幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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三人称ってやっぱ苦手だわ


第86話 高難度ダンジョン(運営)

 ズズンと重苦しい音を立てて、山羊頭の巨体が地面に倒れた。頭部にあった渦巻いた角は無残に折られ、悪魔のような翼は穴だらけとなり意味を成さず、蛇の尾は凍結の跡が残るのみで砕かれ、胴体には無数の切り傷と貫通跡。

 

 運営ダンジョン中間ボスモンスター【キメラティック・グラディエーター】は、ギルド【すてら☆あーく】と交戦を開始してから僅か数分でそのHPを0に落としていた。

 5人パーティ中4人がアタッカー、最後の1人も回復役をメインとしながらもアタッカーとかいうふざけた編成故の、常識ではあり得ない速度での戦闘終了だった。

 

「みんなお疲れ! 一旦きゅーけーしよー!」

 

 ボス戦終了直後の束の間の休息時間、そこにギルドマスターであるセナの声が響き渡った。運営製作の高難度ダンジョンに突入してから経過した時間は、なんと未だ1時間ほど。恐ろしい攻略ペースだが、代償としてそれ相応の疲労が溜まっているのは当然だった。

 

「さんせーい」

「む」

 

 その言葉に反応して、ずっと後方から魔法で攻撃を行っていたつららがヴォルケインの展開を解除したランに寄りかかった。FFに気をつけながら攻撃するのは、好き勝手に動き回る前衛のせいもあってかかなり集中力を削っていたらしい。

 

「ん!」

 

 そこに遅れて合流したれーちゃんが抱きつき、仲良く団子状になって休憩に入った。騒がしいように見えるが、それはそれでつい数分前までの切った張ったから考えれば和やかなひと時だった。

 

「お疲れ藜ちゃん」

「そっちこそ、です」

 

 その家族的関係とは対照的に、こちらの2人はハイタッチだけで終えていた。お互い座り込み隣に座ってはいるものの、その距離感は精々が仲の良い友人程度のものだった。

 

「そういえばさ、最近にしては珍しくユキくんがいないボス戦だったけど、藜ちゃんはどう感じた?」

「どう、って?」

「私と藜ちゃんって前衛じゃん? 1番ユキくんとれーちゃんの補助受けてると思うんだ。だから、ちゃんと何時もとのズレを直しておかないと、これから大変になりそうだなって思って」

「なるほど。確かに、そう、ですね」

 

 笑顔のままセナが言ったその言葉に、藜は神妙そうに頷いた。いくつか思うところがあったのだろう。むぅと数秒考えるようなそぶりをした後、指折り数えながら話し始めた。

 

「まず、いつもより、攻撃に集中、できません、でした」

「あー……ユキくんの防御無いもんね。確かに私も、タゲ取りが普段よりも多かったかも」

「あと、バフが足りない分、火力がいつもより、少しだけ減ってた、気がします」

「それも確かに。ユキくんもいれば、多分もうちょっと早くこのボス倒せたよね」

 

 普段さりげなくユキが掛けているステータス40%上昇バフや、クリティカル威力60%上昇バフ。爆破のせいで影が薄く忘れられがちだが、紋章術の正しい使い方で行われていた強化は欠ける事でその存在を明確に主張していた。

 あくまであればかなり便利というだけであって、決してなければならないと言うほどのものでもないこともまた事実であるのだが。

 

「そういうセナさんは、何かないん、ですか?」

「私? 私は良くなったことこそあるけど、悪くなったことはあんまりないかなー。悪くなったのも火力だけだから、もう言われちゃってるね」

「じゃあ逆に、良くなったことって、なん、ですか?」

 

 不思議そうに首を傾げて藜がそう言った。パーティが1人欠けたことによる穴、それを気にしないで良いメリットとはどんなのものなのか思いつかなかったらしい。

 

「バカスカ支援と障壁を使ってくれるユキくんがいない分、タゲ取りが楽なんだ。狙われないようにユキくんも立ち回ってるけど、流石に使用量的にどうしてもかなりターゲットされちゃうからね。その度に私はタゲ取りしてるんだけど……いないと、dps的にずっと私と藜ちゃんに集中するじゃん?」

「なるほど、です。トップギアにも、入りやすい、です?」

「そうそう。私ってビルド的に、ちゃんとバフ積まないと同レベル帯の人たちと比べたら数段火力下だし」

 

 銃剣での接近戦なら兎も角、銃撃となるとその性質上火力が接近戦攻撃よりも下がってしまう。両手も埋まってしまうそんな武器を使い続けているのは、偏に浪漫ゆえだったりする。

 

 自分で話題を振っておきながらそんな話をしているのにも疲れたのか、アイテム欄からバスケットを取り出してセナは言った。

 

「ところで、ここにユキくんが作った料理アイテムがあるんだけど、藜ちゃんも食べ──」

「食べます」

「……だね!」

 

 食い気味に返答した藜に若干引きつつも、自分に当てはめたらあまり変でもないことに気づいたらしい。和やかな休憩時間が始まった。

 

 

「きゅーけーしゅーりょー!」

 

 それから大体の10分弱の時間が経った頃、再びギルマスであるセナの声がボス部屋に響き渡った。休憩が入ったことで空腹などを始めとする状態異常の発生が抑えられ、準備は万全と言えるだろう。

 

「でもどうするの? ここからは地図もないでしょう?」

 

 ボス部屋の奥にある扉を開け、次の階層へ進みながらつららが問いかけた。現在自分の彼氏は絶賛妹を肩車中であり、戦闘区域でもない為この長い階段は暇なのであった。

 

「それねー。元々私、盗賊とか斥候みたいなスキル構成でやってたから、その時のやつを流用しようと思ってたんだけど……」

 

 チラリと後ろを見ながら、正確にはピンクのイルカのぬいぐるみを抱えて肩車されているれーちゃんを見てセナが言う。

 

「れーちゃんが合流してくれたし、そっちがメインになるかなーっと」

 

 そんなことを話しているうちに階段を登りきり、目の前には重厚な扉が堂々とその存在を主張していた。これを開けば第6階層、今までのような補助のない未知の階層。

 

 その扉が、今勢いよく開かれた。

 

 そうして広がるのは、朽ちた古塔の内部のような光景。床や天井の一部は崩れそこから見える空から光が差し込み、ダンジョン内部の樹木や瓦礫などを優しく照らしている。そこかしこにある浮遊する足場は一定方向に一定の間隔で移動しており、プレイヤーがそれを活用している姿がチラホラ見かけられる。

 

「れーちゃん、いける?」

「んー、ん!」

 

 ランに肩車されていたれーちゃんが、少し悩むようにした後頷き、抱えていたイルカのぬいぐるみを両手で天高く掲げた。

 

『キュッ!』

 

 それに合わせて、れーちゃんの抱いていたぬいぐるみが鳴いた。生き物の声とも、合成された声とも言えない不思議な声がフロア中に響き渡り、反響を重ね奇妙な調べを奏でる。10数秒に渡るそれは余韻を残して消えていき、次の瞬間れーちゃんが開いていたマップに様々な情報が一気に記入されていく。フィールドの形、浮遊床の移動方向・距離、敵の居場所、宝箱の配置されている位置。自身を中心として半径400m以内の全てが、実際に歩いたわけでもないのに完全に記入された。

 れーちゃんのペットである『てぃな』は、こと探索という事柄に関しては恐ろしいまでの性能を誇っていた。

 

「れーちゃん、階段は?」

「ん」

 

 しかし今回は、次の階層への階段を見つけることは出来なかったらしい。れーちゃんは残念そうに首を横に振るだけだった。それを確認し、全員とアイコンタクトを交わしてからセナが言った。

 

「敵にあんまり遭わないで、端まで行けるルートお願い。あと、出来れば近くの宝箱のある場所も」

「ん!」

 

 元気なれーちゃんの返事の直後、全員が慣れたものだと言わんばかりに動き出した。

 

制裁突撃(サンクションズチャージ)、ヴォルケイン」

「《アイスピラー》!」

 

 ランがヴォルケインを展開し、つららが魔法で生み出した氷柱を足場にしてその肩部に騎乗。セナと藜もそれぞれの得物とペットを呼び出し、戦闘態勢を整えた。ユキがいたとしたら、確実に取り残されていること間違いなしである。

 

「それじゃあ、レッツゴー!」

 

 そんなセナの音頭を合図に、れーちゃんのナビのもと全員が高速で移動を始めた。何事かと目を剥く他のパーティを通り抜け、モンスターからのターゲットは振り切って、避けられないモンスターは銃撃斬撃槍撃魔法といった多種多様の攻撃で粉砕し、トラップは発動前に凍結するか銃で撃ち抜かれて動作を停止する。

 そうして僅か1分程で、れーちゃんがスキャンを終えたマップの端に到達していた。

 

「れーちゃん!」

『キュイ!』

「ん」

『見つけたそうだ』

 

 そして2回目のスキャンで、運良く階段を見つけることができたらしい。ランがこっそり伝え、れーちゃんが指差す先は……宙に浮かぶ島のようになっている場所の、中心に聳え立つ満開の桜だった。

 

 本来であれば、浮遊する足場を乗り継ぎ乗り継いだ果てに辿り着ける場所。けれど、何事にも例外というものはある。

 

「あんまり長くは保たないから、急いで渡って欲しいわ、ね!」

 

 全員がいる場所から対岸の浮遊島まで、太い氷の橋がかかる。バイクが天井を走ったり、日常的にビルが爆破されたり、森が焼失する世界なのだ、別に正攻法で挑む必要はない。

 無論、この方法はグレー判定だが裏ワザということもあり、大きなデメリットも抱えている。それは、モンスターからのターゲットを非常によく集めてしまうこと。渡っている最中、普通であれば大小構わず襲いかかってくるモンスターに撃墜されるのがオチだ。だが、

 

「《盗賊の加護》!」

「《ミラージュ》!」

 

 それも今回は意味を成さなかった。セナが使用した、盗賊の加護というパーティ全体に対する潜伏技。つららが発動した、指定したプレイヤー全員を透明化する魔法。その2つにれーちゃんのペットが持つ隠蔽強化系のスキルがシナジーし、ターゲットは通常時と同程度まで低下していた。つまり、ほぼ自由に通行ができるということである。

 

 れーちゃんがマップ情報を取得し、

 セナが罠を発見&全体潜伏を使い、

 つららが罠を凍結&道を作り、

 ランが機動力と防御力を補い、

 藜がそれでもエンカウントした敵を蒸発させる。

 

 全員がなんかいい感じに噛み合い、ここにダンジョンRTAが実現していた。

 




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 Name : てぃな
 Race : ぱぺっとどるふぃん
 Lv 40/40
 HP 1000/1000
 MP 2500/2500
 Str : 10(10) Dex : 200(200)
 Vit : 90(100) Agl : 60(70)
 Int : 320(330) Luk : 100(100)
 Min : 90(100)
《ペットスキル》
【音響探査 : 地形】
 MPを消費し、自身のLv×10m半径内の地形をマップに記録する
【音響探査 : 宝物】
 MPを消費し、自身Lv×10m半径内に宝箱がある場合マップに記録する
【音響探査 : 階段】
 MPを消費し、自身のLv×10m半径内に階段がある場合マップに記録する
【不協和音 : 遭遇低下】
 自身のHPが50%以上の場合、自分のレベル以下の敵とのエンカウント率を著しく低下させることが出来る
【不協和音 : 音波迷彩】
 自身のHPが50%以上であり、自身または主人が潜伏系統スキルを使用・効果対象になった場合、敵からの発見率を低下させることができる
【和音 : 音響砲】
 MPを全て消費することで発動
 自身の前方に全てを破壊する音波砲を放つ。ダメージは自身のLv×消費MPが最低値となる(スキル等による減衰は可能)
《スキル》
【忠誠ノ誓イ】【防護ノ理】
【ぬいぐるみボディ】
 物理ダメージカット80%
 回復系効果上昇50%
 水属性ダメージ吸収。但しその後、予測ダメージ×30秒重量倍加、Agl低下100%
 風属性被ダメージ上昇50%。但しダメージ判定後、被ダメージ×30秒重量半減、Agl上昇100%
 火属性ダメージ上昇80%
 強化系統効果無効
【この身を捧ぐ】
 主人が死亡時、自身のHP・MPを0にすることで主人を蘇生させる。その際のHP・MPは捧げた自身の値と同じになる(上限突破は不可)
《武器》
 装備不可
《防具》
 頭 フェルトの帽子 Vit+10 Int+10
 体 フェルトの浮輪 Agl+10 Min +10
 手 装備不可
 足 装備不可
 靴 装備不可
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【速報】ユキ、爆破の炎の色を変更可能に!

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