幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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第102話 祝勝会

 俺が討伐されてから約一時間。第2の街にある【すてら☆あーく】のギルドでは、祝勝会が開かれていた。

 

「と、言うわけで!

 極振り塔の攻略を祝して! 乾ぱーい!」

「「「「乾杯!」」」」

「ん!」

 

 セナが音頭をとって乾杯し、全員揃って乾杯する。祝勝会なのに、倒されたボスが同席しているとは此れ如何に。まあどうでもいいか。

 因みに、ボス部屋でトドメを刺された時の一件は、当然のように俺と藜さんのみが知る秘密となった。何気バレたら、リアルで進撃のセナが「フハハハ!見つけたぁ!ウハハハハ!!」とか言いながら、オリジナル笑顔で我が家に来るのが目に見えてるし。つまり俺は鉤爪の男だった……?

 

「それじゃあ、ボスから一言!」

「お疲れー」

 

 頭の中で良い感じにジュワッ……キィン!テレレレ!と某アニメのOPが流れている時に聞かれたので、そんな雑な返答しかできなかった。でも実際、それくらいしか言うことがないのだ。

 全力……ではないけど、やれる範囲内での全力で戦って負けた。これ以外に、特に言うべきことがあるわけではないのだから。

 

「幾ら何でも、軽すぎるよユキくん……」

「いや、だって俺から話すこと特にないし……あ、おめでとう」

 

 そういえば、これ藜さんにしか言ってなかったし必要だった。でももう言ったし、本当にもう特に話すことはない。Lukも10%上がったし完璧だ。

 

「じゃあ逆に、質問があるなら答えられる限り答えるけど?」

 

 必殺技とか、自分でも最高の出来(無駄に理不尽)だと思っていたから、出来心でそんなことを言った直後だった。無駄に高いAglを駆使して、目の前でまっすぐに手が挙げられた。

 

「はいはいはーい! それじゃあさ、最後どうやってユキくん負けたのか教えて!」

「どうどう。そんなぴょんぴょんしないでも普通に話すから」

 

 ぴょんぴょん跳ねるセナを手で押さえながら、チラリと藜さんに目配せをする。そう、進撃のセナが獣のセナになって我が家の外壁を登って侵入して来るかは、この一瞬にかかっているのだ。

 

「えっと、セナが自爆した後だから……」

「ユキさんが、自爆技で私と相打ち。その後、お互い復活して、私が先制して、ドーンって」

「MP切れで、虎の子の抜刀術はスカになって、死界も抜かれて。即死した感じかな。うん」

「ふーん」

 

 事実しか言ってないから、これで誤魔化せるはずだ。なんかものっ凄い懐疑的な目で見られてるけど、嘘は言っていないのだから!

 

「でもま、そっか。ユキくんMPないと何もできないもんね」

「ぐはっ……」

 

 的確に的を射た容赦のない真実によって、俺は崩れ落ちた。幼馴染が笑顔で言い放った口撃が精神を襲う──

 

後で、ちゃんと教えてもらうから

 

 あっ、ダメだこれバレてるやつやんけ。耳元でセナが囁いた言葉に、絶望感が溢れた。でもとりあえず、今すぐ何かやられるわけじゃなさそうだ。その点は安心……安、心、なのか?

 

「なら俺からも1ついいか?」

「あっはい。何ですかランさん」

 

 項垂れている俺に、ランさんはそう問いかけてきた。この小細工が無意味と化した、哀れな極振りに一体何を聞こうと言うのだろうか?

 

「バイクはどうした? あのバイク……ヴァンがあれば、もっと上手く立ち回れた筈だ」

「ああ、愛車は使うなって運営に言われてまして」

 

 だから、仕方なく愛車は今回お休みなのだ。やりたかったんだけどなー。詠唱してリングヴィ・ヴァナルガンドとか色々。その為ならウィッグとかも用意したのに。

 

「運営が?」

「ええ。だって考えてみてくださいよ。自分で言うのもアレですけど、あんな馬鹿みたいな強さのボスに機動力が加わるんですよ? しかも2万のHPと高い防御力。流石に同類じゃないと勝てねぇよ馬鹿って言われて」

 

 事実愛車(ヴァン)を使った時は、攻略に来た運営チームを残機を1つも減らさずに全滅させてたりする。あっ、そっかぁそれが原因か。

 

「確かに、運営の英断だなそれは」

「ん」

「アレに耐久つくって考えると、確かに萎えるわね……」

 

 セナと藜さんは特にそうは思わなかったようだが、他3人には納得してもらえたようだ。よくよく考えたら、俺でもその俺倒せないのは実体験済みだし。

 

「それでも、俺が一番雑魚って言うのは本当なんですよ? 必殺技も、別に回避できるようなものですし」

「ん!」

 

 ふとそうボヤいたら、れーちゃんが猛烈な抗議の意思と共に反論してきた。でも『アレが理不尽じゃないなら、どんなのがあるのか』って言われてもなぁ……

 一応全員の必殺技は知ってるけど、言っていい人なんていな……いや、1人いたか。wikiに載ってたし、喋っても問題ないだろう。

 

「例えば、アキさんの必殺技はHP10%以下で常時展開する感じのやつ。素で無敵貫通してくる上、必殺技の効果でダメージが超過……つまり、残機ごと消し飛ばしてくる。しかも開始60秒後の攻撃は全部それ」

 

 1回ボス戦の動画を見せてもらったけど、アレはまさしくガンマレイだった。広範囲、高速、当たったら即死、掠ったら即死、余波でタンクのHPを2割は持っていって、獄毒を問答無用で付与する。そこに必殺技で、残機にまでダメージ貫通ときた。

 基本的に本人のHPが常時1とはいえ、1回はペットの力で、2回目は本人のスキルで、3回目以降も運が良ければ復活する辺り本当に理不尽。俺と違って、魔法は斬って消滅させてくるし。

 

「うわぁ……確かにそれなら、ユキくんの方がまだ楽だね。でも、そんなに情報出しちゃっていいの?」

「うん、別にこれ検索すれば出てくる範囲だし」

 

 そこらへんは一応、ちゃんと締めている。だって与えられたデータで全部が分かってしまうなんて、ゲームとしてつまらないし。未知すぎるのもアレだけど。

 因みに、システム的な必殺技は全員2種類。つまりアキさんは、まだ1度覚醒を残しているのである。

 

「でも、1回くらいは、戦って、みたい、です」

「確かにそうかも。それじゃあ、次は比較的簡単にボス部屋に行けるアキ塔で!」

「はぁ……なんでうちのギルド、こんなに戦闘狂ばっかなのかしら」

 

 つららさんが大きくため息を吐く中、祝勝会兼攻略会議はそれなりの長さ続いたのだった。そして、夜が訪れる。

 

 

「それで、なんで当然のようにうちで晩御飯食べてるんですかねぇ……沙織さん」

「えー、食材は私持ちなんだからいいじゃん」

 

 ギルドでの祝勝会も終わり、リアルに戻って晩御飯時。何故か俺は、沙織と2人きりで晩御飯を食べていた。因みに今晩の夕食は、夏野菜カレーである。あとサラダ。

 うちの両親? また会社に泊まりでデスマーチだってさ。パッパからやばいテンションの電話が掛かってきたから知ってる。

 

「それに、こんな美少女と一緒にご飯食べられるのに、そんな言い草はないんじゃない? とーくん」

 

 フォークをこちらに向けくるくると回しながら沙織が言う。なんだろう、すごく似合ってない。

 

「フォークを人に向けちゃ駄目でしょ。あと凄く似合ってないけど、熱でもあんの?」

 

 疑問に思って沙織の額に手を当ててみたけど、特にそういうわけではなさそうだった。頬はちょっと赤いけど、それくらいか。大丈夫そうではあるので手は引いておく。

 

「あの本に書いてあること間違いじゃん……」

「あの本って?」

「堅物な男を落とす100の方法」

 

 そうか、沙織にもついに恋の季節が……なんてトボけるつもりはない。でも、こう、うーん……そもそも、なんで沙織は俺みたいなのを好きになったのだろうか?

 

「というか! 本題はそこじゃないんだよとーくん!」

 

 バァンと音が鳴りそうな勢いで沙織が机に手を叩きつけ、立ち上がった。実際は超低威力なので机は揺れもしていない。

 

「どうどう。ご飯粒ついてるし」

「え、どこ?」

「ここ」

 

 自然にしゃがんだ沙織の口についていたご飯粒を取る。あ、ちょっとカレーついた。まあティッシュで拭けば──

 

「えいっ」

「食べないで」

 

 そんなことを思っていたら、拭った親指が沙織に咥えられていた。なんで今日はこんなにアレなんです? あっ、ちょっ、舐めるなこの。

 

「んむ。それで本題なんだけど、絶対ボス戦の最後、藜ちゃんと何かあったよね?」

「……因みに、なんで分かったか教えてくれたりは?」

「女と幼馴染の勘」

「あー……」

 

 なるほど、そりゃあ対策しようがないしバレますわ。正々堂々自白するしかなさそうだ。

 

「で、何があったの?」

「例の抜刀術あるじゃん。レイド戦の時にも使ってたやつ」

「うん」

「アレを撃って藜さんが復活した結果、武器防具にアイテムの耐久度が消し飛んだ訳でして。更にそこに駄目押しの【死界】も合わさって、藜さんは初期装備どころかインナーだけになりまして」

「ふーん」

 

 段々と沙織の目が細められ、不機嫌なオーラが滲み出てくる。湧き上がってくる感情を否定しないと、手足が痺れてきそうな雰囲気だ。

 

「それで、刀振り抜いた直後の場所を突っ切って、突っ込んできた藜さんに首噛まれました。はい。で、そのまま馬乗りにされました」

「そーなんだー。あっ、振り解くとかは無理なの分かってるから、特に弁明いらないから」

 

 先にこっちの逃げ道を塞いでくる辺り、本当に幼馴染って感じがする。手の内が、全て読まれているッ!

 そんなことを思っていると、空になった皿をそのままに沙織が立ち上がった。そしてこちらの手を引いて、リビングの方へと歩いていく。

 

「とーくん、しゃがんで?」

「はいはい」

「それっ!」

 

 何かとしゃがんだ瞬間、軽く肩を押されて転倒した。いつものフライング抱き着きよりはマシかなと思っていると、ズシリと重さがきた。そう、例えるならこれは人1人分……

 

「これであいこかな」

 

 腰辺りに体重をかけ、こちらの胸に手をついて、ドヤ顔のセナがこちらを見下ろしていた。クォレハ生理現象が起きる前にどうにかしないと不味いですね。

 

「取り敢えず。こっちじゃ多少鍛えてるから、なされるがままってことはないですよっと」

 

 正確には、怪我しない為に鍛えざるを得なかっただけど。

 セナの手を引いて抱き寄せ、そのまま起き上がってなんとか立ち上がる。所謂抱っこの形だ。というかなんでこう、同じカレー食べてた筈なのにいい匂いがするのやら。

 

「私はこのまま、ベッドに直行しても構わないんだけど?」

「馬鹿なこと言っていないで、明日学校なんだから家にお帰り」

 

 そう言って抱っこしていた手を離したが、しがみついていて中々離れそうにない。コアラか俺の幼馴染は。

 

「全部置き勉してるからお泊まりしたい!」

「はぁ……着替えは?」

「実は、とーくんの部屋にある箪笥に2泊分くらい仕込んでたり。流石に下着はないけど」

 

 マジか……マジか。普段着は一箇所に固まってるし、箪笥は基本的に衣替えの時しか開けないから分からなかった。

 

「で、でも、とーくんが欲しいなら、その、置いていっても構わないし、好きに使ってくれても……」

「はいはい、馬鹿なこと言ってないて降りてくださいねー」

 

 とんでもないことを言われたけれど、あまり気にしたら余計反応されるので軽く流す。はぁ……明日学校だってのに。

 


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