幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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第92話 高難度ダンジョン(幸運)③

 ボスの居なくなった5層の部屋。そこでは今、入力キーを叩く静かな音だけが響いていた。

 

「のあのはこぶね、っと!」

 

 メンバーを代表してセナが入力し終えると、小さな開錠音が響き、重苦しい音を立てながら扉が開き始めた。セナが暗号を解読したその自信のほどと言えば、無言のドヤ顔から嫌という程に伝わってくる。

 

 だが、意外にもパーティ内で悔しそうな顔をしているのは藜1人であった。れーちゃんは自分を肩車するランの頭をペシペシと叩いているし、つららも肘でツンツンとランのことを突っついていた。当の本人は目を瞑り、難しい表情を浮かべて黙っている。

 そうして目を瞑ったまま動こうとしないランの代わりに、はぁ……とため息をついてつららが話し始めた。

 

「ラン、後一歩のところまで行ってたのよ。暗号の解読。でも、今日小テストで……」

「あー、後回しに……」

 

 困ったように言うつららと、あるあると言った風に受けるセナの会話を聞いて、藜がガーンという表情と雰囲気を放ち始めた。年下であるれーちゃんなら兎も角、他全員が何らかの糸口を見つけていたのに自分だけ特になにもなかったのだ。当然である……と言いたいが、基本的に点字に触れる機会なんてものが少な過ぎる以上、分からない方が当然である。

 

「ん」

「ありがとう、です」

 

 体育座りでイジイジとしている藜の頭を、れーちゃんが優しく撫でていた。なんとか励まそうとしてくれているらしい。

 そんな微妙としか言いようのない雰囲気の中、セナが1度大きく柏手を打った。そして、漂う湿っぽい空気を吹き飛ばすように言った。

 

「折角進めるようになったのに湿っぽい空気はナシナシ! なんか6階凄いらしいし!」

「セナちゃん、それ解読した本人が言っても……」

「ん」

「あっ……」

 

 つららの言葉により失言に気づき固まるも、時すでに遅し。漂う微妙な雰囲気の払拭が成されることは難しいように思えた。

 

「ほら、ランもいつまでも拗ねてるんじゃないわよ。藜ちゃんも、私たちだってエレベーター乗って気がついたんだから、気づかなくたって普通よ。だから、あんまり気にしないで平気よ」

「でも、悔しい、です……」

「それじゃあ、次は負けないようにしないとね」

 

 年上の面目躍如といったところか、そんな空気を解決したのはつららだった。話を聞き、発破をかけ、彼氏には蹴りを入れ、攻略どころではなかった雰囲気を叩き直していく。こればかりはセナにも、勿論ここにいないユキにだって出来ないことだ。同年代ではあるが、拗ねているランは論外である。

 

「とりあえずこんな雰囲気にした元凶は、この塔の頂上にいるユキよ! ちゃっちゃと駆け上って、一発ぶん殴りましょう!」

 

 そうして、いつのまにかパーティ全体のモチベーションは向上していた。不仲の人間も共通の敵がいれば団結するという話は、本当であったのかもしれない。

 

 なんとか士気が回復した5人が出現した階段を登って行くと、そこには今までと同様の作りの門が安置されていた。5階層の入り口では精緻なレリーフが刻まれていた門であるが、ここには特に何も描かれてはいない。けれど、所々に金色の装飾が施されていた。

 

「さあ、開けるわよ!」

 

 つららが音頭をとって、全員で扉を押し開ける。石臼を回すような音を立てながら開く扉、僅かに開いたその隙間から煌めく光が5人の元に差し込んでくる。噂は本当だったかと込める力が心なしか増え、扉が開く速度も加速していく。その甲斐もあってか、数秒後に完全に門は解放されて目に眩しい光景が飛び込んできた。

 

「うわぁ」

「確実に目に悪いわね……これ」

「眩しい、です」

「ん」

 

 それを一言で表すならば、『金』の他はあり得ない。

 

 前を見ても金

 

 上を見ても金

 

 横を見ても金

 

 下を見ても金

 

 金、金、金、金金金金金

 

 足を踏み入れたプレイヤーを除く何もかもが、この階層では金色一色に染められていた。挙げ句の果てに、入り口すぐ近くの場所に『ご自由にお取り下さい』と書かれた立板と金の延べ棒の山。

 5階層もそうであったが、どう見ても製作者の頭を疑うダンジョン設計である。今時成金趣味の人であろうと、ここまで全てを金に染めはしないだろう。

 

「でも、やっぱりモンスターは特にいないね」

「多分、私の装備の効果、です。ごめん、なさい」

 

 落胆したようなセナの声に、申し訳なさそうに藜が答える。藜の装備効果である通常mobのエンカウント率低下により、基本的にモンスターとの戦闘が減っていることは寂しいが攻略上かなり優位に働いているのもまた事実だった。

 

「その分攻略は楽だし、気にしてないからへーきへーき!」

 

 そう言った後、セナが藜に何事かを耳打ちすると、神妙な顔をして藜は頷いていた。何かに納得したらしい。その視線が天井に向けられている辺り、きっとユキに関する何かであったことは容易に想像できる。

 

「それじゃあ、いつもの感じでいっくよー!」

 

 そんなこんなで一悶着あったが、逆に言えばそれ以外何もなく、普段通りの高速攻略が始まったのだった。

 

 そしてそれから、僅か10分後。

 

「とうちゃーく!」

 

 ただ全てが金色で、多少迷路っぽい作りになっているだけのフロアは攻略されていた。即落ち2コマレベルの高速である。それでいて、この短時間で10万Dという大金を稼いでいる。このままでいけば親切な階層であるという一言で終わったのだが、そうは問屋が卸さない。

 

 入り口にあったものと同様の立て札が、出口のすぐ隣にも存在していたのだ。書いてある文言は『欲深きもの、この先死あるのみ』であり、隣にはATMのような機械がその存在を主張していた。100,000Dという金額が表示されている画面の外枠上部に、安全祈願の4文字が踊っている辺り白々しいことこの上ない。

 

「これはつまり……お金払えってことなのかしら?」

 

 首を傾げ不思議そうに言うつららの前で、れーちゃんがATMをべしと叩いた。画面に高さは足りなかったが、それでも効果は発動したようで表示される金額がみるみるうちに減少していく。れーちゃんにとって10万は、頑張って作った武器1つ分ほど。未だにカジノから出禁を喰らっているユキ(3000万オーバー)には及ばないが、富豪には違いないのだ。

 表示されていた金額はやがて0になり、ファンファーレが鳴った。同時に特にバフが掛かったりすることはなかったが、綺麗な光がれーちゃんをパッと照らした。

 

「あれ、終わり? 爆発は?」

「ん」

 

 セナが頭にハテナを浮かべながら言うが、特にそれ以上何か変化は起きなかった。一見無駄にしか見えないこの装置だが、ここの製作者はユキだ。何かあれば爆発するだろうという予測は、最早周知の事実だった。

 

「後でなにかが爆発するんじゃない?」

「扉辺りが怪しそうだな」

「階段、かも、しれません」

 

 そう言って全員が、それぞれ装置に触れて稼いだ分のお金を払っていく。こと幸運と爆破に関しては、全プレイヤー中1と言えるほどの信頼がユキにはあるのだった。逆にそれ以外は平均以下か評価なんて一切ないのは、それもまた極振りらしいのだろうか。

 1つだけ確かなことは、この様子をモニターしていたユキがショックのあまりビルを1ダース程爆破した事だけだった。因みに爆発がカラフルになったことで、いつもよりギャラリーにウケていたらしい。

 

「まあ、全員やったし問題ないよね?」

 

 全員に確認を取ってから押し上げられた扉。その先の通路には、今までとはひと味違った光景が広がっていた。

 

 上層へ続く階段の両脇に、無数の人影があったのだ。しかしそれは、無論プレイヤーではない。ただのオブジェクトでもない。それは、所謂レアモンスターであった。

 

 金属の装甲板の重なり合いによって、高い防御力と重厚な見た目を確保した『アーマード=ケサ』を羽織り!

 装甲板と歯車の重なり合いで出来た、高い防御力と状態異常耐性を付与する『スゲカサ=ギア』を被り!

 右手には一見ただの木材にしか見えないが、実は触れた相手を高確率でスタンさせる『コンゴウ=スティック』を持ち!

 左手にはその連なる珠の1つ1つがレーザーを放つ『ハイパワード=ジュズ』を握り!

 両脚にはどんな悪路ですら踏破するという『オフロード=ジカタビ』を履き!

 首からは『コンゴウ=スティック』に巻くことでエネルギーの刃を発生させ薙刀とすることが可能で、且つ防御装備としても優秀な『エネルギー=ワゲサ』を掛け!

 低HPのまま長期間放置すると『コンゴウショ=オーバーロード』を使用し、『クリカラ=ソード』を抜き放ち暴れまわった後に自爆して大爆発を起こし!

 頭部の『スゲカサ=ギア』を展開して放つ『トクトウ=フラッシュ』が必殺技の、僧侶型男性アンドロイド。その名前を【テンプルナイト】と言った。

 

 このモンスターは通常、第3の街西方にあるダンジョン奥深くの中ボスとして配置されるか、第1の街と第3の街の間に存在する遺跡群を極稀に徘徊していることが見られるだけのレアモンスターである。ユキを同行させることができれば、確実に会えるだろう。

 正確な分類をするならばは【テンプルナイト=SOURYO】や【テンプルナイト=SOUHEY】、【テンプルナイト=JUNRAY】【テンプルナイト=SOUJO】などの分類があるが、詳しくなりすぎるのでここでは一旦省くことにする。

 

「ぶふっ」

 

 その光景を見たセナが、笑いを堪えきれず吹き出した。そんな1匹見ることすら珍しいレアモンスターが、数え切れないほど階段の両脇に陣取っているのだ。しかもそれぞれ神妙な面持ちで、ピクリとも動かず。その姿はまるで、サンジュウサンゲン=テンプルの如し。笑ってしまうのも無理はない。

 続く他のメンバーも、どうにか堪えたラン以外そのシュールな光景に耐えることが出来ず大なり小なり肩を震わせていた。

 

「もしかしたら、お金を払ってなかったらこれ全部に襲われてたのかしら?」

 

 つららが言ったその言葉に、全員がうへぇと言った嫌そうな顔を浮かべた。何せこのテンプルナイト、物理防御も魔法防御もカッチカチで、近距離は薙刀かコンゴウ=スティックによる範囲攻撃、遠距離にはジュズから放つレーザーを放つことで対応し、挙げ句の果てに自己回復までしてくるのだ。ライトン=ジツでのアンブッシュや、囲んで棒で叩く以外の方法では、実際酷く手間取る相手なのだ。コワイ!

 

 たった一体を相手にするだけでも面倒な相手が、まるで雑魚敵のように湧いてくる光景は絶望の一言だろう。

 

「襲ってこない、です、ね?」

 

 しかしその脅威は、全員がキチンとお金を払っていたことにより消滅している。こちらから明確な攻撃を仕掛けない限り、このノンアクティブの『タクハツ=スタイル』からアクティブの『イッキ=スタイル』に変化することはない。

 

 そうして、不気味に佇むだけのテンプルナイト達に見送られ、【すてら☆あーく】のメンバーは7階層に辿り着く。他のパーティの最高到達階層。そして前情報では、レアモンスターしか出ない階層。そこに、今足が踏み入れられた。

 




因みに金を払わないと、扉を開けようと手を掛けた瞬間手足が接着されて大爆発して、金を払ってない人ばかりか払った人まで死ぬというトラップ。
先に開けてもらって通り抜けることは可能だけれど、階段と次の層でステルスしようが何しようが目視の範囲内のレアモンスターがターゲットしてきます。

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