Infinite Sky:R   作:ショウゴ

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大変お待たせしました。前回と同じように、暑すぎて執筆に集中できず、時間がかかってしまいました。今回で入学試験編は終了となります。
感想での質問に対する答えも記載していますが、あくまでこの作品のみの独自設定です。
それでは、本編をどうぞ。


09 特別入学試験終了

山田先生からのグレネードを連続でくらってシールドエネルギーが0になり、模擬戦での負けが確定した事を認識しながらアリーナ・ステージの地面に墜落した俺は、ハイパーセンサー越しに着地してくる山田先生の姿を確認すると、身体を起こしながら土煙が晴れるのを待つ。

 

「大丈夫ですか、アルバート君?」

「ええ、大丈夫です。完敗ですよ、山田先生」

 

山田先生が俺の安否を確認しながら手を差し出してくるので、彼女の手を握って立ち上がりながら素直に気持ちを吐露する。

 

「いえいえ。近接格闘戦に入ってからはかなり押されてしまいましたからね。試験内容としては、十分に合格レベルです」

「そう言ってもらえるのはすごくうれしいんですけど、やっぱり負けるのは悔しいです。絶対にそれで来ると思ってたんで、体勢立て直しながらカウンターで一撃返そうと思ってたんですけど、思い切り裏をかかれました」

 

俺はそう言いながら、山田先生の左腕に視線を移す。

 

左腕部のハードポイントにあったはずの大型シールドは装甲部分がパージされ、その内側に仕込まれていた第二世代最強兵装と名高い69口径パイルバンカー、通称『盾殺し(シールドピアース)』が露わになっていた。

 

「近接格闘戦の時に私から見て左側は簡単に盾で防がれるとわかっているはずなのに、どちらからの攻撃だろうと速度も密度も変わりませんでした。それで絶対に何かあると思っていましたから、最後はああしたわけです。次に盾殺しを装備したラファール・リヴァイヴと対戦をする時には、攻撃の最中にフェイントを入れるか攻撃密度に差をつけるといいですよ」

「……なるほど。今後の参考にさせてもらいます、山田先生。教えていただき、ありがとうございました」

 

山田先生の言動からすると、俺の戦術は途中から見抜かれていた事になる。今後は同じ過ちを繰り返さないように気をつけるとしよう。

 

「実技試験もこれで終了となりますので、本日の特別入学試験はすべての日程を終了した事になります。今後の事について、何か質問事項はありますか?」

「えっと……合否の通知方法だけ聞かせてもらっていいですか? 日本の高校入試の合否通知っていうと、どうしても入学志望の高校の校舎前で一喜一憂しているイメージが強いので」

 

日本に住んでいた頃は、この時期によくニュース番組で入学試験の結果を見て喜ぶ中学生の姿があった気がするので、IS学園での合否の通知方法は知っておきたかった。

 

「その事ですか。IS学園は設立経緯をはじめとして色々と特殊な学校なので、一般受験を行った方には合否結果を郵送で通達し、代表候補生で受験を行った方の合否結果に関しては、学園側から各国の代表候補生管理官に受験者の合否を通達し、管理官を通して試験結果を知る形になっています。どちらの場合でも試験後2週間程度で通知が届くと思うので、待っていてくださいね」

 

つまりイギリス代表候補生として扱われている俺の場合、試験結果は2週間後に管理官から教えてもらう形になるのだろう。

 

実技に関しては問題ないと思うが、筆記に関しては現段階だと未知数なので、帰りのフライトの最中にでも合格基準に達しているか自己採点をして確認するとしよう。

 

「わかりました。質問は以上です」

「はい。これで解散になるのですが、アルバート君には一つお願いがあるんです」

 

合否の通知について質問を終えると、山田先生は申し訳なさそうな表情でそう言ってきた。

 

「お願い、ですか? 何でしょう?」

「お願いというのは、更衣室に併設されているシャワールームの使用についてなんです。事前にこの事を生徒の皆さんに伝えたところ、『たった一日とはいえ、男子が使った後のシャワールームなんてどういう風に使えばいいかわからない』という意見がかなり寄せられてきたんです。模擬戦を終えて汗をかいているアルバート君に伝えるのは大変申し訳ないんですが、シャワールームの使用を控えてもらうわけにはいきませんか?」

「ああ、その事ですか。元々そう言われるんじゃないかと思ってタオルを多めに持ってきておいたので、問題ありませんよ」

 

IS学園はその性質上『国際的な女子高』と言える場所だし、通っているのが色々と多感な時期である15から18歳の女性達なので、異性の俺が普通に使う事のできる施設は限られているのは容易に想像できる。

 

山田先生のお願いを聞く前からシャワールームを使う気はなかったので、汗ふき用のタオルを多めに持ちこんでおいたのだ。

 

「本当ですか!? ありがとうございます、アルバート君!!」

 

山田先生はそう言うと、嬉しそうな笑顔を浮かべながら俺の手を両手で握って上下に振り始める。

 

「IS学園の性質を考えて、こうした方がいいんじゃないかと思って用意しておいただけですよ。……お願いっていうのは、それだけですか?」

「はい。学園からのお願いはそれだけになります」

「了解しました。ただ、シャワーを浴びるより時間がかかると思うので、すぐに更衣室に向かっても大丈夫でしょうか?」

 

山田先生は手を振るのをやめてそう言ってくるので、更衣室へ向かっても大丈夫か確認してみる。

 

「あっ……、そっ、そうですね、ごめんなさい。汗を拭いて着替えを終えたら、またピットの近くまで来てもらってもいいですか? 問題が起きる事はないと思いますが、念のために駐車場まで案内したいので」

「わかりました。準備が出来次第、ピットに向かいます。では、一度失礼させてもらいます」

 

先生からの提案を了承してからカタパルトを使用したピットへ飛んでいき、ルール説明を受けたあたりで着地した後、機体を待機形態へ移行(シフト)させ、来た道をたどって更衣室まで戻る。

 

(かなり疲れたけど先生を待たせるわけにもいかないし、着替えとかは早めに済ませるとしますかね)

 

そんな事を思いながら替えの下着とタオルを取り出し、ISスーツを脱いで全身の汗を拭き、下着を穿いてから疲れを残さない為に一人で出来るクールダウンを行い、私服に着替える。

 

それから5分ほど休んだ後、忘れ物がないか確認してから荷物を持って更衣室を出発。

 

ピットへ向かうと、意外な人が待ち構えていた。

 

「ようやく来たか、アルバート。山田君はこの後お前の筆記と実技試験の採点で忙しいから、彼女の代わりに私が駐車場まで案内してやる」

「………………それはありがたいんですが、ご自分の仕事はしなくていいんですか? 千冬さん」

 

ピットで待っていたのは山田先生ではなく、既に第一線を退いて後進の育成に力を注ぎ始めた世界最強のIS操縦者であり、俺・一夏・箒さんの3人に篠ノ之流を教えてくれた師でもある織斑千冬さんだった。

 

「お前の送迎もその仕事の内だ。学園内で緊急事態が発生した場合、私が指揮を執る事になっているからな。一緒に行動しておいた方がいざという時に対処がしやすい」

「そういう事なら文句は言いませんが、まさか今日会えるとは思っていませんでした。お久しぶりです、千冬さん」

 

千冬さんがIS学園で教師をしている事はニュースでも取り上げられた事があるので知ってはいたが、会えるとしたら入試に合格してIS学園に通学するようになってからだと思っていた。

 

第2回モンド・グロッソの終了後、半年程が経過してから行われた『織斑千冬の現役引退表明とIS学園での後進育成に転身する旨を伝える記者会見』はISの発表時程ではないが世間を騒がせた。

 

なにせ原因不明のモンド・グロッソ決勝戦不戦敗の後、殆どマスコミの前に姿を現さなかった千冬さんが世界中のマスコミを集めて行われた場で発表された事だったので、記者会見の会場にいた各国のマスコミの驚きようはかなりの物だった。

 

事前に日本政府とは話がついていたらしく、日本政府の関係者はそれほど驚いてはいなかったが、まだ数年は現役で活動すると思われていた為、日本以外の国では千冬さんの現役引退には何かしらの原因があるのではないかと騒がれたものだ。

 

現在ではそういった騒ぎも沈静化しており、マスコミへの露出も殆どなくなっていたが、実弟の一夏がISを起動させてからはマスコミへの露出も再び増えていたし、学園の仕事が忙しいのは目に見えているので今日の試験では会えないと思っていた為、正直言って予想外だった。

 

「こうして直接会うのは7年ぶりか。……随分でかくなったものだ。いくつある?」

「身長ですか? ISスーツを造る時に測ったら、176センチでした」

 

若干見上げるような形で俺の姿を見て問いかけてくる千冬さんに返事をするが、イギリスでの同年代の平均身長は178センチなので、平均よりは若干低かったりするのだ。

 

「ほぉ、日本人の平均よりは上か。――ピットで山田君との模擬戦の一部始終を見させてもらっていたが、剣筋を見る限りだとイギリスに引っ越してからも鍛練は怠っていなかったようだな。それに、随分と器用になった。正直驚かされたよ」

「模擬戦見てたんですか!? うわー、恥ずかしい」

 

一部始終を見られていたという事は、最後の読みを外してグレネードをくらった場面も見られていた事になるので、恥ずかしいどころの話ではない。

 

「そう恥ずかしがるな。操縦訓練を始めて2週間程度であれだけ動きまわるだけでなく、僅かとはいえ私の動きをトレース出来ている時点で初心者としては十分だ。あとは基礎からしっかりと鍛えていけば、そう遠くないうちに代表候補生とも渡り合えるだろう」

「わかりました。向こうに戻ってからも、基礎訓練を続けます」

 

昔は俺達が慢心しないように殆ど褒めてこなかった千冬さんが褒めてくれた事が素直にうれしかったし、こうしてアドバイスも貰う事も出来たので、イギリスに戻ってからもしっかりと基礎訓練を積むとしよう。

 

「お互い積もる話もあるが、まずは移動するぞ」

「そうですね。話をするだけなら歩きながらでも出来ますし」

 

千冬さんはそう言いながらピットの出入り口の方へ歩いていくので、同意しながら彼女の後についていく。

 

「これでお前も合格していれば、来年度からは男子生徒が2名になるわけか。難しいかもしれんが、あまり問題を起こすなよ?」

 

ピットを出てアリーナの廊下を歩いていると、千冬さんがそう言ってきた。

 

「え? 一夏のやつ、もうここの入試受けてたんですか? しかもその言い方だと、既に結果も出てます?」

 

高校受験の試験会場で迷ってしまった結果、IS学園の試験会場に入ってしまい、受験者が入室してきたと勘違いした担当教師に促されるまま、実技試験用に持ち込まれていた日本製第2世代量産機・打鉄に触れたところ、起動させる事に成功したのはニュースで報道されているので知っていたが、既に入試を終えていた点については初耳だった。

 

「ああ。お前達の事が報道されてから3日後には試験を受けていたぞ。ついでに言えば、普通に合格だ」

「報道3日後って、かなり急じゃないですか。一夏のやつ、よく試験勉強を間に合わせる事出来ましたね?」

 

俺の場合、2週間という猶予期間の半分を勉強に宛ててようやく試験範囲になりそうなところをカバーしきれた事を考えると、3日というのは相当短い気がしてならない。

 

「あいつの元々の志望校は学力中堅の私立高校だったからな。偏差値だけを見れば、IS学園(ここ)と同程度だ。IS学園はIS操縦者の育成を第一に考えられている関係上、一般教養系の授業に関しては国籍が同じ者ごとにまとまって行う事になっているのだが、この時行われる授業内容に関しては、どこの国籍の者だろうと自分の故郷の中堅どころの高校と大差ないんだよ」

「つまり、元々一夏が行こうとしていた高校と同レベルだったので試験勉強も比較的楽だったわけですか。そういう事なら3日で合格できるのも納得です」

「もっとも、それは一般教科に限った話だがな。IS関係の授業を受けていれば理数系は詳しくならざるを得んから、学園を卒業する頃には世界各国のIS関連の企業の入社試験程度なら簡単にパスできるだけの学力は嫌が応にも身につくぞ」

 

ISのハードウェアとソフトウェアの複雑さは機体の調整方法をレクチャーしてもらっていた時から感じていたので、千冬さんの言うとおりだろう。

 

「それに、筆記試験に限定すれば今年度に入試を受けた者の中ではお前が最も不利だからな。理由は言わなくてもわかるだろう?」

「ええ。一夏を含めた他の受験者の人達は2月の入試に間に合うように勉強してきたんでしょうけど、俺の場合は2週間での付け焼刃ですからね」

 

身についているかも怪しいので、帰国した後も地道に勉強を続けて差を縮めていくしかない。

 

「合格したら、通常授業の後で補習の時間を作ってみっちり教えてやるから安心しろ」

「そうなったらよろしくお願いします、千冬さん」

 

そうして話をしながら歩いていると、いつの間にか駐車場まであと10メートル程の場所まで来ていた。

 

「ああ、まかせておけ。――それと、学園に入学する事になったら私の事は織斑先生と呼べ。他の生徒に示しがつかんからな」

「わかりました、織斑先生」

 

今の内に呼び慣れていた方がいいので、千冬さんの呼び方を変えておく。

 

駐車場には既にイギリス大使館の公用車が停車しており、代表候補生管理官が車外で俺が到着するのを待っていた。

 

「そうだ、織斑先生。一夏に伝言を頼んでいいですか?」

 

あいつがISを起動させている映像を見て思った事があるので、織斑先生に伝えてもらうとしよう。

 

「ああ、構わんぞ」

「『とっとと鍛え直せ。怠けてると最悪死ぬぞ』と伝えてください。あいつ、思いっきり剣術の腕を(なま)らせてましたから」

 

記録されていた映像の中で打鉄の近接ブレードを振るっていた姿があったのだが、俺が覚えている一夏の剣筋とは比較する必要がない程に腑抜けた斬撃だったので、怒りを通り越して呆れてしまった程だ。

 

いつ俺達の事を不快に思った輩が襲い掛かってくるかもわからないので、早々に鍛え直すべきだろう。

 

「わかった、伝えておく。他には何かあるか?」

「いえ、伝言は以上です。それでは、これで失礼します」

 

そう言ってから一礼し、俺は公用車の方へ向かう。

 

「ああ、道中気をつけろよ」

 

千冬さんは駐車場の入り口付近で歩を止めてねぎらってくれたので、彼女の方に向き直ってもう一度一礼してから公用車へ向かう。

 

「管理官、お待たせしました」

「いえ、あなたがブリュンヒルデと顔見知りである事はアリス博士から聞いていましたので、気になさらないでください。出発してもよろしいですか?」

「はい、大丈夫です」

「既にこちらでホテルのチェックアウトは済ませてあります。荷物も車内に積んでありますので、直接空港へ向かいます」

「了解です」

 

管理官はそう言うと後部座席の扉を開けてくれたので、返事をしながら車内に入る。

 

座席の隣にホテルに持ち込んだトランクがあったので、それの上にバックを置く。

 

俺が座った事を確認した管理官が助手席に座り、僅かなエンジン音と共に公用車が動き出す。

 

管理官が言ったとおり、公用車は専用道路を通過した後は直接空港へ向かい、そこで待ち構えていた各国報道陣のインタビューに答えた後、来日した時と同じジャンボジェットに乗って帰国の途に就くのだった。




そんなわけで、今回はここまで。次回はちょっと時間を飛ばして、入試の合否通知が届いたあたりからのスタートになります。
ここからは私信になるのですが、活動報告でにじファン時代に書いていたもう一つの二次創作についての意見を求めています。もし協力してくれる方がいたら、活動報告のページを見ていただけると嬉しいです。
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