幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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今期のselector、一期からのメンバー勢揃いじゃないですかやだー(歓喜)


第84話 夏祭り②

 るんるんしながら沙織が先陣を切り、その後を右からランさん・れーちゃん・つららさんが並んで手を繋ぎながら続く。そうして残されたのは、俺と未だ遠慮が抜けきってない様子の()さん。

 

「それじゃあ、俺たちも行きますか」

「沙織さんと、行かなくて、いいん、です、か?」

 

 結構恥ずかしいのを堪えてそう言うと、空さんは不安気にそう言った。まあ確かに、リアルでの実情を沙織なら確実に話してるだろうしそう言う反応になるのも頷ける。けど、だ。

 

「お祭りの時に沙織と手を繋いだりしたら、興奮する大型犬に振り回される飼い主みたいになりますからね……」

「納得、です」

 

 実際昔なった。手綱を握るなんて無理だと分かったから、それ以降は近くで見守るだけに努めている。俺にはあっちへこっちへ人混みを突き抜けて走り回る程の元気はないのだ。

 

「来ないのー?」

 

 だってほら、今もぴょんぴょんしながらこっちに手を振ってるし。

 

 

 あっちへこっちへ人混みを掻き分け歩いていく沙織を追いつつ、お祭りを巡ること10分弱。案の定と言うべきか、予想通りのことが起こった。

 

「逸れた……」

「逸れ、ました、ね」

 

 僅かに離れて歩いていたせいか、人混みに押し流され俺と空さんは皆から逸れてしまっていた。というか、空さんとも咄嗟に手を繋がなければ逸れていたと思う。

 

「どうします? 一応スマホは持ってきてるので、連絡すれば集まれると思いますけど……」

「そう、ですね。折角です、し、みんな一緒で──」

 

 そう空さんが言いかけた時のことだった。

 

 ボンッ!!

 

 と、花火が始まってもいないのに、そんな爆発音が聞こえた。聞き慣れたフィリピン爆竹のような音ではなく、何か高い圧力がかかっていたものが一気に解放された感じの音だ。

 

 俺としては懐かしいなぁと思う音なのだが、空さんは怖かったのだろう。繋いだままの手がきゅっと強く握られた。そして、不安に揺れる目で問いかけてきた。

 

「なんの音、です?」

「多分、ポン菓子じゃないですかね?」

 

 最近全くと言っていいほど見なくなったけど、今の音はきっとそうだ。昔はこれで大興奮してた記憶があるけれど、今ではもう懐かしいなぁと思うだけになってしまった。一瞬ポケットを漁ってしまったのは許して欲しい。

 

「ポン、菓子……?」

 

 そんなことを考えていると、首を傾げて空さんは不思議そうにしていた。この様子から察するに、知らないのかもしれない。確かに最近じゃ駄菓子が売っている場所でしか見ないし、そもそもそんな場所に行く人は少ないだろう。当然といえば当然なのかもしれない。

 

「せっかくだし買いますか。ポン菓子、結構好きですし」

「美味しい、です?」

「甘いし美味しいですよ」

 

 そう言うと、空さんは少し悩むようにしてから頷いた。決まりだ。沙織に連絡するのは一先ず後にして、人混みの奥に見えた屋台に向けて歩いていく。

 

「おっちゃん、1つください」

 

 そう言って財布を取り出した時、クイと空さんが服の裾を引いて言った。

 

「私も、払い、ます」

「いえ。呼んだのはこっちですし、俺が払いますよ」

 

 そんなことをを言いつつ代金を払い、ポン菓子の入った袋を受け取った。1人で食べきるに辛い量だが、2人や3人、合流した後であれば余裕だろう。

 

「むぅ……」

 

 けれど、空さんはどこか不満気に頬を膨らませていた。どうしてなのかは、残念ながら察することができない。このまま放置は最悪の選択肢なのでどうしようか思考を巡らしていると、屋台のおっちゃんが優しい声音で言った。

 

「まあまあ、彼氏にカッコつけさせてやれって。若干ショボいけどな」

「それは……ふふ、そう、です、ね」

「彼氏じゃないですけどね」

 

 空さんが納得してくれたのは良かったが、小声で否定しておく。仲は良い……と信じてるが、そこまで深い仲ではない。

 

「じゃあ、行きま、しょ?」

 

 祭の喧騒に紛れて、そんな細やかな抵抗は誰の耳にも届かなかったらしい。先程までとは逆に、俺が手を引かれる形で人混みを歩いていく。そうして少し開けた場所に出て、落ち着いて座ることが出来た。

 

「確かに、美味しい、ですね」

「それなら良かったです」

 

 一旦ここで休憩ということで、さっき買ったポン菓子や道中に買ったかき氷を並んで食べていた。俺が作っているわけでないので言っていいのか分からないが、気に入ってくれたようで何よりである。

 

「ところで、こっちから誘っておいてなんですけど……つまらなく、ないですか?」

「え?」

 

 何だかんだ俺は楽しんでいるが、空さんはどうなのだろうか。それが、少しだけ心配だった。半分こちらの都合で来てもらったのに、つまらないなんて思われてたなら……申し訳ないの一言に尽きる。

 

「そんなこと、ない、です! その、珍しく、2人きり、です、し」

「そう、ですね」

 

 流石に、恥ずかしくて顔を反らす。そして、気まずい沈黙の帳が降りた。祭の喧騒が響く中、終始無言の時間が続く。……なんとか打破したいけど、どうしようこれ。

 

「……溶ける前に、食べちゃいますか」

「……はい」

 

 そうして、それぞれのカキ氷に手を伸ばす。因みに俺はブルーハワイで空さんはレモン味だ。実際はどのシロップも味は完璧に同一らしいが、色の違いはやはり絶大な効果を発揮している。

 

 けど、この時に限っては絶妙にタイミングが悪かった。

 近くにいたカップルが、甘々しい空気を出しながらお互いにあーんなんてことをやっていたのだ。それもカキ氷で。俺も空さんも、ばっちりそれを目撃してしまった。

 

よしっ

 

 なんてバットタイミングと思っていると、僅かに逡巡した後空さんがカキ氷を乗せたストロースプーンを突き出して来た。駄目だこれ、覚悟が決まった眼をしてらっしゃる。

 

「えっと、これって、その、間接キスになるんじゃ」

「えっ、あっ……」

 

 とても大切な疑問点を挙げたところ、耳まで赤くなって空さんはフリーズしてしまった。いや、だってほら、そう言うのって大切じゃん? うちの幼馴染様は男友達レベルの気軽さで飲みかけのペットボトル飲んでくけど。

 

 と、そんなことを考えたからだろうか。

 

ひふへは(見つけた)!」

 

 浴衣姿の見慣れた人物が、こちらに駆け寄って来た。

 右手にイカ焼きを持ち、左手にビニール袋を2つ提げ、とても満喫してる感が溢れている。逸れて10分くらいなのにたまげたなぁ……

 

はへへはへはら(食べてあげたら)? わはひほはひふほひへふひ(私とはいつもしてるし)

「あんまり強く否定はできないけど、とりあえず口の中の物飲み込んでから話した方がいいと思うぞ」

ほはへー(そだねー)

 

 もぎゅもぎゅと口を動かして、沙織は食べていたもの(恐らくイカ焼き)を飲み込んだ。そして一度舌舐めずりしてから話し始めた。

 

「空ちゃん、一口カキ氷頂戴!」

「え? あ! どうぞ」

 

 沙織が耳打ちしてから、空さんの差し出したカキ氷を食べた。

 

「とーくんも食べたら?」

 

 なんだろうと思っていると、そんな言葉を投げかけて来た。ここで断った場合2人に恥をかかせることになるし……諦めよう。覚悟が決まってない状態ではやりたくなかったのだが、不可抗力ということで。

 

「あ、あーん」

 

 差し出されたカキ氷を今度こそ食べた。なんか、同じ味のはずなのな甘酸っぱい感じがした。

 

「じゃあこっちも、お返しで」

 

 ええいもうヤケだ。こっちもカキ氷を差し出す。いやぁ、なんだろうねこのカップル感。

 こうなるのは分かってたと思うから、その「策士策に溺れる」みたいな表情をするのはどうなんですかね沙織さん。あとそんな期待と羨望に満ちた目で俺をロックオンしないでも、あとであげるから。

 

「わたし、今、すごく楽しい、です。誰かと、一緒に、お祭りに、くるなんて、思ってもなかった、です!」

 

 けどまあ、こんな笑顔を見れただけ恥ずかしい思いをした甲斐はあったと思う。それは奥からこっちをロックオンしている沙織も同じようだった。

 少し気になる部分こそあったが、そこを今突っ込むのは野暮というものだ。

 

「そういえば、ランさんたちはどこに?」

「花火見る場所取りしてるから、ほかのみんなを呼んで来てってランさんが……あっ」

 

 沙織が、しまったという顔をした。

 あっ(察し)

 

「急ぎましょうか」

「ふふ、です、ね」

「わざとじゃないもん! イカ焼きの屋台が悪いんだもん!」

 

 半分ほど溶けていたカキ氷を掻き込み、ゴミをゴミ箱にしっかりと叩き込む。そして3人駆け足で、ランさんの待っているであろう場所へ向かって行った。

 

 

 結局俺たちが到着したのは、花火が始まる予定時刻の約10分前だった。けれどその時点では、その場にいたのはランさん1人だった。

 

「花火が始まるかと思ったぞ」

「ん……」

「ごめんなさい、れーちゃんがどうしても綿あめを──」

「許す」

 

 そして俺たちに遅れること数分、つららさんに手を引かれたれーちゃんが合流した。その手には何か可愛らしいキャラクターの書かれた袋と、ふわふわの綿あめが握られている。

 

「口元がべたべたになるから気をつけるんだぞ」

「そうね、私も昔はよくなってたわ……」

「ん!」

 

 ランさん、つららさん、れーちゃんが楽しそうにそんな会話をしている。3人の後ろ姿を見ていると、どうにも家族感が拭えない。あ、そういえば実質家族だからいいのか。

 

「あ、とーくんたこ焼き食べる?」

「ポン菓子にたこ焼きは合わないかなぁ……」

「じゃあ空ちゃんにあげる」

「あむ……おいひいれす」

 

 そんな感じのことをしている間に、花火が上がり始めた。

 

 ズンと腹に響く爆発音。

 僅かに漂う火薬の香り。

 あ、後夜空を彩る綺麗な光。

 

 あぁ…やっぱり素晴らしきかな爆発音。VRと生とじゃ、やっぱり色々と違う。無限の可能性を感じる。あぁ^〜爆破の音〜〜!

 けどリアル花火師は正直無理があると思うので、VRでまじめに花火打ち上げてみようかなぁ。ビルから打ち上げて、その後ビルを爆破したら楽しそう……楽しそうじゃない?

 

「たーまやー!」

 

 大きな花火が上がり、どこからかそんな声が聞こえて来た。

 

「かーぎやー!」

 

 次の大きな花火が上がり、そんな声が対抗するように聞こえて来た。

 

「エクスプロージョンッ!!」

 

 そして最後に、聞き慣れた声が2つと遜色ない大音量で聞こえた気がした。しかも気のせいでなければ、打ち上げをしてる対岸から。

 十中八九幻聴だろう。ギルドのみんなから「どうにかしたら?」って感じの目を向けられたけど、これは幻聴なのだ。幻聴って言ったら幻聴なのだ。

 

 夏の終わりを飾る花火は、いつもよりなんだか綺麗に見えた。

 




お客様を優先するホスト側なので、沙織=サンはいつもよりかーなーり落ち着いていました。なおユッキーは後で大変だった模様。

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