだけで加点となるのか、しっかり制御しなければならないのかは聞いておきたかった。
「そういえば特殊兵装については説明していませんでしたね。特殊兵装はしっかりと自身の制御下に置く事が出来た状態で使用すれば加点の対象となりますが、制御しきれていない場合は減点対象となります。無理に高得点を狙おうとせず、今の自分が出来る最高の動きをしてくれれば自然と評価されるようになってますよ」
つまり、ビットならしっかりとコントロールしていないと減点となり、ライジングブレードの場合は制限時間内に当てなければ減点になるわけか。
ブレードの方は攻撃力がかなり高いので劣勢時の巻き返しに使えるかもしれないが、ビットの方は使わない方が無難だろう。
セシリアとの模擬戦後に何度か試用してわかった事だが、俺はビットをコントロールする資質に関しては他の代表候補生の人達より低いようだ。
具体的に言うと、セシリアを除く他のイギリスの代表候補生の人達は戦闘中に同時に3機までビットをコントロールできるが、俺の場合は戦闘中に同時にコントロールできるビットの機数は2機が限度となっている。
ビットが墜とされる事を前提に囮として使うのも一つの手ではあるのだが、スカイ・ブレードに搭載されているソードビットは4機だけなので、囮に使える回数は最大4回。
相手はIS学園の教師である山田先生なので、ISの操縦技術も高い事は容易に想像できる。
ビットを使った囮戦術など簡単に対処されてしまうだろうし、減点対象になる確率も高い。
その事を考えると、スカイ・ブレードとスターダストを主な攻撃手段として、劣勢に陥ったらライジングブレードでの逆転を狙った方がよりよい評価を得られるだろう。
「わかりました。今、自分に出せる全力で模擬戦に臨ませてもらいます」
「そうしてください。――模擬戦は双方が別々のピットから発進後、合図があった段階で開始となります。準備はいいですか?」
「はい。いつでもいけます」
「では、機体を展開してカタパルトで待機していてください。先生の準備が終わったら
この他に、発信者から任意の機体にのみ通信を送る
「わかりました。機体を展開後、カタパルトで待機しています」
「よろしくお願いしますね」
そう言って山田先生はピットを出ていったので俺は指示に従って機体を戦闘形態に
そんなわけで、今回はここまで。次回は山田先生との模擬戦エピソードとなります。
自分は書きたいイベントを思い浮かべて、そこに至るまではインスピレーションに任せて文章を書いていくタイプなので、今回のように一話で予告した部分まで進まない事が起こるかもしれません。
読者の皆様にはご迷惑をおかけする形になりますが、なにとぞご容赦ください。