幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

121 / 243
第100話 高難度ボス戦(幸運)④

 【速報】極振り、敗れる

 

 証拠映像付きでその情報が拡散された時、UPO界隈に衝撃が走った。

 あの極振りを倒したのは誰なのか、そもそも誰が倒されたのか。誰もが気になって添付動画を再生して……あぁうんと納得した。その動画のタイトルは【討伐までは何マイル? 道成寺ごっこしようぜ! お前安珍な!】というもの。そう、NPC版デュアルさんを延々と焼いていたあの動画だ。リアル時間換算で計2日、それだけの時間焼き続けて漸くNPCデュアルさんは倒れたのだった。

 そしてそれにより、討伐報酬が開示されて挑戦者が増加した。やっぱり無条件で10%ステータス永続アップと、その極振りの性質に応じたレアアイテムは目を眩ませるには十分だったようだ。

 

 さらにもう1つ、挑戦者側のプレイヤーが散々クレームをつけたお陰で極振りのボス戦で変わったことが1つある。

 

「俺の復活回数が、13回から9回まで減らされた件について」

「妥当だと思うよユキくん」

「それなら、多分、倒せます、し?」

「運営が正しいわね」

「当たり前だろう」

「ん!」

 

 ボス戦直前、俺を打倒せんと集まったギルドのみんなにボヤいたが、総ツッコミを食らってしまった。解せぬ。

 

「いや、だってアレだよ? ぶっちゃけ俺のステータスって、基本のHPMPと極振りの幸運を除けばゴミだよ? MAX72だよ? 被ダメ倍だから実質36の奴に、酷い仕打ちだよ……」

 

 100倍くらいの差があるのは日常茶飯事なのに、これ以上か弱い俺を虐めてどうするつもりなのか問いただしたい。

 

「しかも本気出したらアレだよ? 幸運以外のステータス実質マイナスだよ? 取り柄の復活を奪うなんて」

「障壁とか爆破とか、もっと他にあるじゃん」

 

 正論で殴られてしまった。うん、まあ、まだ使ったことのない第11スキルの効果でもない限り、幸運あんまり活躍しないけどさぁ……

 

「それより、折角来たんだから早くやろうよ」

「そうだね、うん」

 

 こうしていまいちテンションが上がらないまま、今回のボス戦は始まったのだった。

 

 

「っとと」

 

 戦闘が始まってから数分。つららさんとランさんは道連れにしたものの、さも当然のように4回殺されて復活することになった。

 幾らテンションが低くてやる気が控えめとはいえ、普通の相手ならよくて1殺される程度なのだ。それを毎回、最低2回は持っていくって凄い……凄くない?

 

「まあこれで残機は5、朧!」

 

 まあ、それはそれとしてだ。今まではなあなあで戦っていたけど、朧を呼んだ手前そんな戦いは出来ない。気合いを引き締めていかねば。

 

「変、身!」

『HENSHIN Change Kick hopper!』

 

 腕ではなく、なんの装飾もないベルトに留まった朧が変身音を鳴らし、装備を変更する。けどまあ、改めて(Wasp)(Kick hopper)を名乗るのは不思議な構図だ。因みにパンチホッパーは必殺技被りなので不採用にした。

 

「腕じゃ、ない?」

 

 一瞬そう呟いた藜さんだったが、次の瞬間首を振ってその疑念を払ったようだった。

 

「例のアレが、来ます!」

「分かった!」

「ん!」

 

 そう言って、セナ達と藜さん、れーちゃんが散開する。前回初めて使った技だったけど、どうやら既に弱点が見抜かれたし対策も立てられてしまったらしい。けど、ここから中止するのはかっこ悪いし、期待に応えてこそのボスだろう。それになにより、今回はザビーじゃない。

 

「クロックアップ」

『Clock UP!』

 

 クロックアップしたライダーフォームは、人間を遥かに超えた速度で活動出来るのだ(2回目)

 そんな懐かしいナレーションは置いておいて、今回も紋章と集中力をフル活用だ。自身の加速用に200枚、各員に12枚ずつ、多分同じ速度くらいにまでは加速して減速させて俺は地面を蹴った。

 

「ライダージャンプ」

『Rider JUMP!』

 

 1対1ならザビーでもよかったのだが、今回は些か相手にするべき数が多い。ライダースティングなんてしていたら、すぐに残機が尽きてしまう。だからこそ、積極的にネタにしていく!

 

 腰部の朧をタッチし、その力も借りて大きく飛び上がる。散開した9人の中心辺りで全員を捕捉し、再度朧をタッチする。

 

「ライダーキック」

『Rider kick!』

 

 そして爆発で加速し、狙い撃つのは1番厄介なセナ。その分身したセナAに向けてライダーキックをかます。当然ノーダーメージだが……それでいい。10個ほどポーチから爆弾を零しつつ、3匹朧の分身を置いていく。そこから空中でバク転しながらセナBに向けてライダーキック。更にC、Dと続けていく。

 

『Clock over』

 

 その作業を続けること7回目、加速と減退が時間切れとなった。それにより8回目のライダーキックは躱されてしまったが、ばら撒いた朧の分身と爆弾は十二分に効果を発揮する。

 一斉に起爆した爆弾と朧の分身が、甚大なダメージと状態異常をばら撒いていく。ざっと見た限り、全員が大なり小なり状態異常とダメージを負っている。

 

「きゃっ」

 

 爆発の余波をもろに受けたセナが吹き飛ばされ、藜さんは全てを躱しきり、れーちゃんは使い切りダメージカットアイテムで耐え、俺は反動で死亡する。これはもう、ある種パーフェクトハーモニーではないだろうか。

 

「まあいいか《破壊》」

 

 即座に復活しつつ、リスキルを狙っていたれーちゃんに向けて魔導書由来の魔術を発動する。今回はまだ10冊残っている魔導書で速攻で陣を描き、幸運にも対抗に打ち勝って効果が発動される。

 

「!?」

 

 例のR-18フィルターのお陰で見た目の変化はないが、効果はそのまま。スリップダメージ・呪文の発動妨害・視界の消失・行動の妨害・SAN値の減少。5つの複合効果で身動きの取れなくなったれーちゃんを一先ず放置し、残り2人に意識を集中させる。

 

「せやぁ!」

「シッ!」

 

 セナは7人分の火球による範囲攻撃、藜さんはダメージ判定のある羽根を飛ばすことによる広範囲攻撃を。まるで俺を殺すためだけにあるような攻撃方法に辟易としつつ、どこか嬉しさも感じながら全てを防ぐ。

 

 それにしても、喋ることすら億劫な程忙しい。攻撃にかすらないように移動しながら、障壁で攻撃を防ぎつつ、ステップを踏んで自己回復を行いつつ、朧に指示を出しながら、敵の位置を常に把握し、行動を予測しつつ、爆弾をばら撒く。ああ忙しい忙しい。

 

「ああもう! ユキくんウザい!」

「うぐっ……それが、特徴だからね!」

 

 感情的にそんなことを叫んだセナに良心が痛んだが、ゲームだと割り切って動き続ける。嗚呼、思ったより結構キツイなぁ……これ。涙が出そう。だって……特に何でもないな俺。

 

「あっ」

 

 そう、思いっきり動揺したからだろうか。儀式魔法のステップを失敗して、障壁を展開する分のMPが少し減ってしまった。それは同時、この攻めと防御の均衡が崩れるということでもあり……

 

 カシャンと、呆気なく俺は死亡する。原因は、風に乗ってフワリと舞ってやってきた藜さんの放った羽根。やってしまったという反省と共に復活しつつ、リスキルを防ぐために大爆発を引き起こす。

 

「ああ、もう残機3か」

 

 爆煙の匂いを吸い込みつつ、事実確認を行う。そう、残機3だ。本気の必殺技が解放される、最後のセーフティが外れたのだ。うん、悪くない。

 

 

 私たちが最初に聞いたのは、狂ったような笑い声だった。爆炎の中、残機を3にまで減らされたユキくんが、額に手を当てて高笑いをしていた。なんというか、ものすごく似合ってない。

 

「残機3つ、よくここまで減らしてくれたよ。お陰で、なんの枷もなく俺は、漸く全力で戦える」

 

 負け惜しみじゃないことは、昔からの付き合いだしよく分かった。あれは、相当よくないことを考えてる時のとーくんだ。

 

「藜ちゃん、ストップ。多分、今行ったら確実にやられる」

「なんで、です?」

「幼馴染の勘、かな」

 

 藜ちゃんの手を止めながらそう言ったが、そうとしか言いようがないのだから仕方がないじゃない。そして私のユキくんに関する勘は、結構な確率で的中する。

 

「そう、今ならなんだって出来る。例えば、こんな努力の結晶を出したりね」

「────ッ」

 

 ユキくんが頭上に手を翳すと共に出現したものを見て、私と藜ちゃんは揃って息を飲んだ。抜刀術とか銃撃とか、そんなのよりもよっぽどヤバイものをユキくんは出してきた。

 

「リ○ルボォォォイ!!」

 

 いや、違うでしょ。そんなツッコミを入れる間も無く、天井を崩壊させながらソレは降ってきた。光を乱反射するガラス、窓枠、磨き上げられた壁面。それはユキくんが、ほぼ毎日打ち上げているビルを花火にしたもの……通称花火ルだった。

 

「コン!」

「ニクス!」

 

 私たちがペットと己のスキルに頼ってなんとか回避しようとする最中、ユキくんはただ只管にこちらの移動を妨害してくる。ああもう、自分は残機が減るだけだからって厄介な! そう舌打ちした直後のことだった。

 

 音が消えたような大爆発と、目を焼くカラフルな閃光がフロアに満ち溢れた。

 

「──!」

 

 空蝉のスキルで回避して尚、キーンという耳鳴りと白く染まってしまった視界の中。スキルが、私に向けて飛来する無数の物体を探知した。

 一緒に退避していたことで生きててくれたコンが、炎による自動迎撃を実行する。それによって反応は消え、衝撃を感じたから多分爆弾だろうと予想をつける。

 

「──」

 

 まだ耳は本調子とはいかないけれど、目の調子だけは戻ってきた。まだちょっと白いままだけど、その視界には私・藜ちゃん・れーちゃんの3人分のHPバーが瀕死の状態で表示されていた。どうやら、全員なんらかの方法で生き残ってはいたらしい。

 

 そう安堵する私の視界に、見たくないものが映り込んだ。散乱する瓦礫の向こう。最早天井に近い高さまで積もったその場所で、再びユキくんがその手を天に翳していた。

 

「藜ちゃん、私の後ろに!」

 

 今かられーちゃんのいる場所まで行くには、どう考えても時間が足りない。だから、あとで謝るから今は勝ちをもぎ取れる可能性を優先させてもらう。

 

「コン、《変化》!」

 

 藜ちゃんが後ろに来たことを確認し、私はペットのスキルを使用する。変化というMPを100消費することで、どんなダメージも一回だけ無効にする切り札。それを、私と藜ちゃんの2人分……MP200を払い使用した。

 

 直後空に現れたのは、第4の街【ルリエー】にそっくりな、いやそのものだった。そういえば、話に聞いたことがある。ユキくんは、第4の街を1度、粉々に爆破したと。

 

「ルリエー・ボンッバァァ!!」

 

 ユキくんのその掛け声で、パンと、街に小さな爆発が起こった。

 続いて、もう1つ。

 さらに、もう1つ。

 もう1つ。もう1つ。もう1つ。もう1つ。もう1つ。もう1つ。もう1つ。もう1つ。

 爆破が爆破を呼び、呼ばれた爆破が爆破と統合され大爆発を起こし、大爆発が大爆発を呼び、何もかもが連鎖して爆発する。

 宿屋が爆ぜた。武器屋が爆ぜた。民家が爆ぜた。教会が爆ぜた。水路が爆ぜた。詰所が爆ぜた。水飛沫が舞い、水自体が爆発した。

 街の中央部にある、他の街への転移ゲートとその広場を除いた何もかもが連鎖して爆発していく。衝撃と灼熱と爆音が、1つの街を徹底的に完膚無きまで蹂躙していく。

 

 そしてそれにより生まれた衝撃と、熱と、光と、音と、何もかもが直下にいる私たちに向けて解放された。

 




【必殺技小話】
※必殺技は、ボス本人にはダメージを発生させません

極振り's「必殺技が欲しい? 結構。ではちゃんと考えますよ」

1日後

極振り's「さあさどうぞ。お望みの必殺技です。」

極振り's「素晴らしいでしょう? んああ仰らないで。威力が過剰、でもただの必殺技なんて見かけだけで夏は熱いしよく滑るわすぐひび割れるわ、ろくな事はない。伸び代もたっぷりありますよ、どんな耐久の方でも大丈夫。どうぞ(画像を)回してみて下さい、いい音でしょう。余裕の音だ、馬力が違いますよ」

運営「1番気に入ってるのは…」

極振り's「何です?」

運営「火力だ(使用制限ポチー)」

極振り's「ああ、何を!ああっ待って!ここで動かしちゃ駄目ですよ!待って!止まれ!うぁあああ… 」



《花火ル》
普段は勿論アイテム化は不可だけど、ボスとしての必殺技ならいいでしょお願いしますと、ユキが懇願して実現した必殺技。
多数の爆弾による固定ダメージ10000の爆発、散らばる瓦礫による追い討ち、散らかった瓦礫によってボス部屋が埋まり実質屋上ステージ化と様々な効果がある。

《ルリエー・ボンバー》
花火ル採用したならこれもっしょ。Foooooo!!夜は焼肉っしょ!
と、ハイテンションになった運営側が実装した即死攻撃。かつてユキが行なった、ルリエー大爆破を頭上に出現させる。ぶっちゃけ大いなる破局。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。