すまない……爆破、できなかった……
特に大きな出来事もなく、ほぼほぼ普段通りの日常を過ごして数日が経った。そう、つまりうちの地域の夏祭り当日である。
「確か、待ち合わせは5時だったっけ」
そんなことを呟き腕時計を見る俺は、待ち合わせ場所である駅近くにある謎のモニュメントの下にいた。微妙に時間が遅いのは、ランさんたちの電車の都合である。
「早く来すぎたかなぁ……」
だが、現在時刻はまだ16 : 50を回ったばかり。駅から真っ直ぐ続く道に展開されている屋台や、そこを歩いていく着物やお洒落な格好をした老若男女を見ていると、早く行きたい気持ちが鎌首をもたげ始める。
因みに、俺の服装は多少お洒落に気を使ってはいるが非常にラフなものだ。ドライTシャツと適当な半ズボンに、腰につけられるサイズのポーチ。あとは腕時計。お洒落に興味のない男子高校生にはこれが限界である。いやぁ涼しくて楽だ、だから笑いたくば笑え。
「見つけた!」
特にやることがあるわけでもなし、UPOの掲示板でも覗こうかと携帯を取り出した時そんな聞き慣れた声が聞こえた。顔を上げれば、浴衣姿の沙織が見知らぬ女子の手を引いてこちらへ向かって来ていた。そちらも当然のように浴衣を着ている。
「えへへ、待った?」
「いや、まだ来たばっかり。それより、察するにその子が……」
やたらと上機嫌の沙織は一旦置いておき、藜さんに顔を向ける。さっきは見知らぬ女子と言ったが、髪色などを脳内で修正すれば藜さんその人であった。
「きゃっ」
返事代わりなのか沙織が、おずおずと手を出したり引いたりしていた藜さんの背をドンと押した。それにより若干足を縺れさせなが、藜さんはどうにか立ち止まった。俺の目の前、至近距離と言えるべきところで。
微妙に恥ずかしく、硬直した空気。それを打ち破ったのは藜さんだった。
「えっと、初めまして、です、かね?」
「ですね。初めまして」
とりあえず、VRの中では知り合いだが
考えてみれば、初対面の女性と握手するのも結構不味かったかもしれない。仮想世界で知り合いな前提があるせいか、沙織との距離感がベースになりかけてる。修正しなければ。
そうこう考えている間に、藜さんが沙織に肘で小突かれていた。それにより、一歩を踏み出し兼ねていた様子の藜さんが口を開いた。
「リアルだと、
「ちょっと、流石にハードルが高いですね……」
ゲーム内での呼び捨てですら、地味に俺にとってはハードルが高かったのだ。それをリアルで突然となると、精神的なハードルは兎も角同級生男子から締め上げられかねない。いやまあ、そもそもやられるつもりも毛頭ないしやられたら陰湿に倍返しするけど。最近成績上がり始めた勉強熱心(大嘘)な子と、ちょっとした不満で嫌がらせをする奴のどっちに味方が多くつきますかねぇ? 後は、結構前に大袈裟に言えば襲撃して来た奴ら、あそこら辺を使ってちょちょいとね?
まあ、そんなことはどうでもいい。それよりも、名乗られたんだからこっちも名乗らねば。
「俺はリアルだと幸村 友樹って言います。まあ、好きなように呼んでください、空」
と、調子に乗って言ってみたはいいものの凄く恥ずかしい。うん、やっぱり沙織以外を名前呼びは結構くるものがある。けれど赤くなっていたのは俺だけじゃなく、藜さんも……いや、空さんも同様だった。双方自爆、痛み分けですね。
「それじゃあ、宜しく、です。とーくん、さん」
赤く染まった顔を下に向けながら、消え入りそうな声でそう言われた。……再度、自爆だこれ。但し俺にもかなりのダメージが来てる。
とりあえず、ニタニタしている男がいたので殺気を飛ばしておいた。あと顔は覚えた、要警戒。それに、無粋なそいつのせいで羞恥心が引っ込んでしまった。何か話題を振らねば場がもたない。
気づかれぬようそっと周りを見渡すと、丁度よく映画の広告があった。これなら、話題にも出来るしれーちゃん達を待つことも……無理そうだ。なんだよ『マッシュ・シャークvsゾンビ・ワスカバジ』って、クソ映画の匂いしかしないじゃないか。次も『リターン・オブ・ザ・ヒトラー2017』って……果てしなくB級の深淵というか、Z級の匂いがする。後で見に来よう、勿論1人で。
「ねぇねぇとーくん。それより、浴衣どうかな?」
ゲーム内もかくやと言う思考速度でそんなことを考えていると、沙織がそんなことを言ってくれた。有難い。
改めて説明すると、沙織の着ている浴衣は水色の地に赤い金魚の柄があり、濃い青系の帯をしていた、若干子供っぽいが、沙織に非常に似合っていると言えよう。
対して空さんの着ている浴衣は、黒系の地に紫や赤紫の花柄で、赤系統の帯をしている。初対面の俺が判断していいのか分からないが、俺の知っている藜さんの雰囲気にも合っているし似合っていると思う。
「空さんはなんというか、落ち着いてる感じがするし、綺麗だし凄く似合ってると思います。まあ、ゲーム内の空さんしか知らない俺が何を言うかって感じですけどね」
「あぅぅ……」
赤くなっていた空さんが更に赤くなり、きゅっと縮こまってしまった。しまった、順番逆にしておけば良かった。
「私はー?」
「はいはい似合ってる可愛い可愛い」
「雑ゥ!?」
悩んでいる状態だったのもあり、沙織の言う通りかなーり雑な受け答えになってしまった。反省。一度思考をリセットしていると、膨れっ面の沙織がぶーぶーと文句を言ってきた。
「幾ら私でも、そんなに雑な対応されると悲しいんだけど……」
それは長い付き合いだし知っている。だけど沙織さんや、貴女とても大切なことを1つ忘れてはいませんかね?
「このまえ、その浴衣にエプロン装備した状態で朝ご飯作ってたじゃん。その時に感想全部言ったから流石に残ってないって」
「あっ……」
今気がついたみたいな顔をして、沙織が固まった。一泊した翌日、朝起きたらそれだったから俺は印象にかなり強く残ってたんだけど。かためのご飯と甘い卵焼きとか、好みが完全にバレてて何割り増しかで美味しかったですはい。
寝て起きたら誰か(家族かそれに準ずる仲の人)がいて、ご飯作ってくれてるっていいよね。異論は認めない。
こんな感じのことを始めに色々と話していると、時間は気がつけば17 : 00を超えていた。ならもうそろそろ来るかな? と思っていると、ドンと腰辺りに衝撃が走った。
下を見ると、子ども用のピンク系の浴衣を着た幼女と言うべき女の子。その子が、元気よく手を上げて言った。
「ん!」
れーちゃんだった。
「こんばんは、れーちゃん。でも人違いだったら危ないから、あんまりこういうのはしない方がいいと思うよ」
「ん!」
しゃがんでれーちゃんに目線を合わしつつそう言ったのだが、『当たり前。ギルドのみんな以外にはやらない』と言われてしまった。確かに、子供扱いし過ぎたかもしれない。
「ん?」
「似合ってると思うよ。それより、ランさんとつららさんは?」
「ん」
そう言ってれーちゃんが指差したのは駅。どうやら、れーちゃんが先に俺たちを見つけて1人で先行してきた形らしい。全く、逸れたらどうするのだろうか。あとランさんはもっとちゃんと見張ってて、どうぞ。
「ん」
「抱っこか肩車? ランさんとつららさんに知らせたいから? ごめんね、俺が殺されるから無理」
「ん……」
とてもれーちゃんをがっかりさせてしまったが、背に腹はかえられない。誰だって命は惜しいのだ。
軽くれーちゃんの頭をぽんぽんとして立ち上がると、不思議なものを見る目で2人に見られていた。普段から見慣れているだろうに……解せぬ。
「ねぇ空ちゃん。れーちゃんが何言ってるかわかった?」
「全然、です。なんで、とーくんさん、は、理解できるん、です?」
「昔からちょっとズレてたらしいから、私はそれで納得してる」
「じゃあ、私もそう、しておきます」
そんな風に言われると、俺も少しは傷つくんですが。普段の行いが悪いのかなぁ……
落ち込んだ俺を撫でてくれようとしていたれーちゃんのお誘いを丁寧に断っていると、人混みを掻き分けて一組のカップル?が現れた。
「ん! ん!」
その姿を見てれーちゃんがぴょんぴょんと跳ねながら手を振り、そのカップルは安心したように胸を撫で下ろしていた。小さな子どもが保護者を置いて飛び出していったのだから、さもありなん。
頷いて納得していると、ランさん(と思われる人)が近寄ってきて、れーちゃんの頭をペシリと叩いた。あまり痛くないよう加減されてるところに優しさを感じる。
「勝手に、1人で行くんじゃない。心配だろうが」
「ん! ん」
「『ギルドのみんなだから大丈夫』じゃなくてだな……世の中には、れーのことを狙う危ないやつらが沢山いるんだぞ」
「ん?」
「俺が助けてくれるから大丈夫? ゲームと違って、俺の手にも限界があってだな……」
「まあまあ、そのくらいにしてあげましょうよ。みんなも困ってますし」
そのやりとりを見ているしかなかったこちらを気遣ってか、つららさん(推定)が此方に話題の方向を振ってくれた。
「見てわかる通りランだ。れーが迷惑をかけた」
「見てわかる通り、つららよ。宜しくね」
「ん!」
こうして、
「それじゃあ、花火大会楽しむぞー!」
「「「「おー!」」」」
「ん!」
ランさんを除いた全員が沙織の号令で返事をし、ギルドのオフ会とでも言える夏祭りが始まった。
君の身体がそう(爆破を求めるように)なったのは私の責任だ。だが私は謝らない。
ついでにユッキーの服装が終わってるのは家庭環境が終わってるからです