幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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色々ガバガバだけど許してね。そして予約ミスぅ……
一応70話くらいまで読んでる事想定の内容です

※本編とは一切の関係がありません
 本編とは一切の関係はありません!!
 本編は本日正午に普通通り投稿します


旧番外編
番外編 バレンタイン


 バレンタインの話をするとしよう。

 

 

 今の日本では女性が男性にチョコレートを贈る日となっているこの日の起源は、実は遠くローマの時代にまで遡る。

 

 

 バレンタインの名前の起源となっている聖バレンティヌスは、西暦3世紀のキリスト教が迫害されていた頃のローマの聖職者だ。当時の皇帝であるクラウディウス二世の『若者が戦争に出たくない? 愛する家族と離れたくない? じゃあ結婚禁止な』という勅令でいいのだろうか、それに反して可哀想な兵士をこっそり結婚させていた。けれどそんなこと、バレない訳がない。

 多分ネロ帝(断じて赤セイバーではない)の時代辺りから、キリスト教はローマでは迫害されていた。そんな情勢でバレたのだから、もちろん聖バレンティヌスは投獄されてしまう。クラウディウス二世はバレンティヌスにローマの宗教に改宗させようとしたが、バレンティヌスはそれを拒否。処刑されたのが2月14日という訳だ。

 

 

 では、どのようにバレンタインが始まったのか。これもまた、ローマとなる。

 ローマではルペルクスという豊穣の神のために、ルペルカーリアという祭が何百年もの間行われていた。その内容は、毎年2月14日の夕方に若い未婚女性たちの名前の書いた紙を入れ物に入れ、祭が始まる翌日の15日に男性たちがその紙を引く。そして、当たった娘と祭の間……時には1年間も付き合いをするというもの。

 因みにこの祭りも、当時の教皇に禁止されてしまう。祭りによる風紀の乱れを憂いて、教皇は別の籤を引かせたのだ。その代わりとなった籤には女性ではなく聖人の名前が書かれていた。そして祭りは従来の引いた娘との付き合いではなく、聖人に倣った生き方を1年間するように励ますものとなった。

 そしてこのお祭り(変わる前)の始まりの頃に殉教した聖バレンティヌスを、新しい祭りの守護聖人にした。そして次第に、この日に恋人たちがカードや贈り物を交換するようになったらしい。

 

 

 バレンタインカードは? これもまた聖バレンティヌスから来ている。

 投獄されたバレンティヌスは、そんな状況であっても、恐れることなく看守たちに引き続き神の愛を語っていた。そんな中、看守の1人に目の不自由な娘がいたらしい。バレンティヌスと親しくなった彼女のためにバレンティヌスが祈ると、その娘の目は奇跡的に見えるようになった。ここで終われば美談なのだが、これがきっかけとなりバレンティヌスは処刑されてしまう。しかし死ぬ前にバレンティヌスは、「あなたのバレンティヌスより」と署名した手紙を彼女に残したらしい。

 そして、その内若い男性が惚れた女性に愛の気持ちを綴った手紙を、2月14日に出すようになったんだとか。これにはその内カードが使われるようになり、アメリカではクリスマスカードの次に交換されてるとかなんとか。

 

 

 なら、チョコレートは?

 現代日本においてバレンタインの象徴とも言える、チョコレートの起源はどうなのか。

 ここだけ、一気に近代の日本が発祥となる。聖バレンティヌスや皇帝や教皇や、それらの歴史が基本的に一切関係ない。

 

 単に、バレンタインセールでチョコレート業者が行ったキャンペーンらしい。浸透しているのだから成功したのは分かるが、興醒めもいいところだ。

 同様にホワイトデーだって、ぶっちゃけると起源はただの販売戦略だ。「バレンタインデーに男性ばかりがチョコレートを貰いっぱなしなのは不公平だ」という記事が原因で、ホワイトデーは始まったとか。

 

 

 何故、俺がこんなことを話しているのか。それは『今日がバレンタインデーだから 』という一言に尽きる。前述の通り、バレンタインデーは成功した商業戦略だ。つまり、乗っかってイベントを起こせば売れるのだ。それの法則は当然、UPOにも適応される。

 

「ほんっともう、無理。疲れた」

 

 ログインして早々、俺はチョコではなく爆薬が香る自室に突っ伏していた。

 

 リアルでもチョコ!

 ソシャゲでもチョコ!

 VRでもチョコ!

 

 という黒い三連星に突撃された俺のスタミナはもう0に近かった。

 加えて、学校で当てられたイチャイチャと殺気にもう食傷気味である。硬すぎる謎の男子ガードの所為で、実は毎年貰っていたのだが沙織からも貰っていない。それに、

 

「『刃連多隠(バレンタイン)デス・バトルロイヤル』とか、運営も何を煽ってるんだか……」

 

 メニュー画面に表示されたイベントバナーを見て、1人ため息をつく。

 イベントの内容としては、第1回イベントとほぼ変わりはない。

 出現するmobが全てチョコレートになり、倒せばポイントとチョコレート・砂糖・生クリーム・料理道具がドロップする。ポイントではリボンや箱等の小物が交換でき、ドロップ品には、屑・低・中・高・最高の品質がある。そしてチョコレートを作り、NPCやプレイヤーに渡す(贈り手受け取り手は老若男女問わない)のだ。すると、NPCからは何かしらお返しがあり、プレイヤーに渡した場合は本人同士でどうぞという感じだ。

 しかし、イベントはこれで終わらない。このイベント期間中だけ、PK(プレイヤーキル)をする事でお返し品と所持金を強奪できるのだ。一度チョコを送った相手には同一人物はもう贈れなくなるので、今日開始したイベントだと言うのに既に一部で醜い争いが勃発していた。運営の怨念が滲み出ている。

 

「暫く街かギルドに引きこもろう」

 

 一応イベントなので、俺もスルーしたりはしない。けれど現実の疲れから、ついつい《偃月》を抜いてしまった。そのお陰で、森1つが尊い犠牲になったが手持ちのアイテムに最高品質の素材が溢れかえった。その素材は今、全てギルドの倉庫にぶち込んである。

 普段お世話になっている人達へのチョコは完成してるのだが、もうそれ以上にやることがない。普段根城にしているダンジョンも、高品質のチョコ狙いのプレイヤーが多いから行けないし。

 

 

 そして、それよりも何よりも大きな問題がある。

 

 それは、下手しなくても俺が刺されるということだ。

 普段俺がよく一緒にいるギルドの皆は、言わずもがな可愛い。極振りの人たちも、性格はともかく見目麗しい人が多い。そんな人達から複数個、俺みたいなのがチョコレートを貰ったとしたらどうなるか? 当たり前にPKの対象だ。ポイント交換に、チョコ製の武器(イベント期間、圏内の建物外であればプレイヤーに攻撃可能)とかあるし。

 

 けれど、何もやらずに引き篭もっているのも癪だ。

 

「手伝いに行くか」

 

 意を決して立ち上がり自室(聖域)の扉を開けた。そしてお店エリアに出て、過剰供給した最高品質チョコのお陰で普段の3倍程繁盛するお店のサポートに入った。

 

 

 怒濤の勢いで押し寄せるお客さんを捌きった時には、既にもう夕方6時を回っていた。NPCとれーちゃん、つららさんと俺だけで回すのは非常にしんどかった。

 

 席に座ってぐでーと伸びていると、コートの裾がくいくいと引っ張られた。なんだろうとそちらを見れば、れーちゃんが小さななにかをこちらに突き出していた。

 

「ん」

「ありがとう、れーちゃん」

「ん!」

 

 きちんと姿勢を正して、そのチョコレートを受け取った。小さな箱か黒い紙で包装され、フリルの付いたリボンが付いている。そして一緒に付いていたメッセージカードには『いつもお兄ちゃんとなかよくしてくれて、ありがとうございます。あと、いつもたくさんのレア素材ありがとうございます』と書かれている。

 

「はい、お返し」

「ん」

 

 いい機会なので、れーちゃん用に用意していたチョコを渡す。65%とはいえ料理スキルがあるから、味は安心だし形状も綺麗なはずだ。

 

「あ、じゃあ私もあげるよ。いつもランがお世話になってるし、サブマスの仕事もやって貰っちゃったりしてるし」

「ではありがたく」

 

 貰ったのは銀色の模様がある水色の包装の、小さめの箱だった。因みにサブマスの仕事というのは、ウチの場合ギルド関連の会計だ。赤字の時は私財を投じてるし、多分それだろう。

 

「つまらないものですが」

「あらあら」

 

 同じく用意していたお返しを渡す。この調子なら、一応用意していたものは全部渡せるかもしれない。

 そう思っていた時、バンと入り口の扉が開かれた。

 

「たのもー! ユッキーはいませんか!?」

「はいはーい」

 

 雑に返事をして入り口へ向かうと、にゃしいさんが堂々としたポーズで待っていた。その手に何個かチョコレートと思われる箱を持っている。

 

「極振り一同から後輩へのチョコレートを持ってきました! あと私から、同好の士として爆裂チョコを進呈します!」

 

 大きめの箱と、今にも爆発しそうなオーラを放つチョコの箱を貰った。爆裂チョコってなんだろ……

 

「食べると口の中で破裂するので、注意してくださいね?」

「危険物じゃないですか……あ、お返しです」

 

 まあ、一応用意はしてある。見た目が時限爆弾のチョコをお返しで渡す。ちゃんとした時限爆弾から型を取った力作だ。食べるとちょっと強力なパチパチで、口の中で小さな爆発が起こる。付属のカカオパウダーをかけると勢いは倍になる仕様だ。

 

「それでは私は爆裂道を極めてきますね! あっと、その前にギルドのみんなに渡して来ますね! アデュー!!」

 

 そう言ってにゃしいさんは、マントからブースターの様に炎を吹き出して去って行ってしまった。相変わらずなんというか、嵐みたいな勢いだ。

 

 それでもとりあえず見送ろうとギルドの外に出た瞬間、右側からチョコの銃弾が飛来して綺麗に俺の頭を撃ち抜いた。

 

 暗転。

 

 即座にギルド内でリスポーンし、外に出た筈なのにギルドの奥から現れるというマジック地味た不思議な現象が成立してしまった。

 

「ん?」

「え、ユキさん、なんでそっちから?」

「ギルド出た瞬間殺されましたので」

 

 犯人は99%ランさんだけど、言及はしないでおく。予想は出来ていたことだし。寧ろこの2人から義理とはいえチョコを貰っておいて、ランさんになにもされない方が信じられない。

 

 でもまあ、とりあえずランさんの顔は拝んでおこう。そう思って、ギルドからもう一度出た直後のことだった。

 

「……へ?」

 

 ズブリ、と音が聞こえた気がした。胸に異物感を感じ下を見れば、チョコレート色の刃が装備を突き破って胸から覗いていた。今更ながらスキルを発動させたことで、逆に自身の状況がよくわかってしまった。肋骨の隙間から滑らかに侵入したチョコの刃が、恐らく心臓があるであろう部分を完璧に貫いている。

 

「儂の愛しい娘から、チョコをもらうんじゃ。これくらいの八つ当たりは、受けてもらうぞ」

 

 HPが勢いよく減少していく中、そんな老齢の男性が発する声が聞こえた。そして刃が捻られ、俺のHPは0になった。

 

「まさかアゾられるとは……」

 

 お外怖い。2度目のリスポンから再登場しつつ思うのは、それだけだった。

 建物内が安全で良かったと納得していると、何かメッセージを受信した音がした。発信者は藜さんで、内容は私の部屋まで来てくれますかというものだった。

 

「ちょっと呼ばれたので、後は2人に任せていいですか?」

「ん」

「問題ないわよー」

 

 2人に頭を下げて、出て来たばかりのギルドの奥に引っ込む。行き先は勿論藜さんの部屋。……なんとなく恥ずかしいな、これ。とりあえずノックしてみると、ちゃんと返事が返って来たので入る。

 

「えっと、お邪魔します」

 

 そうして入った部屋は、俺の部屋とは全くの別世界だった。まず、室内の色が明るい。後大きなヌイグルミとかがある。その、こう、なんというか、セナとも違う女の子の部屋って感じだ。

 

「その、バレンタインです、から……チョコ、作って、みました。どうぞ! 本命です、から

「ありがとうございます」

 

 赤い顔の藜さんから、ピンク色の包装のチョコを受け取った。……なんというか、さっきのが聞こえちゃったから俺もすごく恥ずかしくなってきた。

 

「それじゃあ、お返しです」

 

 出来る限り平常心に抑えて、予め用意していたチョコレートを手渡した。セナと藜さんに渡すチョコだけは、本気を出して作っている。

 

 セナに渡す予定のものは、綺麗に並んだデフォルメしたイヌ型の小さなチョコレート。藜さんに渡すのは、その鳥バージョンだ。付属品のフォークは、普段藜さんが使っている槍の形をしている。……あまり良くないってことは分かってるけど、味とか色々違うから許して欲しい。

 

「ありがとう、です」

 

 喜んでくれた様で何よりだ。さて、これからどうするかと思案していると、グッと強い力で引っ張られた。俺の幸運以外貧弱ステータスではそれに耐えきれず、ボスンとベットに腰掛ける形になってしまった。

 そして、藜さんがすぐ隣に座って言った。

 

「今日は、もうちょっと、ログインできる、ので、一緒に、食べません、か?」

 

 もしここで断れる男子がいるとしたら、それはホモか極めて藜さんが嫌いな人だけだろう。座高差的に仕方ないけど、上目遣いには勝てなかったよ……

 

「夜ご飯の準備があるので後1時間くらいしかいられませんけど、それなら喜んで」

「やた」

 

 小さく藜さんがガッツポーズをしていた。それを見られてあわあわと手を振って弁明しようとしてる姿は、やっぱり可愛いなぁと思うのだった。

 

 

「ふぅ……」

 

 ゲームからログアウトした時、部屋は暗く静まり返っていた。まだ冬場の7時なのだから当然といえば当然なのだが、ついさっきまでとの落差に風邪を引きそうになる。因みに藜さんのチョコはもの凄く美味しかった。

 

「料理作らないと」

 

 ご飯はそろそろ炊き上がるからいいとして、主菜副菜汁物は如何ともしがたい。通る場所の電気を付けつつ台所に行き冷蔵庫を開けると、朝は無かった母からのチョコが堂々と鎮座していた。それは後で食べるとして冷蔵庫を漁ってみると、一応肉も野菜も残っていた。うん、これなら適当に何か作れそう。

 

 ・

 ・

 ・

 

「よし、後は盛り付けをすれば──」

 

 卵と豆苗で適当に作ったスープの味見を終えた時、ピンポーンと呼び鈴が鳴った。返事をして玄関に向かうが、こんな時間に誰だろうか? 折角作った料理だし、冷めないうちに対応できればいいなぁと扉を開けた。

 

「こんな時間に誰ですかー」

「えへへ、来ちゃった」

 

 扉を開けた先にいたのは、鞄を下げた沙織だった。夜になって冷え込んでいるかるか、着込んでもっこもこだ。なるほど、大体は予想ができた。

 

「晩御飯は?」

「折角だから食べて来いって」

「りょーかい。入っていいよー」

 

 外で待たせるなんて有り得ないし、とりあえず沙織を家に招いた。一応チェーンを掛けて、と。

 

「今から食べようと思ってたからもう出来てるけど……沙織は?」

「食べるー!」

「ん。じゃあ荷物はそこら辺置いといていいから待ってて」

 

 面倒だし鍋敷きの上に直でフライパン置こうと思ってたけど、沙織がいるならお皿ださないと。ご飯はまあ、多少余るように炊いたから大丈夫か。1人の晩飯は、寂しいし。

 

 ・

 ・

 ・

 

「「ごちそうさまでした」」

 

 自分用に作った適当な料理だったが、表情から見るにご満悦だったらしい。それを見て胸をなでおろしつつ食べ終わった食器を片付けていると、棚から2枚お皿を沙織が引っ張り出していた。

 

「何に使うの?」

「んっとね、多分ユキくん普通のチョコレートは、ゲームとかで飽きちゃっただろうなーって思って、簡単なケーキ焼いてきたんだ。だからデザートにどう?」

「食べる食べる。ちょっと洗い物終わらせるから待ってて」

「はーい」

 

 今日の夜は、普段よりかなり賑やかになりそうだ。

 どうせ泊まっていくだろうし。

 


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